ATD 2019 International Conference & Expo 参加報告
~ATD2019に見るグローバルの人材開発の動向~
株式会社ヒューマンバリュー 取締役主任研究員
川口 大輔
【参加者の声】
博報堂 博報堂DYメディアパートナーズ 人材開発戦略局/人事局
荻野 綱重さん
ATD2019の4日間は、濃厚な「タレント開発の強化合宿」でした。「なぜ、人は学ぶのか」「人間とは何か」「テクノロジーで、学びはどう変化するのか」。次々と本質的な“問い”が投げかけられ、最先端の研究内容が、考えを深めるヒントとしてドサリと渡される。世界中の仲間たちと学びを共有し、ようやく答えらしいものが見つかると、次の日にはまた全く違う“問い”が来る。自分の脳が悲鳴を上げ、そしてモリモリと音を立てて筋肉がついていきます。
どのセッションを受けるのか、ラウンドテーブルでどんな意見を言えるのか。何より、その場から何を感じとるのか。一瞬一瞬の気づきや体験の積み重ねで、一人ひとり全く味わいが違う「学び」が得られます。
ATD2019での私の学びは、「人間の中には未知なるものが眠っている」ということです。それは、ビジネスの利益の追求にも使えますが、もしかすると、それ以上の大きな何かのためにも使えるかもしれません。世の中を変えるのは、変わり者(Idiosyncratic)です。自分の個性(Uniqueness)を信じて、自ら変化をリードすることで、変化の時代を楽しみましょう。こんなエールをいただきました。
タレント開発は、【全体性(Wholeness)】まで広がりを見せています。AIやロボットと協業する中で、人間だからこそ生み出せる価値とは何か。自分はどうしたら、世の中に役立てるのか。今後、どんな発見があるのか、今からワクワクしています。
パナソニック株式会社 モノづくり研修所
登 和則さん
私事で恐縮なのですが、私は約25年間モノづくり、事業に携わり、2年半前に人材育成の部門に異動しました。そのため長年「人材開発、育成してもらう側、施策を受け取る側」でした。今回ATD-ICEに初めて参加し、弊社の育成施策などが「こんなにも練られた(考えられた)上の施策だったのか!」という本当に弊社の人事部門には申し訳ない感想を持ちました。逆に言うとさまざまな施策の背景、目的、思いがもっと現場に伝われば、少なくともマネジメント側は自分たちに合ったアレンジや継続できる仕組みづくりなど、より良い進め方ができるのではないか、と思った次第です。今さらながら自分自身の過去のマネジメントに大反省しました。
初参加者が内容について何かを申し上げるのははばかられるのですが、同行の皆さまのご意見も踏まえると、一昨年、昨年のキーワードについては、「マイクロラーニング(ML)」は既に当たり前になってきたのでワードとして目立たなくなってきたとのこと。また「デジタル・トランスフォーメーション(DX)」は人材開発、育成の仕組み、ツールとして入り込む(HRDのデジタル化)前にビジネスのDXへの対応が目立ったように感じました。私はモノづくり人材育成を担当しており、e-Learningの学習効果に悩みを持っていましたが、極端にいうと、e-Learningは全てML化、ML化できないコンテンツはe-Learningにしないぐらいの覚悟が必要だ、と気持ちを新たにしました。
ATD-ICEは人事、人材開発、育成部門の方はもちろんのこと、事業分野の組織責任者クラスの方にも参加をお薦めします。
ヒューマンリンク株式会社 代表取締役
和光 貴俊さん
トランプ政権下では、初めて首都ワシントンDCで開催されたATD ICE。この街でのATD開催頻度はおよそ5年に一度とのことなので、大統領選の周期と微妙にずれはあるが、やはり「大統領のお膝元」という印象は強く、その時点での政権に対する評価や、米国のおかれた現状に対する人々の受け止め方がATDの各セッションにも反映されている空気を感じた。
今回、印象的だったのは、いくつかのセッションで象徴的に用いられていた“Fear(恐れ)” というワードだ。近年、注目されている「心理的安全性」の阻害要因である、組織における「恐れ」の感覚をいかに低減させ、機動的且つ創造的な風土を醸成するか。そのために必要な”Candor(率直)”な「対話」や「フィードバック」のあり方、マネジメントの果たすべき役割についてのセッションが数多くみられた。裏返せば、経済的な好況が伝えられる米国においても、組織における「不安」や「恐れ」の感覚は(当然のことながら)存在しており、「対話」や「成長の為のフィードバック」もなかなか大きな効果が得られる段階にまでは至っていないのだな、と感じた。
また、テクノロジー関連でインパクトがあったのは、「ブロックチェーン」に関するセッションで、このワードをセッションタイトルとしていたのは、わずかに一つ(SU303)だったにもかかわらず、多くの参加者が「ブロックチェーン」を印象に残ったキーワードとしてあげていた。スピーカーである Ger Driesen氏によれば、「インターネットの普及に比肩しうるほどのポテンシャルがあるテクノロジーであり、決して仮想通貨だけに使用される技術ではない」とのことであり、MITで導入された電子卒業証書や、人材育成と仮想通貨を組み合わせた産学協同の取り組みの事例など、HR Techへの応用例も紹介されていた。今後、注目すべき大きな技術革新であり、ぜひ、日本での具体的な活用に取り組んでみたいと思った。
日本電気株式会社 人材組織開発部
小野 順正さん
膨大な「熱量」と「情報量」。ATD-ICE2019に参加して率直に感じたことです。日本ではなかなか経験できない規模とスピーカーの熱い思いがほとばしるセッションは、参加者を飽きさせず、多くの気づきや学びがある機会となりました。
特に今回のセッション参加を通して自分自身が感じ取ったことは、テクノロジーが進化する世界において「人の可能性」と「つながり(コネクト)」がこれまで以上に重要ということです。テクノロジーやソーシャルメディアなどが発達していく中で、とかく人と人とが「つながっている」と錯覚してしまいがちですが、それらを活用するうえでこれまで以上に「人間らしい感情(エモーション)」が必要であり、人と人との現実社会でのつながりが重要となります。そのつながりの中で、多様性を尊重し、お互いを刺激しあい、成長を促すためのフィードバックをしていくことで、人の可能性を最大限に高めることができるのだと、あらためて感じました。
昼夜問わず多くの情報の中をさまよい、消化しきれないまま次の日を迎えるといった四日間を現地で過ごして日本に帰国したわけですが、終わってみれば非常に心地よい疲労感と充実感を得た貴重な経験となりました。この膨大な「熱量」と「情報量」を体験することで、「人の可能性を信じて広げていくことのできる人事って、良い仕事だな」とあらためて思える機会となりました。今後より多くの人事の仲間が、同様の経験ができることを願っています。
凸版印刷株式会社 人事労政本部 人財開発センター
野月 千賀子さん、 伊藤 信久さん
セッション全体を通して、昨年度も挙げられた脳科学のセッションが、より綿密なデータをもって語られ、海外企業でも脳科学を活用した人財育成について関心が高いのだと感じました。
デジタル・トランスフォーメーションでは、さらにテクノロジーが変化していくと予想される中で、その及ぼすインパクトが多くの文脈で語られていました。印象として残っているのは、新たなテクノロジーにより人間が手作業で取り組んできたことは自動化され、私たちがこれまで獲得してきたスキルや行動が不要になりつつある。そのため、新たな習慣や行動を獲得していくことが重要であると語られました。これからの世の中、HR担当者でもある私たちも、テクノロジーによる時代の変化を捉えつつ、新たな環境変化に敏感に対応していきたいと思います。
たくさんのセッションで重要なキーワードが複数展開されましたが、とくに「エモーション(感情)」「ハビット(習慣)」そして「ニューロサイエンス」といった新たな知見を取り入れながら、自社の取り組みに活かしていきたいと思います。
◆ATDとは
ATD(Association for Talent Development)は、企業や政府などの人材開発・組織開発の支援をミッションとし、米国ヴァージニア州アレクサンドリアに本部を置く会員制組織(NPO)であり、1943年に設立されました。世界120カ国以上に約40,000人の会員を持つ、タレント開発に関する世界最大級の組織です。
◆ATD International Conference & Expo(ATD国際会議)とは
ATD International Conference & Expo(ATD国際会議)は、ATDが年に一度開催している人材開発や組織開発に関する世界で一番大きなイベントです。通称ATD ICE(アイス)と呼ばれています。
日程 | 2019年5月19日(日)~22日(水) |
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セッション数 |
約400件
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コンテント・トラック (10カテゴリー) |
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インダストリー・トラック (4カテゴリー) |
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ATD2019 International Conference &Expo開催実績
- 参加人数:13,500名
- 海外からの参加:2,300名
- 参加国数:88ヵ国
- 参加者の多い国の状況:韓国…369名、カナダ…337名、日本…227名、中国…163名、ブラジル…118名
2018年 | 13,000名 |
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2017年 | 10,000名 |
2016年 | 10,200名 |
2015年 | 9,600名 |
2014年 | 10,500名 |
2013年 | 9,000名 |
2012年 | 9,000名 |