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「短時間JOB」は 組織に何をもたらすのか? iction! の取り組みから見えた兆しに迫る

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リクルートグループは2015年より、働く子育てを支援する「iction!」というプロジェクトを推進しています。なかでも、人材系事業会社を中心に「短時間JOB」の創出に力を入れており、人手不足の解消や長時間労働の是正に寄与できる兆しが見えています。今回は改めて短時間JOBが必要とされる背景や、現場における具体的な活用事例などを取材。短時間JOBがもたらす効果や効能、今後の可能性についてご紹介します。(記事作成:株式会社リクルートホールディングス)

インタビュー1

人手不足の解消と働き方改革に効果的な「短時間JOB」という選択

リクルートホールディングス 専門役員 兼 リクルートワークス研究所 所長 大久保 幸夫さん

空前の人手不足に加えて、政策としても掲げられている働き方改革など、人材確保や生産性向上は企業の将来を左右する重大な課題となりつつあります。そうした社会課題の解決手法としてリクルートがグループ横断で取り組んでいるのが、「短時間JOB」の創出というテーマ。育児や介護、兼業などにより多様化する時間的制約者が無理なく就業できる仕事を社会に増やすことには、どのような狙いがあるのでしょうか。リクルートワークス研究所 所長の大久保幸夫さんにうかがいました。

リクルートホールディングス 専門役員 兼 リクルートワークス研究所 所長
大久保 幸夫さん
(おおくぼ ゆきお)1983年リクルートに入社。人材総合サービス事業部企画室長、地域活性事業部長などを経て1999年にリクルートワークス研究所を立ち上げ、所長に就任。2010年~2012年内閣府参与を兼任(菅内閣、野田内閣)。2011年専門役員就任。2012年人材サービス産業協議会理事就任。専門は、人材マネジメント、労働政策、キャリア論。最新著書は、『働き方改革 個を活かすマネジメント』(日本経済新聞出版社)

リクルートでは、なぜ「短時間JOB」の創出に取り組んでいるのでしょうか。

発端は、リクルートグループ横断で取り組んでいる「iction!」(イクション)プロジェクトです。「iction!」は、「子育てしながら働きやすい世の中を、共に創る」をキーワードに「はたらく育児」を応援するプロジェクト。少子化により就労者数が減少するこれからの日本では、女性が結婚や出産をしても働き続けられることや、一度キャリアを中断してもまた戻ってこられることが必要不可欠です。

そこで、再び就業したいと考えている子育て世代の女性に調査してみたところ、「希望する勤務時間」に関して、注目すべき結果が出ました。彼女たちの意見では、「一日3~5時間働きたい」が最も多かったのです。しかし、世の中に数多ある仕事を見渡してみると、短時間勤務が可能な仕事はまだまだ限定的で選択肢が狭い。いわゆる「パートさん」も実態はフルタイム並みに働いている場合が多く、日本には「短時間JOB」がほとんど存在しなかったのです。だからこそ、短時間で働く仕事もフルタイムと同じくらいバリエーションがある社会にしていくことが、女性の就業率を向上させるためには必要だと捉えました。

このように、発端はあくまでも働く個人のニーズでしたが、人手不足や長時間労働の是正を強く求められるようになった時代背景が追い風となり、短時間JOBを導入する企業が現れるようになりました。求人倍率が指し示す通り採用は難しくなっており、政府が残業時間の上限規制を設けようとしているなかで、従来の働き方をする人員だけで組織を運営していくのは限界にきている。そうした切迫感をお持ちの企業と一緒に、人材確保や労働環境改善の取り組みとして、短時間JOBを検討していったのです。

では、具体的にはどのようなアプローチで短時間JOBは生み出せるのでしょうか。

はじめに行ったアプローチは、「従来は一人で行っていた業務を整理・分解し、特定の業務だけ取り出す」という“JOBの切り出し”です。たとえば、ある介護施設で働く介護士は、人手不足から慢性的な長時間労働に陥っていました。しかし、彼らの業務内容一つひとつに注目してみると、専門性が必要な業務と、その周辺にある雑務に分類でき、周辺業務が業務時間を圧迫していることがわかった。そこで介護士には有資格者でなければできない“本業”に専念してもらい、周辺業務は専任で担当する人を新たに雇用しました。このように、ほとんどの仕事は専門性を必要とする“コア業務”と付帯的な“ノンコア業務”が入り混じって構成されていることが多く、ノンコア業務を切り出して短時間JOBとすることで、長時間労働を是正することが期待できます。

また、切り出すJOBはノンコア業務に限った話ではなく、コア業務そのものも短時間JOBとして切り出すことが有効な場合もあります。たとえば、事務系の専門職など社内に一人しかいない担当者が離職した場合。フルタイムで働ける後任を採用しようとすると、もともとの採用難易度から苦戦しがちですが、コア業務だけを切り出し週3日勤務の仕事として募集するのであれば状況は変わります。高いスキルを持つ女性が出産や育児で離職したり、今の働き方では両立が難しいと悩んだりするケースは良くあること。そんな彼女たちが自身の経験が活かせる業務だけに専門特化して取り組むと、フルタイムの社員が複数の業務を並行して進めるよりも効率的で、スピードが速いという効果も生みだしています。このような働き方を私たちは「ZIP WORK」と名付けました。

高度な専門性を必要とするJOBを切り出してみると、当初想定していた育児中の女性のほかにも、短時間JOBを選択する人達が現れています。たとえば、フルタイムの仕事とは別に副業として働く人や、自分自身の会社を経営している人など。つまり、フルタイムで募集してもなかなか出会えないような優秀な人材が、勤務時間を短くすると出会えるようになったのです。短時間JOBの方が仕事のクオリティが上がるという逆転現象が起きたケースもあります。

大久保 幸夫氏 Photo

一日5時間だけ働く人や週3日勤務の人など、多様な働き方が増えると、マネジメントが難しくなるのではないでしょうか。

難易度が上がるわけではありませんが、やり方を転換した方が良いでしょうね。従来日本型のマネジメントは、成果よりもプロセスを重視する評価の仕組みが前提にあり、顔を突き合わせて日々コミュニケーションするスタイルを取ってきました。しかし、一日3時間のみ働く人が登場すると、マネジャーはそのスタイルを変えざるをえない。短時間で集中的に仕事を進めてもらうからこそ、指示や目標設定を明確にしないとうまくいきませんし、ある程度の判断はメンバーに任せるような権限委譲が必要になるでしょう。

ただ、このマネジメントスタイルは、実は働き方改革のキーワードのひとつでもある「テレワーク」環境のマネジメントと非常に似た考え方。働き方改革が進めばフルタイムか短時間かを問わず、すべての個人にとって自律的に働くことが求められます。メンバー個人の働き方を尊重しつつ自律を促すマネジメントが、働き方改革後の時代にマッチしたマネジメントだと言えるでしょうね。

そこで成功の鍵となるのが、「ジョブアサイン」です。多様な働き方・価値観の人たちが集まる組織になるからこそ、「目標設定」→「職務分担」→「達成支援」→「仕上げ・検証」を繰り返すジョブアサインのスキルが重要。個を活かすマネジメントは、メンバーの働くモチベーションに直結し、業績や業務効率に大きく影響しますから、短時間JOBにまつわる問題ではなく、より魅力的なマネジメントへ進化するためのきっかけと捉えてほしい。

また、私たちが短時間JOBの創出に取り組んできた流れが示すように、人事課題は、それぞれが密接に影響しあっています。ダイバーシティ&インクルージョンの実現には働き方改革が必要ですし、働き方改革はすなわちマネジメント改革でもあります。だからこそ、人事課題を解決する一つの手法として、さらに多くの企業が短時間JOBを検討することを期待したいですね。

大久保 幸夫氏 Photo
インタビュー2

CASE1:一日2時間~の超短時間ワークで“隠れ保育士”に就業機会を

株式会社日本保育サービス 総務部採用課 課長 上島 朗子さん
株式会社リクルートジョブズ ソリューションマーケティング部 プランナー 石黒 哲雄さん

保育園運営の大手である株式会社日本保育サービスが、2017年に打ち出した新しい保育士の働き方が、一日最短2時間という超時短勤務のアルバイトです。同社では子育てを理由に離職していた保育士や、資格はあっても実務経験がない人など、約50名の新規採用に成功。フルタイムで勤務する保育士の負荷を軽減しつつ、潜在的な保育士人材の掘り起こしを実現しています。この取り組みは保育士にとってどんな意味があるのか。同社採用課長の上島朗子さんと、同社へ採用手法や人事企画などの支援を行っている株式会社リクルートジョブズの石黒哲雄さんにお話をうかがいました。

株式会社日本保育サービス 総務部採用課 課長
上島 朗子さん
(かみしま あきこ)新卒で入社した大手小売・サービス系企業では、販売・新規事業企画・人事・商品開発と様々な業務を経験。そのなかでも人事スキルを伸ばしたいという想いから、2014年に日本保育サービスへ入社。以来、採用全般に携わっている。

株式会社リクルートジョブズ ソリューションマーケティング部 プランナー
石黒 哲雄さん
(いしぐろ てつお)2014年、リクルートジョブズ新卒入社。アルバイト・パート領域を中心とした人材採用のソリューションプランナーとして幅広い業種の大手企業を担当。日本保育サービスは2016年の9月から担当している。

まず、日本保育サービスにおける「短時間JOB」の概要について教えてください。

上島:当社が2017年の5月にスタートさせたのが、18時から閉園までの夜間限定保育士「スターライト先生」です。閉園時間は園によって異なりますが、標準的には20時までなので、最短2時間からの勤務が可能。9月からは早朝勤務スタイルの「サンライズ先生」もスタートし、フルタイムで働く保育士と協力しながら子どもたちに向き合っています。

なぜ「短時間JOB」を導入されたのでしょうか。

上島:一番大きな理由は、保育業界全体の採用難です。保育士の求人倍率は他の職種よりも突出して高く、東京都だと6倍にもなるんですよ。やみくもに競争市場で採用活動をするのではなく、多様な就業ニーズに応えていく必要があると感じていました。

石黒:保育士の実務を洗い出して整理してみたことが、「短時間JOB」の出発点です。保育は資格が必要な仕事ながら、実際の業務を整理してみると細かな雑務も多く、「無資格者でも問題ない業務」がかなり含まれていました。それらの業務を切り出して別の人が担当すれば、保育士の負荷軽減につながるのではないかと考え、無資格でも保育園で働ける「短時間保育助手」の雇用を強化。すると「資格がなくても大好きな子どもと働ける」と、多くの応募獲得に成功しました。この取り組みを発展させ、潜在保育士の掘り起こしを狙ったのがスターライト先生です。

上島:さまざまな議論のなかで夜間・早朝の業務を切り出したのは、仕事と子育てを両立する家庭が増えたことで保護者のニーズが多様化し、保育士への負担が大きくなっていたのも理由のひとつです。朝7時から最長22時まで預かる保育園もありますが、シフト勤務で対応していると、どうしても生活は不規則になってしまいます。なんとかフルタイムで働く保育士の勤務時間帯を健全化できないかという発想から、夜間や早朝の業務を切り出して専任の担当者を新たに設けました。

上島 朗子さん Photo

どんな人が「短時間JOB」で働いているのですか。

上島:現在、約50名がこのスタイルで働いていますが、ダブルワーカーや主婦、学生など、その立場はさまざまです。象徴的なのは、「保育の学校を卒業後、看護学校に通っている」という方。将来は保育園での看護の仕事を希望しているそうで、保育の資格を活かしながら学業と両立しています。また、18時以降に働いている主婦の方もいます。彼女の場合、「子どもが塾で勉強している間だけ働きたい」というニーズと、18時から20時までという当社の働き方がマッチしていたそうです。

石黒:現場で働きはじめたスターライト先生たちにお話をうかがってみると、実務経験がなかった方も割といるんです。保育士の資格を持っていながら一般企業に就職したような方の場合、「やはり保育の仕事がしたい」と思っても、いきなりフルタイムで働くのは心理的ハードルが高いそうです。出産・育児でしばらく保育の仕事から遠ざかっていた方々も同じ気持ちのようで、「いずれはフルタイムにチャレンジしたいけれど、まずは短時間でアルバイトからはじめたい」というニーズを捉えた働き方だったようです。

上島:以前から昼間のアルバイト募集は行っていましたが、このような人たちには出会えませんでした。今、日本には有資格者ながら何らかの理由で保育の仕事をしていない「潜在保育士」が約70万人いるとも言われていますが、時間や役割をずらしたり、限定したりすることで、保育士として就労したいと思ってくれる方はまだまだいそうだと感じましたね。

石黒:無資格で働きはじめた保育助手のなかには、実務を経験したことで「保育士の資格を取りたい」と思うようになった人もいます。「短時間JOB」のアルバイトがキャリアステップに好影響を与えているようですね。ただ、将来的にフルタイムの保育士として働くことも視野に入れている人もいれば、この働き方を長く続けたい人もいるので、いろいろなスタンスの人が保育園に集まった状態とも言えます。園長さんには一律にマネジメントするのではなく、一人ひとりの考え・キャリア観を把握しながら、支援していくことが必要。個別性の高いマネジメントを行っていくことが、欠かせないと思います。

一方、フルタイムで働いている保育士のみなさんにも変化はありましたか。

上島:早番・遅番に入る職員のうち、正社員が半分で済むようになりました。ワークライフバランスが向上しただけでなく、必然的に一番人手が必要な日中の体制が手厚くなったため、より保育に集中できる環境が整ってきたという声が上がっています。今後はそれがさらなる保育の質の向上につながるのではと感じています。サンライズ・スターライト先生を採用している施設では残業時間も減少しており、なかには10~20%削減できているところもあります。

石黒:生産性が上がったことで、子どもにきちんと向き合える余裕が生まれているのは、保育士の根源的な働きがいにも影響しているようです。また、労働環境の改善につながっているため、徐々にフルタイム保育士の採用にも良い影響が出てくるはずだと捉えています。

石黒 哲雄さん Photo

最後に「短時間JOB」の効能や活用法などについて、お考えをお聞かせください。

上島:冒頭に申し上げた通り、我々の業界は保育士の母集団不足という大きな課題があります。だからといって、現役の保育士を各社で取り合う構図のままでは抜本的な解決になりません。企業側が保育士に求める働き方を変えれば、「本当は働きたいのだけど、条件が合わない」と諦めている人たちの気持ちをポジティブに変化させることが十分にできると思っています。

石黒:日本保育サービス様の取り組みは、保育業界だけで通用するスキームではないと考えています。たとえばドラッグストアの薬剤師採用など、世の中には、「有資格者」であることが必須のために人手不足に陥っている業種があります。マーケットに人材が限られているからこそ、無資格者でもできる周辺の業務を切り出して「短時間JOB」とするのは即効性の高い施策だと思います。実務経験を積んでもらいながら資格取得を支援するなど、中長期的に専門職を増やしていく施策にもなり得るため、こうした取り組みを広げられたら、さまざまな業種の人材難を解消できると考えています。

上島 朗子さん 石黒 哲雄さん Photo

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