モバイルワーク
モバイルワークとは?
モバイルワークとは、ノートパソコンやスマートフォン、タブレットなどのモバイル機器を使いながら、施設や場所を制限されずに仕事をする形態のことを指します。例えば、営業職など外回りが多い職種において、外出先でノートパソコンなどを使って業務を行う場合などです。
1. モバイルワークに向いている職種
一般に、モバイルワークに向いているのは以下の職種とされています。
- 営業
- 保険外交員
- 経営層 など
移動時間が長い、あるいは主たる作業場がオフィス以外にある職種はモバイルワークに適しています。オフィスに出勤せず、顧客先に直行して自宅に直帰するのはモバイルワークに多く見られるパターンです。
資料や報告書の作成、メール送受信などの業務を空港や駅、コワーキングスペース、カフェなど、さまざまな場所で行えるため、時間を有効活用できるという特長があります。
2. テレワークとの違い
テレワークとは、ICT(情報通信技術)を利用して、時間と場所にとらわれずに働く形態です。モバイルワークは、テレワークの一つとして位置付けられています。
テレワークの形態には、大きく「雇用型」と「自営型」の区分があります。雇用型は企業に勤務する労働者が行うもの、自営型は個人事業主が行うものです。さらに、業務にあたる場所や業務の性質によって、以下のように分類されています。
- 在宅勤務:自宅で業務を行う
- モバイルワーク:場所を選ばずに仕事をする
- サテライトオフィス(施設利用型勤務):本社から遠隔地のオフィスを勤務地とする
- SOHO:専業性の高い業務を請け負う。独立自営の性質が強い
- 内職副業型勤務:比較的容易な業務を請け負う。独立自営の性質は弱い
内閣府が調査した「平成28 年通信利用動向調査の結果」によると、雇用型テレワークを導入している企業のなかでは、モバイルワークの割合が63.7%と最も高い結果となっています。
3. 在宅勤務との違い
モバイルワークを理解する際に注意したいのが、在宅勤務との違いです。オフィス以外の場所で働くという点では共通していますが、在宅勤務は就業場所が自宅に固定されるのに対して、モバイルワークは場所を問わず働くことができます。
4. モバイルワークのメリット・デメリット
モバイルワークのメリット
【大幅なコスト削減】
モバイルワークは次の費用の削減により、大きなコストカットを実現します。- 設備費
- 備品費
- 通勤交通費
モバイルワークは持ち運べる機器があれば可能なため、在宅勤務やサテライトオフィス勤務のように職場環境や設備を整えるためのコストは必要ありません。また、紙の資料を使わずに文書データでやり取りを行うことで、用紙やインクといった備品のコストも削減できます。営業職など外回りの職種で直行・直帰が可能な場合は、通勤交通費の削減も期待できるでしょう。
【人材確保にも一定の効果】
モバイルワークによって業務効率化や移動時間の削減が進むと、ワーク・ライフ・バランスの改善も期待できます。また、得られた効果をアピールすることで、人材獲得においても強みを発揮しやすくなります。
ただし、在宅勤務に見られる介護・育児を抱える人材の確保や、サテライトオフィスに見られる地方人材の確保のメリットを、モバイルワークで享受することは難しいでしょう。
モバイルワークのデメリット
【労働時間管理の難しさ】
モバイルワークは、移動中のすき間時間や外出先での仕事が多くなるため、労働時間を正確に把握することが難しくなります。対策としては、ノートパソコンやスマートフォンの使用ログ、社内システムへのアクセスログなどを利用して労働時間を算出する方法が挙げられますが、運用が難しい場合は自己申告制が取られます。自己申告制の場合は、労働時間のカウントについて、企業と従業員の双方で正しい認識を共有して運用することが重要です。
【セキュリティーのリスクが高い】
ノートパソコンや情報端末を持ち運ぶモバイルワークは、特にセキュリティー面でのリスクが高まります。ノートパソコンやスマートフォンの紛失や盗難の可能性があるほか、通信が暗号化されていない無線LANスポットを利用すれば情報漏えいリスクが高まります。また、喫茶店など、不特定多数が集う公共のスペースでのモバイルワークは、画面をのぞき見されるケースも想定されます。モバイルワークを導入する際は、セキュリティーに関する従業員への教育や情報漏えい対策が必須です。
【オフィス勤務者とのコミュニケーションが少なくなる】
モバイルワークの対象者は、オフィスで仕事をすることもあるので、在宅勤務に比べてコミュニケーション不足は起こりにくいといえます。しかし、通常のオフィス勤務者と比較すると、対面での交流頻度は減ります。そのため、情報共有でオフィス勤務者とタイムラグが発生しないよう、定期的にミーティングを実施する、リアルタイムでやり取りが可能なコミュニケーションツールを活用するなどの工夫が必要です。
5. 知っておきたいモバイルワークでの勤怠管理
企業が感じる課題は「労働管理の難しさ」
モバイルワークは外出先や移動中に業務を遂行できるため、業務効率を高めることが可能です。しかし、導入する上での課題もあります。
厚生労働省の「テレワークにおける適切な労務管理のためのガイドライン」によれば、モバイルワークに限らず、テレワークを導入する際に企業が感じる問題点として、先ほどデメリットとして取り上げた「労働時間管理の難しさ」が挙げられています。
モバイルワークを取り入れる際、一般的には以下の勤怠管理上の対応を検討する必要があります。
- 正確な労働時間をどのように把握するか
- 中抜け時間を就業規則でどう取り扱うか
- 休憩時間をどうするか
- 時間外や休日の労働管理をどうするか
- 事業場外みなし労働時間制の適用
適切な勤怠管理を実現することは、モバイルワークを軌道にのせる鍵です。それぞれの対応策について、以下に詳しく説明します。
労働時間の正確な把握に必要なこと
一般にリモートワークでの労働時間を把握する場合、以下の二つの方法が採用されます。
- パソコンなど端末の利用時間を計算
- 自己申告制
端末の利用時間を計算することは、客観的な記録を残せるので、望ましい方法といえます。しかし、業務形態によっては運用が難しいケースが少なくありません。やむを得ない場合には自己申告制を取ることになりますが、その場合は労働時間について正しい認識を企業と社員間で共有することが重要です。
労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間を指します。就業規則に明記されている労働時間以外でも、暗黙の了解として労働者が業務を行う時間は労働時間に含まれます。
例えば、モバイルワークにおいて上司が以下のような指導をしている場合は、就業規則にある労働時間以外であっても、労働した時間としてカウントされます。
- いかなるときも電話に対応すること
- メールを読んだらすぐに返信すること
- 上記の対応ができなかった際に業務態度の指導を受けること
まずは、管理者が労働時間に関する正しい認識を持つことが必要です。また、自己申告の労働時間と実態に乖離が見られる場合は、速やかに改善に努めなければいけません。
「中抜け」には始業・終業時間の変更で対応が可能
中抜けとは、就業時間内に私用などで仕事から離れることをいいます。場所を制限されないモバイルワークでは、仕事の合間に役所や病院へ立ち寄ったり、子どもの学校行事に参加したりするなどの中抜けが発生しやすくなっています。
労務管理上は、中抜け時間を休憩時間として扱うことが可能です。この場合、中抜け時間に応じて始業時間を繰り上げたり、終業時間を繰り下げたりすることで労働時間を調整します。もしくは、中抜けを時間単位の有給休暇として扱うことも可能です。
また、モバイルワークにフレックスタイム制を導入するケースもあります。法定労働時間を超えない範囲であれば社員自身が始業・終業時間を調整できるため、より自由度の高い働き方を実現できます。どの方法を選択するかは、試用期間を経て決定するなど、社員の働き方を確認してからでも良いでしょう。
労使協定の締結で、休憩時間の一斉適用が除外できる
労働基準法第34条第2項により、休憩時間は原則、労働者に一斉に付与することが定められています。休憩時間は労働時間に応じて、以下のとおり付与する必要があります。
- 1日6時間を超える勤務:45分以上の休憩
- 1日8時間を超える勤務:60分以上の休憩
モバイルワークを含むテレワークでも、同様の条件で休憩時間を与える必要があります。「移動中だから」「家事をしているかも」という理由で、休憩時間を就業規則から外すことはできません。
ただし、モバイルワークのように一斉付与が適していない勤務形態では、労使協定を締結すれば適用除外とすることができます。
なお、労働者側の都合で就業場所へ移動している時間は、原則、休憩時間とみなされます。ただし、その間にノートパソコンやスマートフォンなどで業務を遂行した場合は、労働時間に該当します。
時間外労働や休日労働への支払い
モバイルワークを含むテレワークにおいても、時間外労働や休日労働が発生した場合は、労働基準法に従って割増賃金の支払いが必要です。
労働法規上の「労働時間」に時間外労働が該当するには、以下の二つが原則となります。
- 労働者が事前の申告で上司・管理者から労働の許可を得る
- 労働者が事後の報告をする
ただし、事前事後の申告がなかったり、上司が残業を許可しなかったりした場合でも、以下に該当する事実が認められれば、時間外労働と判断されます。
- 時間外の労働を、上司から暗黙的に強制されている
- 時間外に労働しなければならないほど、業務量が過大である
- 時間外に労働者からメールが送信されているなど、上司が時間外の労働を知っている
モバイルワークは場所を問わず仕事ができることから、公私の線引きが曖昧になる可能性があります。管理者が社員の労働時間の実情を適切に把握し、必要であれば業務量の調整などを行うことが重要です。
事業場外みなし労働時間制を適用する際の注意点
事業場外みなし労働時間制とは、労働者が事業場外(オフィス外)で仕事をし、かつ労働時間を正確に算出することが困難な場合に、一定の労働時間を働いたものとみなすことができる制度です。
労働時間を計算する必要がないので運用しやすいというメリットがある反面、会社側が実状と離れたみなし労働時間を設定し、働いた分の賃金が適正に支払わない、というケースも考えられます。そのため、不正行為が行われないよう、適用要件は厳しく設定されています。
事業場外みなし労働時間制をモバイルワークなどのテレワークで適用するには、以下の二つの要件が満たされなくてはいけません。
- 情報通信機器を通じた使用者の指示に即応する義務がない状態であること
- 随時使用者の具体的な指示に基づいて業務を行っていないこと
一つ目は、上司や管理者からの支持に対して、スマートフォンなどの携帯端末やパソコンなどの通信機器で「すぐに反応しなければいけない」義務がないことを指します。例えば、携帯端末をマナーモードにしたり、ノートパソコンから離れたり、電源をオフにしたりすることが認められていれば、即応する義務がない状態といえます。二つ目は、上司や管理者から指示を受けて業務を行っていない状態を指します。
「会社側の具体的な指揮監督が及ばず」「労働時間を算定することが困難」であり、かつ上記の二つの要件が満たされている場合に、事業場外みなし労働時間制が適用可能となります。
6. モバイルワーク導入のポイント
モバイルワークの問題点を把握する
厚生労働省の「テレワークにおける適切な労務管理のためのガイドライン」によると、モバイルワーク実施時の企業側の課題でもっとも多いのが、「情報セキュリティーの確保」(42.3%)です。
一方、労働者はテレワーク全体に対して「仕事とプライベートの切り分けの難しさ」(38.3%)、「長時間労働になりやすい」(21.1%)、「上司などとコミュニケーションが難しい」(11.4%)を課題に挙げています。
企業と労働者の間で抱えがちな以下の三つの課題から、導入時の注意点を解説します。
- セキュリティー
- 長時間労働
- コミュニケーション
セキュリティー対策
モバイルワークを導入する際は、まずセキュリティーガイドラインを策定し、周知を徹底することが重要です。セキュリティーガイドラインでは、次の項目を定めます。
- セキュリティーに関する基本方針
- セキュリティー対策の基準
- セキュリティー対策における行動指針(ルールと実行方法)
以下は、厚生労働省のガイドラインに記載されているモバイルワークのセキュリティー対策例です。
- オフィス外を移動するときは、必ずPCを鞄に入れて常時携帯する
- PCのローカルエリアにファイルを保存しない
- ハードディスクを暗号化する
- 社外環境で印刷出力しない
- インターネット接続は会社支給のモバイルルータからのみ可とする
- 社内環境へは暗号化通信を利用して接続する
- のぞき見防止フィルターを必ず装着する
- PCを持ち帰る時は、上長にメールで報告する
- Web会議等の音声が発せられるときは、周囲に聞かれないよう注意する
セキュリティーに関するルールは、テレワーク対象者の当事者意識が薄いと根付きにくい傾向があります。浸透させるには、実際のシーンを例に挙げながらリスクに対する意識を高めていくのも効果的な方法です。特にモバイルワーク時にリスクが高いとされる行為には、次のことが挙げられます。
- 公衆Wi-Fiスポットの利用
- ローカルディスクへのファイル保存
- ファイル共有ソフトの利用
セキュリティー対策では、定期的な研修を行うのに加え、日頃から危険性の高い行為をしていないかセルフチェックできる仕組みを取り入れるのも良いでしょう。
長時間労働を防ぐには
厚生労働省の「テレワークにおける適切な労務管理のためのガイドライン」では、長時間労働を抑制するポイントを以下のように示しています。
- メール送付の抑制
- システムへのアクセス制限
- 時間外・休日・深夜労働の原則禁止
- 長時間労働等を行う社員への注意喚起
ただし、これらの対策を講じても管理者の目が届きにくいモバイルワークは、結果的に長時間労働を助長するのでは、という懸念の声があるのも事実です。しかし、テレワーク導入の結果、残業時間の削減に成功している企業もあります。
テレワークの導入により、2016年10月に約595時間だった全社員の合計残業時間が、1年後の2017年10月には約355時間と、240時間の残業削減に成功しています。同社では、テレワークによって、社員が生産性をより意識するようになったこと、仕事の棚卸をして業務改善を行うようになったことなどが長時間労働の是正につながったとしています。
- 【参考】
- 厚生労働省 テレワーク宣言応援事業
また、モバイルワークを含めたテレワーク実施日は残業をしないことを定め、成果を上げている企業もあります。
モバイルワークや在宅勤務ではオフィスにいなければならない時間が減少するため、「時間管理」の主体が社員の側に移行します。自身の時間を有効的に使おうという意識が高まれば、結果として残業時間の削減が期待されます。
残業禁止やシステムへのアクセス制限といったルール化は重要ですが、社員自身の意識を変えていくことを同時に行う必要があるといえるでしょう。
社員間のコミュニケーションを充実させるには
オフィスでメンバーと顔を合わせる機会が減るモバイルワークでは、ツールを利用したコミュニケーションがチーム力向上に役立ちます。
現在は、さまざまな機能を備えたビジネスチャットツールが提供されています。業務連絡をスムーズにするだけでなく、オフィスで行うような「雑談の場」として活用することも可能です。また、スケジュールや勤怠状況を共有すれば、より円滑なコミュニケーションが期待できます。自社に適したツールを選定して、ストレスのないコミュニケーションができる状態を目指すことが大切です。
7. モバイルワークの円滑な運用が多様な働き方を支える
ワーク・ライフ・バランスを求める声が高まっている近年、柔軟な働き方を実現している企業には社会的な評価が集まる傾向があります。場所の制約を受けないモバイルワークは、ICTの進化に後押しされ、今後は一般的な勤務スタイルの一つになっていくと予想されます。
モバイルワークの円滑な運用にはセキュリティー対策が必要不可欠ですが、同時に、社員同士が直接顔を合わせないことで生じる問題に対処することが成功のポイントになります。より効率的で自由度の高い働き方を実現できれば、社員のエンゲージメントが高まっていくことも期待できます。多様な労働環境の整備は、企業にとって今後ますます重要な課題になってくるといえるのでしょう。
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