リモートワークが一般化し、従業員が働く場所や時間を柔軟に選べることが、生産性を高めるという考え方が浸透してきました。そこで問題となるのが、従来のオフィススペース。出社人数は大幅に減ったが現在の利用実態は細かく把握できていない、という企業も多いのではないでしょうか。オフィススペースを縮小しても問題はないのか、どのような目的に沿って職場環境づくりをすることがベストなのかと悩んでいる企業に、効率的なオフィススペースマネジメントを提案しているのが株式会社日立ソリューションズです。現在の日本企業のオフィスにはどんな課題があるのか、最適な環境をつくるには何から取り組むべきなのか。すぐにでも活用できる具体的な対策も交えて、詳しくお聞きしました。
- 鈴木優太さん
- 株式会社日立ソリューションズ スマート社会ソリューション本部 アーバンソリューション部
2010年日立システムアンドサービス(現 日立ソリューションズ)に入社。勤怠管理・給与管理システムの営業に携わり、数百社の顧客人事総務部門様の悩みを幅広く知る。その後、スマートビルディング事業のソフトウェア開発に携わり、その経験をもとに、2020年よりスマートビルディング事業の企画立案・計画・開発・拡販活動に従事。
「オフィスのあり方」が大きく変化している
近年、働き方、オフィスの使われ方が大きく変わってきています。現状をどのようにご覧になっていますか。
自宅やカフェなど、オフィス以外でも仕事ができることがわかり、「仕事はオフィスで行うもの」という前提が変わってきました。業務上必要があるときにオフィスに行く、という考え方が定着しつつあります。出社自体に負担を感じる従業員も増えているようです。
オフィスにとらわれない働き方は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行収束後も続いていくのでしょうか。
現時点でも、リモートワークの導入率は企業によってかなり差があって、機材や通信環境が整備されている大手企業やIT系企業ほどリモートワークが進んでいます。ヒアリングしてみると、いずれはオフィス出社を基本とする働き方に戻したいという企業が半分くらい。もう半分は、これを機会にオフィスのあり方を見直したいと考えている企業です。具体的には、フリーアドレス化や、仕事内容に応じて働く場所・時間を選択して働くABW(Activity-based Working)を進めたいというものです。前者は、感染流行の終息時期が読めないことが悩みになっており、後者はオフィス改革にあたって何から手をつければいいのかが課題になっているようです。
どのような働き方を目指す のかは、企業の業態や仕事の進め方、文化などによって異なります。ただ、以前の画一的な働き方を考えると、企業の意見が分かれること自体が、大きな変化ではないかと思います。これまではどのような業務内容でも対面でのコミュニケーションが重視され、みんなが出社して話し合うことで生産性が高まると、ほとんどの企業が考えていました。ところが、いざテレワークを進めてみると、チャットツールなどの進歩もあって「問題なく働ける」という認識が一般的になりました。オフィスのあり方への意識が多様化してきたのは間違いないことだと思います。
働き方の多様化が進んだ今、オフィスにはどのような役割・機能が求められているのでしょうか。
結論からいえば「これが正解」と言えるものはなくなっています。仕事の進め方は業種ごと、企業ごとに異なるので、それぞれに最適なオフィスをつくっていく必要があります。
例えば、オンライン会議は一度に発言できる人が限られ、同時多発的な意見交換には向きません。そのため、オフィスを「アイデア出し」「知識共有」の場として定義する企業も出てくるでしょう。その場合も、プロジェクトの規模が大きく、多くの人がディスカッションしながら業務を進めていく企業なら、収容人数の多い会議室を備えたオフィスにするのが効率的です。中小規模のプロジェクトが中心の企業なら、一室の広さよりも会議室やブースの数を優先したレイアウトが望ましいでしょう。
個人のデスク数・デスク配置も、柔軟に変えていくことが重要です。オフィスをアイデア出しの場、クリエイティブな仕事をする場と捉えるなら、社員の固定席を減らして共有スペースを増やしたり、フリーアドレスを導入してさまざまな社員との交流を促したりすることが考えられるでしょう。一人で集中して作業できる場所にするなら、デスク同士の間隔や配置を見直す必要があります。いずれにしても、今後主流になるのは従来のような島型配置ではないと、多くの企業が気づいているように思います。
とはいえ、フリーアドレスやABWは、言葉として知られていても、現時点で実践できている企業は少数です。ほとんどの企業では、本当にそれが生産性を高めるのに有効なのか、どのように取り入れると自社に合うのかと模索している段階のようです。当社へ寄せられる問い合わせも、システムをすぐにでも導入したいというものより、まずは他社の状況や事例を知りたいというものが多いですね。
オフィス改革前に重要な利用実態のデータ把握
オフィスを変えたいが実践にはいたらないという企業にとって、何がハードルになっているのでしょうか。
多くの企業では、オフィスを使っている人が少ないことはわかっていても、実際の利用率がどのくらいなのか、どのような業務のために使われているのかは、正確に把握できていません。実は重要な場面で使われているかもしれないのに、オフィスの面積や座席数を減らしてしまって本当に問題ないのか。そういった不安があるため下手に動けない、という相談も増えています。
リモートワークやフリーアドレス化が進んだことで発生する課題もあります。例えば、同じオフィス内にいても誰がどこで何をしているのかがわかりにくいので可視化してほしい、という要望は多いですね。全員決まった席に出社しているなら、少し目線を上げれば上司や同僚が何をしているのかがわかるので、話しかけるタイミングを見計らうことができます。しかし、リモートワークやフリーアドレス ではそうはいきません。相手の様子が見えない結果、遠慮してしまって迅速なコミュニケーションができなくなっているという問題も生じています。
当社はリモートワークやオフィススペースマネジメントを積極的に推進していますので、そうした悩みを持つ企業に、一つの事例として当社の経験をお伝えすることもあります。
そういった課題を解決するには、まず何から手がけるのが望ましいのでしょうか。
まっさきに行うべきなのは、実情把握です。オフィスが使われていないことが明白でも、どこまで座席や部屋数を減らすかが問題になってきます。最低限必要なオフィススペースを、どのくらいの人がどんな目的で出社しているのかを正確なデータで把握し、分析したうえで判断すべきです。現時点での効率性だけでなく、アフターコロナの企業方針も織り込んでおく必要があります。
実情を知ると言っても、従業員一人ひとりに出社状況や目的を聞くのは現実的ではないので、システムでデータを集めることになります。最も効率的な方法は、座席や会議室の利用を予約制にし、予約システムに集まったデータを分析することです。そうすればオフィスの利用状況や利用目的を、数値で正しく把握することが可能になります。
最新のオフィススペースマネジメントシステムは、データを自動で分析し、グラフで可視化してくれるBIツールと連携できます。データサイエンスなどの専門知識がなくても、オフィス利用の実態を簡単に把握できます。
データ分析の目的は座席の削減だけではありません。出社する人が会議室を予約するケースが多ければ、会議室の増設が効果的だという根拠になります。周囲に人がいないデスクの予約が多ければ、個室ブースに需要があることが考えられます。データをもとに、各社の方向性と当社が提供するケーススタディーによる知見をすりあわせることで、今よりもさらに効率的で、社員が働きやすいオフィスを実現できます。
世界で2000社が採用しているオフィススペース予約システム「Condeco」
貴社も活用されているオフィススペースマネジメントサービス「Condeco」についてお聞かせください。どのような特長や利便性のあるツールなのでしょうか。
「Condeco」は英国のCondeco社が開発したオフィススペースマネジメントサービスで、全世界で2000社以上に導入されています。当社が、お客様のオフィス改革ニーズに応えるべく、さまざまなサービスを比較検討した結果、最も優れていたのが「Condeco」でした。 2021年8月からは当社が販売代理店となって、国内販売を開始しています。
「Condeco」は、座席や会議室、さらには備品やロッカー、駐車場などさまざまなスペース・物の予約管理ができます。予約管理だけでなく、誰がどのような目的でオフィスを使ったのかを手軽にデータ集計・分析できるのも、大きな強みとなっています。日本語を含む7ヵ国語に対応し、非常に高機能で使い勝手がよいサービスです。
特に注目したのが、勤怠管理など他のシステムとのAPI連携を可能にする柔軟性の高さでした。オフィスを予約制にするには従業員の協力が欠かせませんが、これまで自由に使っていた座席をわざわざ予約する「ひと手間」はネックです。「Condeco」は勤怠管理システムと連携することで、座席にチェックインしたら出社、リリースしたら退社と同時登録されます。また、予約システムはスマホアプリでも使えるため、従業員の負担をあまり増やさずにデータを収集することができました。
「Condeco」導入の効果について具体的な事例をお教えいただけますか。
データ分析を基にした、オフィスの有効活用が可能になります。例えば、利用率の低い執務スペースを転用して会議室や共有スペースを作ったり、不要なスペースを削減することで固定資産や諸経費を大幅に減らしたりすることができます。
座席を減らすうえで不安になるのは、「出社しても席がなかった」というトラブルの発生です。「Condeco」は予約システムを通して座席や会議室の予約状況をリアルタイムで把握できます。特にデザイナーやCAD設計のような専用機器やソフトを必要とする職種では、備品や設備が埋まっていたら仕事になりません。予約しておくことで安心して出社できるのは、大きなメリットといえます。
また、部署ごとに1週間あたりの出社回数上限を設ける、あるいは何曜日には全員出社する、といったコントロールもできます。座席間隔を空けて予約させたり、近くに座っていた従業員のデータを即座に取り出したりするなど、直接的な感染対策にも活用できます。ソーシャルディスタンスなど感染対策をしっかり行っている安心感は従業員にとって大きいはずですし、人事側の負担も軽減できます。
働き方を効率化するだけでなく、データを経営に生かせるのも大きな強みでしょう。現在は海外の導入事例が中心ですが、今後は当社以外の国内企業の事例も増やしていきたいと考えています。
働きやすく経費削減効果も大きい「新常態対応型オフィス」へ
新しいオフィス活用を支援するため、今後はどのような展開をお考えでしょうか。
座席管理や出社率のコントロール、フリーアドレス化の推進などに関しては、まだ手探りの企業が多いと思います。当社では「Condeco」を実際に導入していますので、データ分析の進め方や従業員の負担を極限まで減らす関連システムとの連携など、具体的できめ細かいアドバイスができます。予約管理の導入を通して、最終的にはより働きやすいオフィス、快適な職場環境、経営視点からのオフィス効率化につながる情報提供やコンサルティングを進めていきたいと考えています。
新型コロナウイルス感染症の先行きは、なかなか見通せません。今後、出社が基本のスタイルに戻るのか、それともリモートワークも含めたハイブリッドな働き方が定着するのか、判断が難しく悩んでいる人事の方も多いと思います。ただ、柔軟な働き方の良さを一度体験してしまった以上、以前と全く同じ形に戻ることはないのではないでしょうか。オフィスの効率化は、従業員にメリットがあるだけでなく、固定資産や交通費など、さまざまな経費削減効果をもたらし、経営にも直接的に寄与します。この機会にフリーアドレス化やABW化を含め、新しいオフィスづくり、職場環境づくりを検討してみてはいかがでしょうか。
Condecoは、英国Condeco社が提供するオフィススペースマネジメントサービスです。オフィスの会議室や座席、駐車場などの予約管理ができ、世界で2,000社以上に導入されています。
スマートデバイスのアプリから予約・チェックイン操作が簡単に行え、オフィス利用状況などのデータ分析をすることでオフィス利用の効率化を支援します。
また、感染症対策のために出社ガイドライン遵守の徹底や、他システムとの連携も可能です。