スラッジ
スラッジとは?
「スラッジ(Sludge)」とは、私利私欲のために人々の行動を促したり、より良い行動をはばんだりする仕組みのこと。スラッジは、英語で「ヘドロ」や「泥」を意味します。人々の行動をより良いものへと誘導することを行動経済学では「ナッジ」といいますが、スラッジはいわば「負のナッジ」。ユーザーにとって不利な選択へと誘導したり、煩雑な手続きを要求したりするなど、合理的な行動をさせない仕組みのことを指します。
ナッジとスラッジ、境界線はどこ?
ポイントは誰の利益を優先するか
前の人との間隔をあけさせる「足跡マーク」、商品が複数あっても選びやすくする「おすすめマーク」など、円滑で合理的な行動を促す工夫を、いたるところで目にするようになりました。これらに共通する「ナッジ」は、ここ10年ほどで認知度を増し、活用しようとする企業も増えています。
ちょっとしたきっかけを与えることで選択を誘導するナッジは、「人々の無意識にアクセスし、こころの癖を利用している」ということもできます。もともとは良い行動を促すために使われることを想定された“ハック”でしたが、現状はその限りではありません。企業が消費者の利益ではなく、自社の利益を最優先してナッジを利用するケースもあります。
例えば、補償金を受け取るために膨大な書類を提出しなければならず、その煩雑さから利用者が補償金の申請を諦めるようなケース。書類の一つひとつに合理性があればよいのですが、手続きを煩わしくすることで申請数を少なくしようとする意図があれば、それはスラッジとなります。また、利用者がサービスを退会しようとする際に、Webサイトのどこを探しても退会ページが見当たらず、電話でしか退会できないケースなども、利用者の利益を阻害するスラッジにあたります。
ナッジの大原則は、行動を促すことにより利用者の利益や幸福を増進すること。利用者ではなく企業の利益を最優先するものはナッジと呼べない可能性があります。ただ、マーケティング手法に行動経済学の知識を活用することはある意味当然であり、どこまでがナッジで、どこからがスラッジになるか、分岐点を判断することは難しいものです。利益を最優先し、倫理や社会的観点を無視した仕組みを構築していないか、確認することが重要です。
スラッジを用いることにより、企業は短期的に利益を得るかもしれません。一方で、企業イメージの失墜は免れないでしょう。ナッジが人や社会を動かす力を持つからこそ、企業は倫理観をもち、人々の利益やよりよい社会のために活用したいものです。
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