課題解決型の人材派遣とシェアリング型のアウトソーシングサービスで急成長
近年は障がい者雇用支援など、
社会課題を解決するソーシャルビジネスを展開
株式会社エスプール 代表取締役会長兼社長
浦上壮平さん
社会の急激な変化に対し、人材サービスも変化していかなければならない
人材サービスを展開していく中で、苦労されたことは何でしょうか。
現実世界で新しいビジネスを立ち上げるのは、WEB上で新しいサイトを立ち上げるのとはわけが違います。ヒト、モノ、カネはもちろん、関係するノウハウや情報など、全てを用意しなくてはなりません。例えば、「Omusubi」をスタートした際は、まずはコールセンターを開設しなければなりませんでした。そのための管理者が必要ですし、そもそもニーズがあるのかどうか調査が必要ですし、ニーズがあるのであれば、営業を行って顧客を獲得しなければなりません。新規事業をスタートするにはさまざまなプロセスを要しますが、毎年1件ずつの新規事業を立ち上げるだけでも非常に大きな労力を要します。
当社はコールセンターの候補地として、人口10万人以下の地方都市を想定しています。今は、北海道北見市と宮崎県日南市にコールセンターがあります。通常、コールセンターは、CTIシステム(電話・ファックスをコンピューターと統合したシステム)の導入が必要なため、初期の費用負担が大きく、投資に見合う収益を確保するために、センターの規模が大きくなる傾向が強く、地方都市に開設する場合でも、そこそこの人口がいる中核都市に限られます。一方、当社のコールセンターはCTIシステムがクラウド化されているため、初期投資を抑えることができ、人口が少なく、通信インフラが整ったインテリジェントビルがない地方小都市でも開設が可能です。複数の小規模コールセンターをクラウド上でつなぎ、あたかも同一のコールセンターで業務を行っているようなオペレーションを可能にしています。
この特性を生かし、コールセンター開設による雇用創出を通じた地方創生に取り組んでいます。人口10万人以下の地方都市では、民間企業のデスクワークの仕事が少なく、事務職の有効求人倍率は0.2倍程度しかないこともあります。雇用が少なく人口流出に苦しむ地方都市に、当社のクラウドを活用したコールセンターを展開することで、若い人や主婦を中心とした新たな雇用を生み出し、地域の活性化につながっています。また、分散して業務に当たることで、大規模災害へのリスクヘッジにもなります。現在、中国、四国、中部、東北地区などの地方自治体から、多くの問い合わせをいただいています。
社会的な課題に応えていく事業モデルは、このまま順調に伸びていきそうですか。
必ずしも、順調に行くとは思っていません。世の中の動きが非常に速いからです。例えば、コールセンターで対応していた相談や質問の多くは、近い将来、AIやスマートフォンのアプリで対応できるようになるでしょう。そうすると、コールセンター業務の人材ニーズは間違いなく減少していきます。つまり、技術革新によって世の中の仕組み、サービスのあり方などが急激に変わっていくのです。変化のスピードが非常に速くなっているからこそ、既存のビジネスに固執するのではなく、変化の先を行くサービスの開発に取り組んでいかないと、これからの企業経営は続かないと思います。
先ほど、リーマンショックをきっかけとした債務超過から脱した時に、一つの事業に頼るのではなく、いかなる環境変化にも対応できる多角化経営に転換を図ったとご説明しました。グループの売上高は、現在100億円ほどですが、将来300億円まで拡大した時のイメージとしては、280億円の主力事業と20億円の周辺事業を持つ会社ではなく、売上が10億円の事業を30持つ会社のほうが良いと考えています。そして、個々の事業がきちんと社会の役に立ち、高収益を上げることのできる企業体になっていたい。これはニッチな事業領域で展開するからこそ、実現できるものだと思います。大きな市場があるからといって無理に進出しても、その領域には必ずガリバー企業がいますので、ヒト、モノ、カネの差で負けてしまいます。重要なのは分散経営であり、消耗戦にならないこと、共倒れにならないことです。
今後、人材市場はどのような方向に進んでいくとお考えですか。
これからの雇用や仕事探しのあり方を考えると、極端な話、派遣会社が必要なくなるのではないかと思います。なぜなら、派遣会社に登録しなくても、ネット上で自分の望む仕事を見つけることができるからです。依然として人材市場は大きなものではありますが、エージェントを介さずにネット上で大半のことがマッチングできる時代がすぐそこまで来ています。そうした中で、今ある人材サービスの手法が急激に変化していくのは間違いないでしょう。
また、終身雇用に代表される従来の日本的雇用慣行は大きく変わっていきます。雇用が流動化し、労働力人口が急激に減少していく中で、企業は少数精鋭の体制の下、一般業務はITや自動化でまかなわれていくでしょう。その上で、人の役割は専門的な業務に限られていき、必要に応じて外部のプロ人材に依頼するといった形に変わっていくと思います。仕事の進め方、そして雇用の形態が、大きく変化するのです。
働く人の中には、正社員で安定して働くことが一番の幸せであると考えている人がいますが、今後はフリーランスで働く人がどんどん増え、専門性の高いプロフェッショナル人材が重宝されるようになります。ネット社会がますます発展することで、あらゆる情報が行き交います。その結果、フリーでいることのアドバンテージが極めて高くなり、企業も個人も正社員という形態にこだわらない時代が、近い将来やってくるように思います。
人材サービス企業も、そのような変化に合わせて変わっていかざるを得ないわけですね。そんな人材サービス業界に携わっている皆さまに、最後にメッセージをお願いします。
私が社会人となって過ごした20数年間に起きた大きな変化は、インターネットが普及し、PCで仕事をするようになったこと。また、ITに長けた若い人の存在価値が上がってきたことなどが挙げられます。インターネットの普及による産業革命は本当に大きな出来事だったと思います。しかし、これからの変化は、その比ではありません。自分自身の経験から言っても、常に進化し続けないと、人材サービス事業の存在は危うくなります。また、今後はそのスピードがもっと速くなりますから、成功体験に固執せず、失敗を恐れないで積極的にチャレンジしていく必要があります。
業界としては、法律の変化よりも技術革新のスピードが速くなっており、今まで培ってきたノウハウやサービスの手法を、見直さなくてはならない場面が増えてくると思います。否応なく私たちは、それに合わせ答えを見つけ続けなければなりません。
しかし、より良い仕事をしたい、より良い環境の下で働きたい、新しいことにチャレンジしたい、自分を成長させたい、という人の思いは、今後も変わりません。人が本来持つ、働くことや成長することへの本質的な意欲・願望と、技術革新などの環境変化をうまく組み合わせながら、新しい人材サービスの形をいかに構築していくか。特に若い人たちには、革新的なアイデアの創出と、それを実現するための行動力に期待しています。
社名 | 株式会社エスプール |
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本社所在地 | 東京都千代田区外神田1-18-13 秋葉原ダイビル6F |
事業内容 | ビジネスソリューション事業、人材ソリューション事業 |
設立 | 1999年12月 |
日本を代表するHRソリューション業界の経営者に、企業理念、現在の取り組みや業界で働く後輩へのメッセージについてインタビューしました。