見える化・可視化
見える化・可視化とは?
見える化・可視化とは、ビジネスにおいて把握しづらい物事を数値や文書、図などに整理し、理解することを指します。業務効率化において見える化・可視化は、従業員が抱えている業務を把握しやすくして、どの業務を効率化していくかを判断する大切なステップとなります。
1. 見える化・可視化が注目される背景
「見える化」が「トヨタ生産方式」で脚光
「見える化」は、1998年にトヨタ自動車株式会社の岡本渉氏が発表した論文「生産保全活動の実態の見える化」で使われ、注目を浴びました。
トヨタ自動車は、自動車生産を効率化するために「自働化」と「ジャスト・イン・タイム」を2本柱としており、「トヨタ生産方式」と呼ばれます。自働化は異常発生時に機械が即座に停止するなどして不良品を造らない工夫で、ジャスト・イン・タイムは各工程で必要なものだけを停滞せずに生産する考え方です。
トヨタ自動車の製造現場では、トヨタ生産方式を実現するために「目で見る管理」を重要視し、手法の一つとして「アンドン」(電光表示盤)方式を取り入れています。例えば、異常などで機械が停止した際には、アンドンの赤ランプが自動的に点灯します。それによって、担当者や周囲はトラブルの発生状況を一目で把握し、対応できるようにしています。
「見える化」と「可視化」の関係
見える化は、「目で見る管理」から生まれた用語です。目で見る管理は、主に工場内の状況管理を目的としてきました。一方、見える化は、可視化との意味の違いが曖昧なまま浸透したため、本来の意味よりも拡大解釈されて経営過程の諸活動を対象とするようになり、用語自体が価値を持つように変化しました。
「見える化」という語句の初出は1998年ですが、「可視化」は1952年にパルプ及紙技術協会の雑誌記事のタイトルに使われており、「可視化」のほうが先に出ている言葉といえます。可視化はもともと科学分野で使われることが多い言葉で、見えないものや概念的なものを、図やグラフなどの方法で視覚的に理解するという意味です。
工場管理を背景に持つ「見える化」と、科学研究を背景に持つ「可視化」が合わさり、ビジネスにおいては「把握しづらい物事を数値や文書、図などに整理し、理解すること」として、見える化と可視化が同じように捉えられているといえます。
- 【参考】
- 工場の見える化と工場診断への利用に関する一考察|名古屋工業大学 田村隆善・小島貢利(2007)
- 電子顕微鏡による紙のサイジングに関する研究(1)-サイジング行程の可視化|パルプ紙工業雑誌 駒形治(1952)
ビジョンと簡素化がポイント
トヨタ生産方式における目で見る管理、見える化の目的は、異常の発生などの見えにくい状態をアンドン方式などで見えやすくし、即座に対応することでした。見える化・可視化の目的とは、わかりにくいものを整理して次のアクションにつなげること、特に業務効率化においては、業務の実態を数値やデータなどで把握し具体的な業務効率化につなげることです。
法政大学大学院教授の石山恒貴さんは、生産性向上の基本はビジョンと簡素化だと述べています。生産性向上の一環である業務効率化においても、何が目的なのかを明確にし、複雑な作業を明快かつ簡単にしていく観点が求められます。
業務の見える化・可視化をサポートするソフトウェア・サービスを使うことも一つの手段です。従業員やチームの働き方に関するデータを集めモニタリングを続けることで、生産性や業務効率の改善サイクルを回すことが可能になります。
2. 業務を見える化・可視化する手順
業務効率化において、どの業務を減らすかを判断しないまま単純に残業時間を制限すると、重要な業務に充てる時間まで減ってしまいます。まず、業務時間を見える化・可視化して、無駄な時間と確保が必要な時間を区分します。広島県は「働き方改革取組マニュアル・事例集」で、その手順を紹介しています。
- 業務の洗い出しを行い、各業務を項目ごとに分類して名前(ラベル)を付ける
例 (分類)営業>(大項目)企画>(ラベル名)企画資料作成 - ラベル名の業務ごとにかかった時間を日報やグループウェアなどに記録
- 毎日発生する業務は1週間程度、月単位の定例業務は1〜2ヵ月程度の周期でデータを収集
- ラベル名の業務ごとに時間を集計
- ラベル名の業務を「時間を減らす業務」「現状維持の業務」「時間を増やす業務」に仕分け
- どの業務をどの程度時間を増減するか、労働時間の改善計画を作成して実行
ポイントは、チームで各業務の存在を共有し、業務時間を集計できるような名前付け(ラベリング)をすることです。現場のリーダーを中心として各業務を分類し、ラベル名のない業務を洗い出して共通のラベル名を付ける、チーム共通のラベル名がある業務はそれを使用するなど、必要以上に複雑化させないように留意します。
ラベリングして記録した業務時間を集計した後は、単に業務時間を削減するのではなく、社内で業績を上げている他チームなどを見習い、メリハリを付けて業務時間を配分し直します。
例:営業プロセスを見える化・可視化する方法
営業という業務は、担当者の経験や性格などに左右される部分が多く、人によって手法が異なる傾向があります。商談情報や顧客リストが統一されたルールで共有されず、引き継ぎも困難になりがちです。営業業務のマネジメントを改善する方法の一つが、営業プロセスの可視化です。経済産業省のサイト「ミラサポplus」では、営業プロセスを見える化・可視化する方法として次の項目を挙げています。企業にほぼ共通して存在する営業部門から業務効率化を図ることで、社内の業務効率化への意識を高めることが可能です。
- 商談履歴の見える化
顧客ごとの商談履歴やクレーム対応などを、営業担当者が個人の手帳やパソコン、頭の中に保管するのではなく、誰もが検索・共有できる仕組みで保管する - 営業活動の見える化
営業活動のプロセスごとに、するべき共通項目を決め、営業マニュアルを作成する。例えば営業プロセスを、関係構築、情報収集、情報提供、提案、受注に分類し、関係構築のプロセスでは顧客のホームページを確認するなど、行動すべき共通項目を決める
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