【後編】原理原則で考える姿勢を取り戻す│ルールが思考を止める
このコラムは、「【前編】原理原則で考える姿勢を取り戻す │ ルールが思考を止める」の続きになります。前編をご参照のうえ、本稿をご覧いただきますようお願いいたします。
「原理原則で考える」──姿勢を整えるワークの真価
「それでは次のワークに入りましょう。」
そう言って私は、配布したカードを参加者に手渡します。
テーマはシンプルです。
『この現象を原理原則で説明してください』。
カードには、こんな一文が書かれています。
「ベテラン作業者の作業時間が、日によって10分以上変動する。」
一見、単純な話です。
けれど、この問いを投げかけた瞬間・・・・会場が静まり返ります。
参加者たちは手を止め、しばらく考え込みます。
「原理原則って、なんですか?」
最初に口を開いたのは、30代の主任でした。
「先生、原理原則って……マニュアルとか規定のことですか?」
私は、微笑みながら首を横に振ります。
「それは“ルール”です。原理原則とは、ルールを作る根拠のことです。」
さらに続けます。
「たとえば、“安全靴を履け”というルールがありますよね。では、なぜそれが必要なのか?」
「ケガを防ぐためです。」
「そう。その“ケガを防ぐ”という考え方が、原理原則なんです。」
すると、数人が小さくうなずきました。
だがその表情には、まだ戸惑いが残っています。
ルールで考える癖が、思考を止める
多くの現場では、「ルールを守る」ことが最優先になります。
もちろん、それ自体は大切です。
でも、人は“ルールを守ること”に意識を奪われると、「なぜそのルールがあるのか」を考えなくなってしまう。
それは、まるで目的地を忘れたまま、地図を広げているようなもの。
線は引けるけれど、どこへ向かっているのか分からない。
原理原則とは、行動の“意味”を取り戻すための羅針盤です。
「なぜこの作業をするのか」
「何のためにこの基準があるのか」
その“理由”を再認識することで、はじめて分析は生きたものになります。
「ざわつき」は、思考の芽が出る音
セミナー会場の空気が、変わり始めます。
誰かがペンを走らせ、また止める。
あるチームでは、こんなやり取りが聞こえました。
「時間の変動って、疲労のせいかな?」
「いや、段取りの違いじゃない?」
「でもそれも、“人による”で終わってないか?」
その瞬間、私は確信します。
彼らの中で、“考えるスイッチ”が入った。
ざわつきとは、混乱ではありません。
むしろ、沈黙よりも価値のある“思考の音”なのです。
人が今までのやり方に疑問を持ち始めた瞬間、そこに学びの芽が生まれる。
行動科学が示す「姿勢→思考→行動」の順番
行動科学の研究では、人は「考えるから行動する」のではなく、「行動するから考えが変わる」と言われています。
つまり、姿勢が変われば、思考が変わる。
姿勢とは、単に体の構えではなく、心の向きです。
このとき、会場に一人の受講者が立ち上がりました。
「先生、原理原則って、“守るため”のものじゃなく、“考えるため”のものなんですね。」
私は頷きました。
「そうです。守るために覚えるのではなく、考えるために理解する。それが“原理原則で考える”ということです。」
木を見ず、森を見よ
なぜなぜ分析をすると、人は“木”に集中します。
「どの枝が折れたのか」。
「どの葉が枯れたのか」。
でも、本当に見るべきは“森”・・・・つまり、全体の流れです。
原理原則は、森全体を見渡すための視点に気付かせてくれます。
木を詳しく観察するほど、その森がどんな環境で育っているかに気づくようになる。
分析を深めるとは、現象の背景にある“環境原則”を見抜くことなのです。
「原理原則」を使うと、議論が変わる
午後のグループディスカッションでは、会場の雰囲気が明らかに変わりました。
「疲労だからではなく、段取り設計が“集中力の波”を無視しているんじゃない?」
「原理原則で考えると、“人間は変動する生き物”だから、一定を求める設計が間違ってる。」
まるで、議論の軸が“表面”から“構造”に移ったかのようです。
こうなると、なぜなぜ分析の質が一気に変わる。
もう「5回のなぜ」ではなく、“原理原則に照らした1回のなぜ”で深い答えに到達するようになるのです。
NLP的リフレーミング──問いの意味を変える
私たちは「なぜ失敗したのか?」と問いがちですが、原理原則で考えるとは、問いの“枠”を変えることでもあります。
「なぜ」ではなく、
「どんな原理が働いて、この結果になったのか?」
と聞く。
この一言の違いが、思考の深さを決定づける。
NLPでは、これをリフレーミングと呼びます。
枠を変えることで、同じ現象がまったく違う意味を持つ。
その瞬間、問題が“過去のミス”から“未来の改善資源”へと変わるのです。
「学び合う現場へ」
会場を見渡すと、受講者の表情が変わっていました。
最初は、「正解を探す顔」。
今は、「考えることを楽しむ顔」。
私は、最後にこう問いかけました。
「あなたのチームでは、“考えること”を楽しんでいますか?」
分析は、孤独な作業ではありません。
本来は、学び合うための対話なのです。
続いては、グループ間の取材と評価を通じて、なぜなぜ分析が“学びの文化”へと変化していく瞬間を描きます。
「学び合う現場」──分析を“対話”に変えるチームの力
午後のセッションが始まるころ、会場の空気は、午前とはまるで違っていました。
午前中の「原理原則で考える」ワークを経て、参加者の表情には、わずかに柔らかさと自信の色が見え始めていたのです。
私は、静かにマイクを手に取りました。
「ではここから、“学び合う分析”を始めましょう。」
グループ間取材──“教える”のではなく、“聴きに行く”
参加者たちは、自分のテーブルを離れ、他のグループのリーダーのもとへ歩いていきます。
ルールは、一つ。
「質問と観察だけをすること。」
取材する側は、相手の考え方をメモしながら、分析の流れを“理解するため”に耳を傾けます。
説明する側(ホストリーダー)は、“伝える”のではなく、“伝わるように話す”。
その瞬間、会場に小さなざわめきが生まれます。
互いの目線が交わり、うなずき合う。
言葉を交わすたび、思考が形を変えていく。
「なるほど、そういう見方もあるんですね。」
「うちは“段取り”を原因にしましたが、そっちは“思考の順番”に焦点を当てたんですね。」
いつのまにか、空気が柔らかくなり、“競争”ではなく“好奇心”が場を満たしていきます。
気づきの化学反応
取材を終えたメンバーが自分の席に戻ると、そこから一斉に“気づきの共有”が始まります。
「他のチームでは、“そもそも問題なのか?”から議論してたよ。」
「え、それ面白いね。うちもそこから考えてみようか。」
15分前まで別々の方向を見ていたチームが、今は互いに“思考の鏡”になっている。
行動科学では、人は他者の言葉や反応を通して自分の思考を再構築すると言われています。
まるで化学反応のように、視点と視点がぶつかり合い、その摩擦の中から新しい発想が生まれていくのです。
評価とは“裁くこと”ではなく、“支え合うこと”
次は評価の時間です。
各チームのリーダーが自席に残り、他のメンバーが評価シートを手に回ります。
「あなたのグループでは、“原理原則の視点”をどこに置きましたか?」
「分析ルール『感情を入れずに事実を扱う』、ここをもう少し強化できそうですね。」
最初は、緊張していたリーダーたちの顔に、次第に穏やかな笑みが浮かびます。
評価が“攻撃”ではなく、“対話”に変わった瞬間でした。
それはまるで、磨き合う二枚のガラスのよう。
こすれ合うほど、透明度が増していく。
評価とは、欠点を探すことではなく、互いを高める行為なのです。
このとき、チームの中に“守り”よりも“探求”の空気が生まれます。
ここに、信頼の芽が静かに根を下ろします。
ワインは混ぜると香りが開く
ワインの世界では、単一の品種よりも、ブレンドされたものの方が香りに奥行きを持ちます。
異なるブドウが、互いの特徴を引き立て合うと知人が教えてくれました。
チームも同じ。
一人の考えでは見えなかった角度が、他者の視点によって開かれる。
思考が混ざり合うほど、分析の香りは深く、豊かになっていくのです。
「正しさ」よりも「豊かさ」を目指す
ある参加者が、ふと口にしました。
「今日わかったんです。“正しい答え”を出すよりも、“豊かな考え方”を持つことの方が大事なんだと。
その言葉に、会場が静まり返りました。
そして、自然と拍手が起こります。
なぜなぜ分析とは、“正解を導く装置”ではなく、考えの幅を広げるレンズなのです。
視点が増えるほど、チームの可能性も広がる。
それが、学び合う現場の強さです。
心に残る学びの瞬間
人の心は、“痛み”よりも“喜び”の瞬間を長く覚えています。
だからこそ、学びは楽しい方がいい。
分析が義務ではなく、「考えるって面白い」と感じられる時間になったとき、その体験は脳に深く刻まれ、行動として続いていきます。
私は、研修の設計をするとき、この「心が動く瞬間」を意識しています。
それは、知識を教えるよりも、“気づいたときの表情”を見届ける方が何倍も価値があるからです。
人の成長とは、知識の上に積み上がるものではなく、感情の中に根づくものなのです。
「再発防止から再成長へ」
セミナーの終盤、私は問いかけます。
「今日の学びを、明日どんな行動に変えますか?」
静かな沈黙のあと、一人、また一人とペンを走らせる音が聞こえてきます。
なぜなぜ分析の目的は、“過去を掘ること”ではなく、“未来を育てること”。
続けて、受講者が自らの言葉で「自分はこれからどう変わるのか」を宣言する場面を描きます。
そこには、再発防止ではなく、再成長へと向かうリーダーの姿があります。
「再発防止ではなく、再成長へ」──未来を描く思考法へ
長い一日の終わり。
私は、ホワイトボードの前に立ち、ゆっくりと会場を見渡しました。
テーブルの上には、使い込まれた付箋、折れたペン、そして、考え抜いた証として並ぶ無数のメモ。
そこには、朝とはまったく違う“空気”がありました。
「何を学んだか」より、「どう変わるか」
私は、最後のスライドを映しながら言いました。
「今日の目的は、“正しい答え”を見つけることではありません。“正しい考え方”を続けられる自分を見つけることでした。」
受講者たちは、静かにうなずいています。
一日を通して、彼らは“分析”から“姿勢”へ、“報告書”から“対話”へと意識を変化させてきました。
そして今、その変化を“自分の言葉”で刻む時間が始まります。
自己宣言──未来への小さな約束
テーブルごとに配られた一枚の紙。
そこには、タイトルが印字されています。
『これから自分が意識して取り組むこと』
受講者たちはペンを取り、静かに書き始めます。
「問題を“早く解く”のではなく、“深く観る”ようにします。」
「メンバーの意見を聞く時間を、必ず取ります。」
「“失敗の報告”を、次の改善のきっかけにします。」
書き終えた後、数人が手を挙げて発表します。
声は少し震えているけれど、その目には確かな覚悟が宿っていました。
その言葉を聞くたびに、会場に小さな拍手が起こります。
それはまるで、互いの心に“未来の灯り”をともしていくような光景でした。
「防ぐ」ではなく、「育てる」
私は最後に、こう語りました。
「多くの企業が“再発防止”を掲げます。でも、本当に必要なのは、“再成長”という考え方です。」
再発防止は、過去を恐れる姿勢。
再成長は、未来を育てる姿勢。
問題をゼロにすることよりも、問題を通してチームが強くなることの方が、ずっと価値があるのです。
なぜなぜ分析は、“掘る道具”ではなく“耕す道具”。
過去の原因を掘り下げるためではなく、未来の成長を耕すために使うものなのです。
心の中で起こる“静かな変化”
講義を終えるころ、受講者の表情には、疲れと充実が入り混じっていました。
だが、その中に確かな変化がありました。
朝は「答えを知ろう」としていた顔が、今は「自分で考えよう」という顔に変わっている。
学びとは、情報を得ることではなく、“自分の中の風向きを変えること”だと思います。
その風が吹き始めたとき、人は変わる準備が整う。
種をまき、芽を待つ
私は最後に、いつもこう締めくくります。
「今日の学びは、まだ“種”のようなものです。明日すぐに花が咲かなくても構いません。あなたの現場で誰かの言葉に耳を傾けたとき、その種が静かに芽を出します。」
人の成長とは、即効薬ではなく、時間をかけて育つ“記憶の花”です。
思考が行動を変え、行動が文化をつくり、文化が成果を生む。
その循環の中にこそ、真の改善が宿ります。
リーダーへのメッセージ
セミナーを終え、帰り支度をするリーダーたちに、私は言いました。
「あなたが明日、誰かの“問いかけ役”になってください。なぜなぜ分析は、ひとりで行う作業ではなく、チームで育てる会話です。」
リーダーの存在とは、答えを持つ人ではなく、問いを育てる人なのだと思います。
その問いが、組織の未来を耕す。
そして、また新しい成長の物語が始まっていく。
結びの言葉──「問いこそ、希望」
私は最後に、静かに一言だけ残します。
「なぜなぜ分析とは、原因を探す旅ではなく、希望を見つける旅です。」
問題を掘るたびに、自分の中に新しい視点が生まれる。
それこそが、再発防止を超えた“再成長”の証。
そしてその旅路は、今日ここから、あなたの職場で続いていくのです。
最後まで、お読みいただきありがとうございました。
私(坂田)は、定期的に、なぜなぜ分析の弱点に気付いていただけるよう、無料webセミナーを開催しています。
まずは、これにご参加頂き、さらにチームの問題解決力を高める施策を考えられるような内容です。
こちらでも、またお会いできると嬉しいです。
このコラムを書いたプロフェッショナル
坂田 和則
マネジメントコンサルティング2部 部長 改善ファシリテーター・マスタートレーナー
問題/課題解決を現場目線から見つめ、クライアントが気付いている原因はもちろん、その背景にある奥深い原因やメンタルモデルも意識させ、問題/課題改善モチベーションを高めます。
その先の未来には、改善レジリエンスの高い人材が活躍します。
坂田 和則
マネジメントコンサルティング2部 部長 改善ファシリテーター・マスタートレーナー
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その先の未来には、改善レジリエンスの高い人材が活躍します。
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| 得意分野 | モチベーション・組織活性化、リーダーシップ、コーチング・ファシリテーション、コミュニケーション、ロジカルシンキング・課題解決 |
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| 対応エリア | 全国 |
| 所在地 | 港区 |
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