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2015年9月施行予定の「改正労働者派遣法」の狙いは何か?
改正により派遣先企業に求められる対応を考える

2015年9月施行予定の「改正労働者派遣法」により、これまでの派遣労働者活用のあり方が、大きく変化します。全ての派遣会社が「許可制」になると共に、派遣労働者の雇用安定とキャリアアップが求められること、派遣期間規制が見直されること、派遣労働者の均等待遇が強化されることなど、派遣会社のみならず、顧客である派遣先企業でも対応を考えなくてはならない内容が、今回の法改正には盛り込まれています。「改正労働者派遣法」の狙いは何なのか、ポイントはどこにあるのか、そして派遣先会社がどのような対応を取ればいいのか? 製造業の「正社員派遣」「請負」で大きなシェアを誇るUTグループの宮下修さんに、詳しいお話を伺いました。

プロフィール
宮下修さん プロフィールPhoto
UTグループ株式会社 上席執行役員 事業開発部門 部門長 CFA協会認定証券アナリスト
宮下修氏
宮下修(みやした・おさむ)●1965年東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、英国でMBA、ドイツで経済学修士を取得。 野村総合研究所、メリルリンチ証券等の大手シンクタンク・投資銀行で証券アナリスト、財務アドバイザーとして活躍。経営コンサルタントとして独立後は、人材業界の調査や経営コンサルティングに従事し、業界に精通している。新しいビジネスモデルで企業の問題解決に尽力するためUTグループ入社し、現在に至る。

「改正労働者派遣法」の概要と派遣先企業の対応

―― まず、「改正労働者派遣法」の概要と派遣先企業が対応すべき点について、説明していただけますか。

図1:労働者派遣事業の適正な運営の確保及び
派遣労働者の保護等に関する法律等の一部を改正する
法律案の概要

図1に示したのが、今回の改正の内容の概要です。この中で、特に注力すべきポイント紹介します。一つ目は、「特定労働者派遣事業(届出制)と一般労働者派遣事業(許可制)の区別を廃止し、全ての労働者派遣事業を許可制とする」です。派遣事業の健全化を目指し「許可制」としたわけですが、一定の経過措置はあるものの、許可を取れない派遣会社が出てくることが十分に予想されます。派遣先企業としては、許可を間違いなく取れる派遣会社に集約しておいた方がいいでしょう。そのためにも、「利用している派遣会社の区分を調べる(許可制の一般派遣か、届出制の特定派遣か)」「特定派遣の会社の今後について、具体的な方針を聞く」「方針が定まっていない場合は、事業継続できないリスクがあるためシェアダウン、もしくは一般労働者派遣会社へ移管する」など、事前に検討・対応しておくべきことがあります。

ニつ目は、「派遣労働者の雇用安定とキャリアアップ」です。派遣会社に対して、「派遣労働者に対する計画的な教育訓練や、希望者へのキャリア・コンサルティングを派遣元に義務付け」「派遣期間終了時の派遣労働者の雇用安定措置(雇用を継続するための措置)を派遣元に義務付け(3年経過時は義務、1年以上3年未満は努力義務)」を求めています。派遣労働者は正規労働者(正社員)と比べて職業能力形成の機会が乏しいことから、キャリアアップ支援を初めて義務化したのです。義務違反に対しては許可の取り消しを含めて、厳しい指導が行われることになるでしょう。また、許可要件には、キャリアアップ措置を行う体制および計画が整備されている点を盛り込むことが考えられます。具体的に、派遣会社がキャリアアップ措置を講じることを担保する仕組みとしては、「キャリア・コンサルタントの資格を有する相談員、または営業担当者が派遣労働者の相談に応じる体制の整備」「個人のキャリアアップを念頭に置いた教育訓練計画の整備」などが挙げられます。派遣先企業は、「派遣会社のキャリア・コンサルティング体制を調査する(派遣会社内でのキャリアアップの可能性はあるのか。無期雇用の場合、職業生活の全期間を通じてその有する能力を発揮できるように配慮しているか)」「派遣会社の雇用方針を聞く(常用雇用の場合は、無期雇用か1年超の有期雇用かを把握する。無期雇用の場合は、当該無期雇用派遣労働者がその職業生活の全期間を通じてその有する能力を有効に発揮できるように配慮しているかどうか)」といった点をチェックする必要があるでしょう。

三つ目は、「派遣期間規制の見直し」です。現行制度では、専門業務などのいわゆる「26業務」には期間制限がかからず、その他の業務には最長3年の期間制限がかかっていました。今回、これを分かりやすい制度とするために廃止し、新たに以下の制度が設けられました。

(1)事業所単位の期間制限
派遣先の同一の事業所における派遣労働者の受け入れは、3年を上限とする。それを超えて受け入れるためには過半数労働組合等からの意見聴取が必要。意見があった場合には、対応方針等の説明義務を課す。
(2)個人単位の期間制限
派遣先の同一の組織単位(課)における同一の派遣労働者の受け入れは、3年を上限とする。

現行制度では、26業務及び業務単位での期間制限だったのが、見直し後は26業務か否かに関わりなく適用される「共通ルール」となりました。その点からも、派遣先企業は「3年超契約が継続する可能性の高い職場についてはなるべく無期雇用(正社員)派遣を利用する」「26業務の派遣については雇用契約を調べ、有期雇用は無期雇用への転換を派遣会社に依頼するか、そもそも無期雇用の派遣会社と入れ替える」といった点を考えた対応が求められます。

四つ目が、「派遣元と派遣先双方において、派遣労働者と派遣先の労働者の均衡待遇確保のための措置を強化する」です。義務違反に対しては、許可の取り消しを含めて厳しく指導されると思われます。また、派遣先企業に対しても、派遣労働者に関する賃金などの情報提供といった「配慮義務」が求められることになりました。こうした点を踏まえ、短期的には「同種の業務に従事する派遣先の労働者の賃金の情報提供、教育訓練、福利厚生施設の利用に関する配慮義務を講じる」、そして長期的には「同一の仕事内容において労働契約の混在状態を解消する」といった対応が、派遣先企業には求められてくるでしょう。

宮下修さん Photo

もはや、正社員雇用促進は限界。非正規雇用の雇用安定化や処遇向上、キャリア形成を進めることが、法改正の最大の意図

―― かなり、大きな改正となったわけですね。いったい今回の「改正労働者派遣法」が求めるものとは、何なのでしょうか。

歴史的な視点で考えると、今回の法改正の狙いがよく分かります。日本の労働市場は、大企業のメーカーを中心に、高度成長期からバブル経済の頃までは、現場のオペレーターも含めた正社員雇用が中心でした。会社がどんどん成長していく中、人材不足の状態が続き、人材を確保するために正社員を定期的に採用し、長期的なスパンで育成していくという流れができたのです。日本経済はこの流れで、1990年までのバブル経済まで高度成長を実現しました。

図2:歴史的視点

しかし、バブル経済が破たんした後、多くの企業では正社員を雇用し続けることが難しくなりました。そのため、外部労働力を戦略的に活用する方向にシフトしていったのです。期間の定めのある契約社員や派遣労働者の活用が進みましたが、ここでの労働法制のあり方は、これまでの規制を緩和し、外部労働力を使いやすくしようというものでした。ただし、基本はあくまで正社員であり、外部労働力や非正規社員は、一時的、臨時的な存在であるという考えです。しかし、経済成長はなかなか起こりませんでした。さらに、ITバブルの崩壊、リーマンショックなどが起きたことで、正社員の雇用抑制が強まり、より一層の外部労働力、非正規社員の活用が進んでいきました。こうした状況下で施行されたのが、今回の「改正派遣労働者法」です。

労働法制が変換しているのは、「労働者派遣法」だけではありません。「パートタイム労働法」「労働契約法」も同様です。「労働者保護・雇用安定化」「均衡・均等処遇」が法改正時に謳われました。正社員雇用促進が限界に達した現在、これからは正社員だけでなく、非正規雇用に対して雇用の安定化を進め、処遇を向上し、キャリア形成支援を進めていく。これが今回の「改正労働者派遣法」の最大の意図だと思います。

そのために派遣業界の発展を目指して、「規制緩和・労働者派遣事業の健全な育成」が盛り込まれることになったのです。ここでのポイントは、「正社員派遣」は無期化する一方、26業務の撤廃、特定派遣の撤廃を定めていること。26業務の撤廃、特定派遣の撤廃に関しては、明らかに労働者派遣事業の健全な育成を求めるものと言えます。

26業務の中でも、高度なエンジニアなどであれば、自分自身でキャリア形成も可能です。しかし実態を見ると、ファイリングなどの事務作業を行っている派遣労働者なども含まれています。このままで、キャリア形成ができるでしょうか。このような問題は、業界にずっと残っていました。それを今回は、無期雇用の派遣(正社員派遣)と有期雇用の派遣に分けて、対応していこうというのです。

具体的には、キャリア形成を派遣会社に義務化させることにしたわけです。それによって、派遣労働者のキャリア形成への支援を進めるのです。正社員の無期派遣について言えば、生涯に渡るキャリア形成支援が十分可能になります。要するに、これまでの26業務をなくして、分かりやすい正社員の無期雇用の派遣に対して、生涯に渡るキャリア形成支援を派遣元企業に義務付けたということです。

一方、特定派遣は、実態から言えば無期雇用は2~3割しかありません。7割は1年超の有期雇用の社員です。派遣労働者のキャリア支援が、ほとんどできていない状況にあります。このような派遣会社を淘汰しようというのが、今回の改正の主眼にあります。

―― 26業務の撤廃、特定派遣の撤廃が定められたことによって、派遣業界に対する厳しい規制が行われることになりますね。

無期雇用か有期雇用の選択が行われるわけですが、それに対する規制強化は当然、行われるでしょう。請負についても、偽装請負に対する監督強化から、期間制限のない正社員派遣に移行する動きが出てくると思われます。すると、派遣の中で無期雇用か有期雇用かという問題が出てきます。ここでは、個人単位の派遣期間の上限が3年という期間制限が、相当な足かせになると思います。例えば、有期の派遣社員が100人働いていた職場の場合、3年経つごとに派遣元企業は、各人に対して雇用安定化に向けた措置を行わなければなりません。

その際、同じ会社の中で、その都度職場を替えて対応していけばいいのではないかという意見がありますが、今回の改正では許されないと思います。これから省令などが出るはずですが、このようなケースを見逃せば、会社の中でぐるぐる回しをすれば本人のキャリア形成ができるという話になってしまうので、厳格な運用が行われると思います。

そう考えると、3年を超えるような有期雇用派遣は今後、使えなくなるでしょう。3年を超える場合には、正社員派遣へと置き換わっていくと十分に予想されます。そして、正社員派遣となると、今度は生涯に渡るキャリア形成支援が義務付けられます。

派遣労働者のキャリアアップ支援のできる派遣会社が生き残る

―― これは、かなりハードルの高い要求ですね。

図3:外部労働間の異動

つまり、本当に派遣社員の生涯に渡るキャリア形成を支援できる会社でないと、正社員派遣は難しいということです。その意味からも、自らの派遣会社、もしくは請負現場を持っていて、自社の中でキャリア形成支援を実現できる会社の方が、圧倒的に有利なのは間違いありません。UTグループの場合、全国に1万人もの派遣労働者がいるわけで、100人単位の請負現場、派遣現場をたくさん持っています。UTグループの中で、派遣労働者の生涯に渡るキャリア形成支援を全うできるのです。このような正社員派遣を生業とする派遣会社の方が、より実行性のあるキャリア形成支援ができるのは明らかです。厚生労働省の方も、キャリア形成支援が今回の改正における重要なポイントと考えています。その実行可能性まで含めて、厳しく監督することでしょう。

―― 派遣会社の中でキャリアアップ体系を持つことが、重要だということですか。

その通りです。UTグループでは、業界で最も体系的で多様で実績のあるキャリア形成体系を構築しています。派遣労働者のキャリア形成を行う場合、多くはOJTではないでしょうか。職場の中で仕事のできる人とセットで、チームで働くことによって、OJTが可能となります。ですから、UTグループは常にチーム派遣、工程請負を設立当初から重要視し、それを20年間やり続けてきました。だからこそ、働く現場から高技能者が生まれてくるのです。

また、UTグループでは派遣先で正社員になる人が大勢います。一般的に、派遣会社ではスタッフが派遣先の正社員となることを嫌がる傾向がありますが、UTグループは違います。派遣先企業の正社員となることを奨励しています。なぜなら、派遣労働者のキャリア形成支援を第一に考えているからです。本人と顧客が望むのであれば、それが一番良いことだと考えています。

いずれにしても、今後、派遣会社が「段階的かつ体系的な教育訓練」を提示できないと、派遣業の許可が下りない可能性があります。仮に、派遣先会社が20社の派遣会社と取り引きをしていて、それぞれの会社と合意して「段階的かつ体系的な教育訓練」を作るとなると、大変な作業です。そう考えると、今回の法改正を機会に、大手の派遣会社に集約せざるを得ない。また、労務問題があった時、訴えられるのは派遣先企業(本社人事部)です。その意味でも、安心、信頼して任せられる派遣会社を利用することがとても重要です。

―― まさに今回の法改正が、企業の人材活用のあり方に、大きな影響を与えたということですね。

先ほども言いましたように、正社員雇用促進は限界にきています。再び成長戦略へと進展してくには、新たな人材ポートフォリオを考えていくかなくてはなりません。今後、請負も含めて、チーム派遣、リーダー派遣など、外部の労働力の戦略的活用は企業にとって必要不可欠な“人的資源”となってくるでしょう。その際、派遣会社など外部の人材サービス会社と、いかにパートナーシップを持って対応していくかが重要になり、そのためにも外部パートナーとなる企業が生涯に渡るキャリア形成支援体制を講じているかどうかをジャッジする選別眼が、人事部には求められます。

組織の労務構成の考え方として、企業の特殊技術(コア)を持つ正社員の雇用は必要です。ただ今後、売り上げが変動していく中で、外部人材の活用は不可欠となっています。そこで、今回の法 改正を受けて、さまざまなメリットおよびリスクを考えると、無期雇用派遣(正社員派遣)、あるいは適正請負・業務委託が、重要なポジションを占めることになります。まさにUTグループでは、ここを目指しています。一方、短期的変動対応部分においては、有期雇用派遣・短期契約社員の活用があると考えます。外部労働力が、ニつの方向に分かれていくのです。その意味でも、今回の法改正のタイミングでは、自社の人材ポートフォリオを再構築し、それに合わせた外部人材活用戦略を再構築していくことが、企業に求められているのです 。

宮下修さん Photo
協賛企業
創業20周年を迎え「はたらく力で、イキイキをつくる」というミッションのもと、ものづくり人材業界でリーダー企業として成長しました。さらなる成長を目指し、新ビジョン「日本全土に仕事をつくる」を掲げてまいります。
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