ワークエンゲージメントの高い人に共通する「上司のサポート」とは-「成長機会をくれる上司」がいる人ほど、働きがいを感じている-
ニッセイ基礎研究所 保険研究部 准主任研究員 岩﨑 敬子氏

従業員のワークエンゲージメントを高めるうえで、上司による支援は重要な役割を果たすと考えられている。本稿では、ニッセイ基礎研究所が実施した全国の被用者を対象とする調査データを用いて、上司のサポートや関わり方とワークエンゲージメントとの関連を分析した。その結果、上司を肯定的に評価している人ほどワークエンゲージメントが高い傾向が確認され、とくに「部下が能力を伸ばす機会を持てるように取り計らってくれる」といった成長機会の提供が、最も強く関連していた。また、「上司と気軽に話ができること」は若年層ほどワークエンゲージメントとの関連が強い可能性も示された。
1――はじめに
近年、組織による人材確保や生産性向上の観点から、従業員のワークエンゲージメントへの関心が高まっている。ワークエンゲージメントとは、「仕事に関連するポジティブで充実した心理状態であり、活力、熱意、没頭によって特徴づけられる」1。従業員のワークエンゲージメントを高めるうえで、上司との関係は重要な役割を果たすと考えられている。部下が気軽に相談しやすい関係の構築、部下への適切なフィードバック、部下が困ったときのフォローなど、上司に求められる役割は多岐にわたる。では、こうした上司と部下との関わりのうち、どのような要素が従業員のワークエンゲージメントと特に強く関連しているのだろうか。
本稿では、ニッセイ基礎研究所の独自調査データを用いて、上司による支援や部下への関わり方の諸側面についてワークエンゲージメントとの関連を分析し、どのような上司のもとで働く人ほどワークエンゲージメントが高いのかを概観する。
1 島津(2016)による、Schaufeli et al.(2002; 2004)の定義の引用。
2――調査概要
本稿の分析には、ニッセイ基礎研究所が実施するWebアンケート調査「被用者の働き方と健康に関する調査」の2026年のデータを用いる。本調査は、全国の18~64歳の被用者(公務員または会社に雇用されている人2)を対象として、2019年から2026年まで毎年2~3月頃に実施している。回答数は各回おおむね5,500~6,500件であり、回答は全国11地区の性・年齢別の分布が国勢調査の分布にできるだけ近づくように回収している3。2026年の調査の回答数は5,680である。
本稿では、ワークエンゲージメントを、「仕事をしていると活力がみなぎるように感じる」と「自分の仕事に誇りを感じる」の2項目を用いて測定した。いずれも4件法(「そうだ」「まあそうだ」「ややちがう」「ちがう」)で回答を求め、回答を得点化したうえで平均値を算出し4、値が高いほどワークエンゲージメントが高いことを示す指標を作成した5。
2 株式会社クロス・マーケティングのモニター会員
3 第2回(2020年)調査以降は、前年以前の回答者からの回答を優先的に回収しているため、一部パネルデータとなっている。
4 そうだ=3点~ちがう=0点として得点化した。
5 本稿では簡便的な指標として当該2項目を利用した。ワークエンゲージメント指標の分布は付録図A1を参照。
3――部下から見た上司のサポート別のワークエンゲージメントの分布
図1は、部下から見た上司のサポートや関わり方別にワークエンゲージメントの平均値を示したものである。上司と気軽に話ができるか、困ったときに頼りになるか、個人的な相談を聞いてくれるか、成長機会を提供してくれるか、誠実な態度で対応してくれるか、上司からふさわしい評価を受けているかといった内容について、いずれも肯定的な回答をした人ほど、ワークエンゲージメントが高い傾向が確認される。
4――上司のサポートのうち、ワークエンゲージメントと強く関連する要素
もっとも、図1はそれぞれの項目について個別にみた結果であり、どの要素がワークエンゲージメントと特に強く関連しているかは判別できない。そこで性別や年齢、働き方の特徴などを統制したうえで、上司のサポートや関わり方の各側面とワークエンゲージメントとの関連の強さを比較した結果が図2である6。
図2から、上司のサポートや関わり方に関するいずれの項目もワークエンゲージメントと正の関連がみられるが、その中でも成長機会の提供(「部下が能力を伸ばす機会を持てるように取り計らってくれる」)への評価が最も強い統計的関連を示している。
上司のサポートや関わり方がワークエンゲージメントと関連する傾向はこれまでもさまざまな研究で報告されてきたが、本稿の分析結果からは、その中でも部下が成長できる機会を提供する上司のもとで働く人ほど、ワークエンゲージメントが高い傾向にあることが示された。
6 性別、年齢、年齢の二乗、性別と年齢の交差項、健康状態、仕事の裁量度、職場への意見反映度、雇用形態、企業規模、女性管理職比率、管理職かどうか、子どもの有無、年収を統制した重回帰分析の結果。成長機会は「上司は、部下が能力を伸ばす機会を持てるように取り計らってくれる」、評価納得は「上司からふさわしい評価を受けている」、誠実さは「上司は誠実な態度で対応してくれる」、個人の相談は「あなたが個人的な問題を相談したら、上司はどのくらいきいてくれますか」、話しやすさは「上司はどのくらい気軽に話ができますか」、頼りになるは「あなたが困った時、上司はどのくらい頼りになりますか」への回答を指す。各上司サポート項目は0~3点(値が大きいほど肯定的評価)として得点化している。なお、統制変数を含めずに上司サポート項目のみを説明変数として投入した重回帰分析の結果を付録の図A8に示した。結果は図2と概ね同様であり、「成長機会」の関連が最も強く、「頼りになる」の関連は有意ではなかった。
5――年齢によって異なる「上司と気軽に話ができること」の重要性
上司のサポートや関わり方がワークエンゲージメントに及ぼす影響は、年齢によって異なる可能性も考えられる。そこで、上司との関係の各側面とワークエンゲージメントとの関連の強さを年齢別に推定した結果を図3に示した7。
図3からは、6つの上司に関する項目のうち、「話しやすさ」(上司はどのくらい気軽に話ができますか)について、年齢によって関連の強さが異なることが示唆された。一方、「個人の相談」(あなたが個人的な問題を相談したら、上司はどのくらいきいてくれますか)についても、図3からは年齢が高いほど関連が強い傾向がみられたものの、回帰分析では、ワークエンゲージメントとの関連の強さに年齢による違いが5%の有意水準で確認されたのは、「話しやすさ」のみであり、その他の項目では年齢による違いは確認されなかった。
若年層は就業年数が比較的短い傾向にあるため、業務上の相談や助言を得るために上司とのコミュニケーションが果たす機能が相対的に大きく、上司と気軽に話ができる関係性がワークエンゲージメントとより強く結びついている可能性がある。
7 図3は、脚注6に示したモデルに、各上司項目と年齢との交互作用を加えた重回帰分析に基づき、各年齢(20、30、40、50、60歳)における各上司項目の限界効果を示した。
6――おわりに
本稿では、上司のサポートや関わり方のさまざまな側面とワークエンゲージメントとの関連を分析した。その結果、上司と気軽に話ができるか、困ったときに頼りになるか、個人的な相談を聞いてくれるか、成長機会を提供してくれるか、誠実な態度で対応してくれるか、上司からふさわしい評価を受けているかといった、いずれの側面についても、上司を肯定的に評価している人ほどワークエンゲージメントが高い傾向が確認された。
さらに、性別や年齢、働き方の特徴などを統制した分析を行ったところ、これらの要素の中でも、「部下が能力を伸ばす機会を持てるように取り計らってくれる」との上司への評価が、ワークエンゲージメントと最も強く関連していた。また、「上司と気軽に話ができる」という評価については、若年層ほどワークエンゲージメントとの関連が強い可能性も示された。
近年、企業においては従業員のエンゲージメント向上への関心が高まっている。本稿の結果は、上司のサポートや関わり方がワークエンゲージメントと関連していることに加え、その中でも部下の成長を支援する働きかけが特に重要である可能性を示している。また、若年層に対しては、育成支援に加えて、気軽に相談やコミュニケーションができる関係づくりも重要であることが示唆される。
もっとも、本稿で用いたデータは一時点の調査結果であり、因果関係を示すものではない。ワークエンゲージメントが高い人ほど上司から成長機会を与えられている可能性や、本人や職場の特性が、ワークエンゲージメントと成長機会の提供の両方に影響している可能性も考えられる。また、本稿では簡便的な指標を用いており、ワークエンゲージメントの全側面を十分に捉えていない可能性がある点にも留意が必要である。今後は、どのような上司の支援がワークエンゲージメントにどのような影響を及ぼすのかについて、継続的な調査データを用いた検証が期待される。
※本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
参考文献
島津明人(2016)「ポジティブメンタルヘルスとワーク・エンゲイジメント ─ストレスチェック制度の戦略的活用に向けて─」総合健診43巻2号, 22-27.
Schaufeli, W. B., Salanova, M., Gonzalez-Romá, V., and Bakker, A. B. (2002). The measurement of engagement and burnout: A two sample confirmatory factor analytic approach. Journal of Happiness Studies, 3, 71-92.
Schaufeli, W. B. and Bakker, A. B. (2004). Job demands, job resources and their relationship with burnout and engagement: A multi-sample study. Journal of Organizational Behavior, 25, 293-315.
付録
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ニッセイ基礎研究所は、年金・介護等の社会保障、ヘルスケア、ジェロントロジー、国内外の経済・金融問題等を、中立公正な立場で基礎的かつ問題解決型の調査・研究を実施しているシンクタンクです。現在をとりまく問題を解明し、未来のあるべき姿を探求しています。
https://www.nli-research.co.jp/?site=nli

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