最低賃金
最低賃金とは?
最低賃金は、最低賃金法に基づいて国が定めた最低限度の賃金です。最低賃金制度により、使用者は労働者に対して最低賃金以上を支払わなければならないと定められています。
最低賃金には、地域別に定めている地域別最低賃金と、特定の産業で適用される特定最低賃金の二つがあります。
1. 最低賃金制度の概要
最低賃金は給与計算における最も重要な制度の一つです。万が一、使用者と労働者の間で最低賃金未満の賃金が合意・設定された場合でも、法的に無効となります。最低賃金額と同額の契約とみなされ、使用者はその差額を支払うことになります。
使用者が最低賃金をチェックできるよう、厚生労働省では下記のサイトを公開しています。
政府は2017年3月の「働き方改革実行計画」のなかで、最低賃金を、年率3%程度を目途に名目GDP率に配慮しながら引き上げていく方針を掲げました。全国加重平均を1,000円までアップさせることを目標としています。これを実現するため、政府は中小企業や小規模事業者の生産性向上を支援するなど、さまざまな施策をとっています。
- 【参考】
- 「働き方改革」とは
- 「同一労働同一賃金推進法」とは
最低賃金の種類
最低賃金には、地域別に定めている地域別最低賃金と、特定の産業で適用される特定最低賃金の二つがあります。詳しく見ていきましょう。
(1)地域別最低賃金
地域別最低賃金は、各都道府県において定められた最低賃金です。産業や職種・企業規模の違いなどに関係なく、同じ都道府県内の事業場内で働く全労働者・使用者に適用されます。
また、地域別最低賃金は、以下の三つを総合的に勘案し定めるとしています。
- 労働者の生計費
- 労働者の賃金
- 企業における通常の事業の賃金支払い能力
なかでも労働者の生計費を考慮する際には、労働者の健康で文化的な最低限の生活を守れるよう配慮すること、生活保護に関連する施策と整合性を保つ配慮をすることが最低賃金法に明記されています。
- 【参考】
- 厚生労働省:最低賃金の種類
(2)特定最低賃金
特定最低賃金は、特定の産業において地域別最低賃金よりも高い最低賃金を定める必要があると認められた場合に設定されます。特定最低賃金では、産業ごとに対象となる労働者が細かく規定されています。地域別最低賃金と特定最低賃金ともに適用となる場合は、高い金額のほうが適用されます。
2021年3月31日時点の特定最低賃金は、全国227件、適用使用者約9万人、適用労働者数約292万人です。なお227件のうち1件については全国単位で決められたものです(全国非金属鉱業最低賃金)。
最低賃金の適用外となる対象者・減額の特例にあたる対象者
地域別最低賃金は、パート・アルバイト・嘱託・臨時などといった雇用形態・呼称にかかわらず適用されます。一方で特定最低賃金は、主に以下に該当する労働者には適用されません。
- 18歳未満もしくは65歳以上である
- 雇入れ後一定期間未満であり、技能習得中である
- 該当する産業に特有の軽易な業務に従事している
また、労働能力が一般的な水準よりも著しく低い場合、最低賃金を適用することで逆に雇用されにくくなる可能性が出てきます。これを防ぐため、以下に該当する労働者については都道府県局長の許可を得ることを条件に、個別で最低賃金の減額の特例制度が設定されています。
- 精神・身体の障害によって労働能力が著しく低い
- 試の使用期間中
- 認定職業訓練を受けている人のうち、厚生労働省令で定められている一部労働者
- 軽易な業務に従事
- 断続的労働に従事
最低賃金の減額の特例許可を得るには、最低賃金の減額の特例許可申請書(所定様式)を2通作成する必要があります。提出先は都道府県労働局長あてに、所轄の労働基準監督署長を経由して提出します。
派遣労働者に対する適用方法
派遣労働者に関しては、派遣先での最低賃金が適用されます。たとえば、派遣元とは異なる都道府県に派遣され就業した場合、派遣先の地域別最低賃金もしくは特定最低賃金が適用されます。
最低賃金の対象となる賃金・除外対象の賃金
最低賃金は、毎月支払われている基本的な賃金が対象となります。除外対象となる主な賃金は、以下の通りです。
- 臨時的に支払われる賃金
- 1ヵ月を超える期間ごとで支払われる賃金
- 所定労働時間を超えた労働時間に対して支払われる賃金
- 所定労働日以外で働いた分に対する賃金
- 22時から翌朝5時までの深夜労働のうち、通常の労働時間の賃金を超えた割増分
- 精皆勤手当や通勤手当、家族手当
具体的には、慶弔手当・賞与・時間外割増賃金・休日割増賃金・深夜割増賃金などが除外対象です。
- 【参考】
- 厚生労働省:最低賃金の対象となる賃金
2.最低賃金が守られているか確認する方法
最低賃金以上が支払われているどうかを確認する方法を、給与体系ごとに説明します。
時間給
最低賃金は時間給で提示されているので、そのまま最低賃金額と照らし合わせて確認します。
日給
日給で賃金が支払われている場合、定められている一日の所定労働時間で割り、1時間あたりの賃金を計算し確認します。
特定最低賃金では日額が定められている場合もあります。その場合は最低賃金額(日額)を比較して判断します。
月給
月給の場合は日額と同様の考え方で、1ヵ月間の平均所定労働時間をもとに1時間あたりの賃金を計算して確認します。
出来高払制やその他請負制などの場合
出来高払制やその他請負制などの場合も、考え方は同様です。算出された総賃金額を総労働時間数で割り、時間給に換算した金額と最低賃金額(時間額)とを比較します。
いくつかの賃金体系が組み合わさっている場合
基本給や各手当で、それぞれが日給・月給などいくつかの賃金体系が組み合わさって支払われることがあります。この場合は、それぞれを時間給として計算し、合計したものを1時間あたりの賃金として最低賃金額と比較します。
3.最低賃金の改定について
最低賃金はほぼ毎年改定
最低賃金は賃金・物価などの影響を受け、ほぼ毎年改定されています。たとえば2022年の場合、8月上旬に地域別最低賃金の改定額が答申され、10月1日から10月中旬に発効されています。厚生労働省のサイトをはじめ、報道機関や市町村広報誌などで国民に周知しています。
最低賃金改定の流れ
最低賃金は最低賃金審議会にて、賃金における実態調査結果をはじめとした各種統計資料を参考に審議・決定します。最低賃金の改定ついて、「地域別最低賃金」「特定最低賃金」に分けてポイントを解説します。
(1)地域別最低賃金
地域別最低賃金の改定では、全国的な整合性も重要になります。中央最低賃金審議会から提示された引き上げ額の目安に基づき、地方最低賃金審議会で地域の実情を踏まえて審議・答申を得ます。
その後、異議申出があれば必要な手続きを経て、都道府県労働局長または厚生労働大臣が最低賃金を決定します。決定が公示され、公示日の30日経過後もしくはそれ以降の指定日に効力が発生します。
(2)特定最低賃金
特定最低賃金は関係労使の申出に基づき、地方もしくは中央最低賃金審議会が必要だと認めた場合に、審議会の審議・答申を得ます。その後、異議の申出があれば手続きを経て、都道府県労働局長または厚生労働大臣が最低賃金を決定します。
決定の公示後は、地域別最低賃金と同じ流れです。地域別最低賃金との違いは、「最低賃金審議会が必要だと認めた場合」につき審議・答申される点です。
4.最低賃金における企業の義務および罰則
最低賃金法では、企業の義務を定め、違反があった場合の罰則を設けています。しっかり確認しておきましょう。
最低賃金の周知義務
最低賃金法第8条および最低賃金法施行規則第6条により、使用者は最低賃金について労働者に周知する義務があると定めています。適用労働者の範囲・適用される最低賃金額・最低賃金として計算しない賃金・効力発生年月日などが該当します。事業場で労働者の目につく場所に掲示するなどの配慮も必要です。これに違反した場合は、最低賃金法第41条に基づき、30万円以下の罰金に処せられます。
最低賃金額を下回った場合の罰則
(1)地域別最低賃金の場合
最低賃金法第4条第1項において、使用者は最低賃金の適用労働者に地域別最低賃金額以上を支払うことと定められています。もしも違反した場合には、最低賃金法第40条に基づき、50万円以下の罰金に処せられます。
(2)特定最低賃金の場合
特定最低賃金において違反した場合、最低賃金法ではなく労働基準法第24条に基づき30万円以下の罰金に処せられます。労働基準法第24条では、賃金の支払い方法において「通貨で・全額を労働者に・直接・毎月1回以上・一定期日を定めて」支払うことを定めています。特定最低賃金の違反では、「全額支払」の違反となり罰則の対象となります。
5.最低賃金引き上げに向けた政府の各種支援
政府は最低賃金の段階的な引き上げを掲げると同時に、中小企業を中心に生産性向上や成長を後押しする支援策にも注力しています。主なものを紹介しましょう。
業務改善助成金
中小企業や小規模事業者に対し業務改善・生産性向上を国が支援し、事業内の最低賃金引き上げを目指す助成金です。生産性向上を目的に設備投資し、事業場での最低賃金を一定額以上引き上げた場合、設備投資にかかった費用の一部について助成します。
対象となる事業場は2パターンです。一つは「事業場の規模が100人以下である中小企業・小規模事業者」。もう一つは、「事業場内の最低賃金と地域別最低賃金との差が30円以内の事業場」です。
支給の主な要件は、以下の通りです。
- 賃金引き上げ計画の策定
- 引き上げ後の賃金を支払う
- 生産性向上のための設備投資・業務改善をして費用を支払う(経費節減・職場環境改善・通常の事業活動関連の経費は除く)
- 解雇や賃金引下げなど不交付事由がないこと
時間外労働等改善助成金(団体推進コース)
中小企業事業主の団体、その連合団体など、3社以上で構成される事業主団体が対象です。労働者の労働条件改善を目的に労働時間短縮・賃金引き上げのための取り組みを実施した場合に助成金を受けられます。
支給対象となる取り組みに対して目標を設定し、事業実施期間中に取り組みます。実際に取り組んだ場合、以下のいずれか少ないほうの金額が助成されます。
- 対象経費の合計額(取り組みごとに上限あり)
- すべての事業費から収入額を差し引いた額
- 上限額である500万円(構成事業主が10以上など一部については上限額1,000万円)
「稼ぐ力」応援チームプロジェクト
飲食業・生活衛生業など、最低賃金の引き上げによる影響が大きい業種に向け、各種セミナーや講演、個別相談などを行っています。各都道府県で行われており、最低賃金制度の周知や収益力向上のための講演など、知識やノウハウを提供する場を設けています。
個別相談では経営・労務管理・顧客づくり・各種助成金についてなど、さまざまな相談ができるように整備されています。
6.2022年の最新動向
最低賃金は約3.3%引き上げへ
2022年8月に開催された第64回中央最低賃金審議会で、地域別最低賃金額改定の目安が決定され、全国平均では3年連続で約3%の上昇となりました。各都道府県の引き上げ額の目安は、AランクとBランクが各31円、CランクとDランクが各30円です。
出典:厚生労働省「令和4年度地域別最低賃金額改定の目安について」
東京都、神奈川県に続き、今年度は大阪府でも1,000円超の最低賃金の時間額が設定されました。東京都は1,072円、神奈川県は1,071円、大阪府は1,023円です。
新しい最低賃金は、2022年10月に都道府県ごとに順次発効されます。早ければ、2022年10月に支給される給与から反映される見込みです。
7.最低賃金制度への理解を深め適切に対応することが重要
ここ数年、最低賃金は上昇傾向にあり、とくに主要都市では上昇率が高い傾向が続いています。使用者にとっては事業の収益性に大きく関わるため、気になる方も多いでしょう。労働力不足が叫ばれる昨今では、人員を確保するため賃金面での優遇を打ち出す企業が少なくありません。こうした社会情勢が最低賃金の上昇に少なからず影響しているという見方もあります。
労働者側の意見としては、最低賃金の水準アップや地域格差の是正を求める声があがる一方、使用者側の意見としては経営コストの上昇・人手不足などの問題があるなかで実力以上の賃金引き上げを強いられていると感じているのが現状です。双方の認識に大きく違いがあると考えられます。
政府の「働き方改革」による推進もあり、今後さらに最低賃金の引き上げが見込まれています。最低賃金制度への理解を深めて法を遵守することはもちろん、生産効率の向上など収益性の改善にも同時に取り組んでいく必要があるといえるでしょう。
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