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チンドン屋

依頼主や宣伝内容によってギャラが上下する日雇い同然の不安定職業
昭和とともに消えゆくかと思われたが音楽好きの若者が続々と参入中!

宣伝といえばテレビやインターネットのCM中心の現在、商店街を練り歩く「チンドン屋」はすでに「過去の職業」と思われています。たしかに最盛期には遠く及びませんが、最近では東京、大阪、福岡などで、若手の参入が目立ってきました。音楽と笑いが好きな若者たちによる平成チンドン屋事情はどうなっているでしょうか。(コラムニスト・石田修大)

昭和30年代には全国で約2500人が働いていた

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〆丸親方がこの世界に入った1931年頃、映画がトーキー化。職を奪われた楽士達は、技術を生かせるちんどん屋に入ってきた。

チンドン屋は今から150年ほど前の江戸末期、大阪で飴の行商をしていた飴勝という人が、口上のうまさを見込まれて寄席の呼び込みをしたのが始まりと言われる。大正から昭和にかけて鉦と太鼓をひとつにまとめたチンドン太鼓が考案され、チンドン屋という呼び名も生まれた。昭和30年代には、全国で2500人ほどが働いていたというが、テレビの普及によるCMの急増などで仕事が減り、衰退の一途をたどっている。現役最古参と言われる東京の菊乃家〆丸親方(89歳)は、チンドン屋の最盛期だった昭和初期、家計を助けるため中学生で近所のチンドン屋の手伝いをしたのが、この道に入ったきっかけという。当時は月給取りの5倍近い収入を得られたそうだが、それから80年近く経ち「ちんどん屋なんて今じゃ儲からねえし、利口じゃあやってられないよ」(『日経マスターズ』2006年4月号)という

ミュージシャンや俳優と兼業している若手も

親方と同世代のチンドン屋の多くは引退したり亡くなって、昭和とともにチンドン屋は消えていくかと思われた。ところが、この10~20年、若手が次々に新たなチンドン屋を開業、業界に新風を吹き込みつつあるのだ。とりわけ若手の活躍が目立つのが九州地区。6月中旬、福岡ソフトバンクホークスの拠点ヤフードームに近い唐人町商店街で、そんなチンドン屋6グループを集めた「九州チンドンまつり」が開催された。実行委員長の福岡・アダチ宣伝社代表、安達ひでやさん(42歳)から、こんぺい党の女性親方、堀内智代満さん(32歳)など、親方でも30~40歳代中心。メンバーには10代、20代も多く、厚塗りの化粧の下に若い素顔が輝いている。しかも最古参の北九州・若松川太郎一座の平成2年をはじめ、6グループの結成はすべて平成以降という。彼らの多くは演劇や音楽を志し、チンドン屋で修行を積んで独立というコースをたどっており、現在もミュージシャン、俳優などを兼業している人が少なくない。たけのうちカルテットというロックバンド出身の安達さんは、ラジオ番組のDJやストリートパフォーマーを経て平成6年、「中華レストランの開店キャンペーンをチンドン屋でやりたいのだが」と頼まれ、かつてのバンド仲間とにわかチンドン屋を結成したのが始まりだった。現在のメンバーには音大でクラシックを専攻した女性3人もいるという。長崎・かわち家の河内隆太郎代表は大学卒業と同時に若松川太郎一座に入り、さらに東京の菊乃家親方の下で修行して、平成12年に独立した。中学生のころからタレント、俳優として活動していた堀内さんは猿回しを始めて福岡のビー玉本舗に入団、その後独立してこんぺい党を立ち上げた。

収入を期待する人には勧められない職業

彼ら若手の参入で、チンドン屋のイメージも少しずつ変わり始めている。旧来のチンドン屋は鉦に締め太鼓と平釣太鼓を組み合わせたチンドン太鼓を中心に、ゴロス太鼓(大太鼓)、三味線の3人編成が基本。若手チンドン屋もチンドン太鼓にゴロス太鼓は変わらないが、メロディー担当は三味線の替わりにクラリネットやサキソホン、トランペットなどを使う。さらに伴奏楽器としてバンジョーやアコーデオンを取り入れるなど、楽器編成も新しくなっている。演奏する音楽もときに応じてジャズやロック、ビートルズなども披露、扮装も伝統的な股旅姿やピエロに加え、着ぐるみやコスプレと自在。本来の街頭宣伝に加え、音楽ショーや踊り、風船、玉すだれ、紙芝居などさまざまなパフォーマンスを用意して、ステージショーなどの要望にも応じている。

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林幸治郎さんは立命館大学在学中に「ちんどん研究会」を主宰。卒業と同時に、大阪の老舗「青空宣伝社」に入社、プロの道へと進む。

こうした新しいチンドン屋活動の先頭に立っているのは、昭和59年、20代で「ちんどん通信社」を旗揚げした大阪の林幸治郎さん。20人以上のメンバーを抱え、ヤオハン、NTTドコモ、日本エアシステムなど著名企業や自治体の依頼をこなし、海外にも進出しているほか、毎年富山で開かれる全日本チンドンコンクールでは何度も優勝している実力派だ。

とはいえ法人登記しているちんどん通信社(法人名・東西屋)やアダチ宣伝社などをのぞき、チンドン屋の多くは個人事業主。チンドン屋志望の若者に「楽しい仕事かもしれませんが、収入を期待する人にはおすすめしません」と念を押すという安達さんは「チンドン屋には月給の制度はない。もちろん、ボーナスも退職金もない。基本的には一現場ごとの報酬、つまり日雇い労働者の扱いである。しかも実力がなければ仕事も回ってこない」(『笑う門にはチンドン屋』石風社)と書いている。

業界トップを誇るちんどん通信社は年間営業現場数700余というが、アダチ宣伝社でも約250というから、これは別格だろう。依頼主や依頼内容によっても料金は上下し、メンバーの稼ぎも初めは他のアルバイトの日当程度といい、仕事のない日も少なくない。これではとても食べていけないから、別の仕事やアルバイトで食いつなぐことになり、親方でも別に本業を持っている人もいる。

若者にとってチンドン屋は音楽活動の一種

それでも構わないからチンドン屋になりたいという若者がいることは、若手チンドン屋の急増ぶりからも明らか。「チンドン屋が好きで、やめたくてもやめられない」と安達さんは言うが、音楽とお笑いが好きな若い世代にとって、チンドン屋はクレイジーキャッツやザ・ドリフターズにつながる音楽活動なのだろうか。業態は古典的でも、多くのチンドン屋がホームページを持っており、たとえばかわち家は「笑いあり、涙ありのチンドン広告は効果抜群!ライブ感覚のコマーシャルスタイルは、人と人との『ふれあい』や『あたたかみ』を生み出し、お店の信頼と集客につながります」とPRしている。音楽と笑いに加え、路上での商店主や買い物客との直接の触れあい。それが彼らを惹きつけて止まないのかもしれない。

(数字や記録などは2006年6月現在のものです)

企画・編集:『日本の人事部』編集部

Webサイト『日本の人事部』の「インタビューコラム」「人事辞典「HRペディア」」「調査レポート」などの記事の企画・編集を手がけるほか、「HRカンファレンス」「HRアカデミー」「HRコンソーシアム」などの講演の企画を担当し、HRのオピニオンリーダーとのネットワークを構築している。

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