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人生100年時代 企業が支援すべき従業員の資産形成とは

注目の記事福利厚生[ PR ]最終更新日:2023/12/05

人生100年時代。より良く生きるために、ライフプランを描くことが求められています。将来設計にあたって必要なことの一つに資産形成がありますが、商品の複雑さやリスク判断の難しさから「何から始めればいいかわからない」と感じる人も多いようです。そこで一部の企業では、福利厚生の一環として資産運用研修などを取り入れ、従業員の資産形成を支援。従業員のロイヤリティ向上など、さまざまな効果につなげています。このような金融・証券教育支援の一環として企業の社内研修等への「無料講師派遣」を行う、日本証券業協会 金融・証券教育支援本部 普及推進部長の金子敏之さんに、企業が従業員の資産形成教育を行う意義やメリット、導入する上でのポイントなどをうかがいました。

プロフィール
金子敏之さん
金子敏之さん
日本証券業協会 金融・証券教育支援本部 普及推進部長

かねこ・としゆき/1993年日本証券業協会入職。広報部長、金融・証券教育支援センター長を経て、2020年7月から現職。

ビジネスパーソンに金融リテラシーが必要な理由

なぜ今、ビジネスパーソンの金融リテラシーを高める必要があるのでしょうか。

日本経済が低成長になっているからです。高度経済成長期は年間で10%と、2桁成長を続けていた時期もありました。しかし、1970年代以降は低成長時代が到来し、現在にいたっています。

一方、賃金はバブル崩壊後も緩やかに上昇し、1997年に名目雇用者報酬が約280兆円になりましたが、そこから現在まではほぼ横ばいで推移しています。つまり、1997年からは賃金もなかなか上がらず、賃金だけで個人の資産を大きくふやすのは難しくなっているのです。

そこで今、約2,000兆円とも言われる日本の金融資産のうち膨大な金額となっている預貯金を資産形成に回して、投資で資産をふやす発想が求められていますが、投資には正しい知識が必要です。そのために、資産形成に必要な金融リテラシーを身につけることの重要性が高まっているのです。

貯蓄の文化が根強いことがうかがえますが、貯蓄をするだけでは資産形成は難しいのでしょうか。

貯金だけで十分な資産を形成することは、現在ではほぼ不可能でしょう。バブル崩壊前は、銀行預金に8%もの金利がつくこともありました。しかし、現在(2022年6月末現在)は皆さんご存じのとおり「マイナス金利」の時代です。貯金をしても、利子はほとんど得られません。

「72の法則」というものをご存じでしょうか。72を金利で割ると、元手となる資金を倍にするのに必要な年数が出せるのです。例えば金利8%なら、約9年で元手が倍になります。しかし、預金金利がほぼゼロの現代ではどうでしょうか。倍にするのに数万年という月日がかかってしまいます。だからこそ、投資の重要性が叫ばれているのです。

投資にはさまざまな知識が必要になると思いますが、日本の金融リテラシーは諸外国と比較して高いのでしょうか。

投資を実践していくうえで、金融の知識、金融リテラシーはとても重要です。
しかし残念ながら、日本においてはまだ浸透しているとは言えません。
私どものアンケート調査で、「証券投資が必要とは思わない」という人にその理由を聞いたところ、「知識がないから」との回答が多数を占めました。

また、先進国との比較においても日本の金融リテラシーは低いと言われています。
金融リテラシーを測る「ビッグ3」という問題がありますが、この正答率が先進国に比べて日本は低いのです。
「ビッグ3」では、その名の通り三つの知識を問われます。一つ目は「物価と金利の関係」です。これは、物価の上昇率が金利より高いと、自分が持っている資産が目減りしてしまうことを理解できるかどうかを問う問題です。例えば、1年後に物価が2%上がっているとして、その時に現在と同じ水準の生活を続けようと思うと、資産も2%増やさなくてはなりません。預金金利が2%なら1年間お金を預けておくだけで解決できますが、下回っていたらその差分を埋めなくてはなりません。このことを理解していないと、どれくらいの利回りで運用すればいいか見当もつかないし、そもそも投資の必要性がわからないでしょう。

二つ目は「単利と複利の関係」です。単利は、最初に投資した元本にだけ利息が付く仕組みです。複利は、支払われる利息を最初の元本に組み入れ、これを新しい元本として再度運用していきます。1年目の運用成績は同じですが、複利で運用した方が後々大きな運用益を得られます。

そして、三つ目は「分散投資」です。その名の通り、投資先を一つに定めず、複数持つ手法です。投資は複数の投資先を持つことで、リスクが低減できるのです。企業によって株式の値動きは異なるため、複数の会社の株式を持っていると、仮に1社の株価が下落しても、保有している別の株価が上昇すれば、損失は最低限に抑えられます。

分散投資と聞くと、たくさんの資金が必要になるように思うかもしれませんが、これを少額からできる金融商品が投資信託です。投資信託は多くの投資家からお金を集めて大きな金額にして、それを運用のプロが株式や債券などさまざまな金融商品で運用する仕組みです。そのため、少額(1,000円程度)から購入でき、分散投資も可能になるのです。

投資に対する誤解として、「投資はまとまった資金がないとできない」というものがありますが、こうした知識があれば、それは誤解であることがわかるのではないでしょうか。

金子敏之さん インタビューの様子

知識があるだけで、投資に対する考え方が変わりそうですね。

私たちの講座を受講したビジネスパーソンからも、そのような声をいただきます。先ほど日本の金融リテラシーは高くないと申し上げましたが、2022年4月に高校の家庭科で資産形成の授業が必修となりました。つまり、最近までは学校で金融知識は教えていなかったということで、ビジネスパーソンに金融知識がないことはある意味当たり前なのです。

一方で、日本人の数学力や読解力は世界的に見ても高く、それらの能力は金融リテラシーとも相関があるという研究もあります。したがって、日本は潜在的に金融リテラシーが高まる素地があると言えます。きちんと学べば、十分な知識と判断力を持つことができるでしょう。そう考えたとき、企業は金融教育の場として最適です。

企業が従業員の資産形成をサポートするメリットとは

企業が資産形成の講座を提供するメリットは何でしょうか。

将来への不安を和らげ、従業員が安心して働ける環境を提供できることです。転職サイトが実施した調査では、転職理由の上位に「将来への不安」があります。これは、お金に対する不安と言い換えることもできるでしょう。

企業は、新規事業開発や生産性向上などに取り組み、売り上げを伸ばして従業員に還元したいと考えています。しかし、今すぐに給与を上げることが現実的ではない場合もあるでしょう。従業員の資産形成のサポートは、それを補い、人材流出を防ぐ効果が期待できます。

もちろん、従業員自身が投資について調べたり、金融機関を訪れて相談したりすることは可能です。ただ、膨大な情報の信頼性を判断する難しさ、個人でセミナーや相談会に参加するハードルの高さから、前に進めずにいる人がほとんどです。

会社のサポートがあれば、従業員は気軽に参加できるし、ライフプランが立つことで、より業務に集中できるはずです。また、企業だからこそ提供できる資産形成の方法もあります。「職場つみたてNISA」はその典型と言えるでしょう。

「職場つみたてNISA」は、個人で行うNISAへの投資と何が違うのでしょうか。

「給与天引き」で自動的に資産形成ができることが大きなメリットです。投資の基本は「長期・積立・分散」です。これは小さな元手を大きな資産にするための鉄則と言えるでしょう。例えば、バブルが崩壊した直後から、毎月一定金額、日経平均のインデックスファンドを購入し始めたとします。現在まで続けていたら、元手は何倍になっているでしょうか。

答えは「ほぼ倍」です。バブル崩壊直後に買うと、高い値段で買ってしまい損するように感じられますが、ポイントは株価が高いときも安いときも毎月「一定の金額」分を購入していることです。株価が下がったときにはより多くの株を購入することができるので、当初は高値づかみだったとしても、長く積立しているうちに平均購入単価が徐々に均され、現在の日経平均株価を考えるとむしろ大きく得をしているのです。このような長期積立によって価格が変動する金融商品を、常に一定の金額で、定期的に購入する手法を「ドルコスト平均法」といいます。

長期積立の効果を使わないのは非常にもったいない。企業であれば給与天引きでこれを後押しできますし、従業員もドルコスト平均法のメリットを享受できます。

金融知識を伝える「講義動画や講師派遣の活用」

日本証券業協会では、こうした金融知識を企業研修で伝える講師派遣を無料で行っていると聞きました。なぜ無料で行われているのでしょうか。

日本証券業協会は、もともと全国の証券会社を構成員とする社団法人として1973年7月に設立されました。その後、金融商品取引法(第67条の2第2項)の規定により内閣総理大臣の認可を受け、協会員となる金融機関が行う有価証券の売買などが公正かつ円滑になること、さらにそれが投資家の保護に資することを目的に活動しています。

そのため、公正・中立の立場で運営することが求められています。特定の金融機関の商品を勧めることもなければ、講師料を受け取って特定の企業に便宜を図ることもありません。

講師派遣は、何度でも無料で使うことができます。講師を務めるのは、私たちが認定した金融・証券インストラクターで、ファイナンシャルプランナーの資格を持っている方がほとんどです。とてもわかりやすい解説であると、高い評価をいただいています。

金子敏之さん インタビューの様子

具体的な研修内容を教えてください。

多くの受講者は、「何から始めればいいかわからない」状態です。まず私たちは、家計管理の必要性からお伝えします。そもそも、投資は無理に生活費を削ってするものではありません。必要な生活費などを差し引いてから投資に回すお金を作り、それを積み立てることをおすすめしています。

また、投資にリスクを感じる方が多いのは事実です。ですので、研修では「リスク」についてもお伝えしています。
一般的に「リスク」は「危険」という意味に捉えられますが、金融の世界では「リスク」はリターンの振れ幅を指します。もちろんマイナスのリターンになることもありますが、プラスになることもあります。この振れ幅が大きい金融商品、例えば、株式などはハイリスク・ハイリターンです。一方、振れ幅の小さい預金などは元本割れはしませんが利益も少ないので、ローリスク・ローリターンとなります。ここで重要なのはローリスクでハイリターンの金融商品はこの世に存在しない、ということです。そのような商品の勧誘を受けた場合は詐欺を疑うべきでしょう。

そして、一番重要な長期・積立・分散投資についてもお話しています。長期・積立・分散投資をすれば、このようなリスクをある程度コントロールすることが可能だということは、先ほどお話しした日経平均のインデックスファンドの長期運用した事例で明らかと思われます。

その長期・積立・分散投資を税制の面から応援する制度として、NISAを講義で紹介しています。

講座を受講するのは、新入社員など若い世代が多いのでしょうか。

50歳過ぎた方が受講されるケースも多々あります。現代は「人生100年時代」と言われています。定年が近づいてから資産形成に関する勉強を始めても、遅すぎることはないでしょう。

講師派遣は年間どのくらい行っているのでしょうか。

コロナ禍の影響で一時期減少しましたが、最近は増加傾向にあります。2022年度は企業に100件以上派遣することになりそうです。

コロナ禍以降、オンライン講義にも対応しています。また、シフト制などで決まった時間に集まれない場合は、オンデマンド形式で講義を提供することも可能です。

オンライン講義の場合、全国の支店で同時に受けられる、子どもがいる方でも参加しやすい、といったメリットがあります。

またオンライン講義では、チャットをうまく活用するようにしています。クイズを出してチャットで回答していただくなど、双方向のコミュニケーションによって飽きることのないように工夫しています。

チャットで寄せられる質問も受講者の方々の学びの意識を促進する効果があるようです。そもそも、講義を受ける方の多くは「何がわからないのかがわからない」状態です。チャットに寄せられる質問を見ると、自分がわかっていなかったことが明確になり、次に何を理解すればいいか見えてくる。これはオンライン講義ならではのメリットですね。

もちろん、対面講義だと全員の顔が見えるので、双方にメリットがあると考えています。

研修の開催形式だけでなく、研修内容についても相談を受けています。「どのような内容の講義を行うのか」「どのような準備をしたらいいのか」など、お問い合わせいただければ、ゼロから丁寧にお話しします。

実際に講座を受けた方々からはどのような感想が寄せられていますか。

「わかりやすい」という感想が多いですね。新入社員向けに開催したところ好評だったので、全社に展開した企業もあります。

また「株式投資のイメージが変わった」「投資はギャンブルではないことがわかった」「積み立て投資の必要性を実感した」などの声も寄せられています。ある企業からは、研修の満足度が平均値を大きく上回ったという喜びの声をいただきました。

中小企業の方々こそ、無料講師派遣での金融教育を検討してほしい

無料講師派遣のメリットをより受けられるのは、どのような企業でしょうか。

おすすめしたいのは中小企業です。確定拠出年金を導入している場合、継続的な金融教育が努力義務になっています。そのため、大企業の場合は、すでに取組みを始めている企業も多いようです。しかし、中小企業の取り組み状況は全体的にまだまだです。

そこで、金融教育の必要性を経営者に理解してもらうためのセミナーも手がけています。例えば、2021年10月4日の「証券投資の日」(10(とう)4(し)の語呂合わせ)に、東京証券取引所や投資信託協会とタイアップして、企業経営者・人事担当者向けにセミナーを開催しました。そこには数多くの中小企業経営者に参加いただいており、今後もそのような場を通じて意識を高めていければと考えています。

最後に、これから講師派遣を導入しようと考えている企業の担当者へメッセージをお願いします。

人事部で研修を主催すると、どうしてもビジネススキルの研修が優先されます。しかし、時代は変化しており、金融教育の必要性はますます高まっています。従業員のロイヤリティを高めるためにも、ぜひ私たちの研修を活用してください。

金子敏之さん(日本証券業協会 金融・証券教育支援本部 普及推進部長)

(取材:2022年6月21日)

日本証券業協会について
中立・公正な立場から証券投資の普及を推進

日本証券業協会は、金融商品取引法に基づき内閣総理大臣の認可を受けた日本で唯一の金融商品取引業協会です。日本証券業協会は、全ての証券会社や銀行等の協会員で構成され、証券市場や金融商品取引業の健全な発展と投資者の保護を目的として、様々な活動を行っております。

その活動の一環として、日本証券業協会では、中立・公正な立場から、小・中・高、大学生を対象とした学校向けの活動や一般社会人向けに金融・証券知識をやさしく理解していただくための普及活動を行っています。特に、社会人向け事業として、民間企業の社員研修や公的機関の職員研修など、ご依頼に応じて講師を無料で派遣する「無料講師派遣」を実施しています。

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