昨今、データ解析や言語処理による文章生成、アルゴリズムによる資産運用など、さまざまな事業領域でAI(人工知能)が活用されています。そのため、ますます重要性を増しているのが、企業における「AI人材」の育成。これまでのように「システムは外注任せ」ではなく、自社の課題を深く理解したうえで、適切にAIを活用できる人材を自社で育てることが必要になってきているのです。オンライン学習プラットフォーム「Udemy」で人気の「人工知能・機械学習 脱ブラックボックス講座」の講師で、さまざまな企業向けにAIセミナーを提供する株式会社キカガクの吉崎亮介さんに、AIの可能性や、企業におけるAI人材育成に必要なことをうかがいました。
<Udemyとは?>
世界で2,000万人以上が利用する世界最大級のオンライン教育サービス。2015年より教育のベネッセコーポレーションが日本における事業パートナーとして協業を開始。これまでは個人のスキルアップを目的に提供を行ってきたが、昨今のIT人材不足に伴う企業からの研修教材としての活用のニーズを受け、この3月より法人向けの提供プランを開始。キカガク吉崎氏のAI講座をはじめ、IT人材育成に役立つ多くの講座を提供している。
- 吉崎 亮介さん
- 株式会社キカガク代表取締役社長
よしざき・りょうすけ/1991年京都府出身。舞鶴工業高等専門学校でロボット工学・画像処理を学び、京都大学大学院にて機械学習による製造業のプロセス改善に従事。修士2回生の時に化学工学界で世界最高峰の国際学会ADCHEMにて最優秀若手研究賞を受賞。新卒入社した株式会社SHIFT、株式会社Caratの共同創業を経て、株式会社キカガクを創業、現職。その傍ら、株式会社バンダースナッチCDO(Chief Data Officer)、G’s Academy講師兼メンター、コンサルティング、日本マイクロソフト・Preferred Networks両社公認のデータサイエンス人材養成トレーナーなど様々なプロジェクトに関わっている。2018年4月より東京大学客員研究員に就任。
AIは「人の仕事を奪う」のではなく、「人らしい働き方」を取り戻すもの
ビジネスにおいてAI活用の必要性が高まっているのはなぜでしょうか。
大きく分けて二つの理由が挙げられます。一つ目は、労働力の減少を補うことができるから。マクロな視点で見たとき、少子高齢化によって日本の労働人口の減少は避けられません。圧倒的に労働人口が足りなくなる中で、GDPの減少を漫然と見過ごすわけにもいかない。企業には主婦やシニア、外国人の方など、さまざまな人材を確保する努力が求められますが、一方でこれまでと同等のパフォーマンスを出すためには、定型的な作業の自動化が必須です。人が減ってしまったからといって、一人が二人分、三人分を寝ずに働いて補う、というわけにはいきませんからね。
二つ目は、ミクロ的な視点で社員がより幸せに働けるようになるから。私自身がAI教育を事業としているモチベーションでもあるのですが、AIによって単純作業から解放されることで、多くの人がよりクリエイティブな仕事に専念することができます。よく「AIは人の仕事を奪う」とあおりがちに語られますが、私は必ずしもそれが正しいとは思いません。私の場合、毎日同じような単純作業を繰り返すのが苦手なんです。単純作業を自動化することで、今までそれに費やしてきた時間を短縮し、もっと多くの人と会って話をしたり、提案したり、といったクリエイティブなことに時間を使いたい。それこそが、人間らしい働き方だと考えています。
確かに、「自分の仕事がAIに奪われる」と考えるのではなく、「もっと有意義な仕事に時間を割くことができる」と考えると、真剣に導入を検討したくなります。とはいえ、日本企業ではなかなかAI活用が進んでいないのも事実です。
日本企業の場合、これまでその必要性を実感する機会が少なかったことが理由かもしれません。たとえば、アメリカでは既に多くの企業でAIの活用が進んでいますが、それは人材の流動性が高く、人がすぐに異動したり退職したりするため、徹底的に属人性を排除する必要があったから。一方、日本ではこれまで「新卒一括採用」「年功序列」などにより人材の流動性が低く、たとえ業務が属人化していても、その人が辞めなければ問題はなかった。
ただ、近年はその状況に変化も現われてきています。特にIT 系企業などでは転職する人が増えていますし、働き方も多様になっています。ITを活用することで、組織やオフィスにとらわれず、働きたいときに働けるようになったからです。今後は日本企業でも業務の属人化を排除し、AI・ITを活用することが不可欠になるでしょう。
「とりあえずAI」で起こる不幸なミスマッチ
吉崎さんはAI教育の一方で、さまざまな企業や組織にAI導入支援コンサルティングを行われています。活動を通じて企業側には、どのような課題があるとお感じでしょうか。
そもそも、AIがどのようなものなのかを、正しく理解している人が少ないように思います。それなのにメディアが頻繁に取り上げていることもあり、経営者があわてて「我が社もなんとかしなきゃ」と走り出してしまっている。「上司が『AIを活用しろ』と言っているので……」と、思考停止状態のまま、ひとまずプロジェクトを立ち上げてみた、というケースも多いですね。しかし、そんな状態で走り出しても、思うような実績は上げられません。
たとえば、当社に「人材採用でAIを活用したい」というお問い合わせをいただくこともあるのですが、そもそもどんな人材を採用したいのか、どんな目的でAIを活用したいのかが不明瞭なことが多いんです。スキルマッチを重視するなら、志望者が持っている資格や技能をチェックリストに入れて、それを満たしている人を選定すればいいのですが、それではAIを使うまでもありません。新卒採用や中途採用のプラットフォームで検索を行えば十分でしょう。社風とのマッチングを重視するなら、自社の社風はどういうものなのかを定義しなければなりません。それを明確にしたうえで人材を複数の評価軸に分類し、どれに当てはまるのかを明らかにするため、声のトーンや顔の表情などのデータを取得して解析する仕組みを作ることは可能です。その際、軸として何を設定するのか、また、それを分析するためにどんなデータを集めるのか。AI活用のためには、企業側がさまざまなことを明確にしなければなりません。
人事の採用基準が不明瞭で、面接官一人ひとりが受ける「印象」に頼っているようでは、AI活用の道は遠いわけですね。
そう言わざるを得ませんね。AI活用で重要なのは主に4点です。
①ロジカルに考えること
意思決定の際に「なんとなく良かったから、悪かったから」ではなく、「こういう理由があるから」と合理的に判断できなければいけない
②定量評価ができること
誰がどう見ても合理的に判断できるような定量的な評価軸があることが重要。また、その評価軸を明確にするためにどんなデータを集めればいいのか、という視点も必要
③検証ポイントを設けること
さらにその定量評価に基づきつつ、どういう点でその企画が優れ、どの点において改善の余地があるのか、検証するポイントを設けることが重要。 目の前にあるデータを持って、「とにかくこれを解析してください」というのではなく、どんなデータがあれば次の意思決定ができるのか、そのためにどんなデータを集めればいいのかを考えられるようにしておく
④「ゴール」を決めておくこと
そもそもデータ解析における「ゴール」を決めておくことが、もっとも大切。 本質的に何を実現したいのか、それを実現するためにどういうゴールを設定するのか、企業の中で明確に共有できていることが重要
吉崎さんが普段、企業と接する中で、AIに関してどんなニーズが顕在化していますか。
当初は単に外注先として「データ解析をお願いしたい」という問い合わせが多かったのですが、創業から1年経ち、少しずつ変化してきたように感じます。たとえば、先行してAI活用によるデータ解析やソリューションを依頼したけれど、中身がブラックボックス化してしまい、会社としてうまく活用できないまま、技術的な負債として残ってしまった、という話を聞いたことがあります。最近はそういった事態を避けるため、社内でAIなどを活用できる人材を育成し、内製できる体制を整えることでデータを「生きた資産」として活用したい、というニーズが大きくなってきています。
確かにAIを活用するには、そもそもどんなデータを集め、どんな業務に導入すればいいのか、社員自身が理解している必要がありそうですね。
専門会社へ外注するにしても、最低限のリテラシーは必要です。しかし、残念ながら現状では、企業内でそのリテラシーを持っている人は少ないと言わざるを得ません。AI活用において最低限持つべきリテラシーについては次のような点が挙げられます。
<吉崎氏が推奨するAI活用に必要なリテラシー>
- AI、機械学習、ディープラーニング(深層学習)の違い
- インプット、アウトプットに必要なデータ形式の理解
- 企画から納品までのフロー・プロセス
- AIを適用すべき案件や業務を切り分けて考える力
これまでのシステム開発では、ある程度アプリケーションのイメージさえあれば、ユーザー目線で「こういう機能をつけてほしい」「こんなボタンを設置したい」などと発注することが可能でした。しかし、AIの場合は元のデータを適切に設計しなければなりませんし、数値化してエクセルのカラムに入れなければならない。「メールの文章がいくつかあるので、これをもとに解析してもらえませんか」といったご要望をいただくこともあるのですが、それは不可能です。データ解析案件の納品の際は、第一段階として結果をレポートでまとめて提出することがほとんどですが、それを読み解く知識がなければ、何の意味もありません。そのため、受発注を問わず企業にとって、AIやITへの深い理解と知識、リテラシーのある人材を育成することが急務となっているのです。
AI活用に必要な人材育成とは?
適切にAIを活用できる人材を育成するためには、どうすればいいのでしょうか。
大きく分けて二つのプロセスが必要だと考えています。まずは、とにかくインプットすること。AIに関する知識を学び、データ解析の実務に必要なスキルと考え方を身につけます。次に、アウトプット。学んだことを実務の中で生かせるよう、具体的な業務に落としこんでいきます。ただ、インプットしたからと言って、すぐにアウトプットへつなげるのは難易度が高いのも確か。私たちはこの間に「ケーススタディー」をはさむことにより、うまく橋渡しをするようにしています。
インプットはとにかく「質」が重要です。今はAIに注目が集まっていることもあって、さまざまなセミナーが行われていますが、数学がわかる前提で話が進んでしまったり、概論だけを学び、実際に活用できるまでをカバーしていなかったりして、なかなか身につかないことも多い。私のセミナーでは初心者の方向けに数学の基礎からフォローしていて、しっかり手を動かし、ハンズオンでプログラミングすることで、AIを理解できるようになっています。
次に、ケーススタディー。一口にAIと言っても、できることはさまざま。「AIを活用したい」というのは、漠然と「スポーツがしたい」と言っているようなものです。野球なのかサッカーなのか、どんなアウトプットを目指しているのかによって、プロセスは異なってきます。
講座内容や受講価格などの詳細については、利用人数を添えて下記までお問い合わせください。
インプットの質を高めることもさることながら、それを実践に落とし込むステップが必要なんですね。
そういう意味では、私たちがUdemyのオンライン講座で提供している「人工知能・機械学習 脱ブラックボックス講座」は、十分にブラッシュアップされているうえに、価格的な導入ハードルも低く、インプットに最適な教材だと思います。オンラインであれば、時間や場所に拘束されずに学べるので企業としても社員に研修として提供がしやすいと思います。
また、いかに「学び続けられる環境を作るか」も非常に重要です。その意味で、企業が果たすべき役割は大きいと言えます。インプットで十分に知識を身につけてから実際の業務に活用できるようになるまで、ケーススタディーを提供するなど、私たちがフォローすることは可能ですが、それ以上に重要なのが社内のフォローアップ体制です。
AI人材が必要なのは、特定の事業領域に限りません。事業部ごとにそういった人材を配置することで、業務改善や効率化など、あらゆる課題解決につなげることが可能です。そのためにはやはり、組織の中でAI人材を育成し続けられる環境を作ることが重要だと思います。
そういう意味では、人事としてその仕組みを評価制度に組み込み、「学び続けられる組織づくり」を推進していくことも重要ですね。
まさに、そうですね。「AIを導入するにも予算がなくて……」とおっしゃる企業も多いのですが、それはきちんと仕組み化できていないからです。まずはオンライン講座で社内のリテラシー強化、人材の育成をスタートし、それと同時に、現状抱えている課題の中で、どういったことがAIを活用するに値するものなのかを検討する。そして、データ解析に適した形式でデータを集めていく。それこそが、企業におけるAI活用の最も現実的かつ最善の方法だと思います。
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