定年再雇用における同一労働同一賃金について
同一労働同一賃金において人事担当者を悩ませる問題の一つが、定年再雇用した社員の取り扱いです。2021年4月1日から「70歳までの就業機会の確保」が盛り込まれた改正高年齢者雇用安定法が施行され、各企業で定年再雇用の動きがますます進んでいます。同一労働同一賃金と定年再雇用の関係性について理解を深めることは、制度を順守した適切な人事管理を進めていく上で重要です。
1. 定年再雇用後は同一労働同一賃金の対象となる
大前提として、正社員として働いていた社員が定年再雇用されると、再雇用後は同一労働同一賃金の対象となる場合がほとんどです。
定年再雇用時は新たな労働契約を結ぶことが可能となっており、65歳や年金受給開始の年を上限に、有期雇用労働者として契約するパターンが一般的です。同一労働同一賃金において、有期雇用者は「非正規雇用労働者」の取り扱いになるため、正社員との待遇格差に注意しなければなりません。
ただし、定年再雇用された社員については、正社員との待遇差がただちに不利益と認められるわけではありません。以下は、同一労働同一賃金ガイドラインにおける、定年再雇用された社員の取り扱いに関する記載です。
定年再雇用された社員にもパートタイム・有期雇用労働法が適用されますが、待遇差の不合理は「その他の事情」として判断される旨が記載されています。退職金や年金の受給、加齢による体力の低下などさまざまな理由が考えられますが、定年再雇用された社員は、他の非正規雇用労働者と同じに考えてはなりません。
2. 同一労働同一賃金における定年再雇用の注意点
待遇を引き下げる場合は労使の合意が必要
定年再雇用時に新たな労働契約を締結する際は、労使双方の合意が必要です。定年前と比べて待遇を引き下げる場合は、契約が無効にならないよう合理的な理由により納得してもらう必要があります。
正社員と同じ業務内容であれば、待遇差が不合理と認められる可能性がある
定年再雇用後の業務内容や労働条件が正社員と同じであれば、正社員との待遇格差は不合理となる可能性があります。待遇格差を設ける場合は、定年再雇用後の事情を考慮した合理的な理由が必要です。
定年前と業務内容が同じ場合、待遇差が不合理と認められる可能性がある
定年再雇用時は賃金が減額されるのが一般的ですが、減額の程度について明確な取り決めはありません。手当などの支給についても同様です。そのため、定年前と業務内容が変わらないのに、賃金を大幅に減額したり手当などを不支給にしたりすることは、不合理となる可能性があります。
3. 長澤運輸事件の判例
定年再雇用された嘱託社員の待遇格差が焦点となった判例として、長澤運輸事件を紹介します。この事件は、定年再雇用された嘱託社員が、仕事内容、責任の度合いが正社員と全く同じにもかかわらず待遇格差があることについて、不合理だと訴えた事件です。
手当名 | 不合理か否か | 判断理由 |
精勤手当 | 不合理 | 社員の皆勤を奨励するための手当であるため、嘱託社員にも支給すべきである。 |
超勤手当 | 不合理 | 超勤手当の計算基礎となる賃金に、上記の精勤手当が含まれていないため。 |
能率給および職務給 | 不合理でない | 正社員には支給していない歩合給を、補完として支給しているため。 |
役付手当 | 不合理でない | 正社員の中で指定された役職に就いている者にのみ支給される手当であるため。 |
住宅手当、家族手当 | 不合理でない | 正社員に対する福利厚生の意味合いで支給されていることに加え、会社側が年金開始までに調整金を支給することで収入の補填をしているため。 |
賞与 | 不合理でない | 退職金を受け取り済みであることに加え、会社側が調整金を支給することで収入を補填(ほてん)しているため。 また、賃金年収が正社員時の79%程度に抑えられているため。 |
参考:最高裁判所判例集 事件番号 平成29(受)442 全文|裁判所
判断のポイント
判例では、「歩合給」や「調整給」を支給することで、会社側が収入の補填していたことがポイントです。手当の支給・不支給のみに捉われず、定年再雇用した社員の生活安定を配慮することが重要といえます。
4. 定年再雇用した社員の生活が不安定にならないように
定年再雇用者の待遇格差については、不合理と認められる明確な基準がないだけに、判断が難しいところです。そのため、社員に不利益や生活の不安定さが生じないよう工夫をすることが重要です。
まずは、定年再雇用後の業務内容や労働条件を明確にし、定年前と定年後で待遇差が生じる理由を明らかにしましょう。加えて、社員の生活に不安定さが生じるのであれば、会社側が収入を補填することも視野に入れて考えるとよいでしょう。
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