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人事キーワード 掲載日:2020/04/17

【ヨミ】サイヨウマーケティング 採用マーケティング

採用マーケティングとは、マーケティングの手法を人材の採用活動に取り入れることです。近年、採用マーケティングを実施するためのスキルを有する専門職の求人が、徐々に増加しています。また、採用マーケティングに関心のある新卒が増えていることからも、採用マーケティングに注目が集まっていることがわかります。  

1. 採用マーケティングとは

「採用マーケティングとは何なのだろう?」
「採用マーケティングはどのように行うのか?」
そうお考えの人事担当者も多いことと思います。

採用マーケティングとは、採用活動にマーケティングの手法を取り入れることを意味します。少子高齢化に伴う労働人口の減少により、近年の採用競争は激化の一途をたどっています。そんな中で 就職・転職を考え始める以前の「潜在層」にアプローチが可能となる手法として、採用マーケティングが注目されているのです。

経営学者であるピーター・ドラッカーは、「マーケティング」を次のように定義しています。

「マーケティングの目的は、販売を不必要にすることだ。マーケティング目的は、顧客について十分に理解し、顧客に合った製品やサービスが自然に売れるようにすることなのだ」

※出典:ピーター・F・ドラッカー『マネジメント』(ダイヤモンド社)

マーケティングの手法を採用活動に取り入れることは、まず、求職者をマーケティングにおける「顧客」とみなすことです。次に、求職者について十分に理解し、求職者のニーズにかなった採用アプローチを実施することにより、自然に採用ができるようにすることです。

これまでの採用活動は、就職・転職を考える「求職者」に対してどのようにアプローチするかが中心課題となっていました。従って、採用活動におけるノウハウは、「いかに母集団を形成するか」「母集団の中から自社に合った人材をいかに選ぶか」などを中心として蓄積されてきたといえます。

しかし、マーケティングにおいては、実際の顧客となる以前の「見込み顧客」に対してどのようにアプローチするかが重要なポイントとなります。マーケティングを採用活動に取り入れることにより、「見込み求職者」ともいえる「潜在層」に対してアプローチすることが可能です。

採用マーケティングが注目される背景

採用マーケティングが注目される背景として、採用の競争が激しくなっていることが挙げられます。少子高齢化が進み、労働人口は減少の一途をたどっています。一方で、目まぐるしく変化するビジネス環境に対応できる優秀な人材を採用する重要性は、ますます高まっています。

そのために、これまでと変わらない、求職者のみを対象とした採用活動では、十分な人材を確保するのが難しくなっています。優秀な人材を確保するためには、求職者となる以前の「潜在層」にどうアプローチできるかが大きな課題となっています。

この「潜在層にアプローチするための強力な戦略」が、採用マーケティングということになります。

新卒採用の状況変化

採用競争が激しくなっている要因として、新卒採用の状況変化が挙げられます。日本経済団体連合会(経団連)の採用ルールが2021年から廃止され、採用活動が「通年採用」に移行し、長期化していく流れとなっています。そのため、就職活動を具体的に始める前の潜在層へのアプローチは、より重要性を増しています。

中途採用の状況変化

採用競争が激しくなっている要因として、中途採用の状況の変化もあります。中途採用の求職者が単に「給与」や「待遇」のみならず、「自己成長」や「ワークライフバランス」などの多様な価値観を持つようになっているのです。そのために、潜在層に対して企業の魅力を発信していく必要性が高まっています。

2. 採用マーケティングの手法

採用マーケティングの手法について見ていきましょう。ポイントとなるのは以下の二つの
キーワードです。

  • ファネル
  • ペルソナ

採用マーケティングにおいては、求職者の全体像を示す「ファネル」の最上部にあたる「潜在層」にどうアプローチできるかがテーマとなります。

また、潜在層にアプローチするためには、採用したい人物像である「ペルソナ」をどう明確に設計できるかが大きなポイントとなってきます。

それでは、それぞれを詳しく見ていきましょう。

マーケティングと同じ発想の「ファネル」

採用マーケティングにおいては、図のような「ファネル」を想定します。

ファネル(漏斗)とは、マーケティングにおける考え方で、顧客が商品やサービスを購買するに至るまでのプロセスを図式化したものです。

購買までのプロセスは、商品やサービスを、顧客がまず認知し、次に興味を持ち、さらに比較・検討することにより購買に至るとされます。

プロセスが先へ進むほど顧客の人数が少なくなるため、ファネルは逆三角形の漏斗の形をしています。

ファネルを採用活動に当てはめると、ファネルの上部から下部へ向け、採用のプロセスは次のような段階を経て進むことになります。

潜在層 就職・転職に関係なく企業を認知する
顕在層 就職・転職先として興味を持ち、企業サイトなどを調べ始める
候補者 数社を比較・検討する
社員 内定を受諾し社員となる

これまでの採用活動では、求人サイトなどを通した情報発信を行うことが一般的だったので、ファネルにおいては企業サイトなどを調べ始める「顕在層」を対象としていたことになります。

しかし、採用マーケティングの考え方を取り入れると、顕在層の前段階に「潜在層」が浮かび上がるので、この潜在層にどうアプローチするかが採用活動の大きなテーマになります。潜在層に効果的なアプローチをすることにより、就職・転職活動を始めたときに顕在層に入りやすくなることが見込めます。

潜在層へアプローチするためには、就職・転職ニーズがなくても接することができる情報の発信を心がけることが重要です。情報発信の具体的な方法としては、オウンドメディアやSNSによる情報発信、メディアへの露出、イベントの開催などがあります。

ペルソナの設計

採用マーケティングで重要となるもう一つの手法は、「ペルソナの設計」です。ペルソナとは「人格」を意味するマーケティング用語で、採用したい人物像を、その生活まで具体的かつ詳細にイメージできるくらいまで明確化することを意味します。

従来の採用活動でも、採用の「ターゲット」は明確にすることが一般的でした。しかしペルソナは、年齢や性別、職歴などのデモグラフィック属性で規定される「ターゲット」と比較して、人物像をより詳細にイメージすることを意味しています。

ペルソナを設計することで、以下のようなメリットがあります。

  • 採用する人物像について現場と採用部門のズレをなくす
  • 採用戦略を立てる際に関係者全員の視点を統一することができる
  • 求職者の目線に立った、より柔軟なアプローチができるようになる

ペルソナを設計する際には、多くの場合に全社を巻き込むほどの議論になりますが、「どのような人を採用すべきか」は人によって考え方が異なる場合が多いからです。意見をまとめるのが難しそうな場合には、コンピテンシーを参考にするのもよいでしょう。コンピテンシーは多くの場合、知見が積み重ねられ、明確化されているからです。

3. 採用マーケティングを行うためのサービス・ツール

採用マーケティングを行うためのツールとして、「マーケティングオートメーション」が挙げられます。マーケティングオートメーションとは、マーケティングにおけるさまざまな施策を自動化し、効率化するためのツールです。

マーケティングオートメーションを採用活動に取り入れることにより、以下のような行動が可能になります。

  • 自社に興味を持つ潜在層の情報を取得する
  • 潜在層に適切なタイミングで情報を提供することにより、採用への応募を獲得する
  • 応募者を学歴・職歴や興味の度合いなどにより分類し、管理する

採用マーケティングを行うためのサービス・ツールはこちらから探すことが可能です。

4. 採用マーケティングの事例

採用マーケティングの具体的な事例を、パナソニック株式会社と国際自動車株式会社について見てみましょう。

パナソニックの事例

パナソニックでは、「採用マーケティング室」を設け、単にエントリー数や採用数などを目標とするのでなく、「採用ブランド」を中長期的に構築することに取り組んでいます。

マーケティングにおいて「ブランディング(ブランド価値の向上)」は大きなテーマです。適切にブランディングを行い、ブランド価値が向上することにより、価格競争から脱却する、あるいはリピート率を高めるなどのメリットが生まれます。しかし、パナソニックでは、採用活動に関しては「ブランディング」が狭い意味に捉えられすぎていると感じていました。

それまでもパナソニックでは、採用に関わる単発のキャンペーンなどにおいて、ブランディングを意識して活動を続けてきました。しかし、ブランド価値の向上は、中長期にわたって継続的に行われていくべきものであるはずです。

そこでパナソニックでは、前述した「潜在層」に目を向けます。求職者に対してアピールするのではなく、「現在のパナソニックの本当の姿」を、まだ就職を考えていない人を含めた学生全般に知ってもらうことに目標を変更。学生に「パナソニックは新しくて面白い、いろいろなチャレンジをしている企業だ」と評価されることを目指しました。

それに伴い、採用系コンテンツのKPI(重要業績評価指標)も変更。PV(ページビュー)にこだわるのではなく、読者の「いいね!」やシェア、コメント、リツイートなどの「エンゲージメント」を高めることに注力します。

そのかいあって、パナソニックでは、採用系コンテンツのエンゲージメントが、2017~2018年の1年間で約5倍へと急成長。また、同社の内定者のうち「情報発信が就職の決め手になった」と回答した人が、以前のゼロから約3割にまで伸びています。

国際自動車の事例

タクシー事業を行う国際自動車は、「採用マーケティング」の言葉こそ使用していませんが、まさに採用マーケティングにかなった採用活動をしています。

国際自動車では2010年から、それまで総合職にのみ行っていた新卒採用を、タクシードライバーにも広げました。タクシードライバーの新卒採用を始めたのは、業界のイメージを改善するためです。それまで行っていた中途採用では、業界イメージが悪いために活動が難航していたからです。

大学を卒業する若者に職業としてタクシードライバーを選んでもらうことは、決して簡単ではありませんでした。最初のうちは、タクシー会社が新卒採用をしていることを不思議がられ、内定を出しても家族の反対で辞退されるなど、苦戦が続いたそうです。しかし、新卒採用を始めてから4年目以降、雰囲気が変わってきました。

雰囲気が変わった理由は、新卒採用のチームを20代の若手で構成し、「どうすれば大学生に興味を持ってもらえるか」をテーマとしてアイデアを出し合うようになったからです。前述のとおり採用マーケティングを成功させるためには、求職者のニーズにかなったアプローチ方法を採用しなければなりません。国際自動車では、求める人物像を明確化し、どうすれば彼らに効果的にアピールできるかを考えました。

そこで生まれたのが、「すっぽんぽん採用」や「ありのまま採用」「仮面就職」などの奇抜な採用戦略です。「すっぽんぽん採用」や「ありのまま採用」では、「学生も会社も飾ることなく、長所も欠点もさらけ出して語り合おう」とのメッセージを発信。また、「仮面就職」では、「定年まで勤めなくても、働きながら本当にやりたいことを見つけたい就活生を応援する」との意図を込めています。

とにかく目立たないと、合同会社説明会で学生に立ち止まってもらえないため、「すっぽんぽん採用」のポスターには社長と社員が銭湯に裸でつかる写真を採用。社内から「そこまでやるのか」という声が上がっても、経営陣は採用チームの若手の意見を尊重し、口を出さずに見守りました。

その結果、国際自動車の新卒採用は、5年目には113人となり100人超えを達成。その後もコンスタントに100人を超える新卒が入社し、離職率も10%以下に抑えられています。

5. 採用マーケティングを知るための本やセミナー

採用マーケティングを知るための本やセミナーをご紹介します。

中小企業の採用コンサルタントである著者が、よい人材が集まる会社はどのような考え方で採用活動を行い、採用戦略を練っているのかを紹介しています。

Webマーケティングで採用についての課題を解決するために必要な基礎知識やポイント解説などを、現場運営担当者目線で解説しています。

巻頭特集に「接点づくりからエンゲージメント深化まで 採用活動のマーケティング戦略」を掲載。採用活動にマーケティング手法を取り入れるための具体的な方法を紹介しています。

採用マーケティングに関連したセミナー

採用マーケティングに関連したセミナーは、日本の人事部「セミナー検索画面」より検索することができます。

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