厳選採用から慎重採用へ? 「博士」の採用に二の足を踏む企業
勤務経験のないことを懸念 決断が難しい特化型人材の採用
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ベンチャーの採用はトップの決断で決まる?
「確かに私以外にも候補者の方がいるという話は、面接の時にも聞きました。当然のことですので、結果が出るまで待ちます。その他の企業の募集があれば、紹介してください。私も時間が限られていますので」
ポスドクの仕事は有期なので、Tさんとしても今の契約が切れる前に転職先を見つけたいのだ。
「わかりました。先方になるべく早めに結論を出してもらえるように、プッシュしてみます」
そうは言ったものの、プッシュして結論がすぐ出るわけでもない。場合によっては、企業側から「Tさんにお待ちいただけない場合は、そちらを優先していただいても問題ありませんよ」などと言われてしまうリスクもある。「待てないなら辞退扱いにします」ということだ。採用枠一人に対して複数の候補者がいれば、企業側としては買い手市場なのでどうしてもそうなってしまう。
ベンチャー企業の場合、社長の決断で採用を決めてくれるというイメージが強いのだが、案外そうでもないこともある。もともと社員数が少ないところに一人だけ採用するのだ。ベンチャー企業ほど「絶対失敗したくない」と考えてもおかしくない。今回のケースも、博士号取得者とはいえ、今まで一般企業での勤務経験がないTさんの採用について、企業がある程度は慎重になるのも仕方ないことかもしれなかった。
そうこうしているうちに1ヵ月が経過し、ついにTさんから電話がかかってきた。
「先月面接を受けたベンチャー企業ですが、まだ結果は出ませんか?」
私はおわびをしつつ「再度プッシュしてみます」とTさんに伝えた。
「いえ、まだならいいんです。実は並行して知り合いに頼んでいた新しい研究室の仕事が決まりそうなんです。またポスドクの契約スタッフなので、できれば企業に転職したかったのですが、無職になるわけにもいかないので……。もちろん、正式に決まるまでに内定が出れば、そちらを優先したいと思っています。でも、無理そうですね」
Tさんはほとんど諦めているようだった。転職の成否を決めるかなり大きな要素がタイミングや決断だということは、人材紹介の仕事をしているといつも痛感させられる。それは人材側にとっても企業側にとっても同じだ。やはりポスドクの採用は、企業にとってはハードルが高いものなのだろうか。今回はベンチャー企業だっただけに、トップの決断ですぐに採用が決まるという展開を、私も期待しすぎていたのかもしれない。
そんなことを考えながら、私は再度電話の向こうのTさんにおわびを言っていた。
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