会社の休み時間に、同じような経験や悩みを持つマネジャーが自主的に集まり、和やかな雰囲気の中で、相互にアドバイスや示唆を与えあう――。元IT企業のマネジャーのフィル・レニールと、彼の義父で世界的な経営学者であるヘンリー・ミンツバーグ教授によって生み出されたマネジャー育成プログラム「コーチング・アワセルブズ」は、いまや世界24ヵ国に展開され、その考え方に共鳴した多くのグローバル企業に豊かな成果をもたらしています。このプログラムを国内で初めて導入したのが、当時、富士通ソーシアルサイエンスラボラトリの常務取締役だった飯島健太郎さん(現富士通マーケティング特命顧問)。コーチング・アワセルブズの最大の理解者であり、国内外へのさらなる普及活動にも尽力されている飯島さんに、自社での成果や世界におけるコーチング・アワセルブズの広がりなどについて最新情報をうかがいました。聞き手は、世界最初の公認パートナーとして、日本国内を中心に同プログラムを展開している株式会社ジェイフィール取締役の重光直之さんです。
- 飯島健太郎氏
- 株式会社富士通マーケティング 特命顧問/イギリス エクセター大学ビジネススクールアドバイザリーボードメンバー/日本実業団バスケットボール連盟副会長兼関東実業団バスケットボール連盟会長
いいじま・けんたろう/
1977年3月 東京大学法学部卒
1977年4月 富士通株式会社入社
1998年3月 カナダ マギル大学経営学修士号取得
1999年12月 人事勤労部長
2007年6月 富士通ソーシアルサイエンスラボラトリ常務取締役
2011年6月~2015年6月 富士通マーケティング取締役兼執行役員常務
- <インタビュワー>重光直之氏
- 株式会社ジェイフィール 取締役
しげみつ・なおゆき/
社団法人日本能率協会を経て、ジェイフィール設立に参画。日本能率協会在職中はグローバル経営におけるリーダー育成に関する研修プログラムを開発。2007年、ヘンリー・ミンツバーグ教授との出会いを機にリフレクション・ラウンドテーブルを日本に導入し、プログラム開発と講師を担当。同プログラムは2012年、日本の人事部「HRアワード」教育・研修部門 最優秀賞を受賞。現在は日本での成功事例を、全世界に向けて発信を行っている。著書に『ワクワクする職場をつくる。』『ミンツバーグ教授のマネジャーの学校』『あたたかい組織感情』(同著はタイ語版も出版)ほか。
スロベニアでも日本のマネジメントスキルに興味津々
重光:飯島さんとは、富士通ソーシアルサイエンスラボラトリ(以下、SSL)の常務取締役でいらっしゃった時代に、日本企業で初めてコーチング・アワセルブズ(以下、CO)※1を導入していただいて以来、もう8、9年のお付き合いになります。この秋にはCO創設者のフィル・レニールやジョナサン・ゴスリング教授と、中欧のスロベニアで開かれた国際的なHRカンファレンスに招待され、COに関する講演をされたそうですが、当事者同士がともに学びあう“ピア・ラーニング”のコンセプトに対して、現地でも大きな反響があったようですね。
■※1 「コーチング・アワセルブズ」(CoachingOurselves)とは、フィル・レニールと経営学の世界的権威であるヘンリー・ミンツバーグ博士によって開発された、内省と相互コーチングによる実践的なマネジャー育成および組織開発プログラムのこと。毎週行われるセッションで内省を繰り返すことにより、マネジメントの理論と現場での実践を結びつけることを可能にする。日本では株式会社ジェイフィールが「リフレクション・ラウンドテーブル」という名称で展開中。
飯島:まずそこへ至るまでの経緯を、自己紹介も兼ねて説明させてください。そもそものきっかけは1996年から98年にかけて、ヘンリー・ミンツバーグ教授らが開発したIMPM(国際マネジメント修士課程)※2というプログラムに、私が一期生として参加したことです。一期生32名のうち、日本人は私を含め6名でした。IMPMは、マネジメント経験のない学生に理論やケーススタディを仕込むだけの、従来型MBA教育に対するアンチテーゼとして確立されました。現役のマネジャーが自分自身の経験を内省し、他のマネジャーたちと共有することからマネジメントを学び直すという斬新なプログラムで、そもそもCOはこれをベースにわかりやすく作られた“普及版”です。
■※2 「IMPM(International Masters in Practicing Management)」とは、ミンツバーグ教授が過去20年間にわたり、日本を含む5カ国出身の同僚と共に研究に取り組み、確立したマネジメント育成および組織開発のための次世代プログラムのこと。企業経営に携わる現役のマネジャーが18ヵ月間、世界5ヵ所の開催地の大学や企業で学ぶ仕組みになっている。
私がこのIMPMを受講したときにディレクターを務めていたのが、英国のランカスター大学のジョナサン・ゴスリング教授で、彼が2003年に南西部のエクセター大学に移る際、私は、そこのビジネススクールのボードに入ってほしいと依頼されて、引き受けました。そこのビジネススクールの学部長が07年に、日本の大学を私に紹介してほしいというので、横浜国立大学を紹介し、以来、順調に交流が続いています。このエクセター大学では「ラウンドテーブル」という活動を展開しています。これは世界各国の有名ビジネススクールの連合体みたいなもので、スロベニアのIEDC-Bled School of Managementというビジネススクールのほか、南アフリカや南フランス、メキシコ、コロンビアといった国・地域からも参加しています。それらのビジネススクールの社会人学生が毎年一回集まり、セッションを行うのがラウンドテーブル。今年は4月に日本で開催され、私も講演しました。テーマは、富士通マーケティング(以下、FJM)で実践しているCOについてと、横浜国大と組んで始めた「社内ビジネススクール」という新しい取り組みについて。この話が思いのほか好評で、10月にHRの国際カンファレンスがあるから、そこでもぜひ同じ話をしてほしいと呼ばれて行ったのが、先ほど申し上げたスロベニアのIEDCというビジネススクールだったわけです。
重光:“ピア・ラーニング”がそのカンファレンスのテーマだったのですか。
飯島:同僚と学びあうことが今後の人材育成の重要な流れになるのではないかという問題提起は、パンフレットなどにも書いてありましたね。考えてみれば、われわれが継続しているCOはもちろんのこと、いまFJMでやっている社内ビジネススクールも、通常は個人レベルで通う大学のビジネススクールに弊社から35人ぐらいの集団で学びに行くという仕組みですから、これもピア・ラーニングの典型だろうということで、COと社内ビジネススクールの話をセットにして説明してきました。
重光:当日のカンファレンスは、国内・外の企業の人事担当者など実務家に向けたものだったそうですが、参加企業に何か傾向や特徴はありましたか。
飯島:日本に戻ってきてからスロベニアの駐日大使にカンファレンスの参加者のリストを見せたら、スロベニアの主要な会社はほとんど来ている、と言っていました。また、IEDCの女性の校長先生がすごく有名な方で、周辺国や他の途上国のビジネススクールのまとめ役のような立場であることから、スロベニアや隣国のクロアチアだけでなく、トルコ、オーストリアといった周辺のヨーロッパ諸国からも参加していました。私は、COが多くの日本企業が採用しているプログラムであり、これによって現場に何が起こったか、起こっているかという趣旨で話をしたのですが、反応は良かったですね。聴いているほうも実務家なので、興味をひかれたのでしょう、質問がさかんに出ました。カンファレンスの前後には、新聞、雑誌、テレビなど地元メディアの取材もたくさん受けました。
地元のTV局からインタビューを受ける飯島氏
IEDC(Bled School of Management)
IEDCより眺める、小島が浮かぶブレッド湖は「アルプスの瞳」と呼ばれている。
クリエイティブなリーダーはクリエイティブな環境に育つ
飯島:カンファレンスでは、フィルの指導でCOの模擬セッションも行われました。日本の職場でやっていることが中央ヨーロッパの国でどう受け止められるか、向こうの人々が自分たちのことを正直に、率直に語るか、ということについては懸念もあったのですが、やってみたら、感性は遠くない。むしろけっこう近いように感じましたね。
重光:たくさん質問が出たということでしたが、いくつかご紹介ください。
飯島:日本で受ける質問と基本的には変わりません。改革はどういうふうに進めていくのか、COのような取り組みはどうすれば成功するか、参加するメンバーはどうやって選ぶのか、これは業務時間中にやるものなのか――。国は違っても、相手はごく普通の民間企業のミドルで、マネジメントを意識しているビジネスパーソン。遠い世界からの質問という感じはなかったですね。スロベニアが旧ユーゴから独立したのは1991年で、企業も国営企業から切り替えて日が浅く、まだまだこれからの国です。マネジメントも十分ではないので、何とかしたいという思いが強く、いいものは貪欲に取り入れていこうとしているのでしょう。
重光:会場となったIEDCの学校案内を見ると、絵画がずらりと並べられていて、美術カタログさながら。とてもビジネススクールのパンフレットには見えませんね。
飯島:校長先生の書いた論文などを読むと、「ポジティブ・ピクチャー」(積極的なイメージ)とか、「ビューティフル・アイデア」(美しいアイデア)、「シンギング・ザ・セイム・ソング」(同じ歌を歌う)といった、われわれもよく使う芸術的なメタファーやコンセプトが出てきます。感覚、直感、経験、物語、即興、気づき、想像力――そうしたロジカルでないことが難しい問題を解くキーであり、それらをリーダーシップの開発に向けて統合していくことが大切なんだと。クリエイティブなリーダーを育てるためにはクリエイティブな環境が必要というコンセプトに基づき、IEDCは30年前の旧ユーゴ時代から、世界で一番美しいビジネススクールを創ろうとしてきました。そこに彼らの独自性があるのかもしれません。
重光:左脳よりも右脳、理屈よりも感覚・感情という考え方には、われわれジェイフィールも学ぶべきことが多いですね。
飯島:そういう意味では、イアン・サザランドというカナダ人の准学部長の講義は印象的でした。テーマは「マネジメントと音楽」。講義を聴いていると、途中でどこからか歌声が聞こえてきて、その教室に10名くらいの女性コーラスが歌いながら入ってきました。何が始まるのだろうと見ていたら、サザランドが彼女たちに向かって指揮をし始めたんです。実は彼は元ピアニストで、その後指揮者になり、最終的にビジネススクールの先生に転向したという変わり種。だから非常にスムーズで、美しい。そして「さぁ、皆さんもやってみましょう」と促すわけです。そういうとき、外国にはすぐ手を挙げる人がいるんですね。一人やるごとに、いまの指揮はどうだったか、比較して感想や意見を交換しあう。そうすることで、ロジカルではない、感覚的なリーダーシップといったようなものがその場に実現されるわけです。
重光:音楽の素人が聞いても、その違いはわかるものなんですか。
飯島:わかりますね、何となく。ゴツゴツした感じとか、一部のパートだけを重視しているとか。そういうことを人事の実務家たちに体験してもらって、気づきを得てもらうのがねらいなんです。
上下関係も縦割りもない、COで学んだ同志の深い絆
重光:さまざまな国の人たちと交流したり、ロジカルではないものに触れたりして、異質な存在を深く受け入れるマインドセットは、COの土台でもあります。そうすることで、自分は何をすべきか、どうすべきかと、内省が深まっていくからです。COが目指すのはマネジャー教育だけでなく、当初からIMPMと同様、組織開発にも力点が置かれてきました。その意味では、日本でいちはやく採用された富士通グループでの成果には、どのようなものがありますか。
飯島:時系列で振りかえると、2007年からまずSSLで始まりました。SE単一の組織なので、もともと技術志向や技術屋魂が強く、私が着任したときも、腕はいいけれど、マネジメント意識は乏しいという印象でした。女性の比率が高く、自分の会社を大切にするというか、言われなくても職場をきれいにしたり、無駄遣いを無くしたりと、すごく家族的な運営がなされていたのですが、一方でマネジメントの感覚が弱く、また上司の性格によってマネジメントが変わってしまうというようなこともあったので、COを導入しました。立ち上がりの1期生はまったく参考にするものがなかったので、苦労したと思いますが、逆に、初めてのことをやっているという熱気やプライドは強く、それが支えになりました。SSLだけでなく、ニフティからも3人入ってもらって、9人でスタート。いまだにこの1期生は、同期の絆が続いているようですよ。
数年前にSSLの社友会が発足し、私も今年、現役の役員を退いたので、初めて参加してみたのですが、社長からOB・OGへのメッセージの中に「COがわが社の柱」というふうに書いてあった。トップがそう思ってくれているというのは、嬉しかったですね。組織全体で見ても、上下関係など風通しがだいぶ良くなったということはいえるでしょう。受講したのは全社員1200人のうちの約100人。マネジャーの半分以上が受けたわけですから、影響力もかなりあったはずです。
重光:推進役の飯島さんが08年にFJMへ異動になったことで、何か反動はありましたか。
飯島:私もそれを少し心配したのですが、1期生である現在の人事部長を中心に、人材開発部が定着に向けて、ずいぶん熱心に知恵を絞ってくれました。組織の上から下まで、COは自分たちの大事なものだという意識がかなり根づいてきているようです。一方、移動先のFJMではどうだったかというと、こちらは会社の規模が3倍ほど大きい。単一職種ではなく、営業もいれば、SEや保守もいます。最初はどうかなと思いましたが、こちらもおおむね順調に進んでいますね。部長と課長、それぞれのクラスを同時並行で進めましたし、各地域でもやりました。SSLと同じく、卒業生がファシリテーションを買って出るという文化も定着しています。また、重光さんたちのおかげで、この取り組みがさまざまなメディアに紹介されたことも大きいですね。実際に受けた人はCOのよさを実感できますが、未知の人は新しいプログラムに対して懐疑的なことが多いですから。有名なメディアに載って、初めてそうなんだと。そういう定着の仕方で、だいぶ形になってきました。ただ、女性比率が少なく、最近はクラスが男性ばかりになるときもあったので、女性社員の多い他企業と組んだりして、少しバランスを整えながら進めているところです。
重光:女性が加わると、やはり変わりますか。
飯島:変わりますね。視点が変わるし、いい意味での緊張感が出てきます。あとはそこに外国人がいるともっといい。軸はあくまで自社の同僚とのピア・ラーニングですが、たまには会社や業界の枠を越えて、他社の人と組んでやるのも効果的でしょう。
重光:3年ぐらい前に、COを受けた御社の若手課長のチームが、いくつかのテーマでプロジェクトを組み、社長への提言にまで結びつけたことがありましたね。その提言が、このオフィスへの移転の際に活かされました。
飯島:そうでしたね。課長のクラスを3チーム並行で進めていたとき、あるチームが最終回のセッションを終えても、もうちょっとやりたいといってきたので、じゃあ社長に向けて提言してみるか、ということになったんです。合宿もやって、三つのテーマに取り組みました。その一つが「ワークスタイル・ワークプレイスの改革」で、これがちょうどオフィスの移転と重なった。彼らの提言がかなり実現されたわけです。しかも幸いなことに、日経のオフィス賞にまで選ばれて。初めての試みでしたから、重光さんにもずいぶんお手伝いいただきましたね。
重光:いえいえ、私はキックオフ・中間・最終と、節目のセッションにしか伺えませんでしたが、それでも貴重な経験をさせていただきました。特にOB・OGの方々がボランティアで集まり、熱心にアドバイスを送っている姿はとても印象的でした。COの受講者や卒業生の間には、上下関係や縦割りの壁にこだわらない、一緒にCOで学んだ仲間の同志関係のような絆が醸成されるという好例ではないでしょうか。
飯島:おそらく重光さんが関わっている他の企業の人とも、COをやっていたとわかれば、初対面からうちとけて、深いコミュニケーションを図ることができると思います。これは海外でも同様で、ミンツバーグやフィル、ジョナサンが確立したコンセプトを共有しているという、ある種の安心感というか、理解しているものが同じだという親近感は大きいでしょうね。逆に言うと、国や民族の違いより、考えや価値観の違いのほうが乗り越えるのは難しい。その意味で私は、ジョナサンとはあまり国を意識しないで話せるんですよ。最近、グローバル人材育成の必要性が叫ばれますが、語学ができることよりも何よりも、考えを共有する相手や仲間、共有できるコンセプトそのものを持っていることのほうが、はるかに重要かもしれません。
地方の大学と企業数社が組めば教育格差を克服できる
重光:まさにコミュニティですね。ミンツバーグ教授がよく言うのはコミュニティの大切さともう一つ、リーダーシップのあり方です。ときには、トップが強いリーダーシップを発揮することも必要だと思いますが、やはり現場で働いているミドルや若手社員にしてみれば、自分たちが主役になるかどうかは、イキイキと働く上で大きな違いになってくる。組織としての持続可能性にも関わってくるでしょう。
飯島:そうですね。やはりヒーロー型の強いリーダーシップというのは、継続性に難があると思います。背伸びして強さや力で率いようとすると、どこかで転んだり、続かなくなったりする。非常に厳しい時期とか、ここは一気に走ろうというときには、ある期間、それが重要になる場合もありますが、ミンツバーグが言うように、日々のエンゲージングや関与型のリーダーシップ、そのほうが長続きするでしょう。“当たり前のリーダーシップ”ということですね。そういう組織なら、情報も下から上へあげやすいのですが、強力なリーダーシップは、やはり黙ってしまうだろうと。けれど、関与型のリーダーシップも決してたやすくはありません。COはかなりいい研修で、短期集中よりも、10ヵ月かけて勉強したほうが効果的ですが、それでも忘れてしまうかもしれないし、熱気も冷めてくる。そこをどう継続するか、熱さを保持するか。学んだことを繰り返し思い出してもらえる仕組みも必要になりますね。また、改革の実現度という意味では、先ほど課長チームによる社長提言の話が出ましたが、彼らはポジション的にちょっと下の方なんですね。彼らが偉くなるか、あるいはより経営層に近い人たちにも、こういうプログラムを提供したほうがいいのかもしれません。いずれにせよ、ミンツバーグにしても、野中郁次郎先生にしても、日本はまず真ん中=ミドルマネジャーを強くするのが一番いいということですので、その意味では、この8年で一定の成果は上がったのではないかと思っています。
フィルに聞いたのですが、最近、デンマークで影響力の大きい人物が積極的にCOの導入を推進したため、参加企業が一気に増えたそうです。なかなか広がらないと思いきや、突然、ドンと増えることもある。講演をしていても、みんな理解されているようですが、本当に自社へ戻って実践する強い意志があるかどうかわかりませんし、講演を聞いた本人に熱意があっても、持ち帰って社内トップの同意を得られないことがしばしばあります。
重光:われわれが企業に向けて働きかけても、すぐに話が動き出すということはあまりありません。担当者が少しずつ社内で賛同者を増やしていったり、あるいは紆余曲折を経て別の会社に転職してそこで実現させたり。前の会社ではできなかったけれど、ここでできたのでうれしいといった話を聞くこともあります。
飯島:FJMの顧客には中堅企業が多いのですが、そういう企業の場合、ミドルの教育が十分でないことは珍しくありません。もともとCOは「立派な研修をやる時間もお金もないけれど、どうしたらいい!?」という条件下で生まれたプログラムですから、その原則に照らせば、一つの社会運動として、リソースの乏しい企業にこそ普及できないか、もっと知恵を絞るべきでしょう。
たとえばプログラムをもう少しパターン別に分けて、価格を安くするとか、一企業だけでなく地域振興の形でやるとか。とにかくミドルマネジャーは、上にも下にも、日々内向きのエネルギーを使ってばかりでしょう。それが少しでも癒されるような、光が差し、元気が出るような機会を持つことがすごく大事で、そういう仕組みを多くの会社に据え付けていければいいと思うんですよ。この8年間は、ひたすら成功事例をつくってきました。次の10年間で、また違う成功が生まれてほしいですね。
重光:ミンツバーグも、これは一つの社会運動なんだと言っています。その基盤を作るのに、ここまでかかったと。われわれジェイフィールでも創業する際、企業には二つの教育格差があるだろうという問題提起があったんですね。一つは大企業と中小企業、もう一つは中央と地方です。特に地方で中小というと、教育の機会に恵まれない状況がなかなか改善されません。そういうところに向けて、働く人が自分たちで学べるような仕組みを何か提供できないか。そのモデルを創っていくのがわれわれの使命だと肝に銘じています。
飯島:FJMは、COとは別に、横浜国大との連携で、社内ビジネススクールの取り組みを進めているといいましたね。現在の4期生まで、計140名が受けていますが、自分がビジネススクールへ行けるなんて、思ってもいなかった人たちがほとんどです。営業やSEの人たちですから。月一回の大学の講義と、その前後の宿題でたいへんですが、忙しいビジネスパーソンでも、通おうと思えば通える。私は、その手法を社会に提示しましょうと、横浜国大の先生と共同で論文を執筆して、大学の研究論文集に掲載してもらいました。個人で大学のビジネススクールへ通うのは難しいけれど、意欲のある大学と教育に力を入れたい企業が手を組めば、何とか半年がかりでできるというモデルをつくったわけです。地方の国立大学と地方の企業数社が連携すれば、同じことが実現できるんじゃないでしょうか。企業だけがやりたいと思っても、パートナーとなる大学がなければできません。東京から離れたところで、そのマッチングがうまくいけば、教育格差も解消され、地域の活性化につながることは疑いありません。企業との交流があまりない大学の先生方も、半年かけて企業と連携すれば、現場の実態がよくわかり、研究のテーマ、データも入手しやすくなります。産学連携にもとづく論文も多く生まれてくると思います。
重光:WIN-WINですね。
飯島:産学双方の熱意が大事ですね。日本を広く見渡せば、地方にもいい大学はあるし、成長性の高い企業もたくさんあります。そういう企業の意欲ある人材が学びの機会を得て、最新の経営学の知見を身につければ、日本全体としてももっと活性化していくと思います。
ジェイフィールは、組織の中に「つながり」を再生し、良い感情の連鎖を起こすことで、人と組織の変革を支援するコンサルティング会社です。
アミューズグループという強みを活かし、人の感情に働きかけ、感情が連鎖し、成長や変革のエネルギーになる、そんな人材育成、組織変革を支援しています。リフレクション・ラウンドテーブルは2012年HRアワード最優秀賞を受賞。「仕事が面白い、職場が楽しい、会社が好きだ」と本気で思える人たちが増え、知恵や想いが連鎖し、社会全体に波及する。そんな活動の旗振り役になりたいと思います。