地域の中小企業が、多様な人材や域外企業を活用して稼ぐ力を向上させ、地域が活性化していくには、「支援機関が一体となった地域ぐるみの支援体制=地域の人事部」を構築することが重要になる。どうすれば協働・共創を実現する「地域の人事部」が実現できるのか。2022年2月に開催された、経済産業省 関東経済産業局主催の本セミナーでは、多様な人材や域外企業との連携事例とその有効性、地域ぐるみの支援のあり方について、現場を知る当事者や専門家による講演やパネルディスカッションが行われた。
セミナー主旨説明
志村 典彦氏(経済産業省 関東経済産業局 地域経済部 社会・人材政策課長)
「地域の人事部」構想はどのような背景から生まれたのか。
志村氏ははじめに、地域における人材確保支援の必要性について解説した。
「人口減少、少子高齢化が本格化する中で、地域の中小企業の人手不足が質・量ともに深刻化しています。地域の中小企業には社会経済環境の激しい変化に対応するため、経営の質の向上が求められています。特に地域の中小企業においては、イノベーションや新規事業の創出を通じた稼ぐ力を向上させる必要があります。そのためには、それらを担う中核人材の確保が喫緊の課題です」
こうした人材不足の状況において、経営の質を向上させるには、デジタル化を通じた生産性向上はもちろん、将来を担う若者の確保や、新卒にこだわらない多様な人材の採用など、人材確保の強化が求められる。中小企業にはどんな課題があるのだろうか。
「多くの中小企業が人材に関する課題を抱えています。管理職や専門技術職などの中核人材といわれる人たちは、東京圏など都市部に集中している。こうした実態を踏まえて、地域の中小企業の外部人材活用を促す取り組みを行ってきました」
このような取り組みは、地域で自律的に行う、あるいは他地域へ横展開をしていく必要がある。しかし、そのためにはいくつかの課題がある。志村氏は「都市圏や大企業などで激しい人材獲得競争が起こっている中、地域の個々の企業が創意工夫で対応していくことには限界がある」と言う。だからこそ、地域全体における新たな人材獲得や人材育成、フォローアップを通じて、地域企業の連携を通じた取り組みの強化が必要になる。
「地域の企業を支える機関がそれぞれの強みを生かし、一丸となって地域企業の人材確保を推進する必要があります。企業の掘り起こし、経営課題の把握や整理、人材像の明確化、マッチングのフォローなどのノウハウを地域の支援機関同士で連携し、共有して能力を向上させていく。そうすることで地域企業の成長を支援できると考えています。こうした地域一体となった支援体制を、私たちは『地域の人事部』と呼んでいます」
取り組みの検討会では、「地域の人事部」に必要な機能について洗い出しが行われた。マッチング前は地域企業に対して新たな人材確保手段、外部人材の活用を啓発する機能、人材で解決可能な課題の整理といった機能が必要であり、人材に対してはマインドセット、採用後の伴走支援および地域ぐるみでの外部人材のオンボーディングも重要だという意見が聞かれた。
次に志向したのは「地域の人事部」が地域に提供する価値だ。
「『地域の人事部』が地域、人材、企業など、さまざまなステークホルダーに価値を提供しつつ、その結節点となって機能することで、地域経済を好循環の状態に導いていけると考えています」
最後に志村氏は、地域と「地域の人事部」の関係性について解説した。「地域の人事部」の主体組織としては金融機関、商工団体、民間企業、教育機関などが挙げられる。そこに地域の自治体がサポーターとして入り、地域のとりまとめ、旗振り役を担い、外から国が支援するという関係性がある。志村氏は「今年度に検討した内容について、来年度はいくつかの地域で実施し、さらなる課題の洗い出しや対応策の整理を行いたい」と計画を語った。
「本日のセミナーでは、第1部で『地域の人事部』および全体に関するディスカッションを行い、第2部ではプロ人材を活用し、新規事業を創出した取り組みの報告、第3部では地域との接点であるワーケーション(旅先で休暇を楽しみながら、テレワークを行う働き方)についてディスカッションを行います」
第1部:兼業・副業プロジェクト報告会
地域中小企業における外部人材の活用と地域ぐるみの支援のあり方
1.♯複活(兼業・副業プロジェクト)のご説明
亀井 諭氏(株式会社パソナJOB HUB ソーシャルイノベーション部 チーム長)
パソナJOBHUBでは、地域企業と兼業・副業人材のマッチングサービスやワーケーションプログラムの企画・運営サービスを展開。また、個人を主役としてその才能をシェアする多様な働き方「タレントシェアリング」を推進している。その概要について、同社ソーシャルイノベーション部チーム長の亀井氏が語った。
「現在は労働力人口の低下や外部環境の変化により、経営のあり方そのものが変わってきています。そこで『♯複活』(兼業・副業プロジェクト)では、人材と地域企業とのマッチングを通じて、企業の経営課題を解決したり、イノベーションを推進したりしたいと考えています」
「♯複活」の特徴は三つある。一つ目は、事業コンセプトへの共感を重視した企業・人材の参加だ。単なる外注先ではなく、中長期的なパートナーとしてのマッチングを重視する。そのため共感、信頼関係、人柄なども重要な要素となる。二つ目は、地域の経営支援機関と連携したサポートだ。兼業・副業人材の活用が初めての企業でも塩尻・静岡商工会議所とパソナJOBHUBが伴走し、 マッチングが行える。三つ目は、地域企業と参加者との対話型プログラムであることだ。企業と人材の交流を通じて課題を整理したり、気づきが得られたりするような対話型のプログラムとなっている。
2. 実施結果報告
次に亀井氏は、2021年度に行われた塩尻エリア、静岡エリアでの「♯複活プロジェクト」について、その工程を解説した。プロジェクトの流れとしては大きく五つあるという。
(1)説明会・エントリー(学ぶ)
企業向けセミナーに2地域で計25社が参加、人材向け説明会に107人参加。人材エントリーは288人で30代~40代が半数以上を占める。73%は首都圏在住者。
(2)チェックインイベント、フィールドワーク(体験する)
企業から人材に対して自社課題やビジョンの提示を行い、事業内容の説明を踏まえたディスカッションが行われた。
(3)提案書作成(提案する)
提案内容だけでなく、動機や共感ポイント、フィールドワークで感じた経営課題なども記載した上で提出された。
(4)面談(面談)
企業・人材間での面談が商工会議所・事務局のサポートで行われた。
(5)プロジェクト開始(業務開始)
契約締結後、実際に業務開始となる。
次に、亀井氏は参加企業・人材の属性や寄せられた声について説明した。
「多種多様な業種・規模の企業が参加しました。参加企業からは『地域で人材が見つからない中で、複活に参加して普段出会えない人材と出会えた』『自社の課題が整理できた』などの声が寄せられました。また、人材に関して言うと、複活にエントリーした人は288人。チェックインイベントに参加した人は50人前後。エントリー者は30代、40代が半数以上で首都圏在住の人が7割でした」
「エントリー者のうち、兼業・副業を経験したことがない人や会社員の割合が以前より増えてきました。このように、新たに兼業・副業に興味を持つ人が増えてきている印象があります。また、エントリー者の保有スキルを見てみると、企画・マーケティング・事業開発経験者の割合が多くなっています。参加した人からは『地元に貢献したいと思って参加した。お金よりやりがいを求めている』といった声が多く寄せられました」
最後に、亀井氏は、複活プロジェクトの定量的な成果を述べて、実施結果報告を締めくくった。
「参加企業数は20社、提案者数は71人、実際の提案数は155件あり、2月24日時点で17社21件のマッチングが成立しています。1社あたりの提案数は8件で、マッチング率(=マッチング件数/参加企業数)は115%でした。実際の企業と人材、マッチングテーマの組み合わせでは図のようなものが生まれています。このあとのディスカッションでは、企業の方々が実際にどのような取り組みをしているのかをあらためて語っていただきたいと思います」
3.パネルディスカッション
「地域中小企業における外部人材の活用と地域ぐるみの支援のあり方」
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○コーディネーター:
- 亀井 諭氏(株式会社パソナJOB HUB ソーシャルイノベーション部 チーム長)
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○パネリスト:
- 【専門家】
平田 麻莉氏(一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会 代表理事) - 【兼業・副業人材活用企業】
原 卓也氏(株式会社立石コーポレーション 管理部 部長)
村田 浩康氏(村田ボーリング技研株式会社 社長室 課長) - 【支援機関】
横山 暁一氏(塩尻商工会議所 NPO法人MEGURU 代表理事)
村上 孝明氏(静岡商工会議所 地域人事部 部長)
次に、「地域中小企業における外部人材の活用と地域ぐるみの支援のあり方」と題して、地域や企業の関係者、有識者によるディスカッションが行われた。
亀井:まず、Q1の問いについて企業の立場から、原さんと村田さんにお話しいただけますでしょうか。
原:当社は石油製品の販売をメインに行うリテーラーです。最近、事業継承があり、次のステップに向けて事業間のシナジー強化や業務の効率化が課題となっていました。マッチングした案件は、ホームページでのチャットボットによる灯油の注文受付です。この冬に導入でき、新規の受注の5分の1はウェブからの自動受付になりました。
村田:当社は表面改質技術を使った各種部品の加工を行っています。課題は事業ブランド力の強化と人材採用や社員定着の仕組みづくりでしたが、3人とマッチングができました。うち1人にはコンサルタントとして参加してもらい、社長室の新入社員や現場社員を巻き込みながら、今後のビジョンややるべきことの整理などを行ってもらっています。
亀井:次に、Q2の問いについて地域の支援機関の立場から、横山さんと村上さんにお話しいただけますでしょうか。
横山:企業の方がよく言うのは、兼業・副業人材と共に成果を出すイメージがわきにくいということです。そこで、企業に伴走しながら事例を紹介しつつ、兼業・副業人材の活用を選択肢として入れてもらうべく努力しました。兼業・副業人材と話をするだけでもいろんな発見があるので、まずは一度参加してもらうことが大事だと思います。今後の課題としては、金融機関や支援機関と連携していくこと、マッチングした後の伴走支援、兼業・副業人材のオンボーディングなどがあります。マッチングの前と後でそれぞれ課題があるので、解決に向けて努力していきたいと思います。
亀井:こうした機関の皆さまに支援を受けたのが原さんだと思いますが、どういったことが助かりましたか。
原:兼業・副業人材を地方都市で発掘するのは難しいので、マッチングイベントを開催してもらえて、効率よく人材と出会えるのがありがたかったです。多くの人材と話して、思ってもいなかったような課題を指摘してもらえることもありました。
亀井:次に、Q2の問いについて村上さんお願いします。
村上:目的とずれた課題を切り出して、そこに人材を当ててもうまくいきません。そこでまずは企業の本当の課題は何かを考えて、皆で共有しました。そうした作業を行ったことでマッチング精度が上がっていきました。今後はマッチング後のプロジェクトの進捗を把握し、更新された課題があれば新たな人材を提供するといった支援を行っていきたいと思います。
村田:村上さんがおっしゃったとおり、本質的な課題の解決が重要なので、そこを一緒に考えて伴走してくれたのがありがたかったです。顔の見える方が一貫して課題抽出から事後フォローまでしてくれたのがとても助かりました。契約書の作成など、契約の仕方などについても教えてもらいました。
亀井:2社のコメントを聞いて、平田さんからもコメントをお願いします。
平田:神戸や徳島での例ですが、企業に対する人材のプロモーションを強化しています。セミナーや相談会をたくさん開いてアピールしつつ、企業からは要望を詳しく聞いて内容の解像度を上げる努力をしました。また、働きたい人がいても案件がなければマッチングできないので、地域の企業と接点を持つ商工会議所や金融機関、自治体などと連携して、日々情報を提供してもらっています。このように、さまざまなステークホルダー同士、地域全体、まさに「地域の人事部」として連携していくことが重要だと思います。
亀井:今度は、「地域の人事部」である支援機関としての展望と、企業の視点で「地域の人事部」に期待していることをそれぞれお聞かせください。
横山:展望は二つあります。一つ目は、孤独な状態で課題に対応している経営者が多いので、伴走しながら的確に支援すること。二つ目は、兼業・副業人材以外の活用です。地域内のフリーランスや学生など、より多様な人材が地域内で活躍できるようにしていきたいと思います。また、私はNPO法人で「MEGURU」という事業を展開しています。人事戦略オペレーションの伴走支援を行い、地域企業の成長を実現すること、多様な人材と企業を結ぶこと、個人のキャリア支援を行うこと、という三つの取り組みも行っていきます。このように、点ではなく面で「地域の人事部」として活動していきたいと考えています。
亀井:このお話を聞いて、原さんいかがですか。
原:人材を受け入れる企業は、人材のマネジメントに課題を抱えています。支援機関には、企業に対してマネジメントの支援をしていってほしいですね。それから、兼業・副業人材が都市部から来て、地域の企業とマッチングする例が目立ちますが、MEGURUで行っているような「地域の人事部」の中では、人材の「地産地消」も考えられるのではないでしょうか。外部人材はいつかいなくなります。地域が持続的に発展するためには、地域の中でも副業をできるようにしていく。MEGURUにはそんな状況をつくり出してほしい、と期待しています。
亀井:村上さんからも今後の展望をお聞かせください。
村上:6年前から地域企業と地域の高校生や大学生といった若手人材が、地域および地域企業の課題を考え、学び合える場づくりを行っています。そこに兼業・副業人材も加わってもらい、地域活性化を図っていきたいですね。学生などの人材と、企業とが一緒に成長していける「生態系」をつくっていきたいと考えています。
亀井:この話を聞いて、村田さんいかがですか。
村田:「生態系」や人材の「地産地消」といった考え方に共感します。そして、変わりたい人を応援するというスタンスもいいですね。複活プロジェクトは、人材と企業の学びと成長につながります。こうした取り組みでは、横山さんや村上さんのようなキーパーソンが必要です。企業と人材の双方を客観的に見て、取り組める人がいないと成立しません。
亀井:平田さん、まとめのコメントをお願いします。
平田:私も人材の「地産地消」は大事だと思います。地域の企業からも「地元の人材が欲しい」という声を多く聞きます。しかし、地元の人材だけでは足りません。そのため「地域の人事部」のような取り組みが重要なのです。都市部の人に、地域の企業へ来てもらい、まずは副業から始めてもらう。そして副業で来てもらった人をさまざまな企業や人とつなげていく。そうした、地域全体での人材のオンボーディングが重要だと思います。そのためには、活動の旗振り役や自治体の役割も大事ですね。
4.事例集の紹介
(株式会社パソナJOB HUB)
パソナJOB HUBでは、兼業・副業人材活用について「認知度を上げたい、偏った印象を解消したい」という目的から、事例集を作成している。実践企業の事例を知ってもらい、企業・経営支援機関への認知拡大につなげるものだ。
「企業経営者には成功事例と企業課題やテーマの身近さを提示することで、メリットを実感し、活用に興味を持ってもらう。経営支援機関には、兼業・副業人材について簡潔かつわかりやすい資料を作成することで、普及促進の資料として活用してほしいと思います。今年4月以降に公開予定です」
第2部:アトツギ経営者×プロ人材の新規事業創出モデル事業
1. アトツギ経営者×プロ人材の新規事業創出モデル事業について
鶴見 真子氏(株式会社サーキュレーション)
サーキュレーションは、企業内だけでは起こせないイノベーションを促進する「プロシェアリング」のサービスを提供している。プロシェアリングとは、外部プロ人材の経験・知見を複数の企業でシェアし、あらゆる企業課題を解決する新しい人材活用モデルだ。雇用でも派遣でもなく、プロジェクト単位で外部の優秀なプロ人材の知見が活用できる。同社の鶴見真子氏がその概要を語った。
「現在1万8000人のプロ人材が登録しています。全体の6割が現役経営者および個人事業主で、残り4割が副業・兼業の人材です。これまでに3000社9000のプロジェクトに活用されています。活用した企業の6割が首都圏以外、8割が300人以下の企業でした。活用期間でもっとも多いのは6ヵ月。サーキュレーションが企業およびプロ人材の双方と業務委託契約を結び、プロ人材が企業の経営支援を行うという契約形態です」
今回の「アトツギ経営者×プロ人材の新規事業創出モデル事業」では、6ヵ月間のプロシェアリングを活用し、事業継承予定または継承後のアトツギ経営者がいる企業で新規事業開発の支援を行い、持続可能な企業経営に必要な文化醸成・人材育成に取り組んだ。
2. パネルディスカッション
「2つの事例から見る外部人材の活用メソッド」
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○コーディネーター:
- 土井 啓義氏(株式会社サーキュレーション プロシェアリング本部 東日本支部 部長)
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○パネリスト:
- 事例1:
鈴木 健一郎氏(株式会社ベルニクス 代表取締役社長)
プロ人材:山田 勝俊氏(株式会社Recursive 共同創業者 兼 取締役COO) - 事例2:
橋本 隆行氏(株式会社日本栄養給食協会 専務取締役)
プロ人材:清川 京子氏(株式会社カナデル 代表取締役)
(金融機関)
橋本 純弥氏(株式会社足利銀行 営業推進部 本業支援室 係長)
次に、二つの企業による外部人材の活用事例を基に、ディスカッションが行われた。
事例1:株式会社ベルニクス
創業:1978年 業種:産業機器向け電源メーカー
ビジョン:100年変わらないコンセントによる電気の配り方を変革したい。50Wワイヤレス給電「POWER SPOT」で電源をデジタル化することで、「誰が、どこで、何を、いつ、何ワット給電・充電したか」のデータをビジネスに活用したい。
当初抱えていた課題
鈴木:ワイヤレス給電プラットフォームによって取得した膨大なデータを使ったデータビジネスを行いたいと考えています。製造業以外の事業アイデアはありますが、具現化していく知見がありませんでした。
良かった点、苦労した点
鈴木:良かった点は、山田さんから我々にない知見を教えてもらったことです。例えば、ワイヤレス給電は10代の若い人たちに広く使ってもらっていますが、彼らの感想からは「カーボンニュートラル」「エコ」「SDGs」という言葉が聞かれ、大変意外に感じました。現在、こうしたデータ活用で新たなビジネスが生まれています。苦労したのはデータ活用の方法です。山田さんの意見から、利用データから再生エネルギーを利用した人に特典を付与するというモデルが生まれました。
山田:私はハードウエアのことはわからないので、最初はたくさん質問しました。そこでベルニクスの皆さんが丁寧に教えてくださったことで、お互いが持つ知見が徐々に融合されたように思います。最初は私からいろいろなアイデアを伝えるようにしたのですが、鈴木社長が非常に興味を持ってくれて、社長の感度の高さを知ったことで、その後のスピーディーな展開が生まれたと思います。
外部プロ人材を効果的に活用するポイント
鈴木:新規事業は困難な課題がいろいろと出てくるので、従業員の心を折らないためにも、経営者の覚悟が必要になります。また、第三者視点の仲介会社の支援を受けることも大事。山田さんのような人は自分たちでは探せなかったと思います。今回はサーキュレーションの皆さまに、自社に合う人をマッチングしてもらえて、大変感謝しています。
山田:目標に対し、どのようなプロジェクトの運び方が相手に合っているかを考え、相手の企業風土を尊重しながら行うことが大事だと思います。ベルニクスさんは社長がアクティブな方で、とても助かりました。
今後の展望
鈴木:今後は、コンシューマー向けのプロダクトが生まれて、「POWER SPOT」を内蔵する製品も流通していくと思いますので、そこで得られるデータを活用したビジネスを考えたいと思います。
事例2:日本栄養給食協会
創業:1989年
事業内容:給食受託業(病院、高齢者施設、障がい者施設、幼稚園・保育園など約170ヵ所)、食品加工事業(東京卸売市場、業務用卸、料亭などへの豆腐類の提供)ベーカリー店の運営など
当初抱えていた課題
橋本:これまでいろいろな事業を展開しましたが、給食部門以外のビジネスは未成熟でした。新たにBtoC事業を立ち上げたかったのですが、商品づくりや売り方がわからなかった。また、社名をもっと消費者に知ってもらいたいという思いもありました。
良かった点、苦労した点
橋本:社内の人だけだと業務の忙しさでプロジェクトを後回しにしがちです。今回は清川さんに入ってもらい、ゴールを明確にして期限を決めたことで、スピーディーにプロジェクトを進められました。また、他社事例を含めていろいろな情報を提供してもらえたのでとても参考になりました。おかげさまで2022年2月に大人の給食セットを販売するMakuakeサイトをオープン。開始4日間で80件の注文が入っており、出足は順調です。
清川:従業員の皆さんにはそれぞれ「会社の強みが何で、どんな製品をつくりたいか」といった思いが必ずあります。そのため、私が何かを提案するのではなく、そうした思いを引き出すことに注力しました。皆さんからは「大豆を使った健康に良い食品」を広く売り出したいという声が聞かれ、これまでのBtoBではなくBtoCで通販ができる食品の開発に至りました。そこで学校給食を担当されている実績を生かし、「大人の学校給食」という付加価値の高い商品が生まれました。
外部プロ人材を効果的に活用するポイント
橋本:プロジェクトメンバー全員で、目標などの目線を合わせておくことが大事だと思います。我々も清川さんとのミーティング前には復習と予習を欠かさないようにして、臨むようにしました。
清川:皆で和やかに話すだけではいい企画は生まれないので、プロジェクトの途中であえて組織を分けたタイミングがありました。製造部隊と商品開発部隊に分けて、ミッションのもとに互いに意見をぶつけ合うことを行いました。組織としてポジションごとにミッションを明確にすることは大事だと思います。もう一つ、大事な点は、これは外部人材を活用する一番のメリットだと思いますが、自社内にはない外部からの斬新な意見を生かすことです。本当に売れるもの、伸びる可能性のあるものというのは、なかなか社内だけで見つけることは難しいんです。
今後の展望
橋本:BtoCビジネスはまだ始まったばかりで課題も多いので、振り返りを行いながら業務を改善していきたい。また、これまで設備投資はあまり行ってこなかったので、新規事業における投資についても検討していきたいと考えています。
最後に土井氏は、足利銀行の橋本氏にプロ人材を紹介する際に意識していることを聞いた。
「顧客の課題解決を目指すうえで、目指すべき姿と現状のギャップを課題として捉えることを重視しています。プロ人材を活用する場合も、この課題解決に即した人材であるかどうかが重要です。今、企業にはコロナ禍もあってさまざまなニーズがあると思いますが、そうしたニーズに合ったスポット的な人材活用を実現したいと思います」
土井氏はまとめとして「新しいことを始める際にはぜひプロ人材の活用を考えてほしい。ただし、プロ人材に丸投げしてはいけません。企業としてプロ人材を生かすための心構えや体制づくりが求められます」と述べて、2部は終了した。
第3部:ワーケーションを契機とした地域との共創に向けて
1. ワーケーションを契機とした地域との共創に向けて
中嶋 重光氏(関東経済産業局 地域経済部部長)
ワーケーションは地域外の人材・企業と地域をつなぐ有効なツールとなっている。アンケートによれば「ワーケーションで地域課題、社会課題の理解を深めたい」と回答した企業は80%に上る。中嶋氏は「今後、ワーケーションを契機とした首都圏と地域の交流・共創による地域経済の活性化の取り組みを推進していきたい」とワーケーション事業への期待を述べた。
2. 基調講演:地域と企業を結ぶ架け橋としてのワーケーション
田中 敦氏(山梨大学 生命環境学部 地域社会システム学科長)
田中氏は「ワーケーションの概念と定義」「四つのステークホルダー~働き手と企業の期待と課題」「拡張するワーケーションとその取り組みの変化」について解説した。最後に「ワーケーションは企業の視点と個人の視点、両方が大切になるのではないか。個人としては、自由に場所・時間を選べることに加え、今後は居心地が良いと思えるコミュニティーで仕事をすることが大きな価値になっていく。企業はワーケーションを取り入れることで、従業員の自律的な働き方を促すとともに、企業が抱えるさまざまな課題の解決につながることが期待される」と語り、講演を締めくくった。
3. パネルディスカッション:
ワーケーションを契機とした地域との共創の意義、成功に向けて
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○コーディネーター:
- 加藤 遼氏(株式会社パソナJOBHUB ソーシャルイノベーション部長 兼 事業開発部長)
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○パネリスト:
- 田中 敦氏(山梨大学 生命環境学部 地域社会システム学科長)
- 入江 真太郎氏(一般社団法人日本ワーケーション協会 代表理事)
- 斉藤 誠氏(妙高市 企画政策課地域創生グループ室長)
- 島田 由香氏(ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス合同会社 人事総務本部長)
- 東原 祥匡氏(日本航空株式会社 人財本部人財戦略部厚生企画・労務グループ アシスタントマネージャー)
- 北辻 巧多郎氏(株式会社LIFULL LivingAnywhereCommonsグループ マーケティング・拠点活性projectリーダー)
本セミナーの最後は、ワーケーションの意義や事例について、有識者や企業人事、事業者によるディスカッションが行われた。
東原:ワーケーションでは、あえて遠隔地で仕事をすることで、仕事以外の部分で見えるものが多くなると感じています。インプットが増えることで、より深く地域に関われるメリットが得られるのではないでしょうか。
島田:従業員のウェルビーイングが高まることに多くのメリットがあります。モチベーションだけではなくエンゲージメントも向上します。
斉藤:地方には刺激的でリアルな現場があり、そこに飛び込むことで生み出されるアイデアがあります。また、プロジェクトとして地域に関われる点は、今後企業側にもメリットになっていくと思います。
東原:全国的には進展に差があるので、腰の重い企業には仕組みづくりが必要だと感じます。また、実施の際には内容を詰め込み過ぎると対象を狭めることにつながるので、ハードルを下げた内容での実施も同時に行ってほしいと思います。
斉藤:東原さんもおっしゃいましたが、間口を広げるためには誰でも参加できる制度設計が大事だと思います。また、地域によって人が行きにくい場所もあるので、どの地域にも行きたくなるような工夫が必要だと思います。
島田:お願いは三つあります。一つ目は、働く人に対して。訪問する地域を深く理解し、配慮してほしいと思います。二つ目は、自治体側の担当者の方はできるだけ代わらないように固定化してほしい、ということ。三つ目は、国や自治体に対して。補助金や助成金など、その場で共に使えるような資金を用意してほしい、ということです。
田中:地域と企業が、ワーケーションによって長めの接点を持つことで、自然とお互いにウェルビーイングやエンゲージメント向上といった成果が生まれてくるように思います。その結果として、互いが良い方向に進むのではないでしょうか。
北辻:どれだけ個人のやりたいことに寄り添えるかが、今後のテーマになると思います。受け入れる地域や行政側も、やりたいことをきちんと発信することが重要です。もう一つ、民間側の施策に自治体の人が飛び込んで体験するケースも増えるのではないでしょうか。
入江:企業と地域が参加することで、互いがWIN-WINになる状態は続くと思います。ただ、中には自治体側が「ここだけを見てほしい」と企業側に依頼するケースも見られますので、自治体と企業の相互理解を進めていく必要があると思います。
田中:今後は「企業と企業」「地域と地域」のように、共創のつながり方がより多面的になって、そこで化学反応が起こるといった成果が生まれることを期待しています。
加藤:ワーケーションで地域とコミュニケーションをすることで生まれる、新しい形の共創が、まさに個人の動きから始まっています。こうした動きが、企業経営にとっても重要になりつつあるとあらためて感じました。皆さん、本日はありがとうございました。