従業員のウェルビーイングを重視する企業が増えています。健康的な生活習慣を取り入れたり、職場のコミュニケーションを活性化したりすることが、企業の成長や従業員の満足度向上に寄与し、その結果として、離職防止や定着率向上につながるためです。そんな中、「楽しみながら健康習慣を身につけられる」と話題の英国発のウェルビーイングアプリ「YuLife」が、導入企業から高い評価を受けています。世界で1000社以上、100万人以上のユーザーが日々活用するこのアプリは、ゲーム感覚で楽しめる仕組みを活用し、健康的な生活習慣と企業の一体感を生み出しています。日本でも第一生命グループと提携してサービスが開始される予定です。なぜ今、企業はウェルビーイングに注目し、このアプリを導入するのでしょうか。YuLife共同創業者兼CTOのジョシュ・ハートさんに、開発の背景や企業が得られるメリットについてうかがいました。
- ジョシュ・ハートさん
- YuLife
共同創業者 兼 CTO(チーフ・テクノロジー・オフィサー)
英国で数々のIT企業の立ち上げに携わってきた経験を活かし、2016年にYuLifeを共同創業。CTOとして、ゲーム要素を取り入れたウェルネスアプリを開発し、保険業界に革新をもたらす。ゲーミフィケーションの仕組みを通じユーザーのエンゲージメントを最大化することで、人々の生活に新たな価値を提供するサービスを実現。テクノロジーの力で、人々の生活をより楽しく、より健康にするソリューションを創出し、世界中の多くの人々の生活に貢献している。
健康経営の進展とメンタルヘルス対策の重要性
近年、健康経営に取り組む企業が増えています。その背景や課題についてお聞かせください。
世界的なコロナ禍の影響が大きかったと思います。「企業には従業員の心身の健康に配慮し、働きやすい職場をつくる責任がある」と考える人が増えました。そうした働き手の意識の変化が企業を動かしたのです。これは企業にとって悪い話ではありません。当社がサポートしている企業のウェルビーイングの取り組みに関するデータを分析したところ、従業員の心身のコンディションを把握し、しっかりと対策を講じることは、企業にも大きなメリットをもたらすことがわかりました。コロナ禍はいったん落ち着きましたが、ウェルビーイングの取り組みおよびヘルスマネジメントを進める動きは世界的に定着していくはずです。
ウェルビーイングの中でも注目されているのが、従業員のメンタルヘルスです。2020年代から米国で顕著になっている「大量離職(Great Resignation)」の主な原因もメンタルヘルスと考えられ、多くの企業がこの問題に真剣に取り組むようになりました。離職者の増加自体も問題なのですが、それ以前に従業員が「この会社は社員のメンタルヘルス、ウェルビーイングに関心がない」と感じてしまうとバーンアウト(燃え尽き症候群)しやすくなり、生産性の低下に直結します。
メンタルヘルスの中でもバーンアウトが注目されているとのことですが、うつ病などと何が違うのでしょうか。
昨今発生しているメンタル不調の種類として、うつ病の割合が大きいのは確かです。ただ、うつ病の原因はさまざまで、企業の取り組みで防げるものばかりではありません。それに対してバーンアウトは、職場での働き方が直接的な原因になることが多い。企業が改善の努力をすることで防げる可能性が高い、という違いがあります。
実は、私自身がバーンアウトを経験したことがあり、それが今のビジネスを立ち上げるきっかけになっています。21歳で起業し、シングルマザーだった母に楽をさせたいと思い、毎日18時間くらい働きました。部屋に戻って服も着替えずに気を失ったようにソファに倒れ込む毎日でした。
そんな生活を半年ほど続けたある朝、いきなり平衡感覚がなくなって立てなくなりました。動悸(どうき)が激しく、最初は心臓の発作かと思いましたが、実際は三半規管の病気。たまりにたまったストレスが体に大きなダメージを引き起こしたのです。それから5ヵ月の間、見える世界がぐるぐると回って、ベッドからすぐそばの椅子まで移動するのがやっと、という生活が続きました。症状が多少改善した後も、歩けないので車で送ってもらっていました。病院では「確かな治療法はなく、完治は難しい」と言われました。今でも時々めまいがしたりふらついたりします。
もちろんバーンアウトの症状は一種類だけではありません。私の場合は体へのダメージでしたが、人それぞれです。「出勤すると緊張して吐き気がしてしまう」「パソコンの画面がぼやけて視界が定まらない」「仕事の悩みや不安で眠れない」。どれも通常では考えられない症状で、バーンアウトの可能性があります。
共通しているのは、いずれも働き方など職場環境が大きく影響している点です。私が経験から学んだのは、自分を社会のペースに合わせるのではなく、自分のペースで歩んでいくことの大切さでした。それは当社のモットーである「ありのままの自分を大切に(Love Being Yu)」という言葉にもつながっています。
メンタルヘルスに関して、企業の人事部門や管理職はどのような役割を果たすべきでしょうか。
そもそも人事とは、働きやすい環境や制度を整備し、従業員のパフォーマンスが最大化するようにサポートする仕事です。その一つの要素としてメンタルヘルスを良好な状態に保つことがあります。これは管理職にも同じことが言えます。
では、何から取り組めばいいのかというと、従業員や部下のメンタルヘルスの現状を把握することです。バーンアウトやうつ病は極限の状況ですが、そこに至るまでにはさまざまな局面があり、それを把握できれば段階に応じた対策や予防が可能になります。しかし、人事担当者全員がメンタルヘルスの専門的な知見を持っているとは限りません。サポートしてくれるサービスや外部の支援会社を活用することも重要です。
「馬を水辺に連れていくことはできるが、水を飲ませることはできない」ということわざがあるように、従業員を良い方向に促すことはできても、強制的に何かをさせることはできません。人事部門が最大限できることは、従業員のための良い環境づくりまでなのです。
YuLifeが提供する、楽しみながら続けられる健康習慣
貴社がウェルビーイングアプリを開発したきっかけは何だったのでしょうか。
今から約8年前のことです。もともと私はゲームデザインを専門としていたのですが、関わる人たちがより良い人生を送れるようにサポートする事業を立ち上げたいとも考えていました。そんなとき、生命保険のスペシャリストである現在の共同創業者と出会ったのです。保険は20年、30年という長期間、多くの人たちの人生をサポートできる仕事であり、とても魅力的でした。
ただ、保険の仕事は「ギブ・アンド・テイク」の「テイク」が多くて、「ギブ」を感じにくいと感じていました。そこで、テクノロジーの力で顧客に多くのギブができるインシュアテック企業として当社を立ち上げました。スマホでゲームを楽しむように、ウェルビーイングへの関心を高め、健康習慣を身につけられるアプリを併せて提供することで、保険にもっと興味を持ってもらえると考えたのです。そうして生まれたのが「YuLife」です。
イギリスでは、当社の保険とウェルビーイングアプリは基本的にセットで提供していますが、お客様のニーズに合わせて個別に導入いただくことも多いです。たとえば福利厚生の利用促進を目的に、当社のアプリに着目していただいたケースなどです。
貴社のアプリの概要と特徴をお聞かせください。
当社のアプリを一言で表すと、「定着率UPを実現するオールインワンの福利厚生・健康アプリ」です。最も基本的な機能は、ユーザーが健康的な活動を行うと「YuCoin」というリワード(報酬)がもらえるというものです。散歩、サイクリング、エクササイズ、ヨガなどの運動、脳トレ、マインドフルネス(瞑想)といった、さまざまな健康的な活動で集めたYuCoinは、アマゾンギフト券をはじめとする魅力的なクーポンと交換できます。
単に「健康に良いことをしましょう」と言われても、なかなかやる気にはなりません。いったん始めても継続が難しいという問題もあります。当社のアプリはゲームをするような感覚で、楽しく活動に取り組み、無理なく続けられるよう設計されています。
ゲーム性はYuCoinのリワードを集める部分だけではありません。アプリには、職場単位でウォーキングの歩数を競い合うようなアプリ内イベントに参加できる機能があります。希望者を募ってチーム内で競ったり、親しい人と1対1の対戦をしたりすることが可能です。周囲の人とゲーム感覚で競い合うことで、職場のコミュニケーションが活性化します。
また、禁煙したい人向けのチャレンジ機能をまもなく追加する予定です。ゲームを通してたばこを吸いたい気持ちを紛らわせる機能や、何日禁煙できたかを競い合う機能なども設けていきます。
※記載の機能は英国で先行してリリースしている。日本版アプリにも順次実装対応を進める予定。
導入のメリットについてお聞かせください。
健康経営の取り組みをこのアプリに集約できます。多くの企業が従業員の健康増進につながる福利厚生を用意していますが、実際にはあまり使われないケースがほとんどではないでしょうか。しかし、当社のアプリを組み合わせれば従業員は楽しみながら福利厚生を活用するようになります。また、団体保険に加入されている企業であれば、各従業員は自身のマイページで加入している保険の保障内容を確認することもできます。
従業員の心身の状況をモニターするサーベイ機能もあります。従業員がアンケートに回答するとYuCoinがもらえる、という仕組みです。また、人事向けのポータル画面では、人事担当者が全社の健康データや加入中の保険を一括で管理・閲覧でき、職場状況の改善や福利厚生の拡充に活用できます。さらに、同業他社の数値と比較しながら、従来の福利厚生では実現できなかった “改善サイクル”と “投資対効果(ROI)”の見える化も実現できます。個別に心配なケースがあれば、バーチャルドクターなどの利用に誘導するといった対策も可能です。
導入している企業ではどんな効果が生まれているのでしょうか。
従業員から「毎日アプリを開きたくなる」といった声が多く上がるなど、アプリ利用率が非常に高くなっています。ゲーム性が高く、楽しく利用できるサービスであることが大きな要因でしょう。毎日アプリを使っている人は、毎日何らかの活動に取り組んでいることになります。結果として、従業員の欠勤率が12%低下、生産性向上を実感した従業員が85%に達するなど、導入効果が数値として表れています。それだけ従業員が良いコンディションで働けているわけで、企業にとっても181%の投資対効果が生まれるなど、とても大きな経済効果が実証されています。
継続的に利用してもらえるように、私たちは日々サービスの改善を続けています。アンケートでいきなり多くの質問があると、回答する人がうんざりしてしまう可能性があるので、毎日少しずつ質問を重ね、徐々に従業員の状態を把握するような手法をとっています。ちょっとした運動も小さな努力を毎日続けることで、大きな成果につながります。企業にとっての健康経営も同じことです。
日本市場でウェルビーイングを推進
貴社が日本で事業を展開する上でのビジョンや目標をお聞かせください。
日本では、第一生命グループとの協業でサービスを展開していく予定です。英国では当社が生命保険とウェルビーイングアプリの両方を提供していますが、日本では第一生命が保険を提供し、YuLifeはアプリを提供します。第一生命グループは「共に歩み、未来をひらく多様な幸せと希望に満ちた世界へ」をパーパスに掲げ、YuLifeは「人々がより充実した毎日を送れるよう支援し、仕事・プライベートを問わず健康とWell-beingを第一に考えることができるようにする」というミッションを掲げています。そのために必要な心、カラダ、そして経済面でのサポートをセットで提供します。
私たちは日本の文化や社会に非常に大きな魅力を感じていて、日本の市場にも大きな可能性があると考えています。企業は働き方改革や健康経営への取り組みによって成長をさらに加速させることができるはずです。私たちはその取り組みにぜひ貢献したいと思っています。YuLifeのアプリは、社内での人と人のつながり、コミュニティーを大切にする日本企業の文化にもよくなじむものだと確信しています。
YuLifeは、団体保険と従業員向けの福利厚生サービスを提供するグローバルIT企業です。日本市場では、第一生命グループとの提携により、健康管理サービスと団体保険商品を通じて、健康増進と安心を包括的にサポートします*。Well-beingアプリを活用し、健康増進活動をリワード制度で応援することで、従業員のエンゲージメントやモチベーションを向上させ、結果として企業と従業員の成長と満足度向上を実現します。
*引受保険会社:第一生命保険株式会社
YuLifeアプリと団体保険商品はそれぞれ単体で契約可能です