役員報酬を報酬委員会で決定する企業は41%、権限強化後の委員会の透明性(情報開示)に課題
世界をリードするアドバイザリー、ブローキング、ソリューションのグローバルカンパニーであるWTW(NASDAQ:WTW)は、役員の個人別の報酬等の決定権限を有する機関および報酬委員会の活動実績等の開示状況について、TOPIX100構成企業を対象とした調査を実施しました。
※ 各社の有価証券報告書(2022年3月末時点の直近決算期)における役員報酬等の開示を基に分析・集計
《 調査の目的 》
2021年のコーポレートガバナンス・コードの改訂により、報酬ガバナンスの焦点は報酬委員会等の形式的な設置から、その実効的な活用(高い独立性、適切な権限・役割、実効的な審議、開示の充実化)へとシフトした。これをうけて、開示規制も強化され、早ければ2023年3月期の有価証券報告書より、報酬委員会の活動状況(「開催頻度」「主な検討事項」「個々の構成員の出席状況」)の開示が義務付けられる予定である。なお、取締役会全体の機能発揮の視点から、取締役会及び指名委員会についても同様の開示が求められる。
こうした動向を踏まえ、本調査では、役員報酬の実質的な決定機関や報酬委員会の活動実績の開示状況等を調査・分析するとともに、今後の各社の取組の参考となるよう、具体的な事例を紹介することを目的としている。
《 調査結果 》
① 法定又は任意の報酬委員会が取締役又は執行役の個人別の報酬等を全て決定する企業はTOPIX100構成企業の37%(法定25%, 任意12%)、一部のみ決定企業を含めると41%(法定25%, 任意16%)。
② TOPIX100構成企業において、任意の報酬委員会に取締役の個人別の報酬等の決定の全部を委任する企業は、アサヒグループホールディングス、オリエンタルランド、SUBARU、積水ハウス、セコム、Zホールディングス、武田薬品工業、デンソー、トヨタ自動車、日本電信電話、マキタ、村田製作所。一部を委任する企業は、旭化成、キリンホールディングス、スズキ、三菱商事。
③ TOPIX100構成企業の直近事業年度における報酬委員会の活動実績の開示状況について記載がある主なものは、委員会の開催回数等(71%)、外部報酬コンサルタントの関与(14%)、各委員の出席状況(26%)委員会の審議、検討内容(44%)など。(詳細は開示事例集参照)
《 コメント 》
経営者報酬・ボードアドバイザリー プラクティス
ディレクター 宮川 正康
役員報酬水準の高まり(※1)や開示規制の強化を背景に、報酬委員会の実効的な活用が進んでいる。具体的には、TOPIX100構成企業のほぼ全ての企業(97%)が法定又は任意の報酬委員会を設置し、また、41%は報酬委員会が役員の個人別の報酬等の決定権限の全部又は一部を有している。従来、過半を占めていた社長・CEO等への委任(一任)が減少し、社外取締役を中心とした報酬委員会の権限強化の傾向がうかがえる。
業績等の評価の実効性の視点から報酬決定権限を各機関に分散させる事例もある。例えば、三菱商事は、個人別の報酬等の決定機関は、原則、取締役会としつつも、社長の加算報酬(個人業績評価)については社長業績評価委員会(報酬委員会の下部機関。社長は含まれない)に委任し、社長以外の取締役の加算報酬(個人業績評価)については社長に委任している。但し、業績評価の客観性や公正性を担保するため、評価結果については、報酬委員会及び取締役会に報告することとしている。社長のリーダーシップ強化の視点から、社長以外のトップマネジメントの人事や評価については社長が決める、という考え方もあるだろう。
委員会が実効的に活用されているかどうかを測るひとつの目安となる各社の委員会の開催頻度について、直近事業年度における開催実績は年間平均6回程度であった(※2)。一般的に、平時における委員会の開催回数は年間3~4回程度であるところ、直近事業年度においてはESG関連指標を役員報酬に反映する等の改革を実施している企業が多く(※3)、報酬改定の審議に十分な時間を確保した企業が多いことがうかがえる。
報酬委員会の役割・権限の拡大(取締役会からの権限移譲)に伴い、株主・投資家が委員会の実効的な活用を評価・確認するための情報開示の充実化が課題となる。具体的には、直近事業年度における委員会の開催回数や委員会における具体的な審議・検討内容、審議に必要な客観的・専門的な情報の取得状況(外部の報酬コンサルタントの関与等)、並びに各委員が期待役割を果たしていることを確認するための各委員の出席状況等の開示が求められるところ、しっかりと開示の目的を理解したうえで、株主・投資家に分かりやすく丁寧な開示を行っている企業は少ない。今般の開示規制強化により、来年以降、より充実した記載が進むことが期待される。なお、少し先を見据えると、次の法改正では、社外取締役と投資家との対話促進も念頭に、報酬委員長の視点による委員会の実効性評価や活動状況等の説明を求められる可能性があるだろう。
※1 WTW 2022年8月19日付プレスリリース 「日米欧CEOおよび社外取締役報酬比較(2022年調査結果)」
※2 TOPIX100構成企業のうち有価証券報告書における開示から報酬委員会の開催回数が分かる59社ベース
※3 WTW 2022年8月16日付プレスリリース 「役員報酬にESG指標を反映する企業62%(昨年比32%UP)、米国並みに」
【参考】業績連動報酬の支給率を開示している企業
役員報酬に関し、株主・投資家が手続面で重視するのが、社外取締役を中心とした報酬委員会の活用と、その実効性を確認するための開示である。他方で、内容面で重視するのが、業績連動報酬の割合や実際の業績と支給額との関連性である。この業績と支給額との関連性を示すための開示がなかなか進まない。具体的には、2022年6月末時点において、業績連動報酬のKPIの実績と支給率等を有価証券報告書に開示している企業は、TOPIX100構成企業の27%(4社に1社程度)にとどまっている。そのなかには、KPIの実績が分かり難い事例も含まれている。
◆本リリースの詳細は、こちらをご覧ください。
(タワーズワトソン株式会社 / 9月13日発表・同社プレスリリースより転載)