オンライン研修
オンライン研修とは?
オンライン研修とは、パソコンやスマートフォン、タブレットなどを用いてインターネット上で受講するタイプの研修です。ITの発展や新型コロナウイルスの流行によって非対面・非接触のやりとりが促進されたことにより、導入する企業が増えています。
1.オンライン研修が注目される背景
以前は、会場に集まって受講する研修が主流でした。「研修=対面」というイメージを持つ人も少なくないでしょう。一方で近年は、ITの進化や働き方改革などを背景に、オンライン研修を導入する企業が増えています。特にオンライン研修が急増することになった大きな要因が、新型コロナウイルスの流行です。
株式会社パーソル総合研究所の「コロナ禍における研修のオンライン化に関する調査」によると、2020年にオンライン集合研修を増やした企業は75%に上ることが明らかになっています。感染対策として業務の非接触化・非対面化が推奨されるようになり、同時にテレワークを導入する企業が急増しました。オフィスと離れた場所にいながら効率よく従業員を育成できる方法として、オンライン研修があらためて注目されています。
新型コロナウイルスに対応するために、最近は新人研修を対面からオンラインに切り替える企業も増加傾向にあります。一方で、オンラインで新人研修を進めると、「体験が不足する」「つながりを作れない」といった課題も生じています。
テレワーク下では、従業員一人ひとりに主体的な取り組みが求められます。しかし体験が不足したままでは、新入社員が自立するまでに時間がかかる可能性が高くなります。社員同士が顔を合わせる機会が減れば、企業への帰属意識を持てず、エンゲージメントが低下する恐れもあります。
新入社員に自社の一員として活躍してもらうには、オンライン研修への移行と同時に、研修内容や目的の練り直しも必要です。また、他社の成功事例を参考にすれば、具体的にイメージしながらオンライン研修の内容を構築・運用できます。
オンライン研修に適している内容
オンライン研修には、実施する内容に向き・不向きがあります。説明会や勉強会など、インプットが中心となる内容や簡単なアウトプットを伴う内容は、オンライン研修には向いています。一方で、実技や多くのアウトプットを伴う内容は向いておらず、実施する場合は念入りな準備や工夫が必要です。オンライン研修を検討する際は、対面研修の内容をそのままオンラインに置き換えることのないよう、注意が必要です。
- 社内システムの使い方、セキュリティールールなどの説明会
- 新サービスや新商品などの勉強会
- 実技を伴わないビジネスマナー研修
- 法改正やコンプライアンスに関する研修
オンライン研修とeラーニングの違い
オンライン研修と似ている用語の一つに「eラーニング(electronic learning)」があります。eラーニングとは、提供されたコンテンツを使用しながら自分で学習を進めるスタイルの学習方法です。インターネットやデジタル機器を活用する点はオンライン研修と同じですが、オンライン研修とeラーニングは、研修形式や受講の自由度、コミュニケーションの有無など、多くの点で違いがあります。
オンライン研修とeラーニングの違い | ||
---|---|---|
オンライン研修 | eラーニング | |
研修形式 | 通常の研修と同様にリアルタイ ムでの進行が可能。講師や他の 受講者とも画面越しに顔を 合わせられる。 |
録画された動画コンテンツの視聴 がメイン。基本的に、自分一人 で教材を視聴しながら学習を 進める。 |
受講者同士の コミュニケーション |
講師と受講者または受講者同士 でのコミュニケーションが 可能。 |
受講者が一方的に学ぶ形式で あるため、コミュニケーションが ない。 |
受講の自由度 | リアルタイム型であれば、配信時間が 決まっているため時間を選べない。 オンデマンド型であれば 好きな時間に学習できる。 |
好きな時間に学習できる。 |
特徴 | 企業で行われる育成施策の一つ 。やり方次第では、グループワークや ゲーミングなどのアウトプットを 伴う学習もできる。 |
プライベートも含めた幅広い場面に おける学習形式の一つ。講義型が 一般的であり、何度でも学習できる ため特にインプット作業に向いている。 |
2.オンライン研修のメリット・デメリット
オンライン研修のメリット
場所を選ばずに開催できる
場所を選ばずに開催できることは、大きなメリットです。コロナ禍においては、大勢が密集する状況を避けることができます。また、本部から離れた拠点の従業員はこれまで、教育を思うように受けられないケースもありましたが、オンライン化することで企業内の教育機会を平等にする効果を期待できます。
インターネット環境やツール、機器を整備すれば、移動費や宿泊費、会場費などのコストは発生しません。研修会場の確保や、プロジェクターやスピーカーなどの準備も必要もなく、負担の軽減につながります。
研修の様子を簡単に録画できる
ツールの機能を使えば、オンライン研修の様子をボタン一つで簡単に録画できます。録画した研修内容を共有すれば、何回も見直すことができるほか、研修に参加しなかった従業員にも展開することが可能です。
オンライン研修のデメリット
通信環境の整備が必要
オンライン研修を集中して受講するには、通信環境の整備が欠かせません。映像・音声が途切れて研修がたびたび中断されると、受講者・講師双方に多大なストレスがかかり、学習効果を期待できません。研修を在宅で受講する際は、自宅の通信環境が良好かどうかを確認することが重要です。必要であれば、携帯型Wi-Fi端末の貸し出しも検討します。
視覚・雰囲気によるコミュニケーションが難しい
オンライン研修では、対面研修よりもリアクションが小さくなりがちです。そのため、相手の雰囲気をつかみにくく、進行が停滞する場面が多くなります。例えばグループワークでは、お互いの反応を確認しながらでないと作業や話し合いが進みません。コミュニケーションを円滑にするには、対面研修よりもリアクションを大きくすることがポイントです。
実作業を伴う研修が難しい
画面越しでは、講師が受講者一人ひとりの様子を確認することが難しくなります。そのため、進行についていけない受講者がいても気づきにくく、受講者の理解度に差が生まれやすくなります。
また、画面に映せる範囲には限界があるため、全身を使う作業はオンライン研修では相手に伝わりにくくなります。手先だけで作業する内容だとしても、カメラの角度や光の具合によっては画面越しでは正確に伝わらない場合もあります。
オンライン研修は、リアルタイム(双方)型とオンデマンド型がある
オンライン研修を通して従業員の成長を促進するためには、リアルタイム型とオンデマンド型の特徴を把握し正しく使い分ける必要があります。
前提として「オンライン研修は対面研修の代替手段ではない」と理解しておくことが重要です。大切なのはオンライン研修の特徴や種類を把握した上で、自社の状況や目的に応じて対面研修と併用することです。
リアルタイム(双方)型
リアルタイム型とは、一般的な対面研修のように、講師と受講者が同時進行でやりとりする形式です。受講者全員に同じスケジュールが用意される特徴があります。
【リアルタイム型のメリット】- 確実に受講してもらえる
- 講師や他の受講者とコミュニケーションをとれる
- 録画すれば何度でも復習できる
- 受講速度を調整できないため理解度に個人差が生じる
- 研修中に通信環境や音声のトラブルが発生する可能性がある
オンデマンド型
オンデマンド型の研修は、あらかじめ録画された研修内容を、受講者のタイミングで視聴する形式です。自分が好きな時間に受講でき、リアルタイム型よりも自由度は高いといえます。ただし、講師や他の受講者と同じ時間につながることはできません。
【オンデマンド型のメリット】- 時間に左右されずに自分のペースで受講できる
- 早戻しや早送りが可能で受講者間の理解度の違いにも対応できる
- 通信環境や音声にトラブルが発生しても他者に支障が生じない
- 研修中の質問や意見交換、グループワークができない
- 繰り返し受講できる安心感から研修内容に集中できない可能性がある
3.オンライン研修に必要なツール、機器
オンライン研修を効果的に実施するためには、万全の事前準備が不可欠です。必要なツールや機器の確認・準備を怠れば、研修中にトラブルが生じて、中断せざるを得ない状況にもなりかねません。
【チェックリスト】オンライン研修に必要なツール・機器 |
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研修担当者はもちろん、上記のリストを受講予定者にも共有した上で、全員が万全の体制で臨めるように準備します。なお、上記はオンライン研修を実施するために最低でも準備が必要なツール・機器です。研修の様子をイメージしながら、準備が必要なツール・機器がないか、確認することが大切です。
4.オンライン研修を実施する上での注意点
事前準備
事前準備をおろそかにすると、研修が中断したりするなどして、受講者の学びにつながらない事態になりかねません。講師に対しても失礼であり、自社の信頼を落とす可能性もあります。
タイムスケジュールに余裕を持たせる
研修のタイムスケジュールは、余裕を持って設定することが重要です。どれだけ念入りに事前準備をしても、通信環境の乱れや音声トラブルなど、研修中には何らかのトラブルが発生する可能性があります。また、研修が盛り上がり、受講者からの質問があると、想像以上に時間が延びるケースも珍しくありません。
受講者と環境チェック(テクニカルチェック)を行う
対面研修であれば、空いている席を確認することで欠席者をチェックできますが、オンライン研修では受講者の把握に時間がかかります。当日の参加状況をスムーズに確認するために、あらかじめ受講者数を知っておく必要があります。
事前の環境チェックも重要です。研修で使用するツールや機器を一度全て起動して、障害がないかどうかを確認します。場所によっては受講に適した通信環境ではない場合もあるため、全受講者にも事前チェックするよう伝えます。
研修前にコミュニケーションをとっておく
オンライン研修の開催前に、受講者同士がコミュニケーションをとる機会を設けると、研修がスムーズに進行します。事前に受講者同士で自己紹介を行う、受講者情報を共有する、といった方法が考えられます。オンラインでは対面と比べてコミュニケーションが制限されるため、事前に接点を作っておくと当日に交流しやすくなります。
オンライン研修日時のアラートを出す
オンライン研修では「研修会場に向かう」必要がないため、研修があること自体を忘れている受講生がいるかもしれません。確実に受講してもらうには、研修の数日前に研修日時のアラートを出すことがポイントです。周知すれば、受講者が研修に向けて意識を引き締めるきっかけにもなります。
当日
いざ研修が始まったら、開催中はとにかく「反応」と「画面越しのコミュニケーション」に集中することが重要です。自然なコミュニケーションがとれるよう、オンラインであることは必要以上に意識せず、あえて対面研修と同様の姿勢で臨みます。受講中はオンラインならではの操作も発生するため、受講予定者にそれぞれのポイントを事前に伝えておくことも大事です。
カメラ・マイクのルールを明確化する
研修をスムーズに進めるために、受講者のカメラ・マイクをオンにするかどうかを、事前に明確にしておくことが重要です。例えば、表情や進捗状況、受講姿勢などを確認したい場合は、カメラをオンにします。周囲の音が入ることを避けるのならば、マイクはオフにします。「しっかり受講していることを確かめたいからカメラをオンにする」というルールは、受講者にはあまり好感を持たれないので、注意が必要です。
質問はチャットツールで送るか事前に決めたルールに沿う
研修中は基本的に受講者のマイクをオフにして、質問が生じた場合はチャットツールを使用します。質問時間が設けられていない場合は、すぐに質問して適宜疑問を解消するようなルールとします。
チャットツールを使用しないのであれば、質問が生じた場合のルールを事前に決めておくといいでしょう。「〇×ボタンを使う」「挙手ボタンを押して指名を受けてから質問する」など、ツールの機能を使う方法もあります。
受講者にも「参加型」であることを意識させる
リアルタイム型でのオンライン研修では、受講者の「参加している」という意識が薄れてしまいがちです。研修前に参加意識を持つように伝え、お願いを記したレジュメを配布するなど、受講者に「参加型」であることを意識してもらう工夫が必要です。研修中には受講者の名前を呼んで質問するなど、参加を意識できるようなコミュニケーションも有効です。
進行役をつける
オンライン研修では、講師自身が受講者の様子を見ながら進行速度を調整するのが難しくなります。進行役をつけると遅れ気味の受講者にも対応できるようになり、全員にとって有意義な研修となります。
研修終了後
研修内容を確実に身に付けてもらうには、研修終了後にどんな取り組みをするかが鍵となります。研修は「参加して終わり」ではありません。研修内容を従業員のスキルアップや企業成長に最大限生かすために、以下のポイント・コツを押さえます。
レポート・感想をまとめてもらう
レポート・感想の提出があることを事前に受講者へ伝えておくことは、オンライン研修に集中するきっかけにもなります。研修内容を踏まえた課題を提出してもらうのも、受講者が学びを振り返る上でおすすめです。
開催側の視点からオンライン研修の成果を振り返るために、研修後にアンケートをとることも有効です。否定的な意見があっても、客観的な視点で受け止めて改善に努めれば、研修のレベルアップにつながります。
受講者同士がつながりを維持できる場を用意する
研修を行う目的の一つが、普段接触する機会のない従業員とつながることです。コロナ禍で従業員同士が接する機会は減っており、一度できたつながりを維持する重要性が高まっています。
オンライン研修でのつながりを維持するには、受講者同士の交流機会を後日用意するのが効果的です。研修内容を定着させるために、1ヵ月ほど期間を置いて振り返りと交流会を兼ねた場を用意するのもいいでしょう。
5.オンライン研修のTips
オンライン研修をスムーズに行うためには、アイスブレイクなど、対面研修で有効な方法を採用することも一つのポイントです。
アイスブレイクタイムを設ける
研修内容に入る前にアイスブレイクの時間を設けると、受講者同士が打ち解けやすくなり、コミュニケーションが活性化します。自己紹介や役割設定、簡単なプライベートの話など、アイスブレイクのネタを決めておき、話しやすい雰囲気を作ります。
十分な時間を確保できるのであれば、「リレー式自己紹介」や「GOOD&NEW」など、グループで行える簡単なゲームもおすすめです。グループとしての一体感が高まり、グループワークにスムーズに入ることができます。
振り分け機能を用いる
振り分け機能を活用し、受講者を数名のグループに分けるのも一つの方法です。あらかじめグループ割リストを作成すると、スムーズにワークに移行できます。
振り分け機能は、使用するツールによって名称が異なります。例えば、Zoomは「ブレイクアウトルーム機能」という名称で、タイマー機能やメッセージ機能を備えています。
共同で書き込めるツールを活用する
共同で書き込めるツールを活用し、リアルタイムで意見を交換するのも効果的です。発言内容を瞬時に共有でき、オンラインのグループワークでも認識の相違がなくなります。
代表的なツールが、Googleドキュメントなどのクラウドサービスです。入力した内容が自動で保存されて、グループワークの内容が消えてしまうリスクを回避できます。
各グループにファシリテーターをつける
講師だけでは、オンライン上で全てのグループを動かすことは困難です。また、受講者同志が遠慮しあって、お互いになかなか発言しないこともあります。これらの問題を解決するためには、各グループにファシリテーターを設けて、コミュニケーションの活性化を図ることが有効です。ただし、ファシリテーター役には一定のスキルが必要で、向き・不向きがあるため、選定には配慮が必要です。
活動経過をチャットなどに書いておく
オンラインでは、グループワークについていけない受講者が出やすくなります。「今何をしているのか」「ゴールは何か」など、活動経過をチャットやクラウドサービスに書き留めるといいでしょう。受講者が進行状況を定期的に確認でき、見通しを付けやすくなります。活動経過を残しておけば、内容を見直す際にも便利です。
休憩をこまめにとる
オンライン研修では、対面研修以上に休憩をこまめにとる必要があります。常に画面を見ていなければならず、チャットやツールの操作も必要なため、対面よりも集中力が持続しない傾向にあるからです。「少し多いかな」と思うほど、こまめに休憩を挟むことで、受講者が集中できるように配慮します。
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