人は育てるのではなく、自ら成長するもの
人が育つ風土づくりを極め、さらなる飛躍のステージへ
株式会社日本能率協会マネジメントセンター 代表取締役社長
長谷川隆さん
モーレツに働いた思い出とトップ“見習い期間”に学んだこと
次に携わったのが、人材評価のためのツールを提供するアセスメント部門の立ち上げで、ここでも新規ビジネスをゼロから興し、成長軌道に乗せるという、貴重な経験ができました。この頃は仕事が楽しくて、面白くて、モーレツに働きました。社員旅行へ行っても、宴会ではジュースやウーロン茶を飲んで二次会までつき合い、その後はホテルの部屋で朝まで仕事をしていたくらいですから。そんな調子ですから、平日は午前様が当たり前。週末も仕事か、疲れて寝ているかのどちらかで、家のことや子供のことはすべて妻にまかせきりでした。最近になって、せっせと罪滅ぼしをしていますけどね(笑)。
ご家族と過ごす時間は限られても、「子供に誇れる仕事を」という社長のお気持ちは伝わっていたのではないでしょうか。
そういえば、長男は小学校5、6年生のときに、先生から「将来、何になりたいか」と聞かれて、「お父さんと同じ日本能率協会で働きたい」と答えたそうです。家にはあまりいなかったのに、子供の目には「お父さんは楽しそうに仕事をしている」と映ったのかもしれません。実際、仕事は歯を食いしばってがんばるよりも、楽しんで取り組むのが私の信条です。
その後、要職を歴任され、2010年6月にJMAM代表取締役社長に就任されました。就任当初の心境を振り返っていただけますか。
そのとき、私が社員に向けて打ち出したのは、“第2創業”というメッセージでした。ちょうど、日本能率協会から分社して20周年という節目の時機とも重なっていましたから。それまでは先輩たちの遺してくれた資産で、あるいは日本能率協会という看板で食べてきたけれど、訴えたかったのは、それをただ食いつぶすだけではだめだということ。せっかくの資産や看板がまだまだ使えるうちに、われわれの手でもう一度、新しいJMAMを創業していこうと。それは現在も、ずっと言い続けています。
先人の築いた歴史のある企業だけに、トップに立つプレッシャーも決して小さくなかったのではないですか。
トップの立場を軽く考えているわけではありませんが、私自身、意外にプレッシャーはないです。社長になる6年前の2004年から総務部長を経験し、当時の社長や役員たちと四六時中行動を共にしていましたので。経営陣はこういうときにどのように考え、どういった判断を下すのか。私はこう思っているけれど、経営者はそんなふうに考えるのか、といったことを、一番近くで見て勉強させてもらったのです。ずっと現場にいた人間が、いきなり社長になるのは大変かもしれませんが、私の場合はその貴重な“見習い期間”があったので、あまり重責やとまどいを感じることがありませんでした。
経営陣のそばにいて一番強く感じたのは、トップの考えは、トップ自身が思っているよりも現場に伝わっていないということです。逆もまた然り。そこで私は当時、トップを意識的に現場の最前線へ連れ出すようにしました。「ラウンドテーブル」と称して、夕方5時ごろから社員といっしょにビールを飲んだり、仕事以外の話題でざっくばらんに語り合ったり。そんな機会があれば、お互いの思いが多少は伝わりやすくなるだろうと考えたのです。では、自分はいまどうなのか、進んで現場に出て社員の声をこまめに聞いているかというと、日々、反省しかありません。いざトップになってみると、やろうと思ってもなかなかできないものだと痛感しています。
日本を代表するHRソリューション業界の経営者に、企業理念、現在の取り組みや業界で働く後輩へのメッセージについてインタビューしました。