デジタル時代のデータドリブン経営
三菱UFJリサーチ&コンサルティング コンサルティング事業本部
デジタルイノベーションビジネスユニット デジタルビジネスコンサルティング部
コンサルタント
吉岡 慧氏

データドリブン経営とは
今日のデジタル時代において、「データドリブン経営」という言葉が改めて注目されています。
「データドリブン(Data Driven)」とは、データ(Data)によって方向付けられる(Driven)という意味を持つ言葉です。つまりデータドリブン経営とは、経験や慣習に依存せず、収集・分析された客観的なデータを根拠として、ビジネスの意思決定を行う経営の在り方を指します。
現在、データドリブン経営が注目される理由は大きく3つあります。
第1に、経営環境の変化が激しくなり、従来の「経験・勘・度胸(KKD)」だけでは、変化のスピードに判断が追いつかなくなっていることです。
第2に、デジタル化によって大量のデータを取得できるようになり、ビジネスインテリジェンス(以下、BI)やデータマイニングなど、データを分析する技術も大幅に向上していることです。
そして第3に、企業が自らの経営判断について、社内外へ説明する必要性が増していることです。
「データの時代」と呼ばれる21世紀では、企業の競争優位の源泉が「データ活用力」へ移りつつあります。データに基づく意思決定は、もはや特別な取り組みではなく、全ての企業にとって標準的な要件になっています。
ここで、DX(デジタルトランスフォーメーション)とデータドリブンの関係について整理しておきましょう。
DXは、デジタル技術を活用して、企業や事業の在り方を変革する取り組みであるのに対し、データドリブンは、DXを実現するための基本となる考え方です。
デジタル技術の効果を最大限に発揮するためには、社内外のデータが整備・標準化されていることが不可欠であり、DXの取り組みを正確に評価し、継続・改善していくためにも、データドリブンの風土や仕組みが欠かせません。その意味で、データドリブンはDXを支える土台といえるでしょう。
データドリブン経営の取り組み事例
もっとも、データドリブンが求められている昨今でも、日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)の『企業IT動向調査報告書2026』によると、いまだ30%程度の企業が「データを活用できていない」と回答しているのが現状です【図表1】。
多くの企業がデータ活用の進め方に頭を悩ませていますが、いきなり高いレベルを目指すことは難しく、段階的に取り組みを進めていく必要があります。
データドリブンの取り組みは、以下のように成熟度によってレベルを分けて考えられます。
- レベル1:データの可視化・集計が行われている状態
- レベル2:統計的な分析が行われている状態
- レベル3:AIを活用した高度な予測・分析が行われている状態
データの活用ができていない企業も、まずは対象領域を絞り、「データによる状況の可視化」といった、実行可能な一歩から着手することが重要です。
データドリブン経営における、具体的な取り組みの例を挙げてみましょう。
ある大手コンビニチェーンでは、天気や曜日、過去の販売実績を基に、AIで店舗ごとの需要を予測する仕組みを導入しています。これにより、適正な発注数量を自動で算出し、品切れを防ぎながら在庫の適正化を実現しています。また、あるクレジットカード会社では、決済データを基に顧客の属性や傾向を分析し、ローンやカードの審査をスコアリングモデルで自動化しています。
これらは大企業による高度な事例ですが、「データを整備し、判断に活用する」という点は、中小企業にとっても求められることは同じです。
分析ツールを本格的に導入するような高度な取り組みでなくても、課題解決のためにデータを活用している企業は多くあります。例えば、「営業活動の状況を管理層が把握できていない」という課題に対し、リード(見込み顧客)獲得から受注までのプロセスを細かく区切り、担当者にステータスを記録させていく、ということもデータ活用の1つです。
案件の進捗が可視化されると、顧客の属性ごとに、「どの場面で失注が多いか」といった情報が蓄積されていきます。その結果、失注率の高いプロセスをボトルネックとして特定でき、提案内容の見直しやフォロータイミングの変更など、具体的な対応策を講じることが可能となります。これは、データを起点とした改善の事例といえるでしょう。
これまで紹介してきた取り組みには、以下に挙げる「3つの共通点」があります。
- 経営課題から出発していること
「データを集めてから用途を考える」のではなく、「欠品と過剰在庫を減らす」「優良顧客への与信を拡大しつつ、貸し倒れリスクを下げる」「商談状況を正確に把握し、成約率を上げる」といった、具体的な課題が施策の起点になっています。 - 取り組みが現場の業務に組み込まれていること
経営層がダッシュボード(管理画面)を見るだけで終わるのではなく、現場の業務の中で日々データが活用される仕組みになっています。 - KPI(重要業績評価指標)で効果を測定すること
KPIを設定して効果を測定することにより、現場の改善活動を継続的に実施できる仕組みになっています。
これからデータ活用を進めていく企業が意識すべきなのは、「いきなり分析ツールの導入やデータ基盤の整備に走らない」ことや、「KPIを少数に絞って継続的に対応する」ことです。
高度なIT環境がなくとも、Excelや無料のダッシュボードツールで対応できるケースは多くあります。深い分析を行うことよりも、まずは「数字を基に行動を変えていく」という、最初の目的を設定することが重要です。
データドリブン経営の実践
上記の事例を踏まえると、データドリブン経営を実践するための要素は、「戦略」「データ」「組織」「業務」の4つに整理できます。
- 戦略
戦略は、何のためにデータを使うか決めることであり、全ての起点になります。戦略が曖昧なままでは、分析ツールやデータ基盤を整えても、求める結果は得られません。
まずは企業価値を高めるために、「データ活用によって解決すべき経営課題」を具体化し、達成すべきKPIや、そのために必要なデータを定めることが一歩目です。 - データ
データは、経営判断や業務判断に使える「信頼性の高いデータ」を整備することです。具体的には、データアーキテクチャ(データ処理の仕組み)の構築、データ定義の統一、データ品質の改善、システム間のデータ連携、セキュリティや権限管理が該当します。
「Garbage in, Garbage out(ゴミを入れたらゴミが出る)」と言われるように、精度の低いデータを活用しても、目的達成のための示唆を得ることはできないため、データの管理は特に重要なポイントです。
代表的なデータアーキテクチャとして、以下の「3層構造」があり、BIツールやAIでの分析に活用する構造となっています。・データレイク:多様なデータを「蓄積」する場所
・データウェアハウス(DWH):蓄積されたデータを「統合・整理」する場所
・データマート:目的や部門ごとに必要なデータを「取り出す」場所これらのデータを連携するためには、データコネクタやETL(データ抽出・変換・格納)ツールが活用されることも多いです。高度なレベルの話になりますが、データを有効活用するためには、データの種類や用途に応じた、多層的な処理プロセスを用意しておく必要があります【図表2】。
- 組織
組織は、「継続的にデータを活用する体制」を構築することです。単にデータ専門部門を設置するだけではなく、経営・現場・IT部門それぞれの役割と権限を、明確に分担する必要があります。
有効な体制モデルとして、中央にデータ専門部門(ハブ)を置き、各事業部門にデータ責任者や活用担当者(スポーク)を配置する、「ハブ&スポーク」型が挙げられます。中央で標準化を進め、現場で活用する体制を取ることで、全社的な統制を保ちつつ、データ活用を継続しやすくなる点が注目されています。 - 業務
業務は、これまでの戦略・データ・組織を、日々の「業務判断」「改善活動」「マネジメント」へ組み込むことです。データを単に「見るもの」として扱うのではなく、「仕事のやり方を変えるもの」として活用しなければなりません。
ダッシュボードを構築して終わりではなく、データを基に判断・行動し、その結果を検証して業務を改善する、というサイクルが現場に定着することで初めて、データドリブン経営は実現します。
データドリブン経営の今後
今後は、データを基に状況を可視化・予測するだけでなく、データの収集・予測をした上で、提案・実行までをAIが支援する「AIドリブン経営」へ進むといわれています。その流れに適応するためにも、データ活用の仕組みが構築されていない企業は、早急な対応が求められます。
ただし、データはあくまで「判断材料」であり、最終的に判断を下すのは「人」であるということを、常に念頭に置く必要があります。
取得できるデータの量は増えているものの、その範囲は限定的であり、必ずしも完全な内容ではありません。
業界構造や顧客心理、現場の実態など、「データだけでは測れない要素」を考慮して最終判断を下すことが、経営の役割です。この点を踏まえてこそ、データドリブン経営は真に価値あるものとなります。
【関連資料】
【データドリブン経営】データドリブンな戦略的経営の実践
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三菱UFJリサーチ&コンサルティングは、三菱UFJフィナンシャル・グループのシンクタンク・コンサルティングファームです。HR領域では日系ファーム最大級の陣容を擁し、大企業から中堅中小企業まで幅広いお客さまの改革をご支援しています。調査研究・政策提言ではダイバーシティやWLB推進などの分野で豊富な研究実績を有しています。未来志向の発信を行い、企業・社会の持続的成長を牽引します。
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