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人事マネジメント「解体新書」第八回
新しい時代における「福利厚生」のあり方

近年、企業社会を取り巻く変化が進むなかで、雇用のあり方が大きく変わってきた。終身雇用を謳う企業は少なくなり、労働組合の組織率も減少の一途をたどっている。また、年功から成果や業績を重視した賃金制度を導入する企業が増えるなど、これまでの日本的雇用慣行を見直す動きが出てきている。さらに、転職が当たり前となるに従い、若い人たちを中心に働く人の意識が変わった点が見逃せない。このような動きのもとで、福利厚生のあり方も大きく変化しつつある。新しい時代を向かえ、今後の企業内福利厚生はどのような姿になっていくのか。最近の動向をまとめてみた。

解説:福田敦之(HRMプランナー/株式会社アール・ティー・エフ代表取締役)

そもそも、「福利厚生」とは何か?

「法定福利」と「法定外福利」がある

「福利厚生」という言葉を調べてみると、「福利」は「幸福と利益」、「厚生」は「豊かな生活」ということを意味する。企業においては、従業員の経済的側面や精神面、施設面などの環境を整えることにより、持っている能力やスキルを十二分に発揮してもらい、定着や育成を図ることを目的としている。

その内容は、法律で義務づけられた社会保険や雇用保険のほか、社宅や寮、社員食堂や給食、売店、運動場、保養所などのレクリエーション施設のようなものをはじめ、病院・診療所、健康相談、カウンセリング、文化・体育活動への援助、慰安旅行、制服や作業着の支給、さらには退職金制度、財形貯蓄制度、共済会制度から慶弔見舞金、住宅補助制度、能力開発補助制度、諸手当など、非常に幅広い項目が存在している。

この福利厚生には、周知のように「法定福利」と「法定外福利」がある。法定福利は文字どおり、法律で定められている福利厚生のことを指す。具体的には「法定福利費」として、下記のものが定められている。

【法定福利費】
健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料、雇用保険料、労災保険料、児童手当拠出金、労働基準法上の休業補償のうち、企業が負担する分(従業員負担分は除く)

対して、「法定外福利費」はこれら以外のもの全てということになる。そのメニューは、先に記したように実にさまざまであり、公的に設けられている法定福利との違いは、「企業が自らの意思と負担により任意に行うもの」と言えるだろう。ここが重要なポイントだと思う。つまり、必ずしも行わなくてもいいものなのである。後述するが、最近では福利厚生を最低限しか行わない企業が増えてきている。そのような背景から、本稿では企業による法定外福利の動向を中心にみていくこととする。

戦略的な視点が福利厚生には必要

企業が行う福利厚生について、かつては「低い賃金水準を補充するため」「社会保障の代替として」そして「労働力を確保するため」などの役割が課せられていた。実際、働く人たちは福利厚生に期待していたし、その恩恵にもあずかっていた。しかし、最近は諸々のインフラも整備され、従業員の生活水準も向上してきた。さらに、人材の流動化や雇用形態の多様化が進んだ結果、福利厚生に求められるものの様相が変わってきたように思う。例えば、「質の高い個人生活を支援するため」「多様な人材を確保するため」「社会保障との分担を図るため」といった内容へと、その役割が変化してきているのではないだろうか。

このような変化に伴い、企業の福利厚生のあり方も従業員の価値観やライフスタイル、ニーズの多様化への対応、さらには成果主義や業績主義の人事制度・評価制度との整合性の確保など、内容に対する見直しが急務となってきた。そして、高齢化と年金改革に伴う法定福利費コスト増への対応が求められてきているのが最近の動きだ。

福利厚生という性格上、限られた原資のなかで、近年の従業員のニーズに対応した質的な見直しが不可欠となってきたのだ。例えば、これまで主流だったレクリエーションや保養、慰安旅行などに代わって、健康管理や自己啓発などに対するニーズが強くなっており、どうも従来型の福利厚生メニューは旗色が悪いように映る。

ただここで忘れてほしくないのは、法定外福利厚生は従業員の多様なニーズに対応しつつも、企業の経営方針や実際の事業との関係で成り立っているということ。ない袖は振れない。これが、公的な福利厚生との違いである。その点を十分に考慮しながら再構築していくことがポイントとなる。そう、他の施策と同様、戦略的な視点が福利厚生には必要なのである。

では、そのグランドデザインをどのように描いていけばいいのか?その前に、まずは福利厚生費の現状を日本経団連の調査からみていくこととしよう。

いま、「福利厚生費」の現状はどうなっているのか?

福利厚生費、7年連続で過去最高を更新

日本経団連では福利厚生費調査を1955年度から毎年実施し、今回で実に50回目を数えている。まさに、半世紀に及ぶ日本企業の福利厚生費の動向を把握できるものだ。同調査は、法定福利費、法定外福利費の各項目について企業の年間負担総額を年間延べ従業員数で除した1人1カ月当たりの平均値(加重平均)を産業別、規模別に算出している。以下、最新の調査結果を紹介する。

ご存知の方も多いと思うが、福利厚生費、法定外福利費がともに増加し、企業が負担した福利厚生費が7年連続で過去最高を更新したことが明らかとなった。

2005年度(2005年4月~2006年3月)の動向を具体的にみていくと、企業が負担した福利厚生費は従業員1人1ヶ月平均で10万3722円(前年比増1.3%)となっており、3年連続で10万円台となった(図1)。そのうち、社会保険料など、企業の拠出分である法定福利費が7万5436円(同1.8%増)を占め、企業が任意に行う法定外福利費は2万8286円(同0.1%増)となっている(図2)。この法定福利費の増加については、月例給与と賞与・一時金を含めた「現金給与総額」(58万3386円)の伸び(同0.9%増)と、厚生年金保険料、雇用保険料の改正に伴うものである。その結果、法定福利費は過去最高額となったというわけである。

そして、現金給与総額に対する比率でみると、福利厚生費全体では17.8%(前年度比0.1%増)となっているが、そのうち法定福利費は12.9%(同0.1%増)を占めており、法定外福利費は4.8%(同0.1%減)ということになる。

図1:福利厚生費の推移(全産業平均)

年度

現金給与総額(円)

福利厚生費(円)

退職金(円)

福利厚生費の対現金

給与総額比率(%)

合計

法定福利費

法定外福利費

1990

482,592

74,482

48,600

25,882

36,466

15.4

1991

492,587

77,091

49,865

27,226

42,786

15.7

1992

501,188

79,130

50,782

28,348

36,866

15.8

1993

500,983

79,543

50,998

28,545

38,171

15.9

1994

513,412

82,169

53,291

28,878

42,908

16.0

1995

525,651

88,174

58,679

29,495

45,341

16.8

1996

542,368

90,989

61,233

29,756

48,288

16.8

1997

541,209

91,828

62,896

28,932

56,745

17.0

1998

546,116

91,575

63,162

28,413

63,341

16.8

1999

548,191

92,188

63,763

28,425

72,755

16.8

2000

550,802

93,203

65,423

27,780

69,256

16.9

2001

562,098

95,883

68,482

27,401

80,495

17.1

2002

558,494

96,755

68,552

28,203

87,283

17.3

2003

565,935

100,811

72,853

27,958

92,037

17.8

2004

578,054

102,372

74,106

28,266

80,499

17.7

2005

583,386

103,722

75,436

28,286

81,685

17.8

注1:2002年度からは法定福利費には、障害者雇用納付金を含まない

図2:現金給与総額と福利厚生費(2005年度:全産業平均)

現金給与総額(円)

583,386

0.9

福利厚生費(円)

103,722

1.3

法定福利費(円)

75,436

1.8

法定外福利費(円)

28,286

0.1

退職金(円)

81,685

1.5

福利厚生費+退職金(円)

185,407

1.4

福利厚生費/現金給与総額(%)

17.8

0.1

法定厚生費/現金給与総額(%)

12.9

0.1

法定外厚生費/現金給与総額(%)

4.8

▲0.1

退職金/現金給与総額(%)

14.0

0.1

福利厚生費+退職金/現金給与総額(%)

31.8

0.2

法定福利費/福利厚生費(%)

72.7

0.3

法定外福利費/福利厚生費(%)

27.3

▲0.3

注:右欄は対前年度増減率(%)

法定外福利費の半分を占める「住宅関連」費用は減少傾向に

図2でみたように、全体では微増だった法定外福利厚生費であるが、これを項目別にみていくと、近年の傾向がよく分かる。具体的に言うと、「医療・健康」「共済会」が増加しているのに対し、「住宅関連」や「ライフサポート」「慶弔関係」「文化・体育・レク」「福利厚生代行」では減少している。特に、法定外福利厚生費の約半分を占めている住宅関連費用。この減少を、医療・健康費用の伸びが相殺する形となっている(図3)

言うまでもなく、住宅は賃貸にせよ分譲にせよ、生計費に占める割合がかなり高い項目である。そのため、日本企業では社宅・寮の整備、持ち家推進のための住宅ローン、さらに住宅手当など住宅関連の補助政策を重視してきた。実際、終身雇用が前提であった時代は、このような施策は従業員のモチベーションを維持する上で、重要な役割を果たしてきた。それこそバブル期には優秀な新卒学生を採用するために、多くの企業がこぞって豪華な独身寮や社宅を建設したことはまだ記憶に新しい。

しかし、バブル崩壊後、企業が社宅や寮を拡充することは経営的に厳しくなり、全国に点在していた社宅用地を売却するケースが目立ってきた。従業員側も、お仕着せの福利厚生より、とにかく総額給与を増やしてもらい、そのなかから自己責任で生計プランを立てていこうとする人が多くなってきた。時代は変わったのだ。こうした福利厚生施策の変化のなかで、廃止対象のターゲットとして挙がったのが住宅関連費用である。

図3:福利厚生費の項目別内訳(2005年度:全産業平均)

項目

金額(円)

構成比(%)

対前年度増減率(%)

現金給与総額

583,386

 

 

0.9

福利厚生費

103,722

100.0

 

1.3

法定福利費

75,436

72.7

100.0

1.8

健康保険・介護保険

25,887

25.0

34.3

▲0.4

厚生年金保険

39,816

38.4

52.8

2.3

雇用保険・労災保険

9,176

8.8

12.2

5.9

児童手当拠出金

509

0.5

0.7

3.2

その他

48

0.0

0.1

6.7

法定外福利費

28,286

27.3

100.0

0.1

住宅関連

13,962

13.5

49.4

▲2.0

医療・健康

3,127

3.0

11.1

7.6

ライフサポート

6,088

5.9

21.5

▲0.9

慶弔関係

891

0.9

3.1

▲6.0

文化・体育・レク

2,224

2.1

7.9

▲1.7

共済会

308

0.3

1.1

10.8

福利厚生代行

346

0.3

1.2

▲6.2

その他

1,337

1.3

4.7

20.1

通勤手当、通勤費

9,879

 

 

6.2

退職金

81,685

100.0

 

1.5

退職一時金

35,845

43.9

 

1.7

退職年金

45,839

56.1

 

1.3

カフェテリアプラン消化ポイント総額

3,526

*導入企業65社のみの集計

-

注1:法定福利費の「その他」は、船員保険・労基法上の法定補償費・石炭鉱業年金基金等である
注2:カフェテリアプランの消化ポイント総額は、利用枠のうち、実際に使用された部分を円換算したもの
注3:項目の合計は従業員1人当たり月額778,672円、年額にすると9,344,064円である
*図1~3出所:第50回福利厚生費調査結果(2005年度)の概要(日本経団連/2007年)

法定福利費と退職金の伸びが、大きな課題に

また、退職金(退職一時金と退職年金の合計額)については、従業員1人1カ月平均8万1685円、前年度比1.5%増となった。現金給与総額に対する退職金の比率も14.0%(前年度13.9%)と、その割合は上昇している。

問題なのは、現金給与総額、法定福利費、法定外福利費、退職金の推移だ。近年、法定外福利費は現金給与総額とほぼ同じ伸びを示しているものの、法定福利費と退職金は現金給与総額の伸びを大幅に上回っている。これは総額人件費管理の観点からも、企業にとって今後の重要な課題である。

一方で、法定外福利厚生は企業が任意でできるものであり、ある意味、企業の思いや価値観を表している。と同時に、それは各企業で働く人たちのニーズに合致したものでなくてはならない。また、そのあり方や内容についても、かつてのように総花的であったり、一様であるのは合理的ではないだろう。だからこそ、自社としての福利厚生に対するポリシーを持ち、これまでの内容を見直し、新しい時代に即したものへと戦略的に再構築していくことが、人事担当者に課せられた課題である。

では、どのように見直し、再構築していけばいいのか。最近の傾向や先端的な事例をみていくなかで、そのあり方を探ってみよう。

福利厚生の見直し・再構築に向けての考え方

企業の思いや価値観をベースに置く

街にはモノやサービスがあふれ、働く人の価値観や雇用形態が多様化していくなかで、従業員全員に同じような福利厚生を提供しようと思っても、もはやうまくいくことはない。また、企業も法定福利は別に置くとしても、固定費的な福利厚生費をどうコントロールし、効率よく配分していくか、これが今後の大きな課題となっている。その際に重要なのは、やはり企業の思いや価値観だろう。だからこそ、あえて福利厚生を廃止するという企業も出てきているのだ。

とはいえ、一方で会社に対する帰属意識や一体感を重視する企業もある。そういう企業では、福利厚生は重要なツールとなり得るし、そのことに対する投資は新しい時代のニーズに合わせて、何らかの形でやっていかなければならないだろう。会社の数だけ福利厚生のあり方があってもいい。

個人的には、方向性として大きく3つほどあると思っている。まずは「カフェテリアプラン」、そして2つ目が「重点的・効率的に施策を行う」、最後の3つ目が「発想を変える」である。

(1)カフェテリアプラン

「多様性」への対応が可能
前述したように、企業内の福利厚生については従業員のニーズが多様化している。保養所や寮・社宅を造るといった「箱もの」から脱皮し、さまざまなメニューを提供して従業員自らが選択するという「カフェテリアプラン」へと移行していくのは、自然な形だろう。

カフェテリアプランとは、会社が福利厚生費をポイントとして従業員に配分し、従業員がそのポイントを使って、用意された福利厚生メニューから自由に選んで利用するという制度である。このため、福利厚生費の管理が容易であり、かつ限られた予算内で従業員の多様化したニーズに対応することができる。そのような対応をすることで、結果的に従業員のやる気を高めたり、より選んだという満足感を与えることができる。

また、これまで福利厚生に対して出費をしていても、「使う人は頻繁に使うけれど、使わない人は全く使わない」「使われているものに非常に偏りがある」といった問題を解消できるのもカフェテリアプランのメリットの1つである。

カフェテリアプランの内容
カフェテリアプランの内容は「区分」と個別の「メニュー」に分かれている。以下に、代表的な区分と個別メニューを記してみた。

1.住宅(住宅ローン・社宅費・転居の補助)
2.財産形成(財形貯蓄利子の補給、個人年金の補助)
3.保険(生命・介護・医療・損害保険)
4.医療(人間ドック・治療費・差額ベッドの補助)
5.健康(施設利用・用具購入の補助)
6.介護(ヘルパーの利用、介護・看護費の補助)
7.育児育英(保育園・託児所の補助、教育費の援助)
8.休暇(育児・介護・ボランティア)
9.レク施設(宿泊・娯楽・文化施設利用の補助)
10.レク活動(旅行、文化・趣味、クラブ活動の補助、スポーツ観戦の補助)
11.交通費(新幹線・単身赴任旅費の補助)
12.生活援助(食堂・制服・購買の補助)
13.自己啓発(通信教育・資格取得の補助)
14.その他(祝い金の給付・各種相談料の補助)

カフェテリアの支給方法は、従業員1人に対して一律いくらという形で支給、補助している形が一般的である。

外部機関にアウトソースするケースが増えてきた
近年では、福利厚生の代行会社が出てきたこともあり、カフェテリアプランのメニューを揃え、ポイントを管理するのを社内ではなく、外部機関にアウトソースするケースが増えてきた。これだと手間隙がかからず、従業員のニーズに素早く応えることができる。実際、このようなカフェテリア方式なら、アルバイト・パートなどの非正社員や派遣社員に対しても、相応の福利厚生を提供することができるだろう。こうした点からも今後、中小企業やベンチャー企業などではカフェテリアプランを導入するケースが増えてくると予測される。

(2)重点的・効率的に施策を行う

ユニークな福利厚生施策を打ち出し、採用と定着に成果を出す
一般的に、資金面や施設面で大企業に劣る中小企業が、大企業並みに福利厚生施策を充実させることは難しい。しかし、限られた予算のなかで従業員のニーズに合った満足感の得られる施策を行うことは可能である。その方法の1つとして、前述のカフェテリアプランがあったが、これは多様なメニューのなかから自分に合ったものを選ぶ、という考え方である。

そうではなく、従業員のニーズを掘り出し、どうしたら彼ら・彼女たちがモチベーションを持つことができるのか、自社独自の福利厚生施策を考え出していくことを考えてみたい。特に、最近はバブル期並みの人材難となった結果、知名度で劣る中小企業やベンチャー企業は苦戦を強いられている。そこで、自社独自のユニークな福利厚生施策を打ち出し、採用と定着に成果を出している企業も少なくない。

例えば、「デート支援金」を支給するA社では、従業員が恋人などと旅行する場合、本人の旅費の一部を会社が補助する。というのもA社の従業員は平均年齢が20代前半と若く、頻繁に旅行する資金もない。そこで、会社が旅費を補助することで、仕事以外の刺激を受ける機会を増やし、さらに本人のやる気を醸成させることを目指しているのだ。

失恋したときの有給制度「失恋休暇」、バーゲンに出かけるための有給「バーゲン半休」というユニークな制度を打ち出したのがB社。失恋休暇は年1回、年齢に応じて1~3日の有給が取得できるというもの。取得時には「失恋した」と自己申告すればいいとのことだ。そのユニークな制度を採用する社風に引かれて入社した従業員もいるという。バーゲン半休も、バーゲン初日に心おきなく買い物ができるとあって、従業員から好評だ。また、ショッピングを満喫できれば、気分転換だけでなく、マーケティングなどの仕事にも役立つことだろう。

このほかにも、恋人や家族など愛する人の誕生日に有給となる「Love休暇」、年に2回映画鑑賞のために取れる半日の有給「映画半休」、3年に1回、自分の好きなことを学ぶために1ヵ月の有給を付与する「学び休暇」など、企業の正社員採用が拡大するなか、中小企業やベンチャー企業ではユニークな福利厚生制度を充実させ、採用面での不利を補う工夫を行っている。このように、重点的・効率的に施策を行うのがポイントだ。

さらに最近では、「運動会」や「社員旅行」を復活させるケースも出てきている。成果主義の導入で社内の人間関係がギクシャクしたため、催し物を通じて、従業員間の仲間意識や一体感を醸成しようとしているわけだ。

制度導入後は「検証作業」を行う
ただ、これらの制度は全ての企業に適している制度とは限らない。従業員の男女比率や会社規模、社風、業種・業態などの特徴を見極め、かつ社内の意見なども取り入れて決めていくことである。そうすれば、横並びの福利厚生制度が多く、制度の形骸化に悩む大企業に伍していくことは十分に可能である。

そして、制度を導入した後は、利用した従業員がどのように成長したのか、結果を残したのかを検証することが必要である。資源に限りがあるのだから、会社と個人のお互いが満足のいく結果が求められる。そして、その検証するプロセスのなかから、また新しい魅力的かつ効率的な福利厚生制度を考え出していくことができる。何より、こうした意見の交換が、会社を活性化させていく。

(3)発想を変える

福利厚生をやめることが、福利厚生につながる!?
最後は、発想を変える。大手電器メーカーC社で「全額給与支払い型社員」という制度が紹介されたことを覚えている方は多いのではないか。要は、「福利厚生制度はいらない、退職金制度もいらない」という選択を従業員に与えたのである。もちろん、その選択をした従業員には、それに見合う現金を賞与に乗せて支払う。このケースをもって、福利厚生制度から撤退する、という選択肢が他の企業にも広がっていったように思う。

そして、それに輪をかけたD社のケースが出てきた。C社はまだ選択の余地があったわけだが、D社の場合、これはもう福利厚生からの完全撤退である。それまであった社宅、家賃補助、新幹線通勤手当、保養施設、扶養手当などを全て廃止した。またそれを、従業員全員に適用したのがすごい。D社では、これからの福利厚生は「社員の自己実現の支援にある」とし、「生活の基盤の保障」であった福利厚生制度を全て廃止し、それを賞与と成果貢献給与へと反映していった。この結果、これまで固定費であった福利厚生費が、完全な変動費(成果賃金)になったのである。

D社のケースだと、福利厚生が従業員にとってはキャリアを作る、あるいは専門能力を伸ばす極めて重要な教育の機会、ということになる。確かに、これまでも福利厚生のメニューのなかで自己啓発や資格取得に対する補助はあったが、このケースは発想が違う。それこそ、福利厚生をやめることが自立的な従業員を育てることにつながり、自らのキャリアを切り開いていく。それがある意味で、福利厚生としての役割を果たす、という考え方ができると思う。

「ハード」から「ソフト」へ、「生活保障」から「能力開発」へ
D社の例は極端かもしれないが、そこにはこれからの福利厚生のあり方の「流れ」を感じずにはいられない。これまでの福利厚生は、寮や社宅、保養所に代表されるような「ハード」に重きがかかっていた。だが、今後は教育機会を自らが選ぶといった「ソフト」化が進んでくるのは間違いない。また、ハード面が弱くなるとともに、「生活保障」的な部分も少なくなり、それに代わって、個々人の将来に渡っての「能力開発」に対する支給が増えてくると考えられる。

思えば、以前は福利厚生施設があることがステータスとなる時代もあったが、今では福利厚生そのものが、従業員にとって魅力あるものではなくなっている。保養所や旅行に対する補助が歓迎された時代もあったが、そうした部分はだんだんと縮小してきている。これからは、前述したような能力開発に対する部分が中心となり、カフェテリアプランのメニューにももっと反映されていくことだろう。

「動機付け要因」として福利厚生施策を考えてみる
実際問題として、最近の新入社員は定年まで勤めることを想定していないケースがほとんどである。そうした若い人たちにとっての福利厚生を考えた場合、それは自分を成長させてくれる機会やチャンスを提供してくれるか、ということである。そう考えると、従来型のメニューは早晩見直して、新しい視点からメニューを構築していくべきである。何より、若い人たちが自分の成長していく実感を持つことができれば、それは確実に定着へとつながっていく。そして、それは企業の持続ある発展にとって欠かせない要件ということが出来るだろう。

批判を恐れずに言えば、従来型の福利厚生メニューは「衛生要因」の色合いが濃かった。一方、これから求められるのは「動機付け要因」としての能力開発、自己実現を支援していくものであると考えている。確かに、衛生要因として一定水準以上の福利厚生施策は必要かもしれない。しかし、これに固執すると、際限がなくなってくる。それよりも、今、ここにいることで自分の成長が図られ、それを会社が持続的にサポートしてくれるのなら、たいていの人は長くこの会社で働きたいと思うことだろう。これに勝る福利厚生はないのではないか。

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■ 福利厚生.jp
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企画・編集:『日本の人事部』編集部

Webサイト『日本の人事部』の「インタビューコラム」「人事辞典「HRペディア」」「調査レポート」などの記事の企画・編集を手がけるほか、「HRカンファレンス」「HRアカデミー」「HRコンソーシアム」などの講演の企画を担当し、HRのオピニオンリーダーとのネットワークを構築している。

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