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【ヨミ】コンピテンシー コンピテンシー

社員の能力開発および採用面接におけるミスマッチ防止のため、「コンピテンシー」を重視する企業が増えています。一方で十分に理解しないまま導入してしまうと、人事制度に大きな影響を与えます。ここでは、コンピテンシーの概要や導入のメリット・デメリットをはじめ、コンピテンシーモデルの作成方法、コンピテンシー面接の方法など活用の具体例を挙げながら詳しく解説していきます。

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1. コンピテンシーとは

コンピテンシーの概要

コンピテンシーとは、単純には「能力」の意味です。人事用語としては、仕事などで実際に成果を収めている人物に見られる行動や考え方の特性を指します。コンピテンシーを導入する目的は、どのような状況でも、独自の工夫を加えた主体的な行動を起こす人材を育成することです。ハーバード大学における研究結果がもととなり、1980年代にアメリカで普及しはじめた、心理学を背景とする概念です。

「成果」「行動や考え方の特性」を分解すると以下のようになります。

一般的な解説にはこの「行動」に注目し、「行動特性」をモデル化して評価すべきとされますが、評価項目に具体的な行動事実を指定してしまうと、融通の利かない評価になってしまいます。使いやすい運用としては、まずは「達成動機」をモデル化して評価項目とします。評価基準に落とし込む際には、行動の「意図・目的」をレベル別に定めると運用しやすくなります。その行動の「意図・目的」を探っていく面接手法が、「コンピテンシー面接」と一般的に呼ばれるものです。

コンピテンシーが注目される背景

コンピテンシーはハーバード大学における研究結果がもととなり、1980年代から普及しはじめました。当初、ハーバード大学の教授であるデイヴィッド・C・マクレランド氏が米国文化情報局(USIA)の依頼によって、職員へのインタビュー・調査を実施しました。その結果、業績と学歴には相関が見られず、高い業績を出す人物には、共通する行動パターンやそれに関連する性格・考え方、動機的特徴などがあることがわかりました。

※相関……一方が上昇すると、もう一方が上昇したり、低下したりする関係のこと

それ以前のUSIAでは、職員の選考に際しIQを測定していました。しかし、実際のパフォーマンスにIQや学歴が比例しているわけではありませんでした。調査結果から優れた成果には、「最後の最後まで、相手を信じ切ることができるかどうか」という意識が大きな影響を与えていることが明らかになり、コンピテンシーの考え方が浸透していきます。

コンピテンシーは、アメリカでは1990年代以降、人材育成やマネジメント分野へと普及していきます。日本においては1990年代後半に注目され、導入する企業が増加しました。

日本国内でコンピテンシーが注視されるようになった背景には、バブル崩壊後、成果主義を唱える企業が急速に増えたことがあります。バブル崩壊前には、年功序列制・職能評価が主流であり、多くの企業が導入していました。しかし、バブル崩壊に伴って人件費などあらゆる経費を削減せざるを得なくなり、評価制度の見直し・成果主義への移行が進んだといえます。

成果主義では、結果が評価の判断基準とされます。しかし、成果を出すための活動が不明瞭なままでは、安定的に業績を上げ続けることはできません。そこで、高いパフォーマンスを出し続ける人物の行動プロセスに着目するコンピテンシーに注目が集まるようになりました。

企業がコンピテンシーを導入する目的

コンピテンシーを導入する目的には、主に以下の項目が挙げられます。

  • 中長期的な生産性向上
  • 中長期的な業績向上
  • 従業員の意識改革
  • 従業員の能力開発

コンピテンシーは、業種・職種によって異なるものです。企業がコンピテンシーを作ることで、従業員は職種に応じて成果につながる行動を理解できるようになります。例えば、潜在的に能力を持ちながらも力を発揮できずにいた従業員が、好成績を上げる人材のコンピテンシーを知ることで開花できれば、結果として社内全体での生産性や業績の向上につながっていきます。

コンピテンシーは、成果を出せない従業員が多い部署、または人材によって業績が大きく異なるような状況が起きている職種に非常に有効な方法といえます。また、人材評価の基準が定まっておらず主観的な判断になりがちな企業・部署では、コンピテンシーの導入によって適正な評価ができるようになると同時に、従業員の納得感を醸成することができます。

一方で、コンピテンシーは事業環境の変化が激しい場合には適さないことがあります。コンピテンシーは行動・意識の特性をモデル化することで効果を高めますが、人材に求める要件が刻々と変化するビジネス環境下では対応が追いつきません。

例えば、新規事業などでビジネスのフェーズが頻繁に更新されるような場合、コンピテンシーをその都度つくり直していたら、スピード感あるビジネス展開の足かせになってしまいます。当初より、激しい事業変化にも対応可能なコンピテンシーを定めることが求められますが、その道のりは険しいものとなります。

このように、コンピテンシーの導入が適しているかどうかは、自社の状況に照らし合わせながら十分に検討する必要があります。

2. コンピテンシーモデルの作成・運用方法~コンピテンシー評価制度の導入に向けて~

目標となる人物について明確にする

企業や部署に適したコンピテンシーモデルを作成するには、まず「目指す人物像」を明確にする必要があります。例えば「好業績を上げる」「作業効率がよい」などの目標に対するコンピテンシーを把握し、それぞれに適した評価を整理していきます。

何についてのモデルか明確にするため、必要に応じてハイパフォーマーへのヒアリング・ハイパフフォーマーのチームを作成することも重要です。以下では、コンピテンシーモデルのベースとなる三つの型について解説します。

1. 「実在型モデル」

コンピテンシーモデルのなかでよく使われるのが実在型モデルです。実際に成果を上げている従業員をモデルにしているので、等身大でモデル設定できるのが利点です。一方で、個人的な特性に偏っていないか、実際の成果と関係ない項目でないかを精査することも大切です。

また、他の従業員でも再現できるコンピテンシーかどうかを判断した上で、モデルを作成する必要があります。

2. 「理想型モデル」

企業が理想とする人物像をもとに、モデルを設定するパターンです。企業理念をはじめ、企業の考えに基づいてモデルを作成するため、実在型モデルと比較すると設定しやすいのが特徴です。

実際の従業員にハイパフォーマーがいない場合は、理想型をベースにモデル設定するとよいでしょう。しかし一方で、理想を追い求めすぎてしまうケースも懸念されます。パーフェクトなモデル設定をしてしまうと、評価する際に非常に困難になるので注意が必要です。

3. 「ハイブリッド型モデル」

上記で説明した実在型モデルと、理想型モデルをうまくマッチさせたものがハイブリッド型モデルです。ハイブリッド型モデルは、一般の従業員はもちろん、実在型モデルとなるハイパフォーマーにとっても価値のあるモデルとなります。

ハイパフォーマーがハイブリッド型モデルによって足りない部分を発見できれば、現状よりもさらレベルアップすることが期待できます。

評価項目を作成する

目標となる人物像を明確にしたら、次に評価項目を作成します。

コンピテンシーに限らず、評価項目を作る際は、評価するための基準を作成しなければ実践できません。コンピテンシーを用いたときに、評価項目と評価基準はどのようなものになるのか、「コンピテンシー・ディクショナリー」から「達成・アクション」を例に取り上げ、そのポイントを見ていきます。

※コンピテンシー・ディクショナリーとは、ライル・M.スペンサー とシグネ・M.スペンサーが1990年代に発表した、「さまざまな職務に通じ得るコンピテンシーリスト」のことです。

まず「成果につながる能力」を言葉で表現して抽象的に名前をつけ、これを「評価項目群」としています。ここでは、「自身が職務を成し遂げる能力」を、「達成・アクション」と名付けています。他にも複数定めています。

次に、評価項目群をもっと切り分けて、「評価項目」としています。ここでは「達成・アクション=自身が職務を成し遂げる能力」という評価項目を、「達成重視」「秩序、クオリティー、正確性への関心」「イニシアティブ」「情報探究」の四つの評価項目に切り分けています。必要があれば、その四つの評価項目を細分化している場合もあります(次元)。例えば、「達成重視」の評価項目はさらに「達成を目指すアクションの強度と徹底さ」「達成によるインパクト」「イノベーションの程度」と分かれています。

最後に、評価基準として実際にとった行動を評価するためのレベルを用意しています。レベルが高くなるにしたがって、その要求度合いは大きくなっていきます。行動のレベルの表現が、具体的な行動事実ではなく「意図・目的」の表現となっているのがポイントです。

このように、まずは大きく抽象的な評価項目群を定め、それを細分化していく手法が有効です。最終的には、被評価者がとった行動を評価できるよう、レベルごとに行動基準を定めると、評価の運用がしやすくなります。

詳細な内容は各企業・職種に適したものを設定する必要があります。また項目を設定する際には、以下の点にも考慮しながら検討することが大切です。

  • まずは抽象的な言葉で表現して、細分化していく
  • 評価する行動を具体化しすぎず、「意図・目的」を表す言葉でまとめる
  • 行動基準をレベルで分けられるようにする
  • 評価項目の数は少な目に、しかし重複なく、もれなくカバーする(達成とアクションにおいては、評価項目は四つに収まっている)

出典:コンピテンシー・マネジメントの展開 ライル・M・スペンサー、シグネ・M・スペンサー(内容をもとに、編集部が図を作成)

コンピテンシー・ディクショナリーとは

コンピテンシー・ディクショナリーとは、「さまざまな職務に通じ得るコンピテンシー」を洗い出し、体系化したものです。「コンピテンシーの評価項目群」と、それを細分化する「コンピテンシーの評価項目」、評価するための行動をレベル別にリスト化したものが書いてあります。ライル・M.スペンサー とシグネ・M.スペンサーが1990年代に発表したのち、多くのコンサルティング会社などで評価項目の作成に活用されています。

コンピテンシーの評価項目群 コンピテンシーの評価項目
達成とアクション 達成重視
秩序、クオリティー、正確性への関心
イニシアティブ
情報探究
支援と人的サービス 対人関係理解
顧客サービス重視
インパクトと影響力 インパクトと影響力
組織の理解
関係の構築
マネジメント・コンピテンシー 他の人たちの開発
指揮命令―自己表現力と地位に伴なうパワーの活用
チームワークと協調
チーム・リーダーシップ
認知コンピテンシー 分析的思考
概念化思考
技術的/専門的/マネジメント専門能力
個人の効果性 セルフ・コントロール
自己確信
柔軟性
組織へのコミットメント

自社独自のコンピテンシーを言語化するには大変な労力を伴うため、コンピテンシー・ディクショナリーをもとに評価項目を具体化すると、スピードアップが可能です。ただし、運用する上で、考案者のスペンサーら自身が注意点を三つ述べています。

  1. これらのコンピテンシーは個別の職務に正確に合致する形で作られているわけではないため、そのままの運用では正確性を欠く。
  2. 代表的なコンピテンシーしかカバーしていない。特にマネジメントやセールスには適用しやすいが、例えば幼稚園の先生や科学者には適用しにくい。
  3. 高いレベルのコンピテンシーが最善とは限らず、必ずしも高い業績を生まない可能性がある。

出典である以下の書籍から、コンピテンシー・ディクショナリーで評価基準となる行動のレベルを把握することができます。

出典:コンピテンシー・マネジメントの展開 ライル・M・スペンサー・シグネ・M・スペンサー(内容をもとに編集部が表を作成)

従業員へのインタビュー

評価項目を設定したら、実際に従業員へのインタビュー・ヒアリングを実施します。ハイパフォーマーが実際にどのような考えや行動特性を持っているのかを把握し、一般の従業員との違いをチェックしていきます。

例えば、ハイパフォーマンスのためにどのような行動をしているのか、どんな点を重視しているかなど、行動時の思考・動機・価値観などを把握するのがポイントです。

コンピテンシーモデルの作成および企業のビジョンとのすり合わせ

インタビューに基づいて、一般の従業員との違いや、その違いが業績につながる理由などを検証していきます。最終的にコンピテンシーモデルが固まったら、いくつかのレベル設定をし、経営者側とのすり合わせを行います。

将来的な経営ビジョンにマッチするコンピテンシーモデルが作成されているかを確認することが重要です。

実際に制度を開始・運用する

コンピテンシーモデルを作成したら、実際に運用する前に従業員に適切な説明を行います。運用後は、人材採用はもちろん、育成・評価などに活用されるため、従業員の深い理解が欠かせません。特に全従業員が対象のコンピテンシーモデルである場合、全社での周知徹底が求められます。

3. 面接時におけるコンピテンシー活用のポイント

これまでの採用面接との違い

採用面接においてコンピテンシーを活用する面接手法を「コンピテンシー面接」と言います。コンピテンシー面接では、過去の取り組みに対して質問を掘り下げていき、行動動機・思考などを把握します

従来型の採用面接では、学歴や保有資格・志望動機・自己PRなどを質問し、総合的な視点から選考しました。しかしこの方法は、面接官の主観的な印象や質問方法の違いなどによって差が生まれやすく、最適な見極めができないと指摘されていました。

コンピテンシー面接では一つの内容について深く掘り下げて質問を重ねるため、客観的な判断をしやすい点が大きく異なります。

面接時にコンピテンシーを活用するメリット・デメリット

メリット

過去の出来事を掘り下げる質問によって応募者の思考や行動の動機をつかんでいくため、ミスマッチの少ない採用を実現できる点が大きなメリットです。職種ごとに求める能力が異なる場合でも、見極めに必要な判断基準が明確になっているため、属人的な採用選考を避けることができます。

また、コンピテンシー面接では一つのテーマを深掘りするので、その場逃れの回答を重ねていると矛盾が生じます。そのため、取り繕った姿ではなく、応募者本来の資質をつかみやすくなります。

応募者が本来持つ資質がつかむことは、企業におけるメリットだけではなく、応募者の満足度向上も期待できるでしょう。結果として、採用ブランディングの向上も見込めます。

デメリット

コンピテンシーの作成は、具体的なスキルを基準とする面接評価と比べると非常に多くの労力が必要となります。そのため、簡単に用意できない点がデメリットの一つです。求められている能力を言語化するには相応の能力が必要であり、また言語化した能力をすり合わせる労力が、大きな負担となります。

職種が多様な企業では、それぞれのモデルを作成しなければならないなど、さらに手間がかかります。また社内にコンピテンシーモデルにふさわしい人材が実在しない場合は、理想を追い求める採用選考となりやすく、採用機会を逃す可能性も出てきます。

コンピテンシーレベルの評価基準

先述の「評価項目を作成する」でも触れたように、思考や行動の動機をレベルで評価すると運用しやすくなります。一例として、面接官は定められたコンピテンシーをもとに、大きく五つに分類された評価基準から応募者の行動レベルを判断していく方法があります。

例えば、AIUのコンピテンシー面接の事例から、求める人材要件「誠実行動」について、評価の具体例を挙げてみます。AIUでは学生時代に特に取り組んだことで「映画サークルの幹事として後輩たちをまとめ、信頼関係を構築した」と回答した学生の具体的行動事実を確認しました。

  • 後輩に慕われるよう食事・飲み物をおごった
  • 飲み会などで親しみやすさをアピールした
  • 飲み会でたくさん飲み、存在感のアピールに努めた

この場合、コンピテンシーレベルの高さは見られず、誠実行動に関するコンピテンシーもそれほど高くないため通常行動(レベル2)程度の判断となります。

参照:川上真史、齋藤亮三『コンピテンシー面接マニュアル』弘文堂,2005,p.142, p.126-138より
*『日本の人事部』編集部が独自にレベルづけ

以下は、レベルの具体例です。コンピテンシー・ディクショナリーでは非常に多くのレベルを定めていることからもわかる通り、必ずしも5つのレベルとは限りませんが、運用しやすい基準として考えるとよいでしょう。

受動行動(レベル1)

受け身の姿勢で、指示に基づきそのまま行動します。自ら行動を起こさない、言われるまで何もしないといった状況が想定されます。

通常行動(レベル2)

一般的に考えられる行動をとるパターンです。通常「当たり前」ともいうべき最低限のことは行う人材にあてはまります。行動するための動機はあるものの、それに対する工夫や意図などは見られません。しかし、最低限ミスなく行う姿勢・意識がある点で、受動行動とは異なります。

能動(判断による)行動(レベル3)

自らの判断で行動するパターンです。これまでの経験や知識をもとに、明確な意図を持って行動しています。過去の経験則から、よりよい成果を上げるための最善策を選ぶことができる点でレベル1・2と大きく異なります。

創造(状況変容)解決行動(レベル4)

経験値をもとに最善策を選択するレベル3からさらにレベルアップし、状況に合わせて自らの工夫をプラスして現状を打破していけるレベルです。例えば、通常なら状況的に困難であきらめてしまいそうな場面でも、ポジティブな思考・行動のもと、自ら状況を変化させていくことができます。

パラダイム転換行動(レベル5)

これまでにない斬新な発想でアイデアを生み出し、独創的な状況を作り出していけるのがパラダイム転換行動です。これまで企業になかったような大改革を発案・実行できる人材などが該当します。ゼロベースでも臆することなく、周囲の従業員を巻き込んで新しいモノ・環境を作ることができる人材といえます。

4. コンピテンシー評価~シートの活用

コンピテンシー評価

コンピテンシーを評価項目・基準とする評価制度を「コンピテンシー評価」と言います。コンピテンシーモデルに対して各従業員の目標を定め、上司および自分自身が評価し、最終的に査定や自らの改善に役立てるものです。

コンピテンシー評価を運用するには、コンピテンシー評価シートを作成する必要があります。評価シートでは、項目・基準などを一覧化し、人事部はもちろん従業員も客観的に評価ポイントを判断できるように作成します。

コンピテンシー評価シート作成の流れ

コンピテンシーモデル作成の項目で解説した通り、まずはそれぞれの目的に応じて評価項目を分類・作成します。分類方法は各企業・ポジション・職種などによってさまざまです。評価項目が定まったら、評価項目を細分化します。細分化した例は上述の「評価項目を作成する」を参照してください。

次いで、評価の基準を明らかにします。コンピテンシー面接では、コンピテンシーレベルの評価基準を明確にしますが、これと同様で、具体的な行動例などをもとに評価の基準を定め、一覧にして評価シートにまとめます。

評価の基準は「個別基準」と「共通基準」の大きく二つに分類されます。個別基準とは、職種や業務内容など、それぞれ求められるスキルが異なる場合に適用するものです。一方の共有基準とは、企業全体で活用する基準です

コンピテンシー評価シート作成・運用時の注意点

コンピテンシー評価シートを作成する上で重要なのが、評価項目・基準が曖昧にならないように留意することです。人によって捉え方が異なることがないように言語化する必要があります

また、評価が被評価者からの一方的なものだけでなく、従業員自身が納得できる公正で適切な基準であることもポイントです。さらに、コンピテンシーは「行動をそのままコピーする」のではなく、その行動に至る背景や思考・意識などにも注目することが求められます

コンピテンシーは各企業の求める人材が具現化されたものであり、企業方針が反映されています。自社に適したものになっているか、しっかり確認した上で運用することが重要です。

5. コンピテンシーモデル・面接の具体例

大手保険会社で知られるAIU保険では、1999年度の新卒採用よりコンピテンシー面接を導入しています。多少古い事例となりますが、コンピテンシーモデルの作成や面接の導入にあたり、現在もなお参考になる好事例の一つです。

導入の背景

導入の背景には、それまで活用していた自由面接の結果、面接官の主観的要素や面接スキルによって採用の制度が低下する問題がありました。これを解決するため、コンピテンシー面接を主軸に採用全体を構造化するに至っています。

採用プロセスでの位置づけ

AIU保険での新卒採用一連の流れは、事前準備・セミナーと筆記試験・グループディスカッション・個人面接・最終面接・内定者フォローです。なかでも軸となるのが個人面接でのコンピテンシー面接です。AIU保険では、「地頭」「ネガティブチェック」「カルチャーマッチ」以外の求める人物像に合致するかの判断を、個人面接のコンピテンシー面接に集約していました。このように、コンピテンシー面接は採用面接の核となりうるものです。

AIUでのコンピテンシー面接の評価項目

まず社内の準備として、求める人材要件を人事考課で使用する行動要素のなかから役員・部門長・人事部で厳選し、三つ(誠実行動・重点化行動・事実情報収集行動)に確定しました。

求める人材要件 意味
誠実行動 他者との信頼性を構築するコンピテンシーのあらわれ
重点化行動 ものごとに優先順位をつけ、明確な方向性を定めて効率的に進めるコンピテンシーのあらわれ
事実情報収集行動 推測ではなく、事実を確認した上で判断するコンピテンシーのあらわれ

参照:川上真史、齋藤亮三『コンピテンシー面接マニュアル』弘文堂,2005,p.142, p.126-138より

次に面接担当者に対してインタビュー・スキル・ガイダンスを実施し、面接の概要や方法を教示します。

実際の運用

応募者に対してもセミナーの段階からコンピテンシーの概要を公開し、「学生時代、特に力を入れたこと」をオリジナル履歴書に記述するよう求めています。これによって双方が効率よくコンピテンシー面接を行えているのがポイントです。

実際のコンピテンシー面接では適性検査を参照しつつ、求める三つの人材要件を満たしているか、「学生時代、特に力を入れたこと」を掘り下げながら思考と行動の動機を確認していきます。プロセス・場面・行動・意図・結果という流れで確認している点も着目すべきところです。

引用:川上真史、齋藤亮三『コンピテンシー面接マニュアル』弘文堂,2005,p.142, p.126-138より

AIUのコンピテンシーモデル・面接の特徴

AIU保険でのコンピテンシー面接の流れは一般的でありながら、事前準備・事後フォローもしっかりしており、学生側から高評価も得られています。主に以下のポイントが特徴的です。

  • 面接担当者がスムーズに面接できるよう個人面接票などを用意する
  • 内定者へ適性検査のフィードバックをする
  • 内定者へ評定結果がわかるように内定通知書を作成する

さらに内定に至らなかった学生からも「面接の過程で自分に不足するポイントを理解できた」など、就職活動に対する評価の声も見られます。

参照:川上真史、齋藤亮三『コンピテンシー面接マニュアル』弘文堂,2005,p.142,p.126-138より

6. コンピテンシーは動機や意識レベルまで落とし込むことが重要

コンピテンシーは、日本においては「行動特性」として浸透していった社会背景があります。一方で、行動特性のみにとらわれてしまうと、柔軟な対応ができなくなることも少なくありません。

コンピテンシーにマッチする人材とは、例えば「今求められる成果が具体的にイメージできる」「現状を客観的に把握できる」「現状使える能力や資源を理解している」など。行動特性以外の要素も大きく影響するのです。

「行動特性」という言葉を用いると、成果につながる行動は特定の具体的な行動に限られる、と誤解を与えてしまいます

わかりやすい例を挙げると、喫茶店の店員のマニュアルに「いつも大きな声で挨拶する」と書かれている場合、融通の利かない挨拶になってしまい、時には客を不快にさせることがあるかもしれません。しかし、マニュアルに「相手や混み具合によって、心地のよい対応をする」と書いてあれば、ただ大きな声を出すのではなく静かに挨拶したり、客の邪魔にならないような距離感を心掛けたりすることも可能になるでしょう。

繰り返しになりますが、コンピテンシーを導入する目的は、どのような状況でも独自の工夫を加えた主体的な行動を起こす人材を育成することであることを、忘れてはいけません

まず、コンピテンシーを動機・意識レベルにまで落とし込み、そこから評価に値する行動を、なるべく限定しすぎないように言語化する。融通の利く抽象化こそが、採用・評価などで総合的に活用していくなかで大きく成果を出すカギといえるでしょう

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