チェンジエージェント
チェンジエージェントとは?
「チェンジエージェント」とは、もともと組織開発の領域で使われ始めた用語で、組織における変革の仕掛け人、あるいは触媒役として変化を起こしていく人のことを言います。変革の当事者として、自らそれを指揮すべき立場にある経営者や組織のトップとは一線を画し、むしろその代理人(エージェント)として、変化への対応を余儀なくされる組織のメンバーとの間を仲介し、信頼関係を醸成して、改革を支援・促進する役割を担うのがチェンジエージェントの立ち位置です。したがって、組織開発の知識やスキルを持つ専門人材が適任者といえますが、近年は本来の定義を拡張し、率先して社会や組織を変えようとする人々やリーダー全般を言うことが増えてきました。
トップと現場をとりもつ変革の“促進者”
人事部こそ組織変革のエージェントたれ
本来は組織開発論の用語である「チェンジエージェント」という言葉が、日本で一般に使われるようになったのは、2002年に刊行された“経営学の巨人”P.F.ドラッカーの著書『ネクスト・ソサエティ――歴史が見たことのない未来が始まる』の影響だと言われます。ドラッカーは同書の中で「組織が生き残りかつ成功するためには、自らがチェンジエージェント、すなわち変革機関とならなければならない。変化をマネジメントする最善の方法は、自ら変化をつくりだすことである」と説いています。これがきっかけとなったために、「チェンジエージェント=改革者、変革のリーダー」という解釈が広く定着。破たん寸前の企業をV字回復させたらつ腕経営者や革新的な製品・サービスを開発した技術者、困難な問題解決に挑戦する社会起業家といった人々が、チェンジエージェントとして語られることも少なくありません。しかし、そうしたイメージは用語本来の定義とは異なり、必ずしもチェンジエージェントの本質を表していないことには留意が必要です。
端的に言うと、チェンジエージェントの本質は、変革の推進者というより“促進者”です。企業であれば、変革の必要に迫られた時、経営者が率先して会社を変えようとしても、改革には抵抗がつきもの。トップダウンで強引に進めるほど、現場との軋轢(あつれき)は大きくなりかねません。そんな時、両者の間を取り持って、変革を成功に導くのがチェンジエージェントの役割なのです。
したがってチェンジエージェントには、組織開発のノウハウはもとより、心理学や行動科学の知識、トップからパートナーとして信頼されるだけの経営観やビジネスマインド、現場の社員に変革の必要性を納得させるコーチングやファシリテーションのスキルなどが求められます。企業が、それらを持ちあわせた人材を社内に見出すことは容易ではなく、実際には、社外の専門家やコンサルタントが担うことも少なくありません。
しかし、人事領域の世界的権威であるミシガン大学のデイビッド・ウルリッチ教授は、著書『MBAの人材戦略』の中で、“人事部門が果たすべき四つの主要な役割の一つ”として、このチェンジエージェントを挙げています。これからの企業人事はどうあるべきか、その方向性を考える上で、きわめて重要な示唆といえるのではないでしょうか。
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