フレキシキュリティ
フレキシキュリティとは?
フレキシキュリティとは、柔軟性を意味するフレキシビリティ(Flexibility)と安全性を意味するセキュリティ(Security)を組み合わせた合成語で、雇用の柔軟性を担保しながら、同時に手厚い失業保障によって労働者の生活の安定を図る政策のこと。デンマークやオランダで失業率の改善と経済成長に効果を上げたとされることから、雇用政策のブレイクスルーとして注目されています。
解雇規制の緩和、失業手当の充実、有効な職業訓練
――雇用の流動性と安定性を両立させる3つの条件
労働市場を自由化すれば、雇用調整による経営の効率化が容易になり、環境変化に強い産業構造への転換が進みますが、いったん景況が悪化すると失業者が大幅に増え、深刻な社会不安を引き起こす可能性もあります。逆に労働者保護に偏り過ぎると、経営の硬直化や労働意欲の低下を招き、社会全体の活力を奪いかねません。そこで解雇規制を緩和して、雇用の柔軟性を高める一方、効果的な失業対策で労働者の生活の安定を保障しようというのがフレキシキュリティの考え方です。
雇用の柔軟性と労働者保護を両立させるためには、単に失業手当を充実させるだけではなく、実効性のある職業訓練の実施など、失業者の再就職を強力に支援する体制が欠かせません。それが、フレキシキュリティの要諦です。
成功例といわれるデンマークでは、1994年から雇用規制を緩和。その一方で失業給付の期間を最長で4年間、給付額を前職手取りの6割〜8割(低所得者は9割前後)にまで引き上げました。ただし失業者が給付を受け取るには、職業訓練プログラムへの参加が「義務」となります。職業訓練プログラムの開発や、訓練の場となる雇用支援センターの設立は労使を挙げて進められました。
職業訓練は失業中だけでなく、在職中でも受講でき、受講中の賃金減額分は国と経営者団体が拠出する基金から給付されます。公的支出の額は当然大きく、職業訓練のための支出に限っても、経済協力開発機構(OECD)加盟国の平均(2008年)がGDP比0.17%であるのに対して、デンマークは0.54%。米国は0.05%、日本は0.04%(OECD調べ)に留まっています。こうした公費による多額の人的投資と労使の協力の結果、同国の失業率は1993年の13%超から、2008年には年間平均3.3%にまで低下しました。
しかしこれだけをもって、フレキシキュリティが正しいとはいえないとの見方もあります。リーマンショックに端を発する経済危機以降、各国の雇用情勢は軒並み悪化しましたが、経済評論家の森永卓郎氏によると、解雇規制の強い国ほどやはり失業率の上昇は抑えられているといいます。2009年の年間平均で見ると、解雇が最も容易なアメリカは9.8%で前年に比べて3.5ポイントの悪化、デンマークは6.0%で3.7%も悪化しました。両国よりも解雇規制の厳しい日本は5.1%、前年比1.1ポイントの上昇に留まっています。
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