大卒求人倍率は7年連続して上昇、300名未満の中小企業の求人倍率は9.91倍と過去最高を記録するなど(リクルートワークス研究所「大卒求人倍率調査」2018年4月26日公表)、新卒採用は現在、“売り手市場”を超えて“採用氷河期”の様相を呈している。20シーズン(2020年4月入社予定者対象)はどうなるか? 創業以来30年間、企業の採用支援事業に取り組むヒューマネージが考える「2020新卒採用の“傾向”と“対策”」を聞いた。
- 山口 真貴子氏
- 株式会社ヒューマネージ 『HUMANAGE REPORT』編集長
(やまぐち まきこ)2001年入社。2007年より、ヒューマネージのオピニオン誌『HUMANAGE REPORT』編集長。業界シェア第1位の採用管理システム『i-web』、同第3位の適性アセスメントツールの膨大なデータにもとづく採用動向を発信している。
19シーズンの振り返り(1) 予想以上の早期化
ヒューマネージは、企業の人材採用を支援する「採用ソリューション事業」、適性検査の開発・提供を行う「アセスメントソリューション事業」、従業員のメンタルヘルス支援を行う「EAP事業」を通じて、人材の採用から定着まで、企業の課題解決のためのソリューションサービスを提供している。同社のオピニオン誌『HUMANAGE REPORT』編集長である山口氏は、はじめに2019新卒採用の特徴として
- (予想以上の)早期化
- 短期決戦
- AI採用元年
を挙げ、それぞれの特徴について、同社が提供する採用管理システム「i-web」のデータを元に解説した。「i-web」は10年連続シェア第1位*の採用管理システムであり、毎年、約450万件の応募者データ、約150万件もの選考応募データを保有している。
*「就職人気企業ランキング」(2010卒~2016卒:日本経済新聞社、2017卒~2019卒:ディスコ調べ)上位100社における採用管理システムのシェア(ヒューマネージ調査)
「一つ目の特徴である、『(予想以上の)早期化』について。採用広報開始前(プレ期)のインターンシップ実施企業が増えています。月別に見ていくと、採用広報開始直前の2月が多いのは前年同様ですが、その前の1月、12月、また夏季休暇期間である8月の開催も増えています。経団連の指針でいわゆる日数規定が廃止されたことも、インターンシップ活況の後押しとなりました」
「企業の動きに呼応して、学生の動きも早期化しました。インターンシップのプレエントリー推移を見ると、6月から前年を一貫して上回っており、プレエントリー人数は1月中旬時点で前年の1.2倍となっています。昨年もその前年の1.4倍でしたので、連続して増加しています。インターンシップが学生にとって身近なものとなり、インターンシップの応募/参加=就職活動スタートの意味合いが強まっていると推察されます」
19シーズンの振り返り(2) 短期決戦
二つ目の特徴である『短期決戦』を表すデータとして、学生のプレエントリー推移が示された。対象企業の前年のプレエントリー人数(9月30日時点)を100とし、10日ごとのプレエントリー人数の割合を示したグラフである。
「学生のプレエントリー推移を見ると、採用広報開始日である3月1日~3月10日の10日間で、前年のプレエントリー人数の約6割もの学生が一気にプレエントリーしています。一方、6月上旬時点の累計は昨年を下回りました。学生は3月1日より前に志望業界を絞り込み、3月1日からの10日間で、プレエントリー=企業探しをほぼ終えているのです。企業としては、否応なく、採用広報開始前(プレ期)の学生との接点が必要といえます」
「短期決戦の傾向は、面接にも見られます。19シーズンの一次面接~最終面接の期間を見ると、平均して17.4日と前年よりさらに短くなりました。大手・人気企業ではさらに短く12.2日となっており、2週間たたずに決着がついています」
19シーズンの振り返り(3) AI採用元年
昨シーズンの三つ目の特徴は、『AI採用元年』である。AIによるエントリーシート選考など、当初は書類選考の合否判断に活用する事例が主であったが、最近はより戦略的な活用が見られるようになったという。
「たとえば、学生さんの志望度・マッチング度に合わせたきめ細かい対応――『マッチング度は高いのでぜひ採用したいが、志望度がまだ高まっていない応募者へ個別に働きかける』『辞退の可能性を予測して、応募者に合わせた重点的な働きかけを行う』というように、マーケティングツールとして活用されている事例も出てきています」
20シーズン成功のポイントは
「多様化と、精緻な管理」「効率化」「AI採用に向けた準備」
では、2020新卒採用はどうなっていくのか? 山口氏は、20シーズンを成功させるポイントとして、
- 多様化と、精緻な管理
- 効率化
- AI採用に向けた準備
を挙げた。
一つ目の「多様化と、精緻な管理」とは、学生との接点の多様化、そして企業に求められる精緻な応募者管理を示唆している。
「昔と今の新卒採用を比較すると、経路(学生さんとの接点)が非常に多様になっています。従来は各社ほぼ同じスケジュールのもと、就職情報サイト+αという決まった経路で、応募者をある程度のかたまりで動かす採用が主流でした。一方、現在は、通年採用をはじめ、大学1,2年次で入社パスを出したり、インターンシップ(低学年向け含む)、ダイレクトリクルーティング、リファラル、新卒紹介、タレントプール……と経路が多岐にわたったり、個別対応が増えたりと、新卒採用においても中途採用に近い“つみあげ”の部分が増えてきています。
経路が多様化し、個別対応が増えれば、情報を“手間なく”“精緻に”一元管理する採用管理システムが、企業規模を問わず、ますます必須になると考えられます」
20シーズンのポイントの二つ目は、「効率化」である。“売り手市場”を超えて“採用氷河期”ともいえる現在、遠方の選考は物理的・金銭的な負担が大きいので敬遠するなど、「効率よく選考を受けたい」という学生の意向は強まっている。そのため、人事の業務効率化と学生の利便性アップ、その両方の充実を図ることが大切だと山口氏は言う。
「施策としては、WebセミナーやWeb面接(距離と時間の無駄をゼロにする)、適性検査のテストセンター対応(学生の都合のよいタイミングで任意の会場での受験が可能)、学生にとって利便性の高いコミュニケーションツールへのアップデート(LINEなど)が挙げられます。従来のやり方に固執せず、ITを駆使して双方にメリットとなる施策を打ち出していく姿勢がカギといえます」
三つ目のポイントは「AI採用に向けた準備」。山口氏は、「数年後、AI採用はごく普通になる」と予測する。
「ハードルが高いからAI導入を敬遠するのではなく、将来の導入を見据えて少しずつ準備を進めることが大切です。AI採用は、ツールを導入すれば成功するものではなく、正しいデータを入れてはじめて効果を発揮します。ですから、AI活用に使える科学的なデータを正確に管理しておく、面接評価や適性検査の結果などを紙ではなくデータで残すといった準備が必要なのです」
そして、この三つのポイントの先には、採用マーケティングの実践があるという。
「採用活動はよくマーケティングに例えられ、事実、マーケティングの手法が数年遅れて導入されることが常となっています。全体に向けた一方的な情報提供(マス・マーケティング)→文系/理系など大まかな属性別の働きかけ(セグメント・マーケティング)→応募者一人ひとりに応じたOne to Oneマーケティングへと進化するなかで、応募者へきめ細かく効果的に働きかけ、入社へ導くためのツールとして、AIが果たす役割は非常に大きいと言えます」
採用活動は、「応募者を集める」「合否を判断する」といった断片的な活動の集まりではなく、応募者と企業が出会い、理解を深め、志望度を高め、入社先企業として決断させ、入社へ導くという、企業と応募者の間のストーリーとして展開されるものだと、山口氏は語る。
「そのストーリーづくりを、AIがマーケティングツールとして支援するというのは、非常に理にかなっていると言えます。採用成果をあげるために、今後ますますマーケティングの視点が重要になるでしょう」
活躍できる人材を獲得(Attraction)し、能力を最大化した形で定着(Retention)させることは、重要な経営戦略のひとつ。私たちは、人の時代の新しい人材マネジメントをニーズに合わせて具体化し、企業の輝く明日を支援します。