中小企業550社に聞いた「割増賃金率引き上げ」実態調査
6割以上が「時間外労働の割増賃金率引き上げ」について肯定的。
一方、人手不足の影響などで約4割が経営に支障がでると回答。
エン・ジャパン株式会社(本社:東京都新宿区、代表取締役社長:鈴木孝二)が運営する人事向け情報サイト『人事のミカタ』上でサイトを利用している、従業員数299名以下の企業の人事担当者を対象に「割増賃金率引き上げ」についてアンケート調査を行ない、549社から回答を得ました。以下、概要をご報告します。
調査結果 概要
★ 対応方法が決まっている中小企業は約4割。対応済みの企業は約1割にとどまる。
★ 65%の企業が、割増賃金率引き上げについて肯定的。
★ 時間外労働が発生している原因トップ3は「人手不足」「時季的な業務発生」「納期などの関係」。
★ 4割が経営に支障が出ると回答。採用難やコスト増で経営困難になりうるという声も。
調査結果 詳細
1:対応方法が決まっている中小企業は約4割。対応済みの企業は約1割にとどまる。
2023年4月から中小企業も「月60時間以上の時間外労働に対する割増賃金率」が25%から50%に引き上げになります。このことについて伺うと、80%の中小企業が「知っている」(内容も含めて知っている:36%、概要だけ知っている:44%)と回答しました。
同法案で、月60時間を超える時間外労働を深夜帯(22:00~5:00)に行なわせる場合、「深夜割増25%+時間外割増50%=75%」になることに関しては、72%が「知っている」 (内容も含めて知っている:33%、概要だけ知っている:39%)と回答しました。
月60時間を超える時間外労働を行なった社員の健康を確保するため「割増賃金の代わりに有給の代替休暇を付与可能」になったことの認知度は48%(内容も含めて知っている:18%、概要だけ知っている:30%)にとどまりました。
割増賃金率引き上げへの対応状況を伺うと「既に必要な対応を完了した」と回答した中小企業は11%。対応方法が決まっている中小企業は29%(現在取り組んでいる最中:20%、対応が決まり、これから取り組む予定:9%)でした。「対応方法を検討中(情報収集中)」の企業は27%となり、春までに準備を急ぐ企業が多い結果となりました。
また、「既に必要な対応を完了した」「現在取り組んでいる最中」「対応が決まり、これから取り組む予定」と回答した企業に対応方法を伺うと、上位は「時間外労働の削減」(34%)、「社員の労働時間の把握」(31%)でした。
2:65%の企業が、割増賃金率引き上げについて肯定的。
中小企業の人事担当者に「時間外労働の割増賃金率の引き上げ」について、どのように思うか伺うと、65%が「良いと思う」(非常に良いと思う:14%、まあ良いと思う:51%)と回答しました。具体的な理由もご紹介します。
■「非常に良いと思う」「まあ良いと思う」と回答した方の理由
・従業員の立場では、一定時間以上の時間外労働に対する報酬としては妥当だと思う。経営者の立場では業務分担やフロー、社員人数の見直しなどの問題に向き合わなければならないと感じる。(廃棄物収集運搬業/30~49名)
・長時間の残業は、企業にとってはパフォーマンスの落ちた社員に高い賃金を支払わなくてはならず、社員にとっても健康とプライベートに悪影響を及ぼす可能性が高いため、それを抑制する法改正として評価している。(メーカー/30~49名)
・日本の商慣習として、働き方の非効率、サービス残業が横行していることからも、こういった制度を設けた方が良いと思う。(サービス関連/100~299名)
■「あまり良いと思わない」「良くないと思う」と回答した方の理由
・割増賃金目当てに、時間外残業をするスタッフが出てくる可能性があるのでは、と少し懸念もある。(人材派遣業/100~299名)
・過重労働への抑止効果や、生産性向上への取組みが加速される一方、サービス残業を増長させる要因にもなり得ると感じている。(サービス関連/100~299名)
・2022年10月の最低賃金の大幅改定に続き、こちらも負担が大きい改定。中小企業にとっては、労務課題が重くのしかかっていると感じる。(流通・小売関連/100~299名)
■「わからりづらい」と回答した方の理由
・計算方法と代替休暇がわかりづらい。(IT・情報処理・インターネット関連/50~99名)
・単純に単日単位で算出できず、複合的に考える必要があるため、手計算ではできない。勤怠システムを導入していなければ運用不可能だと思う。(流通・小売関連/50~99名)
・休めないから時間外労働をしなければならない、という状況がある中で、代替えの休みが取れることは考えづらいと思う。(広告・出版・マスコミ関連/50~99名)
3:時間外労働が発生している原因トップ3は「人手不足」「時期的な業務発生」「納期などの関係」。
現在の平均時間外労働時間を伺うと、62%の中小企業が20時間以内(0時間:4%、1~20時間:58%)でした。時間外労働が発生する主な要因を伺うと、トップ3は「人員不足だから」(45%)、「時季的な業務があるから」「取引先からの要望(納期など)に応えるため」(同率44%)でした。平均すると時間外労働が60時間以内の企業がほとんどですが、時季や納期などによっては本法案の影響がみられる企業もありました。
4:4割が経営に支障が出ると回答。採用難やコスト増で経営困難になりうるという声も。
割増賃金率の引き上げによって経営に支障が出るか伺うと、40%の中小企業が「支障が出る」(大きな支障が出る:8%、やや支障が出る:32%)と回答しました。同法案や時間外労働に関しての具体的な悩みや課題もご紹介します。
Q.「割増賃金率の引き上げ」含め、時間外労働に関して、悩みや課題がありましたらお聞かせください
■「割増賃金率の引き上げによる経営への負担」と回答した方
・中小零細企業に割増賃金率の引き上げを課せられたら、経営困難になってしまう。(製造業/10~29名)
・2022年10月にあった最低賃金の大幅改定に続き、こちらも負担が大きい改定。中小企業にとって労務課題が重いものになっている。(流通・小売関連/100~299名)
■「人手不足・採用難による時間外労働の増加」と回答した方
・慢性的な人手不足に悩まされている。(流通・小売関連/ 50~99名)
・人員を増やすことにより業務・時間を分散、削減するしかないが、その人員増が難しくなっている。(運輸・物流企業/100~299名)
■「部署・部門による業務量の偏り」と回答した方
・部門により残業に対する考え方が違い、残業時間も違ってしまうため、不平等感が否めない。(メーカー/50~99名)
・技術面で特定の社員に仕事が偏ってしまっている。(サービス関連/100~299名)
■「上長の時間外労働に対する考え方」と回答した方
・時間外労働に対する上位職の意識改革が必要。役職者が時間外を削減する意識がないと進まない。(不動産・建設関連/100~299名)
・管理職の時間外労働が多い状況にある。(流通・小売関連/100~299名)
■「社員の時間外労働に対する考え方」と回答した方
・時間外労働が減ると、賃金がさがるという観点で、残業代を固定給として考える労働者がいる。(メーカー/50~99名)
・時間外手当ありきで生計を立てている社員が大半である。本当に必要な時間外なのかと、ダラダラと残業する社員に不満を持つ人もいるが、基本給も高くないためきつく責められない。(人材派遣業/100~299名)
■「時間外労働を評価する会社の風土」と回答した方
・時間外労働が多い=優秀という間違った風潮がいまだにある。時間外労働に対して、真剣に取り組まない社風がある。(鉄鋼業/50~99名)
・そもそも残業ありきで業務が回っているため、会社として根本的な発想を変えないと、いつまでも変わらないと思う。(サービス関連/10~29名)
■「繁忙期や時間外労働が発生しやすい業界の特性」と回答した方
・飲食・物販事業を高速道路のサービスエリアや空港の中で展開している業態のため、繁忙期はどうしても時間外や休日出勤が発生してしまう。人の確保が一番の課題である。(サービス関連/300~999名)
・アルバイトの当日欠席があると、正社員の時間外労働が増えてしまったり、人員不足で残業をして補っていることもあるため、今後取り組んでいく上で課題になる。(サービス関連/100~299名)
■「その他」と回答した方
・仕事ができる人は早く帰れて、残業代が出ない。仕事ができない人は仕事が遅く、残業代が出る。このバランスの悪さをどうしたらいいのかわからない。(福祉サービス/50~99名)
・勤怠システム導入で残業管理漏れを防ぐ予定だが、導入コストがかかり、運用の手間もかかるため、管理職の負担は増えると思われる。(IT・情報処理・インターネット関連/10~29名)
・中小企業が製品やサービスに価格転嫁したら、廃業に追い込まれる現状を正しく理解しているか疑問を感じるが、経営者の意識改革と同時に、消費者意識の変化も必要だと思う。(流通・小売関連/10~29名)
【調査概要】
■調査方法:インターネットによるアンケート
■調査対象:『人事のミカタ』を利用する従業員数299名以下の企業
■有効回答数:549社
■調査期間:2022年12月28日(水)~2023年1月24日(火)
◆本調査の詳細は、こちらをご覧ください。
(エン・ジャパン株式会社/2月20日発表・同社プレスリリースより転載)