人材ビジネスを起点に、
個と組織をポジティブに変革する!
目の前の顧客と経営に集中する中で「理念」が生まれた
株式会社ウィルグループ 代表取締役会長 兼 CEO
池田良介さん
32歳で社長に就任。しかし、順風満帆とはいかず……
2000年にビッグエイドは株式会社セントメディアと統合し、そのときに社長を任されます。経営者になるという目標が実現したわけですね。
セントメディアは現在、私どものグループ企業ですが、もともとは大阪で設立された、まったく別の会社でした。オーナー同士が知り合いで、業界も同じ人材ビジネスということもあり、統合して一緒にやろうという話がまとまったようです。当時はITバブルの好景気で、ナスダックジャパンやマザーズなどの新市場が相次いで開設された頃。ベンチャーでも成長力が評価されれば、上場できる環境がありました。ビッグエイドとセントメディアを合わせると年商10億円くらい。オーナーは数年で20~30億円にもっていければ十分上場できると判断したのでしょう。
そこで「新会社の社長を任せたい。上場を実現してほしい」と言われました。しかし、正直いって私自身はあまり気が進みませんでした。経営者を目指してはいましたが、あくまでも自分で創業した会社を経営するのが夢だったからです。「雇われ社長になる気はない」と言って断ったのですが、「何もなかったところから、ここまで会社を育てたのは君だ。ほかに適任者はいない」とまで言われ、結局「上場するまで」という約束で社長を引き受けました。実際、上場を果たしたら自分では区切りをつけるつもりでいました。
意外な経緯で社長になられたわけですが、実際に経営を任されてみてどうだったのでしょうか。
条件つきで引き受けたとはいえ、やるからには本気で取り組んで、結果を出さなければならないと考えていました。ところが、新会社の財務内容を確認して、いきなり驚かされます。合併してからわかったのですが、実はセントメディアは当時、大変な赤字企業だったのです。利益が出ていないどころか、それまで入っていたオフィスの家賃すら何ヵ月も滞納していたような状態。オーナー同士が知り合いだからと、しっかりしたデューデリジェンス(企業価値査定)をしていなかったんですね。対等合併で規模が倍増するどころか、一気に資金繰りに窮する状態に陥ってしまいました。
そのため、最初は立て直しに必死でした。本業を伸ばす一方で、収益性の悪い事業は切り離していく決断もしました。当然、それまで担当していた仕事がなくなる社員もいます。それが原因で辞めていく人もいました。私としては、なんとか黒字化したいという思いでやっているのですが、「新しい社長が何でも勝手に決めてしまう」「数字のことばかり言って理念もビジョンもない」といった批判の声が耳に入ってきます。約1年で財務状態はほぼ正常化できましたが、個人的にはかなり、もんもんとした日々を送っていました。
私には「経営者として成功したい」という目標はありましたが、「経営者になって成し遂げたいこと」が明確ではありませんでした。経営を健全化する、売上・利益を上げるということしか言えない。しっかりした理念やビジョンがあれば、少しは社員たちに納得してもらえたかもしれないとは思いましたが、そんなものが付け焼刃でできるわけでもない。かといって立ち止まれば会社全体が死んでしまいます。毎日、自分と社員たちを励ましながら仕事に取り組んでいましたが、「それで結局何を実現したいの?」と考えると、上場という目標しかない現実に「空しい」と思うこともありました。
経営者としての大きな壁にぶつかったわけですが、どうやって乗り越えられたのですか。
あるとき、「おもしろおかしく」の社是で有名な、堀場製作所の堀場雅夫会長(当時)の講演を聴く機会がありました。悩んでいた頃だったので、堀場会長に思い切って質問をしました。その時いただいた答えは非常にシンプルでした。「あなたはまだ若いのだから、自分の仕事に没頭しなさい。目の前のお客さんを大切にして、自分が経営を通して成長していく中で本当に大切なこと、絶対に譲れないことを言葉にすればいい」。
それまでは理念集のような本を読んで、そこからいい言葉を拾っても、どうしても自分のものではないような気がしていました。しかし、堀場会長のアドバイスを聞いて曇っていた心が晴れました。目の前の仕事に向き合う中で「絶対にこれだけは譲れない」というものが自然に出てくればいい、それには3年、5年かかってもいいのだと素直に思えたのです。それからは、あまり理念やビジョンに思い悩むことなく、目の前のことに真剣に取り組む、会社の業績を伸ばすことに専念できるようになりました。
日本を代表するHRソリューション業界の経営者に、企業理念、現在の取り組みや業界で働く後輩へのメッセージについてインタビューしました。