調味料メーカー
中小メーカーの生き残りは大手との「差別化」がカギ。
地酒、地ビールに続くヒット商品となれるか
「地調味料」。
「飽食の時代」と呼ばれる現在、食材はもちろん、「調味料」にもこだわる消費者が増えている。最近では、醤油や味噌などの定番だけではなく、新しいタイプの調味料も続々と登場。その背景には、消費低迷からの脱却を図ろうとする、全国の中小メーカーの積極的な姿がある。
消費低迷が顕著な、調味料の「さしすせそ」
日本料理に欠かせない調味料といえば、砂糖、塩、酢、醤油、味噌。いわゆる、「さしすせそ」だ。しかし、総務省が発表している「家計調査」などのデータを見ると、ここ数年は消費量の低迷が顕著。特に砂糖や醤油は、30年前と比較すると35~40%もダウンしている。「健康志向の高まりで、糖分や塩分の摂取を控える人が増えています。テイクアウトの惣菜などを利用する人も多く、家庭で調理をする機会が減っていることも影響しているようです」(調味料メーカー)
実際、醤油メーカーの多くが厳しい経営を強いられている。醤油は典型的な地場産業で、一部の大手メーカーを除くと、家族経営のような小規模の企業が大半。消費低迷に加え、後継者不足や設備投資の負担に耐え切れず、廃業の道を選ぶところも少なくない。「1960年代には6000社を超えていた醤油メーカーも、現在では1500社程度にまで減少しています」(事情通)
一方で、醤油を原料の一部に使用する「たれ」「つゆ」「だし醤油」「ポン酢」「ドレッシング」などは、このところ消費量を大きく伸ばしている。共働きの家庭や単身生活者が多くなり、調理の簡便化が進んでいるのが理由のひとつ。「例えば、家庭で麺つゆや丼物のたれを一から作る人は少ないでしょう。今後は、さまざまな料理に合わせて手軽に使える『専用調味料』のニーズが高まりそうです」(業界筋)
新たなジャンルとして確立されつつある「地調味料」
最近注目されているのが、全国の地場中小メーカーが製造しているローカル調味料だ。以前は一部の地域でしか流通していなかったが、ブログなどで「おいしい」と紹介されたことがきっかけで、全国的に注目されるようになったものもある。ネット通販の浸透によって、地域限定の商品でも簡単に購入できるようになったことも、この状況を後押し。「地酒」や「地ビール」に続いて、これからは「地調味料」が人気を集めそうだ。
なかでも、ここ数年静かなブームとなっているのが、「卵かけご飯専用醤油」。現在、全国の中小メーカーにより、20種類以上もの商品が発売されている。その名の通り、「卵かけご飯」をよりおいしく食べるために開発された専用醤油だ。ブームのきっかけとなったのが、島根・旧吉田村(現・雲南市)が設立した第3セクター「吉田ふるさと村」が販売している「おたまはん」。醤油にかつお節、みりんなどを加えることで、卵にかけると風味が増すのがポイント。2002年の発売開始から徐々に人気が高まり、一時は入手困難な状況も続いたほど。
「醤油の消費が低迷するなか、既存のスタイルの商品ばかりでは頭打ち状態から抜け出せません。専用醤油はその珍しさで消費者の興味を引くため、手にとってもらいやすくなります。アイデアと工夫次第では、新たなヒットも期待できるでしょう」(醤油メーカー)。他にも、最近では多くの中小メーカーが、「焼き餅」「煮魚」「カレー」「馬肉」「マグロ」など、さまざまな食品の専用醤油を販売。なかには「アイスクリーム」専用醤油のように、変り種の商品もある。もともとは「遊び心」をきっかけに始めたが、メーカーの想像以上に好評を得ているものも多いようだ。
最近では、「オーダーメード」の調味料も人気だ。味噌や醤油などで、原料や保存料の有無、塩分濃度などを消費者が自分好みに指定できるというもの。中小メーカーのように、「小回り」が利くところならではの商品といえるだろう。「醤油やソースなどの定番調味料は、大手メーカーのシェアが大きく、地方の中小メーカーが対抗するには限界があります。しかし、『専用』『地方限定』『オーダーメード』などで独自の展開を行えば、大手との差別化も可能。マーケットの拡大も期待できます」(業界筋)
収入は企業規模や経営方針などによってさまざま
調味料メーカーの規模や経営方針は、企業によってさまざま。「どんな原料を使用しているのか」「利益をどのくらいに考えて価格を設定しているのか」「生産量はどのくらいか」によって、その売上高や利益率は大きく異なる。なかには素材や品質を重視するあまり、大きな利益計上は困難だというところもあるだろう。
従業員の収入も企業によってさまざまだが、やはり同じ調味料メーカーでも、「大手」と呼ばれる上場企業は、社員の平均年収も高いようだ。
もちろん、どのメーカーも企業である以上、いろいろな経営努力を行っている。例えば、従来は廃棄していた食材を原料に使用することでコストを削減しながら、新商品開発に成功したケースなど。
鶏肉処理業の株式会社中央食鶏(北海道三笠市)は、鶏の内臓を使用した世界でも類を見ない発酵調味料「三笠の鶏醤(けいしょう)」を販売している。従来、食肉処理後の鶏の内臓は、その約9割が廃棄されていたが、原料として有効活用。コスト削減はもちろん、産業廃棄物の減少にも繋がるなど、メリットは多い。低カロリー、高たんぱくで、昨今の健康ブームにも適合。一度に製造できる量が限られているために当面は限定販売だが、今後の展開が注目されている。「地方に新たな名物が生まれ、その後の商業化がうまく進めば、雇用促進や観光など、地域の活性化も期待できます」(業界筋)
今回取り上げたものの他にも、全国には珍しい調味料が多数存在する。新たなブームの「種」は、地方でひっそりと芽吹いているかもしれない。また、日本には数多くの名物料理や特産品があるが、専用の調味料が商品化されているのはごく一部。中小メーカーが大手メーカーに対抗する手段として、新たな調味料の研究・開発がこれからますます活性化しそうだ。
(数字や記録などは2007年6月現在のものです)
あまり実情が知られていない仕事をピックアップし、やりがいや収入、その仕事に就く方法などを、エピソードとともに紹介します。