本当のIT革命を生き抜く
「個人尊重の組織論」とは(前編)
成果より「がんばり」で評価される組織が社員をつぶす?

同志社大学 政策学部 教授

太田 肇さん

任せて待つ――努力の“量”を“質”へ替えるために

近年、業務の「見える化」が推奨されていますが、見える化できるのは従来の「がんばり」でやってきた部分であり、いずれITに肩代わりされるということですか。

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その通りです。私は、仕事のプロセスよりも、アウトプットを「見える化」する必要があると考えています。この社員がこれだけの成果を上げた、これだけの仕事をしたという、川下の部分をきちんと見ていかなければいけません。ところが、いまだに工業化社会のパラダイムから脱却できず、プロセスを見て、プロセスを評価・管理すれば成果も上がるという考え方が根強いのが、日本の組織の現状です。やはり一番の問題は、人材をプロセスにおける「がんばり」で管理しようとするトップや管理職でしょうね。組織での立場が上になるほど、「がんばると迷惑な人」の“実害”は大きくなります。

口では成果主義と言いながら、実際はどれだけ遅くまで働いているかで部下を評価する、「がんばり」志向のリーダーが極めて多いと思います。はっきり、そう公言する人もいますからね。上司からやる気や仕事ぶりで評価・管理されると、部下は、どんなに工夫して、成果を出そうとしてもできません。結局は、「がんばり」のパフォーマンスを行うしかないわけです。目の前の仕事よりも、どれだけがんばっているかをアピールすることに意識が向かってしまう。上の人間がそれを求めている以上、仕方がありません。

オフィスのレイアウトの影響も大きいでしょうね。日本の場合はまだ、大部屋で顔を突き合わせて仕事をする、事務処理型オフィスが一般的です。そういう環境では、どうしても上司に手元までのぞきこまれますし、忙しそうにしていると「よくがんばっているな」と褒められ、逆にじっくり考えたりしていると「暇そうだな、これをやっておいてくれ」と雑用を押し付けられかねません。そういうオフィスの構造そのものが、努力の質より量を生む装置になっているのです。個室にしたり、パーテーションを設けたりという手もありますが、いっそのこと、お互いに顔を突き合わせているのを逆にして、壁のほうを向いて座ってみたらどうでしょう? ミーティングなどの時だけくるりと反転して、向き合えばいい。それだけでより集中できると思いますね。とにかくいまのオフィス環境は、知的な作業に適していません。

「がんばり」が個人や組織の成果に結びつかないとすれば、代わりに求められるのは何でしょうか。

ブラック企業やワークライフバランス、女性が管理職に就きたがらない問題などはすべて、組織が個人に「がんばり」を、つまり一つの方向に向かう努力の“量”を求めてきたことの弊害に他なりません。これを努力の“質”に替えないと、国際競争力の点でも、他国にますます水をあけられてしまいます。では量から質へ、どう転換すればいいのかというと、基本は、組織が個人を囲い込まず、野心を持たせることに尽きるでしょう。そうすれば、各自が自然と効率的な方法を考えて、いい方向に努力しますから。

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日本の場合、組織が第一線で仕事をする個人に対してあまりにも裁量権を与えていない。私は、そこが問題だと思うのです。若い人にも、もっと思い切って任せればいいのではないでしょうか。最初はお互いに戸惑うかもしれませんが、決してできないわけじゃない。任せないから、できないだけなんです。

日本企業は人員構成上ミドルが多く、しかもその多くがプレーイングマネジャーです。これでは、仕事が若手になかなか回ってきません。

ちょっと言葉は悪いですが、大事な仕事、いい仕事はみんな、ミドルがとってしまっているようなところがあるんですね。任せるのが不安なのか、奪われるのが嫌なのか、案外、後者が本音なのかもしれません。若手社員にしても、これまでは上司の顔色ばかりうかがって「がんばり」続けていたわけですから、急に大きな仕事を自由に任せられたら、野心より不安を覚えるのが普通でしょう。それでも二年、三年たてば、自分でしっかりと考えて行動できるようになるはずです。

努力の質を引き出すには、任せると同時に、待てるかどうかがカギですね。

最近は組織のフラット化に取り組む企業が増えてきましたが、いったんフラット化したものの、部下が思うように成長しないとか、権限を委譲するのが不安といった理由で、組織改編を撤回するケースも少なくありません。要は、待てないんですね、二、三年が。待つというより、撤回や後戻りはしないという姿勢を会社が打ち出せば、若い社員も腹をくくって自発的に行動すると思います。いずれにせよ、もう少し長期的に見たほうがいいでしょうね。

企画・編集:『日本の人事部』編集部

Webサイト『日本の人事部』の「インタビューコラム」「人事辞典「HRペディア」」「調査レポート」などの記事の企画・編集を手がけるほか、「HRカンファレンス」「HRアカデミー」「HRコンソーシアム」などの講演の企画を担当し、HRのオピニオンリーダーとのネットワークを構築している。

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