採用競争が激化する中、社員一人ひとりの活躍度を高める人材育成の重要性が増しています。将来どんな人材が必要になるか見通せない中、特に求められているのが、自ら学び、新たな変革を生み出せる人材を育成すること。多くの企業が試行錯誤を重ねるこの課題に、人類の知の集積である「本」を活用するというコンセプトで取り組んでいるのが株式会社フライヤーです。同社を創業した代表取締役CEOの大賀康史さんに、企業の人材育成が抱える問題点、「自ら学ぶ人材」の重要性、さらに同社が開発・提供している本の要約サービス「flier」の特長や、企業が実際に導入した場合の効果などについて詳しくうかがいました。
- 大賀康史さん
- 株式会社フライヤー 代表取締役CEO
おおが・やすし/2001年早稲田大学理工学部機械工学科卒業、2003年早稲田大学大学院理工学研究科機械工学専攻修了。2003年にアクセンチュア(株)製造流通業本部に入社。同戦略グループに転属後、フロンティア・マネジメント(株)を経て、2013年6月に株式会社フライヤーを設立。1冊10分で読める本の要約サービスflierを運営。
「変革を生み出す人材」をどう育成すればいいのか
企業の人材育成に関して、現在どのような課題があるとお考えでしょうか。
まず大前提として、採用が年々難しくなっている現状があります。自社が求める優れた人材の確保が十分できている企業はほとんどない、といっていいでしょう。そのため、新人に対しても、また既存の人材に対しても、より活躍してもらうための教育、人材の底上げがますます重要になってきています。
同時に、近年は求められる仕事の質自体が大きく変化しています。決められたことをきちんとやっていればよい時代ではなくなり、新たな変革や変化を生み出す仕事に重点が移っています。そういう仕事ができる人材は、画一的な研修やトレーニングでは育ちません。育成は重要だけれど、どうしたら必要な人材を育てられるのかわからないと、多くの企業の人事が感じているように思います。
ただし、具体的な課題は企業によってさまざまでしょう。例えば、必要なスキルや資格取得のための研修を行っているが、果たして中長期的に必要な人材の育成につながっているのか。DX(デジタル・トランスフォーメーション)が求められる中で、人材開発のデジタル化はどう進めればいいのか。拠点を全国あるいは海外にまで展開しているが、従業員に平等に学びの機会を提供するにはどうしたらいいのか。さまざまな問題の本質を探っていくと、やはり「変革を生み出す人材」をどう育成するのかというところに行き着きます。
多くの企業が課題を感じているということですが、人材育成の壁になっているものがあるのでしょうか。
求められる人材は環境によって変わりますが、見通せない未来に活躍する人材の要件がわかっていることはほとんどありえないでしょう。時代が変化し、必要な人材の要件が明らかになって初めて、どうやって人材を育てるのかを議論できるようになります。そのため、どうしてもタイムラグがあります。
ただ、それ以前に、人材育成は投資対効果の検証が難しい分野であるのも確かです。具体的なスキルや資格取得を目的とした短期的なものはともかく、中長期的に企業を支えていく人材の育成はすぐに結果が見えるものではありません。何か施策を打とうとしても、社内を説得するのは簡単ではないでしょう。「これで効果があるのだろうか?」と思いながら、従来からやってきた研修を続けているのが現状ではないかと思います。
「自ら学ぶ」ためにはまず多種多様な知に触れること
貴社は「自ら学べる人材」が、これからの企業が育成すべき人材であるとされています。どのような人材なのでしょうか。
「会社が決めたスキルを身につける」のではなく、「自律的に興味を持って学ぶ」ことができる人材です。近年はキャリア自律といった考え方も浸透してきているので、人事の皆さんにとっては理解しやすい概念だと思います。
そもそも、企業が「このスキルを身につけてほしい」と特定することが年々難しくなっています。利益を出すための知識は研修で学ぶことが可能ですが、今の世の中で何が求められているのか、環境変化にどう対応していくのがベストなのか、といったレベルまで考えて行動できる人材を育成することは、単一の研修では無理です。さまざまな知識を複合的に身につける必要があるため、「会社に言われてやる」というスタンスでは難しいでしょう。知的好奇心や向上心といった、自分の中の成長エンジンによって自律的に学ばなければ、知識は身につけられません。これからの企業が求める「変革を生み出す人材」とは、まさに「自ら学べる人材」だといえます。
イノベーションを起こしたり環境変化に対応したりするためには、「自ら学べる人材」が欠かせないということでしょうか。
その通りです。以前からビジネスのリソースとして「ヒト・モノ・カネ・情報」などと言われてきましたが、モノやカネ、情報はどんどん集めやすい環境ができてきた一方で、ヒトの力を伸ばすのは簡単ではありません。
結局、企業力の差とは、人材の差だと私は考えています。イノベーションはさまざまな知見の組み合わせです。専門性の高い人が集まることで起きることもあれば、個人の中で違う分野のアイデアが結びついて生まれることもあります。新しいものを生み出せる企業は、環境変化にも強くなります。
法政大学大学院の石山先生は、自律人材とは「自らの価値観や興味関心で自分を律する人材」とおっしゃっていますが、一方で「多くの人が、自分の価値観や興味関心がどこにあるのか、わからなくなっている」とも指摘されています。「自ら学ぶ」ために、どうすれば自分の価値観を再び見つけることができるのでしょうか。
ビジネスの現場では経験やネットワークが重視されがちですが、「知ること」がとても大切なのだと思います。狭い世界に閉じこもっていては、新しいものへの興味も生まれません。経験もできませんし、人とのネットワークも持てないでしょう。ですから、まずは自分に新しい知見を与えてくれるものに積極的に触れることが重要です。さまざまな手段がありますが、その中でも「本」は非常に効果的です。一冊の本は年単位の時間をかけてつくられ、多くの人の目を通して確かさが保証されています。多種多様で、なおかつ良質な「知」に触れるには、とても効率的だと言えます。
「flier」は現役ビジネスパーソンに役立つ本を厳選して要約
貴社が提供されている「flier」についてお聞かせください。
「flier」は、1冊の本を10分程度で読めるようにした本の要約サービスです。読書はビジネスパーソンにとって多様な「知」に触れる重要な学びですが、1冊を通して読むにはそれなりの時間が必要で、忙しくてなかなか読むことができない人も多いと思います。しかし「flier」なら、10分程度の時間で効率よくビジネスに役立つ教養やスキルを身につけることができます。スマホからも利用できるので、通勤時間などちょっとした隙間の時間を活用して学べるのが特長です。自律的な学びを促す上で、時間的な自由度が高いのは大きなポイントだと考えています。
ラインナップされている本は、年間約6000冊出版されるビジネス系、教養系の書籍から、1日1冊、年間365冊を厳選してお届けしています。サービス開始から累計して、すでに2700冊以上を紹介しました。要約自体は約4000字。前後にレビューや推薦文がつきますが、それもあわせて1冊10分程度で読める分量にまとめています。かなりしっかりとした読み応えがあります。いずれも専門のライターが作成し、出版社や著者の許可を得た高品質な要約のみを配信しています。
「flier」は個人でもご利用になれますが、企業単位で法人版を導入すると、より高度な学びにつながる機能を活用できます。例えば「学びメモ」は、同じ社内で読後の感想や意見を共有できるSNS的な機能。「スクール」は、ロジカルシンキングや1on1など、ビジネスにおける重要テーマごとに評価の高い3冊をピックアップしたライブラリー。これを読めば基礎的なビジネススキルが身に着きます。「読書会」の機能もあります。要約の読書会の特色は、事前に読んでおく必要がないことです。その場で一斉に読んで、全員がフラットな状態で意見交換ができます。学びのハードルがとても低くなるのが大きなメリットです。
人事の方々は、管理画面で、個人の利用状況のデータを通して、組織がどれくらい自律的に学習しているかを把握できます。また、利用促進のために社内で話題になっている本や自社の業務に役立つ本などをプッシュ通知する機能もあります。
実際に導入された企業での評価についてお教えいただけますか。
利用率は、一般的な人材育成サービスとくらべて桁違いに高いと思います。1000名規模の企業で94%の従業員が「継続して利用したい」と回答された例もありました。その要因はやはり、気軽さでしょう。アプリでニュースを読むような感覚で自然に勉強する習慣が身に着くからです。組織を変えるためには、一部の人だけが熱心に取り組んでもあまり意味がありません。多くの人に参加してもらえるところも「flier」の優れた点だと考えています。
導入の効果としては「会話の質が変わった」「組織の雰囲気が変わった」と、よくうかがいます。一人ひとりが最新のビジネストレンドを常にキャッチアップしている状態になるわけですから、会議一つとっても生産性が上がるのは間違いありません。ビジネス用語だけでなく、組織内コミュニケーションの方法やミーティングの進め方などをみんなが理解していれば、仕事のクオリティは自然に高まります。基礎的な知見が共通言語になれば、より目的に近づく組織運営が可能になるわけです。
人類の知の集積「本」を活用した人材育成を
多くのメリットがある「flier」ですが、要約だけで知識やスキルはどれくらい身につくのでしょうか。
もともと「flier」は、私自身が欲しいと思って立ち上げたサービスです。コンサルティング会社で働いていたとき、仕事がとても忙しくて、本は休日にまとめて読むしかありませんでした。しかし、たくさんある書籍から役に立ちそうなものを選ぶのも、それを全部読むのも、かなりの労力が必要です。
そんなときに思い出したのが、大学院時代のことでした。当時も大量の論文と向き合っていましたが、英語で書かれているうえに文字量も多く、読むのは一苦労でした。そこで助けられたのが、論文の冒頭についているサマリー(要約)です。要約を読むことで全体像やポイントがつかめ、本文を読むときの理解を助けてくれたのです。
ビジネスに関しても、どういう本が出ていて、何が書いてあるのかが簡潔にわかれば、とても効率よく読書ができると考えました。つまり、要約は読書を補うもので、本の魅力や価値をより多くの人に届けるための補助線です。要約を読んで、おもしろそうだと思ったら、書籍を買ってじっくり読んでほしいと思います。
ただ、1冊を全ページ読むことにこだわりすぎると、ハードルが高くなって本と読者の間口を狭めてしまう可能性もあります。多くの企業で、経営トップが「本を読みなさい」と話されているかと思います。しかし、みんながしっかり本を読めている企業は、そう多くないはずです。そんなときに本との接点を効率的につくり出せるのが「flier」です。
最後に人事の皆さまに向けて、メッセージをお願いします。
人事の仕事は、短期的な業績だけにとどまらず、長いスパンで人材の面から企業を支え、発展させていくものです。私も会社経営に携わる中で、企業のもっとも大切な機能の一つが人事だと実感するようになりました。
これからも戦略人事、サステナブル人事など、さまざまな課題が議論されていくことと思います。難しい舵取りが求められる中で、人類の長年の知の集積である「本」を生かした経営、人材育成は王道であり、同時にとても効率的なものだと考えています。良書を通して幅広く役立つ知見や情報を提供するだけでなく、課題をピンポイントに解決するためのコンサルティングの窓口としてもご活用いただけるよう、これからも「flier」はブラッシュアップを続けていきます。
flier(フライヤー)は、ビジネス書の新刊や名著などを「1冊10分」に要約し「365日毎日1冊ずつ」提供することで良書との出合いを促進する時短読書サービスです。移動や休憩などのスキマ時間で効率良くビジネスのヒントや教養、スキルを身につけたいビジネスパーソンに利用されています。自宅や会社など場所を選ばず、継続的に本から多様な知が得られることで自律型人材が育つなど、社員教育の一環として法人契約する企業も増えています。