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【ヨミ】サンギョウイ

産業医

産業医とは?

産業医とは、それぞれの事業場において労働者の健康管理などに対し、医学的な観点から指導・助言を行う医師を指します。一般的な医師とは異なり、業務内容は治療・検査などではありません。労働者にとって、自宅よりも多い時間を過ごす職場では日々さまざまな問題が起こります。特に労働環境の変化が激しい現代では、労働者の精神的・肉体的負担も多様化しているのが実情。業務内容に起因する職業病や各種疾病も、その一つといえます。労働者の健康を保持・促進するため、産業医には幅広い職務が与えられています。

更新日:2024/03/19

1. 産業医の概要

労働者にとって、自宅よりも多い時間を過ごす職場では日々さまざまな問題が起こります。特に労働環境の変化が激しい現代では、労働者の精神的・肉体的負担も多様化しているのが実情。業務内容に起因する職業病や各種疾病も、その一つといえます。労働者の健康を保持・促進するため、産業医には幅広い職務が与えられています。

産業医の要件

産業医は「医師であること、労働者の健康管理などに必要な専門的医学知識について法で定められた一定の要件を備えていること」と、労働安全衛生規則にて定められています。

一定の要件とは労働安全衛生規則第14条第2項にて定められているもので、次のいずれかを備えていることが規定されています。

  • 厚生労働大臣が定める者(日本医師会、産業医科大学)が実施する研修を修了している
  • 産業医の養成課程を設置している産業医科大学やその他の大学で、当該過程を修めて卒業し、その大学が実施する実習を履修している
  • 労働衛生コンサルタント試験(試験区分:保健衛生)に合格している
  • 大学において労働衛生に関連する科目を担当する教授、准教授、常勤講師もしくはこれらの経験者

産業医の種類

産業医には嘱託と専属の二つの種類があります。詳しく見ていきましょう。

(1)嘱託産業医

嘱託産業医とは、非常勤で1ヵ月に1回から数回程度訪問する形態の産業医です。数時間の滞在で、必要に応じて健康相談や職場巡視などを実施します。

嘱託の場合、開業医や勤務医などが従事していることも多く、一人で複数の事業場を兼務している嘱託産業医もいます。国内の産業医の多くは嘱託産業医にあたります。

常時1,000人未満の労働者を使用している事業場や、以下の「労働安全衛生規則第 13 条第 1 項第 2 号」で定められた業務において常時500人未満の労働者を従事させている事業場では、嘱託産業医を選任できます。

(2)専属産業医

専属産業医とは、その事業場の一員として一般の労働者と同様に所属し常勤する産業医です。

専属産業医は兼務禁止ではありません。専属産業医としての職務に支障がないこと、事業場間が1時間以内の距離(徒歩や交通機関などを利用)にあることなど、一定の条件にあえば非専属の産業医と兼務することができます。以下で詳しく解説しますが、事業場によっては専属産業医を選任するよう義務づけられています。

産業医の選任義務について

50人以上の労働者がいる事業場では、産業医を選任する義務があります。事業場の規模によって以下の通り、選任人数が決められています。

  • 労働者が50人以上3,000人以下の事業場:1名以上の産業医
  • 労働者が3,001人以上の事業場 :2名以上の産業医

労働者を常時1,000人以上使用している事業場および、以下の「労働安全衛生規則第13条第1項第2号」で定められた業務において労働者を常時500人以上従事させている事業場においては、専属産業医を選任する義務があります。

「労働安全衛生規則第13条第1項第2号」

イ 多量の高熱物体を取り扱う業務及び著しく暑熱な場所における業務
ロ 多量の低温物体を取り扱う業務及び著しく寒冷な場所における業務
ハ ラジウム放射線、エツクス線その他の有害放射線にさらされる業務
ニ 土石、獣毛等のじんあい又は粉末を著しく飛散する場所における業務
ホ 異常気圧下における業務
ヘ さく岩機、鋲(びよう)打機等の使用によつて、身体に著しい振動を与える業務
ト 重量物の取扱い等重激な業務
チ ボイラー製造等強烈な騒音を発する場所における業務
リ 坑内における業務
ヌ 深夜業を含む業務
ル 水銀、砒(ひ)素、黄りん、弗(ふつ)化水素酸、塩酸、硝酸、硫酸、青酸、か性アルカリ、石炭酸その他これらに準ずる有害物を取り扱う業務
ヲ 鉛、水銀、クロム、砒(ひ)素、黄りん、弗(ふつ)化水素、塩素、塩酸、硝酸、亜硫酸、硫酸、一酸化炭素、二硫化炭素、青酸、ベンゼン、アニリンその他これらに準ずる有害物のガス、蒸気又は粉じんを発散する場所における業務
ワ 病原体によって汚染のおそれが著しい業務
カ その他厚生労働大臣が定める業務

労働者数50人未満の事業場について

労働者数50人未満の事業場においては、法的には産業医の選任義務はありません。しかし、労働者の健康管理に努めることは必要です。50人以上の事業場と同等に、必要な知識を持つ医師などに労働者の健康管理を行ってもらえるよう努めなければならない、とされています。

しかし、実際には小規模の事業場で医師を確保するのは困難なケースが少なくありません。そのような場合、各都道府県に設置されている「地域産業保健センター」を利用することも有効です。

また、「小規模事業場産業医活動助成金」を活用することで、金銭的な支援を受けることもできます。要件を満たす産業医を選任して契約し、実際に産業医活動を継続することで最大20万円の助成金が受けられます。

近年の産業医にまつわる考え方の変遷

日本における産業医制度は、1938年の工場法による工場医の選任義務から始まりました。その後、1947年の労働基準法において医師である衛生管理者の選任義務が定められ、1972年以降は労働安全衛生法のもと、産業医の選任について定められています。

当初、産業医が果たしていた役割は、健康診断の実施や結果への措置、健康教育や相談業務が多くを占めていました。しかし昨今では、過重労働による労働者の健康障害が顕在化し、自殺に至るケースも増加するなど大きな社会問題となっています。

こうした事態を受けて政府がストレスチェック制度を義務化するなど、問題が深刻化するのを食い止めるだけでなく、未然に防ぐための措置が重視されるようになりました。また、事業主と労働者の間に立って問題解決にあたる存在が必要という認識も広がりました。

現在では、心身の健康に関する専門的な知識を有し、かつ労使双方に適切に助言できるポジションとして、産業医に求められる役割は幅広くなっています。

2.産業医の権能

労使間に立って問題解決に努める必要がある産業医には、一定以上の権能が必要になります。産業医の権能には次のものがあります。

事業者・総括安全衛生管理者に対する勧告

安全衛生法第13条第3項(2019年4月に第13条第5項へ改正)・安全衛生規則第14条第3項にて、産業医は労働者の健康確保のためには、事業者・総括安全衛生管理者に対して勧告できるとしています。産業医には、事業者の考えにとらわれることなく、労働者の健康を優先して従事することが求められています。

労働者の健康障害防止対策における調査および審議

安全衛生法第18条にて、一定基準に該当する事業場では産業医を構成員に含めた衛生委員会を設けるよう義務付けられています。以下の事項について調査・審議し、事業者へ発言することが目的です。

  • 労働者の健康障害に対する基本的な防止対策
  • 労働者の健康促進維持を目的とした基本的対策
  • 衛生にかかわるもので、労働災害の原因や再発防止対策
  • その他労働者の健康障害防止・健康促進維持に関する事項

衛生管理者に対する助言・指導

安全衛生規則第14条第3項にて、産業医は衛生管理者に対して指導・助言することが認められています。事業者の一方的な考えで労働者の職場管理が遂行されるのではなく、必要な場合には産業医が中立的な立場でアドバイスを行います。

労働者の健康障害防止のための職場巡視・現場での緊急的措置の実施

安全衛生規則第15条において、産業医は最低でも毎月1回の職場巡視をすることが定められています。巡視した結果、作業方法や衛生状態においてリスクがあると判断された場合には、速やかに労働者の健康に配慮した必要な措置をとらなければなりません。

長時間労働者などに関する情報把握

長時間労働者に関する情報を把握し、法令に基づいた面接指導などを行うことが安全衛生規則第51条の2・第52条の2などで定められています。これは産業医制度の充実を図る目的として、2017年6月に施行された改正内容の一つです。

1週間の労働時間が40時間を超えている、または1ヵ月の労働時間が100時間以上の労働者がいる場合、事業者は労働者に関する情報を速やかに産業医へ提供する必要があります。また、労働時間の算出結果は、前述に該当する労働者がいない場合であっても産業医へ提出する必要があります。

3.産業医の主な職務内容

実際に、産業医がどのような職務を遂行しているのか見ていきます。

健康診断の実施や結果に対する措置

産業医は、労働者の健康診断に伴う実施機関の選定から実施後まで、必要に応じて助言・指導を行います。法定の一般健康診断や特殊健康診断はもちろん、法定外の健康診断に関連することも含まれます。

健康診断の結果をチェックして異常が見られた場合、その労働者に二次健康診断の受診をすすめます。同時に、事業者に対して就業上での適切な措置を提示し、支援することも重要な職務です。

ストレスチェックの実施や結果に応じた面接指導

ストレスに起因する休職や労災認定が増加の一途をたどり、2015年12月、労働者数50人以上の事業場においてストレスチェックの実施が義務化されました。ストレスチェック制度では、年1回の実施と労働基準監督署への報告が義務付けられています。報告を怠った場合には、50万円以下の罰金が科されます。

産業医は、ストレスチェックに関する計画立案・調査票の策定・実施・結果に基づく高ストレス者の選定基準などに参加し、アドバイスを行います。

ストレスチェックの結果、高ストレスと判断された労働者に対しては、法令に基づき面談を実施する必要があります。産業医の判断によっては、休職や労働時間短縮、残業ストップ、配置転換などの措置をとらなければなりません。

厚生労働省では、以下のサイトで企業が円滑にストレスチェック制度を導入できるよう整備しています。

各種健康相談・保健指導

健康における個別相談・保健指導なども産業医の重要な役割です。また、定期的に研修を実施するなど、必要な教育や情報提供を行うことも大切です。

作業環境に関する医学的評価や勧告・指導

業種によっては高気圧作業・振動工具取扱作業・重量物取扱作業など、危険を伴う業務に従事する場合があります。産業医は、これらの作業における点検や管理、作業方法の改善、保護具の管理などに関しても助言や指導を行います。

「労働者の健康障害」というとメンタルヘルス関連に注目されがちですが、作業内容に関連する疾患の予防・対策にも注力しなければなりません。

2019年4月施行「働き方改革関連法」における改正ポイント

2019年4月に「働き方改革関連法」が施行されることに伴い、産業医・産業保健機能が強化されます。長時間労働者の労働状況・業務の状況など、労働者の健康管理などを産業医が適切に行うために必要とする情報を、企業は産業医に提供するよう義務付けられます。

また企業は、産業医からの勧告内容を衛生委員会または安全衛生委員会に報告することも、あわせて義務付けられるのがポイントです。ただし現状罰則は設けられておらず、あくまで企業としての「義務」と位置付けられます。

4.産業医を選任する流れ

ここでは、産業医を選任する際の流れについて順に説明していきます。

事業場に適した産業医を探す

産業医を選任する際は、まず事業場に適しているかどうかを検討する必要があります。昨今はメンタルヘルス対策を重視する企業が増えていますが、たとえば、専門性の高さから精神科医が適任かというと、そうとは限りません。

産業医には、中立的な立場から企業と労働者にアドバイスすることが求められます。そのため、柔軟に双方とコミュニケーションをとれることは、選任する際の重要ポイントとなります。経験値や得意領域などを踏まえて、事業場に適した産業医を選ぶようにしましょう。

産業医を探す主な方法は、以下の通りです。各機関から情報を得ながら選任していくとよいでしょう。

  • 医師人材紹介会社などに依頼して紹介してもらう
  • 所在地における医師会に相談し紹介を受ける
  • 在職中の労働者から人脈を提供してもらい依頼する
  • 企業の健康診断を依頼している健診機関に相談し紹介を受ける

産業医との契約締結

産業医を探して双方の合意に達したら、契約を締結します。契約方法は産業医の立ち位置や紹介先によってさまざまです。たとえば、医師と直接契約する、紹介先の会社との請負契約などが挙げられます。

契約時には業務内容をはじめ、できるだけ詳細に決めておくことで後々のトラブル防止につながります。また諸事情によって産業医を変更したい場合は、契約書の内容に基づき適宜変更する、もしくは期間満了後に変更をします。

変更する際には、あらかじめ次の産業医を探しておき、スムーズに契約できるよう対処しておきます。

産業医選任の届け出

産業医を選任すべき事由が発生してから14日以内に、労働基準監督署へ「総括安全衛生管理者・安全管理者・衛生管理者・産業医選任報告」を提出する必要があります。産業医を選任する前に必ず確認しておきましょう。

産業医の辞任・解任の際にも、同じ様式を使って必要事項を記載して提出する必要があります。

5.自社に適した産業医を選任することが重要

労働力不足や企業間競争の激化など、現代は過重労働を引き起こしやすいビジネス環境にあります。健康障害やメンタルヘルスへの対策が急がれるなか、労働者の健康を守りながら環境改善に向けて提言していくなど産業医に求められる役割は広がっています。

こうした実状から、2017年6月より労働安全衛生規則等の改正が施行され、産業医の権限が強化されました。企業は速やかに、労働者や労働環境の情報を産業医に提出することが義務付けられています。

しかし、その一方で、労働者側から産業医に対する不満の声があがるケースもあります。メンタルヘルスがキーワードとなる現在、産業医を選ぶ際に見るべきポイントも変わりつつあるといえるでしょう。

企画・編集:『日本の人事部』編集部

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