一時帰休
一時帰休とは?
一時帰休とは、企業が業績悪化などを理由に事業活動を縮小する際に、従業員を一時的に休業させることを意味します。労働基準法第26条の「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当するため、休業期間中は平均賃金の60%以上の休業手当を支払う必要があります。
1. 一時帰休とは
新型コロナウイルス感染症の影響で、一時帰休を選択する企業が増えています。休業することによる企業のイメージの悪化も懸念されますが、状況によっては踏み切らざるを得ないケースもあるでしょう。そのような状況で一時帰休を選択するメリットとして、人件費を軽減しながら雇用を継続できる点が挙げられます。
優秀な人材を流出させることなく、事態の収拾後には通常の勤務に戻すことができます。また従業員にとっても、休業手当により最低限の生活が保障されることはメリットといえます。
レイオフとの違い
一時帰休と似た制度に「レイオフ」があります。レイオフとは一般的に、将来的に再雇用する前提で、従業員を一時的に解雇する制度です。従業員を解雇する際に使われる「リストラ」との違いは、リストラは再雇用が前提に含まれないのに対して、レイオフでは再雇用を前提としていることです。
レイオフは「整理解雇」に該当するため、30日以上前に解雇予告を行うこと、あるいは解雇予告手当(平均賃金の30日分以上)を支払うことが義務付けられ、かつ、整理解雇に必要な次の要件を満たしているかどうかが厳しく判断されます。
- 人員を削減する必要性があるか
- 解雇を回避する努力をしたか
- 人選は合理的か
- 解雇手続きは妥当か
レイオフでは、労働者が失業手当(正式には基本手当)を受給できない可能性があります。失業手当を受給するには、働きたい意思および能力があるのに就業できない状態、かつ求職の申し込みが必要です。そのため、再雇用の約束がある場合は完全な失業状態と言いがたく、失業手当を受給できないと考えられます。
海外では、レイオフから訴訟へと発展する事例も珍しくなく、レイオフの実施には慎重になる必要があります。どうしてもレイオフに踏み切らざるを得ない場合は、対象となる従業員に正当な理由を十分に説明するとともに、法律に従った手続きが必要です。
労働者にとっては一時的な離職で元の職場に戻れる可能性が高いこと、企業にとっては人件費を減らせることがレイオフのメリットといえます。海外では一般的な手法ですが、日本では正社員の解雇が難しいため、レイオフよりも一時帰休が選ばれる傾向があります。
自宅待機、一時休業は同義語
労働契約にのっとって、労働者が労務を提供する意思と能力があり、準備をしているにもかかわらず、使用者から労務の提供を拒否されるなどの理由で労働することができない状態が「休業」です。この定義に当てはまる限り、一時帰休や自宅待機、一時休業はいずれも「休業」の一種となります。
2. 一時帰休に対する支援
一時帰休に対する支援制度として、企業向けには「雇用調整助成金」、労働者向けには「休業手当」があります。
雇用調整助成金
景気が悪くなると、企業の経営に悪影響を及ぼします。しかし、企業が積極的に人員を解雇した場合、当該企業ひいては社会全体の活力にダメージを与えてしまいます。事業活動を縮小せざるを得ない時期においても、休業や教育訓練、出向といった「雇用調整」を実施して雇用維持に努める企業に対して、国が助成金を支給する制度が「雇用調整助成金」です。
「一時帰休」は雇用調整における「休業」に該当するため、要件を満たすことで、従業員に払う休業手当の一部あるいは全部が、雇用調整助成金として国から助成されます。
雇用調整助成金は、新型コロナウイルス感染症の影響前から存在する制度ですが、令和2年4月1日から6月30日9月30日までは「緊急対応期間」として特例が設けられています。緊急対応期間内に一時帰休などの休業を実施し、また、解雇を行わずに平均賃金の60%以上の休業手当を支払った中小企業には、60%を超える部分の金額を国が全額支給するのが大きな特徴です。
加えて、新型インフルエンザ等対策特別措置法等にのっとった都道府県の要請により、休業または営業時間の短縮を求められた施設を運営する中小企業が、その要請期間中に協力して休業などを行った場合や、100%の休業手当または賃金を支払った場合、あるいは、一人1日あたりの上限額(8,330円)以上の休業手当を支払った場合も、上限額を限度に休業手当の全額を国が支給します。
さらに下表のように通常時よりも支給要件が緩和され、申請しやすくなっています。
通常時 | 緊急対応期間 | |
対象となる事業主 | 「経済上の理由」で「事業活動の縮小」をせざるを得ない事業主 | 新型コロナウイルス感染症の影響を受ける事業主 |
生産量 | 生産指標の平均値が、3ヵ月で前年同期比10%以上の低下 | 1ヵ月で前年同月比5%以上の低下 |
雇用量 | 雇用保険被保険者数および派遣労働者数が、3ヵ月平均値で前年比、大企業は5%超かつ6人以上、中小企業は10%超かつ4人以上増えていない | なし |
雇用保険 | 6ヵ月以上の被保険者期間がある従業員が対象 | 期間要件を撤廃 |
助成率(休業手当などの金額に対する助成の割合) | 中小企業:3分の2 大企業:2分の1 | 中小企業:5分の4(10分の9または10分の10) 大企業:3分の2(4分の3) ※()内は解雇をしない場合 |
計画届 | 事前提出が必要 | 事後提出でも可 (1月24日から6月30日まで) ※5月19日以降は提出不要 |
クーリング期間(前回の助成金支給の対象期間の満了日の翌日から、新たな助成金を受給できない期間) | 1年間 | 撤廃 |
支給限度日数 | 1年間:100日 3年間:150日が上限 | 左記+緊急対応期間 |
短時間休業 | 一斉に行った場合のみ対象 | 要件緩和 |
休業規模 | 中小企業:全体の20分の1以上 大企業:15分の1以上 | 中小企業:40分の1以上 大企業:30分の1以上 |
残業相殺(所定額労働等分を差し引くこと) | 相殺あり | 停止 |
教育訓練実施時の加算額 | 1,200円 | 中小企業:2,400円 大企業:1,800円 |
参考:厚生労働省など|雇用調整助成金ガイドブック(簡易版)(令和2年6月12日現在)
雇用調整助成金を受け取る際は、上記の要件に加えて、労使間の協定などの要件を満たした上で、所定の手続きを踏んで必要書類を提出します。受け取れる金額は、休業の場合は休業手当に上表の助成率を乗じた金額となり、一人あたりの上限額は雇用保険における基本手当日額の最高額15,000円です(令和2年7月現在)。
なお、雇用調整助成金をより受給しやすくするために、支給要件は随時見直されています。申請時には、必ず最新のガイドブックを確認しましょう。
休業手当が労働基準法上の平均賃金の60%を下回っている場合には、雇用調整助成金が支給されない点にも注意が必要です。
- 【参考】
- 日本の人事部|雇用調整助成金とは
休業手当
雇用調整助成金は休業などを実施する企業向けの支援であり、労働者個人が直接受け取れるものではありません。一時帰休における労働者への支援策には、企業から労働者に支払われる「休業手当」があります。
「不可抗力」による休業の場合には、企業が休業手当を支払う義務はありません。しかし、不可抗力であると認められるためには、次の二つの要件を満たす必要があります。
- 事業の外部で生じた事故が原因
- 事業主が経営者として最大の注意を払っても避けられない事故である
例えば、新型コロナウイルス感染症自体は外部要因といえますが、在宅勤務が可能な事業なのに実施していないなど、休業を回避する最善の努力を果たしていないとみなされると、「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当する場合があります。この場合、労働基準法第26条に基づいて平均賃金の60%以上の支払いが企業に義務付けられます。
新型コロナウイルス感染症の特例により、中小企業においては、緊急対応期間内は平均賃金の60%を超える金額が国から全額支給されます。平均賃金の60%でも100%でも企業の負担額は変わらないため、従業員の生活苦や心情などを考慮すれば、100%の休業手当支給を検討するのが企業として望ましいでしょう。
3. 一時帰休に関する注意点
一時帰休について注意したいのは次の3点です。
年次有給休暇の取り扱い
一時帰休中に、従業員が年次有給休暇の取得を希望した場合は、どのように対応すべきでしょうか。
原則として、年次有給休暇は労働義務がある日(労働日)のみ取得できます。そのため、一時帰休のような休業時や休日などの労働義務がない日には、従業員に年休を与える必要はありません。
しかし、会社都合で従業員に休業を要請していることを考慮すると、従業員に一時帰休の予定を説明する際に、希望する労働者には休業手当か年休どちらかの取得を選んでもらうのが、現実的には妥当な対応といえるでしょう。
- 【参考】
- 日本の人事部|有給休暇とは
期間中の副業
一時帰休などの休業時には、収入減による従業員の生活不安が深刻化するため、通常時は禁止している副業を認める企業も増えてきます。過去には日本経団連が、リーマンショックによる一時帰休が増加した2009年2月の政策提言において、雇用対策として一時帰休時の副業容認を挙げていました。
アルバイトなどであっても扱いは同様
労働基準法第26条で定められた休業手当の対象者にはアルバイトやパートも含まれるため、一時帰休といった会社都合の休業においては、雇用形態に左右されず扱いは同等となります。
また、雇用調整助成金において対象となるのは、通常時は雇用保険の被保険者期間が6ヵ月以上の従業員であり、アルバイトやパートでも被保険者期間を満たしていれば対象となります。
さらに、新型コロナウイルス感染症による特例においては、労働時間が週20時間未満で雇用保険に入っていないアルバイトやパートも、雇用調整助成金緊急雇用安定助成金の対象になる点に注意しましょう。
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