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【ヨミ】ジンジイドウ

人事異動

人事異動とは?

「人事異動」とは、会社組織の中で従業員の配置・地位や勤務状態などを変更することです。従業員の仕事を変えたり、部門間の人員のやり取りを行ったりすることで、適材適所を実現することが目的です。住居の異動などを伴うことがあるため、日本企業では年度末に実施されるケースが多くなっています。

掲載日:2018/12/25

1.人事異動とは

従業員を適正に配置し、適材適所の状態に近づける

従業員は入社した後、社内の部門に配属され、仕事が与えられます。その際、本人の適性や能力と仕事内容がマッチしていれば気持ちよく仕事ができ、また会社も効率よく事業を運営できます。しかし現実を見ると、適性・能力に合わない仕事に就いている、特定の部門では従業員が余剰の状態にあるのに他の部門では不足している、といった状況も散見されます。そこで、会社は事業運営を効率的に行うため、従業員の仕事を変えたり、部門間の人員のやり取りを行ったりするなどして適正な配置を進め、適材適所の状態に近づけようとします。こうした人事施策を「人事異動」といいます。

同一会社内での「異動」と、会社をまたいだ「出向」「転籍」がある

人事異動には、「異動」(同一事業所内、事業所間、海外事業所)と、会社をまたいだ動きである「出向」「転籍」の五つの形態があります。ここでは同一会社内での動きである(1)~(3)の「異動」について、紹介します。

【人事異動の形態】
*同一会社内での動き
(1)同一事業内の異動 同じ事業所内での異動。ただ同じ事業所内でも、職種が変更になる場合とならない場合とに区分されます。
(2)事業所間の異動 一般的に、規模の大きな企業では複数の事業所を有しています。事業所間の異動とは、ある事業所から他の事業所への異動を言います。その際、職種が変更になる場合とならない場合、住居の変更を必要とする場合としない場合とに区分されます。そして、住居の異動を伴うケースを「転勤」と呼びます。
(3)海外事業所への異動 事業のグローバル展開によって、海外事業所への異動が多くなっています。この場合、職種・住居は変更となることがほとんどで、その際には職位を上げて異動するケースが多くなっています。
*会社をまたいだ動き
(4)出向 出向とは、現在勤務する会社に籍を残したまま一定期間、関連会社、取引先など他社へ派遣させ、その派遣先の指揮命令を受け、業務に従事することです。ただし、雇用関係は継続しているため、賃金などの労働条件は、現在勤務する会社のものを適用するケースが多く見られます。
(5)転籍 転籍とは、会社の命令により現在の会社を退職し、関連会社など、他の会社に籍を移す異動を言います。なお転籍は雇用関係が継続していないため、転籍後の労働条件を柔軟に決めることができます。

人事異動を行う「目的」「理由」

企業が人事異動を行う場合、以下のような五つの目的・理由があります。

【人事異動の目的・理由】
(1)経営戦略(事業戦略)の実現 経営を取り巻く環境が目まぐるしく変化している昨今は、経営戦略、事業戦略を進めていくに当たり、組織の拡大、統合、縮小を行うことが日常茶飯事となっています。そのため、人事異動は不可欠なものと言えます。具体的には、新規事業への進出や事業拡大に伴って行われる人材の登用や配置換え、事業所の統合・移転、事業縮小・撤退に伴って行われる要員の再配置などです。
(2)部門別要員計画に基づく定期的な人事異動 要員計画には大きく採用計画と、社内における要員の再配置のために実施する部門別要員計画がありますが、定期的な人事異動は、後者の部門別要員計画に基づいて行われるものです。
(3)人材育成の実現(ジョブローテーション) 人材育成のために行うジョブローテーションは、中長期的な視点に立ち、計画的に職種や職務を変えることによってさまざまな職務を経験させ、従業員の職務遂行力を開発、向上させることを目的とした人事異動です。特に、全社的な視点を持つ従業員を育成するためには、全従業員を対象に計画的、組織的なジョブローテーションを行うことが不可欠と言えます。
(4)適材適所の実現 従業員一人ひとりの能力や適性に合致した組織、職務へと対置する適材適所の実現は、人事異動の重要な目的です。従業員を適材適所に配置することによって、人的資源が有効に活用され、より高い生産性を確保することができるからです。また、適材適所を実現することで従業員にやりがいが生まれ、能力・スキルをよりいっそう発揮させることとなります。
(5)組織の活性化 組織の硬直化やマンネリ化、セクショナリズムを防止するためには、適宜、人事異動を行うことによって、組織の風通しをよくし、活性化させることが大切です。また、組織を活性化するための人事異動は、人事の公平性、人材の登用のためにも効果的です。

2.人事異動の実際例

人事異動における「業務フロー」

人事異動を行う場合、以下のような「業務フロー」に沿って行われます。

【人事異動のフロー】
(1)ニーズの把握 各部門の責任者から提出された「異動申告」などに基づき、配置・異動に関する職場ニーズを把握します。合わせて、「自己申告書」などから、従業員側の異動希望に対する情報を収集します。
(2)異動候補者の検討と上司への打診 各部門の異動に関するニーズと従業員の異動希望を照合し、人事異動の候補者と時期を決めます。さらに、長期間同一職務を行っている従業員をリストアップし、その中からジョブローテーションの観点に従って異動候補者を決めます。そして人事部から候補者の上司と異動先の責任者に対して、双方からの了解を得ます。
(3)候補者への内示 候補者に対して、直属の上司から異動先、異動目的、異動時期などを説明してもらいます。その際、候補者から強い反対の意向が示されたら、人事部が候補者を説得するか、候補者を選定し直すか、対応を検討します。候補者全員から異動の了解が得られたら、改めて候補者に異動時期を連絡し、人事異動を確定させます。
(4)発令・社内通知 異動対象者に対して、異動後の勤務地や職務などを示した辞令を交付します。また、掲示板や社内イントラネットなどで、人事異動の通知を掲示します。
(5)関係部署への連絡 総務部門やシステム部門、社宅管理者などに対象者・異動日を連絡し、受け入れ準備や必要な手配をしてもらいます。
(6)人事異動後の処理 転勤費用の精算、異動後の対象者へのヒアリングなど、異動後のフォローを行います。

人事異動における「適正配置」の進め方

自分の能力・資質にマッチした仕事において、人は高い生産性を達成することが可能となります。また、一人ひとりが効率的な仕事をすることにより、会社全体として業務の効率化が図れます。このような観点から、人事異動を実施する際には、「適正配置」を意識して行うことが必要です。適正配置を実現する際、次のような手順で進めていきます。

【適正配置の手順】
(1)職務分析の実施 社内で行われている各仕事について、どのような能力・資質・性格が必要とされているかを分析します。職務分析を行う際には判定を誤らないよう、複数の社員で行うこと望ましいでしょう。
(2)適性の把握 仕事の分析と並行し、従業員一人ひとりについて、どのような能力・資質・性格を持っているかを把握します。把握の方法としては「本人による自己申告」「上司による観察」「適性検査の実施」などがあります。
(3)仕事への配置 職務分析により職務ごとに求められる要件が明らかとなり、また従業員の能力・資質・性格が把握されたら、「最もふさわしい」と判断される仕事に配置します。なお、本人の能力・資質・性格の正確な把握が困難なときは、さまざまな仕事を経験させ、どの仕事が最も適しているかを判断するという方法もあります。
(4)教育研修 能力にマッチした仕事に配置すれば、直ちに高い成果を挙げられるというものではありません。どの仕事にも、実務的に必要とされる知識・技術があります。それをマスターしなくては、高い成果を挙げることは難しいでしょう。そこで、配置に先立って一定期間、実務的な知識・技術を習得するための教育研修を行います。

「適正配置」が必ずしも「適材適所」とは限らない

適正配置は、人的資源の最大限の活用を図るための重要なアプローチですが、会社組織における要員には一定の制約があります。適正配置という観点だけに捉われて人員配置を決めると、特定部門に配置が集中する一方、他の部門で人手不足が生じるなど、偏りが起きます。結果的に部門間の要員のアンバランスが起き、会社全体の業務効率を阻害し、他社との競争力の低下を招くことになりかねません。

確かに適正配置は重要なことですが、会社全体の組織効率という適材適所の観点から、適正配置が必ずしも適材適所とは限らないケースが生じます。適材適所を実現するため一定の規制を行うのは、やむを得ない決断と言えます。

3.運用面で求められる対応・留意点

人事異動には、業務上の必要性、人選の合理性が求められる

人事異動では、個別に従業員の同意を得る必要はありません。就業規則の中で「業務上、必要である時は人事異動を命令することがある」と明記しておけば、業務上の必要に応じて、いつでも自由に人事異動を命令することができます。そして、従業員は会社の人事異動の命令に従わなくてはなりません。「異動拒否」を認めだすと、多くの従業員が人事異動を嫌がり、会社運営に支障をきたすことになりかねません。そうならないよう、会社も「異動拒否」については、毅然とした態度を取らなくてはなりません。

一方で、業務上の必要性に欠ける人事異動や人選に合理性のない人事異動は、権利の濫用として無効にされる可能性があります。しかし、業務上の必要性、人選の合理性などについては、厳密な立証は困難です。過去の判例などを見ると、一般的、常識的に説明がつくものであれば、特に問題ないと思われます。

従業員が「不公平感」を抱かないようにする

人事異動でも、住居の異動を伴う転勤では、引っ越し費用や勤務地間の生活費の違いなど、経済的な負担が大きくなることがあります。こうしたケースが続くと、従業員の中に不公平感が起き、スムーズに人事異動を行えなくなります。そのため、事前に転勤費用や物価水準などをチェックし、適宜、転勤手当などの改定を行う必要があります。

また、転勤が特定の従業員に集中すると、本人だけでなく、転勤の機会(職務経験を積むチャンス)を与えられない従業員からも、不満が出てくることになります。従業員の「異動履歴」をチェックして、転勤が特定の従業員に偏らないようにするなど、注意が必要です。

内示のタイミング・転勤の時期にも配慮する

人事異動では、内示のタイミングや異動の時期にも一定の配慮が必要です。異動者は、業務の引き継ぎやさまざまな準備があるので、早めに内示をしてほしいと考えています。転勤を伴う異動の場合、できれば1ヵ月くらい前での内示が必要でしょう。また、就学児童がいる従業員は、中途半端な時期での転勤となると、学校への編入などで、家庭に大きな負担をかけることになります。

内定のタイミングや転勤の時期について、法的な制限はありませんが、異動者の心情や家庭の事情などにも配慮し、対象者に余計な負担をかけない人事異動を行う必要があります。

4.課題と今後の展開

人事部と各職場の管理者には、人事異動を合理的かつスムーズに実施できるよう、工夫が求められます。

「セクショナリズム」を排除するために横断的な人事異動を行い、部門の利害を払拭する

要員が削減される部門の責任者は人事異動に反対したり、難色を示したりするなど、人事異動に消極的なことがあります。こうしたセクショナリズムを打破するためには、組織の管理者に対して全社的な視野に立つよう啓発していくと同時に、部署を越えた横断的な人事異動を行うことによって、部門の利害を払拭することが必要です。人事部は、特定の部門や部署の違いに拘泥せず、大局的・全社的な「戦略人事」の観点から、配置転換やジョブローテーションを進めていく必要があります。

人事異動の「ルール」と「基準」を明確にする

戦略的な人事異動を進めていくためには、人事異動のルールや基準を明確にしておくことが不可欠です。特に転勤を伴う場合には、ルール通りに運用することが重要です。人事異動をルール化する際のポイントには、「対象者の選定基準」「異動の時期の適正化」「赴任期間」などがあります。

【人事異動のルール化のポイント】
対象者の選定基準 人事異動の目的ごとに対象者の選定基準を作成し、各組織の管理者に徹底しておくようにします。
異動の時期の適正化 突発的な場合を除き、要員計画に基づく定期異動、ジョブローテーションの実施、適材適所への配置のための異動などは、計画的・定期的に行うようにします。新卒者が入社する4月、中間期の10月など、期が変わる月を定期異動期と設定し、異動を発令します。
赴任期間 赴任期間については、特定の部署への配属期間があまり長くならないようにします。特定の部署に長く配属すると組織の硬直化やマンネリ化が起きやすく、また、ジョブローテーションの場合にはその効果が半減してしまいます。通常の配属の場合は3~5年、ジョブローテーションの場合は2~3年程度とするのがいいでしょう。

管理職の「役割」の明確化

今後、スムーズな人事異動を行うためには、管理者の役割がより重要となってきます。組織の管理者には、異動元の管理者と異動先の管理者がいますが、それぞれの管理者の役割を明確にしておくことが求められます。

【異動元・異動先の管理職の役割】
異動元管理者の役割 対象者がスムーズに異動(赴任)できるよう、引き継ぎや残務処理の方法、スケジュールについて相談に乗り、赴任準備をサポートします。また、新しい部署での職務内容のポイントを説明するほか、激励の言葉をかけるなど、動機づけにも心を配ることが大切です。
異動先管理者の役割 人事部は、異動対象者の情報を異動先管理者に早めに送っておき、異動元管理者と異動先管理者との間で、対象者に対する情報について、スムーズに引き継ぎを行えるようにしておきます。また、転居を伴う場合には、住居の問題など赴任先での生活上の問題について、異動策部署メンバーの協力が必要となることがあります。その際、異動先部署では受け入れ担当者を決めておき、住居決定や生活面での準備の相談に乗れるような体制を作っておくことです。異動先管理者は、これらの点について十分留意する必要があります。

異動対象者への配慮

異動対象者を決定は、業務上の都合によって行われるのが一般的です。しかし近年では、本人の事情調査を実施した後、対象者を選定する企業が増えています。転勤を伴う人事異動の場合、「家族の病気・出産」や「両親が高齢で転居が困難」といった事情を抱える従業員に対して、特別な配慮が必要となるからです。

人事部および各組織の管理者は、日頃から従業員の家族状況や転勤が困難となるような状況について可能な限り把握しておき、退職するような事態を招かないよう、転勤者の選考の際に配慮することが望まれます。本人の事情を何も把握しないで異動を発令し、その後、転勤が困難ということで発令を撤回すると、周囲にも悪影響が出ることになります。

異動直後の「人事考課」のルールを柔軟にする

人事異動が行われた場合、人事考課で異動者が不利にならないよう、異動者に対する人事考課のルールを明確にしておく必要があります。特に職種に変更があった場合、新しい仕事に対する経験、知識が不足しているため、不利な評価を受けやすくなります。そこで、人事考課の評定については、「異動後半年間は原則として標準評定以上とする」など、運用面で柔軟性を持たせることも一つの方法と言えます。また、人事考課を実施する上司が変わる場合には、前任の考課者と後任の考課者の間で引き継ぎを徹底する必要があります。

企画・編集:『日本の人事部』編集部

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