やるだけでなく、やりきる仕組み
“働き方改革”でIT業界の常識を覆す。
SCSKの「スマートワーク・チャレンジ」
とは(後編)[前編を読む]
SCSK株式会社 執行役員 人事グループ副グループ長
河辺 恵理さん
日本の人事部「HRアワード2015」で企業人事部門・最優秀賞に輝いたSCSK株式会社。2011年10月の合併を機に、抜本的な働き方の改革を進め、IT業界の悪しき常識を次々と覆してきました。残業時間を前四半期の半分にする「残業半減運動」、平均月間残業時間20時間以内と有休取得率100%を目指す「スマートワーク・チャレンジ20」(スマチャレ20)など(「前編」参照)。トップの強い思いを受けて設定されたストレッチ目標をクリアするために、現場はいかなる改善策を考え、実行したのか。そしてその取り組みを経営層や人事部門はどう支援したのか。人事グループ副グループ長の河辺恵理さんに引き続きうかがいます。
- 河辺恵理さん
- SCSK株式会社 執行役員 人事グループ 副グループ長
かわなべ・えり●1986年、住商コンピューターサービス株式会社(現SCSK株式会社)入社。 流通業界、金融業界を中心とした大企業向けのシステム開発、営業、プロジェクトマネージャー、海外パッケージソフトの日本導入などを担当。ライン職を歴任。 2006年4月より社内「女性活躍プロジェクト」へリーダーとして参画。 2013年4月より人事グループ 人材開発部長として全社の人材育成を担当。 2014年4月より同社初の女性執行役員として人事グループ 副グループ長就任、現職。 同社の目指す「働きやすい やりがいのある会社」づくりを担当する。ダイバーシティ・女性活躍、ワークライフバランス、人材開発・キャリア支援、健康経営などのさまざまな施策を推進。
改革にかける本気度が伝わる、トップから全社へのメッセージ
「スマチャレ20」の浸透・加速に向けて、インセンティブの支給やポータルサイトによる施策アイデアの共有のほかに、どういう仕掛けをされているのでしょう。
スマチャレ開始1ヵ月後の13年5月から、トップの中井戸以下、全役員が集まる情報連絡会という会議で、月2回、人事担当役員の私より勤怠実績の月次報告を行うことにしました。全部門のスマチャレの達成状況を数値化し、一覧表にして、全役員に報告するわけですが、それに対して毎回、中井戸がメッセージを発信しています。進捗が思わしくない部門は、部門を名指しで“叱咤激励”が飛ぶことも珍しくありません。重要なのは、そうしたやりとりも含め、役員会議の内容がすべて活字になり、社内のイントラネットですばやく共有されることです。部長も、課長も、社員もみんなこれを注視しているので、自部門の役員がトップに叱責されたとわかると、現場はすぐに反応し、本気で改善に取り組もうとします。部門長が会議の内容を自部門に持ち帰り、部長へ、課長へ、社員へ伝達しようとすると、どうしてもタイムリーに伝わらなかったり、トップの考えが正しく理解されないこともあります。こうしてトップが直接メッセージを発信したほうが、会社の改革への本気度も、社員一人ひとりにより強く、深く伝わることがわかりました。また14年度からは、さらにトップ層を巻き込んだ施策も追加しています。
たとえば、どのような取り組みでしょうか。
勤怠の月次認証に新しいルールを導入しました。弊社では従来、勤怠の月次認証はすべて課長が行っていましたが、これを変更。1ヵ月の残業時間が一定の水準を超過する場合は、時間数に応じて認証する役職層を、20時間までなら課長、20時間を超えたら部長、40時間を超えたら本部長、60時間を超えたら部門長、そして80時間を超えるときは大澤(善雄)社長、というふうに変えました。社長認証まである会社は珍しいかもしれませんね。この施策を入れたことで、発生件数は、前年と比較して大幅に減りました。
効果てきめんですね。
この仕組みがリスクコントロールの上でも大きな役割を果たしています。たとえば、ある課で先月まで残業20時間超えがいなかったのに、今月は三人も出そうだとします。そうなると、部長のところへ認証がいくわけですから、「課長、どうなっているの? ちょっと教えて」ということになりますよね。40時間を超すと、今度は本部長の目に触れて、「この部で何が起こっているの?」となる。そもそもスマチャレをやっている環境で、40時間超えというのは、もう何かのトラブルか、異常事態としか考えられません。この新しい認証ルールは、マネジメント層がそういうリスクにいち早く気づいてリカバリーするための、いわばアラームとしても機能していると思います。