企業研修、採用、評価、人材開発、労務・福利厚生のナレッジコミュニティ

企業の成長を促す「エンゲージメント経営」 Employee Experienceが競争力の源泉となる

[前編を読む]

将来の労働力減少が見込まれる現代において、「従業員一人ひとりが持つ経験価値=Employee Experience(EX)」は企業の貴重な財産です。また、今注目されているエンゲージメント経営に深く関わる要素でもあります。では、EXの向上は企業にどのような恩恵をもたらすのでしょうか。株式会社リクルートホールディングスのEmployee Experience Committeeにおいて、株式会社people first代表取締役の八木洋介氏、タワーズワトソン株式会社の岡田恵子氏、吉田由起子氏と、リクルートホールディングス取締役の池内省五氏が議論しました。

八木洋介氏
八木洋介氏
株式会社people first 代表取締役

1980年京都大学経済学部卒業後、日本鋼管株式会社に入社。1996年National Steelに出向し、CEOを補佐。1999年にGEに入社し、複数のビジネスで人事責任者などを歴任。2012年に株式会社LIXILグループ 執行役副社長に就任。Grohe, American Standard, Permasteelisaの取締役を歴任。2017年株式会社people firstを設立して、代表取締役。経済同友会幹事 。東証一部上場企業などのアドバイザーを務める。著書に『戦略人事のビジョン』。

岡田恵子氏
岡田恵子氏
タワーズワトソン株式会社 取締役

慶應義塾大学法学部法律学科卒。マッキンゼー・アンド・カンパニーのコミュニケーション・スペシャリストを経て、ウイリス・タワーズワトソン入社。グローバルな人事・組織コンサルティングビジネスであるタレント&リワード領域のリーダー。チェンジマネジメント、従業員コミュニケーション、タレントマネジメント、リーダーシップアセスメント、サクセションプラニング、従業員意識調査などの領域を統括するシニアディレクター。共著書に『ロジカル・シンキング』(東洋経済新報社、2001年)。

吉田由起子氏
吉田由起子氏
タワーズワトソン株式会社 ディレクター

フロリダ工科大学大学院博士(産業組織心理学)。米国で大学講師や研究室勤務、日本ではヘイグループ/インサイト・ジャパン(現コーン・フェリー)などを経て、ウイリス・タワーズワトソンに入社。従業員意識調査、エンゲージメント調査、コンプライアンス調査、およびカルチャーアライメントサーベイなど、組織に関わる調査、コンサルティングに従事。共著書にA Closer Examination of Applicant Faking Behavior, Information Age Publishing, 2006.(未訳)。その他、学術誌に論文を多数発表。米国産業組織心理学会会員。

池内省五氏
池内省五氏
株式会社リクルートホールディングス
取締役 兼 専務執行役員 兼 CHRO

1988年 株式会社リクルート(現 株式会社リクルートホールディングス)入社。スーパーコンピューター関連事業、経営企画等を経て、1993年 人事部で人事設計に携わる。2000年より経営企画室にて、中長期成長戦略策定に携わるとともに、新規事業開発と海外展開の推進に従事。2005年 執行役員。2012年 取締役。2014年 リクルートUSAの代表取締役に就任。2016年4月 取締役兼専務執行役員に就任し、CSO・CHROを経て現在はCHROとして人事・総務部門を担当。

Employee Experience(EX)は企業価値を上げるドライバー

池内:2015年から働き方変革を進めていく中で、何のために改革に取り組んでいるのかを明確にする必要性を感じました。そこで、競争優位である企業文化をさらに浸透させることを目的に、ミッション&バリューを浸透・体現することを究極のゴールとした「エンゲージメント経営」へと舵を切りました。2018年10月にそれまでの「働き方変革推進部」を「Employee Experience Design部(以下、EXD)」に変更し、活動を拡大させています。本日はEXDの取り組みについて、人事やエンゲージメントに詳しい委員の皆さまから、ご意見をいただきたいと思います。

八木:企業が長く続けば新しい世代も出てきますが、Employee Experienceでは新しい世代に過度にこびないことが大事だと思います。リクルートという会社がこの先、どんな会社でありたいのか。時代に合わせるのではなく、自ら時代をつくりに行ったほうがいい。それくらいのパワーを持っている会社ですし、私がリクルートに期待するのもそういう姿です。

EXDでは従業員をエンゲージさせることを意識していると思いますが、エンゲージメント経営を打ち出すのであれば、リクルートに対してエンゲージする人を雇っていけばいいのではないでしょうか。ミッションやバリューに絶対的な正解はありません。むしろ、人が選択していくものです。

「これまではこうだったから」と、過去に引っ張られる必要もありません。なぜなら、環境はどんどん変わっていくからです。リクルートはカルチャーにフィットしていくことより、どうクリエイトしていくかを考える集団であってほしい。ただし、ミッションやバリューは、定義し過ぎないほうがいいでしょう。定義するとその範疇で留まってしまいますから。常にみんなが考えられる状態をつくってほしいですね。

私はEXDをイベント化するよりも、日常に組み入れるほうがよい結果を生むと考えます。物事を構造化し過ぎると、ひいてしまう人が出てくる。また、EXD側の人たちが自己満足に陥ってしまう危険性もある。どうすれば自然に日常化できるかを考えるべきです。

株式会社people first 代表取締役 八木洋介 氏

岡田:エンゲージメントが業績成長につながることから、エンゲージメントを業績指標として使う企業が増えています。エンゲージメントがアウトカム(獲得成果)だとすれば、EXはそのインプットに当たるものであり、アウトカムを押し上げる重要な要素です。とはいえ、カスタマーエクスペリエンス(CX)ほどにEXを取り上げている企業はまだ少ないと思います。

■Employee Experienceはインプットであり、エンゲージメントはその結果である(出所:ウィリス・タワーズワトソン)

Employee Experienceはインプットであり、エンゲージメントはその結果である

ホールディングスという組織が持つ一つの機能として、グループ各社にEXを提供するのであれば、従業員に本当にその価値が提供できているかという観点から、ホールディングスが打ち出している施策を支援・モニタリングするような仕組みが必要ではないかと思います。自分たちが言っていることが本当にできているかを見ていくような仕組みです。EXDはリクルートにとって、これまでにない新たなガバナンスの形になり得る活動ではないでしょうか。

八木さんもお話しされていましたが、人をエンゲージさせるのは本当に難しいことです。エンゲージメントは従業員が自らが行っていくものなので、どうやって従業員にエンゲージしてもらいたいかを考える大前提として、「従業員のエンゲージメントは本当に重要だ」と経営陣が腹落ちしていなければなりません。

■Employee Experienceの向上が企業の業績成長につながることが、証明されている(出所:ウィリス・タワーズワトソン)

Employee Experienceの向上が企業の業績成長につながることが、証明されている

吉田:EXについて私たちはいろいろな研究を行っていますが、そこで示されているのはバリューの大切さです。成長している企業にはバリューというきちんとしたコアがあり、そのコアをドライブできています。バリューに対して、従業員がどれだけインスパイア(啓発)されているかが重要なのです。このとき、まずは上層部がそうした姿勢を示さなければなりません。EXをこれから行う企業は、中途半端な踏込み方ではなく、経営課題として取り組んでいけるかどうかが重要だと思います。

タワーズワトソン株式会社 取締役 岡田恵子 氏

トップのコミットメントがエンゲージメントを左右する

池内:私自身のエンゲージメントをあらためて考えると、若いころの貴重な経験が重要な要素になっているように感じます。入社直後にリクルート事件が起こり、自分が就職した会社の社会的信頼が大きく揺らぐという出来事がありました。会社の状況が厳しい中、自分たちの提案によって会社が変わっていった経験がとても大きかった。

八木:池内さんが20代の頃の状況のように、危機をつくりあげることはできませんからね。できることといえば、上の人たちがチャレンジしている姿勢を見せること。挑戦する姿を見せて、伝えることが重要です。

池内:世界のグローバルTech企業の圧倒的な成長へのコミットメントは半端ではありません。我々は、このまま数%程度の成長でいいのか、もっと圧倒的に高い成長を実現できる企業にしたいと思うのか。この志の差が将来を大きく左右しているという実感があります。その中で、リクルートを常に二桁成長を実現できる企業にしたい、世の中を変えていける企業でありたいと思っています。

岡田:20代後半くらいで思ったことが、会社を変え続ける原動力になる。そして、それを経営者や上司が許容することがカルチャーだとすると、上に立つ人たちが常にそう考えているということを自ら確認できなければいけません。

池内:実は最近、カルチャーが変わってきていると感じています。最近入社する若い人たちは失敗を怖がる傾向が比較的強いと感じるんです。「失敗してもいいから、思いっきりやって欲しい」と言っても、なかなか簡単には変わりません。

岡田:失敗してもいいということを、どれだけ、そしてどうすれば信じてもらえるのか。以前のリクルートのような状況をどうすれば体験できるのか、を考えなければいけませんね。

吉田:以前は、リクルートの従業員ならこんなパッションの出し方をする、という一定の形があったと思います。しかし、現在のように従業員が約4.6万人もいると、その出し方もさまざまでしょう。しかし、一見リクルートらしくないものを受け入れることも、コミュニケートしていくうえで大事だと思います。形ではなく、その根底にあるリクルートらしさを見出せるようになると良いと思います。

八木:私は、エンゲージメントは決して難しいものではなく、もっと簡単にできると思ったほうがいいと感じています。私がGEにいたころは、従業員全員が同じ方向を向いていた。理由は簡単で、同じ方向に向かないものは出ていくからです。そうでなければ、ライバルに勝てない。バリューや価値観は、KPIになりません。人の価値観は互いにみていくしかない。だからこそ、みんなで「なぜエンゲージしないのか」と議論していかなければいけないのです。

池内:本当にそうですね。グローバルTech企業から話を聞いてすごいと感じたのは、トップマネジメントの圧倒的な本気度でした。トップの「価値観やミッション」に対するへのコミットメント、情熱のかけ方が半端ではない。我々は、まだその点で途上にあると思います。

岡田:エンゲージメントが低かったという結果を認識した後の対処は、欧米の企業と日本企業とで大きく異なると感じることがあります。欧米企業ではそれを経営課題と捉え、経営者自らがどうすればいいのかを考える。しかし日本企業では、「部でアクションを考えてから上にあげろ」となる。経営側と従業員側、どちらの課題なのかという点で、欧米と日本とは大きく異なっています。

タワーズワトソン株式会社 ディレクター 吉田由起子 氏

高業績を生み出す「Inspiration」「Drive」「Growth」「Trust」

池内:EXを起点としたバリューに対するエンゲージメント向上のためのプロジェクトを1年間やってきて、現場にもかなり変化の兆しが見えてきました。以前より従業員の主体性がかなり上昇し、どんなアジェンダに対しても建設的な議論ができる土壌が組織の中で醸成されているという手ごたえを感じています。最後に、EXがどのように企業のパフォーマンスに影響するのか。タワーズワトソン様の資料について少しご説明いただけますか。

吉田:私たちは高業績をあげ続ける企業の研究を行っています。企業においてEX、エンゲージメントがインプットであり、成長がアウトプットです。では、何が従業員の経験を形づくるのか。そこには、四つの領域があります。一つ目はPurpose。何のためにこの会社はあるのか。二つ目はPeople。どんな人と出会って、どんな刺激を受けるのか。三つ目はWork。そこで具体的にどんな仕事をし、どんな経験をするのか。四つ目はTotal rewards。そこにどんな報酬があって、自分が成長できるのか。

成長企業とアベレージ企業でどこが違うのかというと、具体例を挙げれば「従業員がきちんと上に声を聞いてもらっているか」や、多様性における「インクルーシブ感、あるいは巻き込まれ感といったものがあるか」や、コラボレーションにおいて「サポートだけではなく、一緒にやっていこうという姿勢があるか」などです。こういった部分は、成長過程にある企業でより強くなっているポイントといえます。

また、グローバルで高業績の企業において、他社と差が出る要素は「Inspiration」「Drive」「Growth」「Trust」の四つです。中でも飛びぬけてスコアが高いのが「Inspiration」。何かというと、企業のバリューが社員の心と一体になって燃え続ける、といったニュアンスです。リクルートのバリューズの一つである「BET ON PASSION = 本気の人のPassion・情熱に賭けることを大切にしよう」に近いものだと思います。「Trust」は相互の信頼があるかどうか。業績を伸ばす上では、これらの要素を高めることが経営課題になる、ということです。

池内:本日お話をうかがう中で、EXが企業価値を上げるために重要であることをあらためて認識しました。また、トップマネジメントが「成長への渇望感」を持って強くコミットするべきテーマであるとも感じました。これからもEXで成長し続ける会社でありたいと思います。本日はありがとうございました。

株式会社people first代表取締役の八木洋介氏、タワーズワトソン株式会社の岡田恵子氏、吉田由起子氏と、リクルートホールディングス取締役の池内省五氏が議論
企業情報

1960年の創業以来、リクルートグループはさまざまな領域において一人ひとりのライフスタイルに応じた、より最適な選択肢を提供してきました。現在、HRテクノロジー、メディア&ソリューション、人材派遣の3事業を軸に、60を超える国・地域で事業を展開しています。今後も、新しい価値の創造を通じ、社会からの期待に応え、一人ひとりが輝く豊かな世界の実現に向けて、より多くの『まだ、ここにない、出会い。』を提供していきます。

企業情報
リクルートグループの Mission&Values エンゲージメントを世界で誇れる水準にすることをミッションに、リクルートホールディングスにおけるEmployee Experienceの向上を支援・実践している部署。
EXDロゴ

注目の記事のバックナンバー

ウィズコロナ時代の働き方改革
デジタルシフトで変わる!店舗が実施した非対面の人材開発、職場コミュニケーションとは
新型コロナウイルスの感染拡大は、店舗事業者に甚大な影響をもたらした。さまざまな企業活動がストップしたのは言うまでもない。Ash(アッシュ)、NYNY(ニューヨー...
2020/06/26掲載
ピンチをチャンスに。
新型コロナウイルス対策を機に中小企業も時代を見据えた働き方へ
働き方改革が進むなか、2020年4月から施行された中小企業の時間外労働上限規制は人事担当者が対策を講じるべき大きなテーマであった。しかし、新型コロナウイルスの感...
2020/04/24掲載
改正健康増進法施行をきっかけに考える、喫煙者と非喫煙者が共存する快適なオフィス環境づくり
「煙のない社会」を目指す、フィリップ モリス ジャパンが提案するソリューションとは
2020年4月に「改正健康増進法」が全面施行され、屋内は原則として禁煙となりました。非喫煙者にとって、たばこの煙のにおいは不快の原因。最近では、スモークハラスメ...
2020/04/13掲載