企業を評価するものさしの一つとして「人的資本」への注目度が高まっています。上場企業に対する、有価証券報告書での人的資本情報の開示義務化もスタート。人的資本経営に向き合うことは企業にとって避けられないテーマといえるでしょう。一方で「何から取り組めばいいのか」と、最初の打ち手に悩んでいる企業は多いとも言われています。そんな企業に「ストレスチェックのデータ活用」を提案しているのが、株式会社HRデータラボです。創業者で代表取締役の三宅朝広さんに、ストレスチェックと人的資本経営の関係性、どのような指標を測定できるのか、結果のデータを活用するメリットや成功事例などをうかがいました。
- 三宅朝広さん
- 株式会社HRデータラボ 代表取締役
学生時代に起業した会社をバイアウトした後、1995年に株式会社リクルート入社。リクナビの企画などを担当した後、2002年に株式会社アエリア取締役就任。2004年のアエリア上場後、18年間にわたり上場会社の取締役を務める。2017年に従業員のストレスチェックサービス「ストレスチェッカー」を提供する株式会社HRデータラボを設立し、代表取締役に就任。HRデータラボは、現在5400社以上にサービスを提供する、日本最大級のストレスチェック代行会社。
人的資本経営を進めるには「定量的な評価」が欠かせない
近年、人的資本経営が注目されています。日本企業における取り組み状況をどのようにご覧になっていますか。
従業員の能力やスキルを「人的資本」と捉えて、経営に生かしていこうという考え方が人的資本経営です。2020年代に入って急速に注目されるようになりました。
もちろん、これまでも多くの企業が従業員の能力開発、スキル開発に取り組んできました。しかし、将来の労働人口減少がますますはっきりしてきたこと、政府がリスキリングを通して労働者のスキルアップや生産性向上を推進する方針を打ち出したことなどを受けて、これまで以上に「人的資本を重視すべき」と考える企業が増えています。
ただ、「これが正解」という進め方が定まっているわけではありません。各社が試行錯誤しながら取り組んでいるのが実状でしょう。
上場企業の場合、人的資本情報の開示が義務化されたことも影響しているのでしょうか。
当然それもあると思います。ただ、見ているとまだスローガンというか、定性的な目標や活動の紹介にとどまっている企業が少なくありません。
人的資本を充実させるにあたって重要なのは、PDCAサイクルを回して、何が成果につながっているのかを定量的に評価、検証していく作業です。評価がないと新たな施策や改善プランを試す次のフェーズに進めず、単なるかけ声に終わってしまうからです。開示する情報を明確にしなければ、投資家からの支持も得られないでしょう。
現状の課題は、人的資本経営を実のあるものにするために不可欠な「評価・検証の仕組み」がまだ十分に確立されてないことだと思います。
評価・検証に必要な仕組みとは、どのようなものなのでしょうか。
人的資本経営は比較的新しい考え方なので、その評価・検証を行うには最新の指標やシステムの導入が必要だと思われがちですが、実はそうではありません。これまで蓄積してきたデータの中に、使えるものがあります。それは「ストレスチェック」です。
ストレスチェックは2016年から50名以上の事業所に対して義務化されているので、人事・労務担当の方々はよくご存じでしょう。そのデータを活用すれば、人的資本経営において重要なKPIの定量的評価・検証が可能になります。当社では、新たなシステムや指標を導入しなくても、人的資本経営に必要な定量的評価は十分にできると提案しています。
ストレスチェック自体は企業にとってなじみ深いものだと思います。一方で、そのデータが人的資本経営に活用できることは、まだあまり知られていないということでしょうか。
その通りです。メンタルヘルスの担当者と、経営企画など人的資本経営の担当者や部署が連携できていない企業が多いからです。同じ部署で担当していれば気づくかもしれませんが、そうでなければ人的資本経営にストレスチェックが活用できるという発想は生まれにくいのだと思います。
ストレスチェックのデータでわかる代表的な指標とは
人的資本経営では、どのようなKPIを設定するのが一般的なのでしょうか。
人的資本経営の捉え方は企業によって異なります。経営戦略、事業戦略なども同じではありません。それぞれの企業が自社の戦略に沿った形でKPIを設定し、データを定期的に測定し、評価していくのが基本です。ただ、多くの企業で共通する指標もあります。ストレスチェックのデータでわかる指標は、その代表的なものといえるでしょう。
ストレスチェックで測定できる指標は、大きく分けて三つあります。一つ目は「ワークエンゲージメント」。従業員がいきいきと仕事に取り組めているかどうかを測る指標です。企業戦略などにあまり影響されないので、どの企業でも共通で使えるKPIといえます。
二つ目は「ダイバーシティ」。たとえば、性別による扱いの違いがあるか、成長の機会が平等に与えられているか、報酬は平等か、人事制度が公平なものになっているか、キャリア形成に差別がないか、といったことです。性別以外にも、多様な属性の人々が一緒に働くケースが増えているので、そういう労働者への対応ができているかどうかも評価のポイントとなります。
三つ目は「ワークセルフバランス」。一般的にワークライフバランスと言われるものです。個人の生活と仕事のバランスがとれていて良い影響を生んでいるか、あるいは相互に悪い影響を与えていないかといった側面を見ていきます。
ストレスチェック以外にも、各種エンゲージメントサーベイなどを導入している企業は数多くあります。ストレスチェックと、それらのサーベイとはどう違うのでしょうか。
ストレスチェックはもともと20年ほど前に厚生労働省が開発したもので、当初は関心のある企業が任意で導入していました。2016年から50名以上の事業所に対して年1回以上の実施が義務化されたことで、一気に普及します。現在では全国の8万社、あるいは10万社ともいわれる事業所で導入されています。
ストレスチェックの最大の特色は、厚労省が定めた基準に則って実施されていることで、「57問版」と「80問版」の2種類があります。57問版は主に従業員のメンタルヘルスの傾向を測るもので、80問版はそれに加えてワークエンゲージメント、ダイバーシティ、ワークセルフバランス、さらには社内におけるハラスメント傾向のような組織の現状まで把握することができます。ストレスチェックの項目は、どの代行企業でも同じです。これだけの規模で全国的に同一のサーベイが行われている例は、まずないでしょう。
サンプル数が多いということは、同業や同規模の他社との相対的評価が容易にできるということでもあります。エンゲージメントサーベイなどはさまざまな種類がありますが、一つひとつの規模はストレスチェックと比較すると、どうしても小さくなってしまう。自社が世の中のどのあたりに位置しているのかを正確に知るには、ストレスチェックを活用した方がいいでしょう。
人的資本経営だからといってやみくもに独自指標や独自システムを新規導入するのではなく、まず手元にあるストレスチェックのデータに目を向けるべきというのが私たちの主張です。
5400社超から信頼されるHRデータラボの「ストレスチェッカー」
多くの企業がストレスチェックを取り扱う中で、貴社のサービスが多くの顧客から支持されている理由は何でしょうか。
2023年現在、当社の「ストレスチェッカー」は全国の5400を超える企業・官公庁・教育機関・医療機関などに導入されています。これは数あるストレスチェック代行企業の中でも最大規模です。設問自体は同じでも、利用しやすい工夫をさまざまに重ねているところが高評価につながっていると考えています。
まず機能面では、数多くの顧客の要望に応えてブラッシュアップを続けてきた結果、誰にとっても使いやすいサービスになっています。PC、スマホ、書面など、さまざまな回答方法を選択できます。
また、データを集めた後の分析・評価も標準で提供しています。より深く違った切り口で分析したい、エンゲージメントサーベイなどとの相関性を見てみたいといった要望があれば、専属コンサルタントが対応することも可能です。
提供価格を抑えていることも、ご支持につながっていると思います。近年、どの企業でもコスト管理は重要なテーマであり、削減した分を少しでも他の重要課題に振り向けたいと考えています。当社のサービスはスケールメリットを生かして、高品質なサービスを年間1回、一人あたり250円で提供しています。他社ではこの数倍の価格になることもあると聞いています。
5400社のうち、ストレスチェックのデータを実際に人的資本経営に生かしている企業は、どのくらいあるのでしょうか。
人的資本が広く意識されはじめたのはこの1~2年なので、意識的に活用している企業はまだ10%もないと思います。逆にいうと90%以上の企業は、既存のストレスチェックのデータを見直すだけで人的資本経営の取り組みがある程度できてしまう、ということです。当社では無料WEBセミナーなどを通じて、こうした認識を広める取り組みに注力しています。
貴社の「ストレスチェッカー」を人的資本経営に生かしている事例を教えてください。
長時間労働などによりワークエンゲージメントがあまり高くなかった企業が、その改善のためにストレスチェックのデータを活用しています。同社は人的資本という言葉がトレンドになる以前から、社内研修や1on1ミーティングなどによって社内コミュニケーションを増やし、改善に取り組んでいました。その状況を確認し、的確な施策を打つために、ストレスチェッカーを導入したのです。
ストレスチェックのデータは、部署や年代ごとに、どこが改善できてどこが遅れているのかが一目でわかります。他社の利用状況を見ても、ワークエンゲージメントは、いちばん活用しやすい指標だと感じます。
ダイバーシティ、ワークセルフバランスについては、現在進行形で取り組みを進めている企業が多いのでしょうか。
ワークエンゲージメントほど多くの事例はありませんが、関心の高い指標であることは間違いないでしょう。多用な人材が成長する機会や公平な人事制度が実践されないまま放置されると、離職やパフォーマンス低下につながります。ストレスチェックのデータは、改善において必要なポイントを割り出す際に活用できます。
ワークセルフバランスは仕事だけでなく、プライベートも含めた指標です。そのため、企業だけが頑張れば改善できるというものではありません。ただ、従業員の置かれている状況を把握することができる指標であることは間違いなく、しっかりと見ていこうとする企業が多い印象があります。
「ストレスチェックを人的資本経営に生かす」という観点から見たとき、実施する回数は1年に1回のペースでも十分なのでしょうか。
年1回が多数派ですが、中には年4回実施しているところもあります。そうなると、繁忙期と閑散期の違いを見るといったパルスサーベイ的な分析も可能です。「PDCAサイクルを回して定量的な数値の変化を見る」という目的であれば、年1回でも問題ありません。
施策を打って何らかの効果が見えてくるまでには、一定の時間が必要です。重要なのは、継続的に数値の変化を観測することです。
「まず何から手をつけていいのかわからない」という企業に
人的資本経営という側面から、貴社の「ストレスチェッカー」をどんな企業に活用してほしいとお考えですか。
「人的資本経営に取り組みたいけれど、何から手をつけていいのかわからない」という企業です。新しい指標やサーベイを導入する前に、まずは手元にあるデータに再注目して、活用してみる。ストレスチェックは最初の一歩としてハードルが低く、それでいて実効性が高いことが多くの事例から証明されています。
せっかく社内にストレスチェックという貴重なデータがあるのに、人的資本経営を担当する経営企画などの部署と共有できていない企業は多いはずです。人事・労務担当の方にはぜひ、経営企画部門などへストレスチェックという使えるデータがあることを伝えてほしいですね。
最後に人的資本経営に取り組んでいる企業、人事の皆さまにメッセージをいただけますか。
ストレスチェックは法律で義務づけられたサーベイですが、組織や従業員の課題に気づけるといった本来の機能に加えて、人的資本経営におけるさまざまな指標を取得することが可能です。
当社は、日本最大規模のストレスチェック代行企業として、5400社以上に活用していただいています。経営課題の可視化につながる定量的なデータ分析・評価をはじめ、さまざまなサポートを提供。豊富なケーススタディーにもとづいたノウハウを持ち、多様な事例に対応できるコンサルタントをそろえています。
最近は役員レベルで人的資本に注目されるケースが増えていますが、コンサルタントが役員会にうかがい、指標の読み方や評価の仕方、注目点などをご説明することも可能です。コンサルティングは特に注力している分野です。「これまでのストレスチェックでは満足できていない」という企業の方は、ぜひご相談ください。
日本最大級5400社に労働安全衛生法に準拠したストレスチェックサービスを提供しています。無料で導入できる「無料プラン」から、専任コンサルタントが代行する「WEB代行プラン」、紙のマークシートで実施する「紙プラン」まで様々な御要望に対応できます。
カウンセリングサービスや研修に加えて、パワハラ防止法に対応した「ハラスメント通報窓口」サービス等のオプションサービスも御用意しています。