ERP
ERPとは?
ERPはEnterprise Resource Planningの頭文字をとった略語で、「企業資源計画」と訳されます。本来は言葉の通り、経営に必要な資源を管理するための計画を指しますが、日本では一般的に「企業活動におけるあらゆる情報を連携・集約した統合基幹業務システム」を意味することが多くなっています。
1.ERPとは
情報の一元管理は、企業経営における重要なキーワードになっています。なかでも、業務効率化や意思決定スピードに影響するシステムの整備は、企業の変革に大きな意味をもたらすものと位置づけられます。こうした情報戦略の要になるものとして、大企業、中小企業ともにERPの検討・導入が進んでいます。
企業経営に必要な資源は、ヒト・モノ・カネ・情報の四つとされます。ERPはこれらの資源を効率的に管理し、有効活用していくことを目的としています。
ERPの導入が進む背景
ERPが登場する前には、人事・会計・販売・購買・在庫・生産などの部門別に、多くの管理システムが導入されていました。しかし、これらのシステムは連携ができないことから、情報管理が煩雑になるという課題を抱えていました。
その後、業務改革への意識が高まり、BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)という言葉が広く認知されるようになります。BPRとは、業務改善に留まらず、組織活動のプロセスを根本から再構築することで、全体最適の実現を目指す考え方です。こうした動きが活発化する中で、情報管理の中枢を担うシステムとして生まれたのが、ERPでした。
2.ERPと基幹システムの違い
ERPと似たものとして「基幹システム」があります。この二つの違いについて解説します。
基幹システムとは
基幹システムとは、企業活動を支える根幹となるシステム全般のこと。企業によって導入されているものは異なりますが、以下のようなシステムが代表的です。
- 生産管理システム
- 販売管理システム
- 在庫管理システム
- 購買管理システム
- 顧客管理システム
- 財務会計システム
- 人事管理システム
ERPと基幹システム
では、ERPと基幹システムは、どういった点で異なるのでしょうか。最も大きなポイントは、基幹システムがそれぞれの役割ごとに機能が独立しているのに対して、ERPはすべての情報が一元化されているということです。
基幹システムの目的は、基幹業務の効率化。多くの場合、それぞれの業務単位ごとに独立したシステムとなっているため、データベースの共有が難しく、部門や業務をまたいで連携することはできません。
一方、ERPは、組織活動全体におけるプロセスの最適化を目指したシステム構築を行います。データベースの共有を前提とし、情報の一元管理を可能にしているので、部門を横断した業務効率化が可能です。情報が集約されているERPは、経営判断にも活用することができます。集約された情報をタイムリーに吸い上げることで、単なる業務効率化だけでなく、経営状況の見える化ができるのです。
3.ERP導入のメリット
ERPを導入することで、実際にどのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは、「情報の一元管理」「迅速な意思決定」「企業活動の最適化」「顧客満足度への貢献」「内部統制の強化」の五つをご紹介します。
情報の一元管理
ERPのメリットとしてまず挙げられるのが、各部門や業務ごとに分かれていた情報の一元管理が可能になることです。従来型の独立した基幹システムでは、あるデータに変更を加えても、他のシステムには自動で反映されません。そのため、連携するための工数がかかり、データのずれやミスが起こる原因になっています。
一方、ERPはリアルタイムでデータが連携されるため、情報共有にかかる時間や手間を削減することができます。業務効率がアップするとともに、ミスを防止できるというメリットがあります。
迅速な意思決定
経営や事業の意思決定の場では、さまざまなデータを使用します。しかし、データの収集と分析に時間がかかってしまうと、意志決定を行うタイミングで、古い情報から判断しなければならないということが起こり得ます。
ERPは、あらゆる部門・業務の情報をスピーディーに吸い上げることができるため、市場の動きをリアルタイムで把握しながら意思決定を行うことが可能になります。
すぐに戦略・戦術として実行に移す必要がある場合には、商機を逃すリスクを抑えられるというメリットも生まれます。スピード感が重視される現在のビジネス環境において、ERPは強い武器になるでしょう。
企業活動の最適化
企業活動においては、それぞれの業務工程でどのような付加価値を生み出すことができるかという、バリューチェーンが重視されます。複数の業務プロセスを俯瞰(ふかん)し、企業資源の最適な配分を検討する際にも、ERPが活用できるでしょう。企業活動の全体最適化は、スムーズな組織運営につながるだけでなく、目標達成へのスピード化も期待できるため、企業の成長に大きく寄与します。
顧客満足度への貢献
データを一元管理することで、顧客満足度の向上にも役立てられます。たとえば、現在売れている商品の傾向や顧客層などの複合的な情報をスピーディーかつ的確に把握することができれば、より顧客のニーズにマッチした商品の開発などにも役立てられます。また、顧客対応においてもスピード感のある柔軟な対応が可能になり、顧客満足につながります。
内部統制の強化
内部統制とは、従業員全員が守るべきルールや仕組みのことで、「業務の有効性・効率性」「財務報告の信頼性」「法令遵守(コンプライアンス)」「資産の保全(情報漏えい、改ざんによるリスク防止など)」を達成することを目的としています。
内部統制は企業内で運用する仕組みのため、有効に機能していない場合、経営責任が問われることになります。しかし、企業活動が公正に行われているかをつねに管理することは容易ではありません。そのため、不正を防ぎ、情報の透明性を保つためのシステムが求められるのです。
ERPでデータを集約して管理すれば、その整合性を担保することができます。また、データへのアクセス権限などを設けることで、不正を防ぐ効果が期待できます。
4.ERPの導入形態と種類
ここからは、ERPの導入を検討する際に必要な知識として、導入形態と種類について説明していきます。
ERPの導入形態
ERPの導入形態は、大きく分けて二通りあります。それぞれにメリット・デメリットがあり、自社に適した形態は異なるため、導入時にはしっかり見極めることが大切です。
(1)自社内に構築する「オンプレミス型」
オンプレミスとは、サーバーやソフトウェアなどの設備を自社内に置き、運用することを指します。従来、企業のシステムは自社内で備えることが一般的でした。しかし、現在では自社にシステムを置かず、インターネット上のクラウドを活用するERPも増えています。この「オンプレミス型」ERPのメリット・デメリットとしては、次のようなものが考えられます。
メリット | デメリット |
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つまり、オンプレミス型は自社に適したシステムを構築できる一方で、コストが高く、運用パワーがかかる方法といえます。
(2)ネットワークを活用する「クラウド型」
クラウド型は、自社内にサーバーを置かず、ネットワークを介して既存の仕組みを利用する方法です。メリット・デメリットとしては、以下のようなものが挙げられます。
メリット | デメリット |
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すでに構築されているERPを活用するクラウド型のERPは、オンプレミス型の欠点であるコストと運用パワーを削減できる反面、自社への適合性においては十分に検討する必要があります。
ERPの種類
ERPは「統合型」「業務ソフト型」「コンポーネント型」の三つの種類に大別されます。導入の目的によって、自社に最適な種類を選択することが大切です。
(1)統合型
統合型のERPは、企業活動におけるすべての業務をまとめて管理できる基幹システムで、全体最適化を目的としています。データベースの共有による一元管理が可能になるため、ERP導入によるさまざまなメリットを享受できます。一般にERPというと、この統合型を思い浮かべることが多いかもしれません。
(2)業務ソフト型
業務ソフト型は、各業務の単独システムを組み合わせることで最適化を図るERPです。たとえば人事・総務業務だけでも「給与計算」「勤怠管理」「人材管理」「タレント・マネジメント」「採用管理」などのさまざまなシステムがあるため、これらを組み合わせ、一元管理することが目的です。分野を切り出して管理することで、企業の目的に応じて無駄なく活用できるというメリットがあります。また、導入時の初期費用を抑えやすく、短期間での導入が可能です。
(3)コンポーネント型
コンポーネント型は、既存のシステムに新たな機能を追加・拡張することで、システムの最適化を目指すERPです。既存システムと連携して必要な機能を加えるため、再構築が容易というメリットがあります。また、導入後も環境の変化に応じて機能の追加ができることから、ニーズが高まっているERPです。
5.ERP導入時の注意点
基幹システムであるERPの導入は、企業活動に多大な影響を与えるとともに、大きなコストやパワーをかけるプロジェクトになります。そのため、導入にあたってはリスクを洗い出し、慎重に進めることが重要です。とくに留意すべき点には、以下の二つがあります。
導入の目的・目標を明確にする
「自社に最適なERPの選択ができているかわからない」「導入による費用対効果が懸念される」といった理由から、検討したものの導入をあきらめてしまう企業は少なくありません。
導入を検討する際は、何を改善したいのか、どのような効果を得たいのかといった目的の設定が重要になります。また、導入効果の目標をあらかじめ設計しておくことで、費用対効果の判断ができます。ERPで集約したデータをどのように生かしていくかなど、活用方法を具体的にしておくこともポイントです。
将来に対応できるシステムか検証する
ERPの導入では、現在の状況を改善するだけでなく、将来的にも対応可能なシステムか検証することが極めて重要です。社内の体制や事業内容が変わる可能性を視野に入れるほか、外部環境の変化による影響も考慮する必要があります。せっかく導入したシステムがすぐに使えなくなってしまう事態を防ぐためにも、将来を見据えたフレキシブルなシステム構築が重要です。
6.ERPは働き方を変えるツールになり得る
グローバル化の進展やビジネス環境の変化などにより、既存の基幹システムに限界を感じている企業も多いでしょう。ERPを導入することで、こうした悩みを解決できるかもしれません。自社に最適なシステムの導入は、今後の企業活動を大きく変える可能性を秘めています。
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