メイド(家政婦)
日給制の住み込みは激減、時給制のパートが多数派に
オタク相手のコスプレ喫茶では「妹タイプ」を急募!
サラリーマンの憧れが秘書と専用車を持つことなら、主婦が夢見るのはお手伝いや家政婦を雇う生活でしょうか。「召使い」「女中」「メイド」などと、呼称やサービスのかたちこそ変わりましたが、現代人の多忙さゆえか「家事請負人=メイド」に対する需要は増す一方。最近では、若い男性客をご主人様の気分にさせてくれる「メイド喫茶」まで大流行だというのですが。(コラムニスト・石田修大)
「萌え」メイドの時給1200円、服のサイズは10号以下
メイド喫茶は2000年頃から、秋葉原を中心にはじまったコスプレ喫茶の一種。メイドの服装をした女性店員が「お帰りなさいませ、ご主人様」と客を迎え、コーヒーにミルクを注いだり、店によっては有料で客とダーツゲームなどをする。話題を呼んで大阪や名古屋にも飛び火、メイド居酒屋なども出現している。メイド姿の店員などに対する「萌え」(愛とか愛らしく思う気持ち)という言葉が、流行語になりつつあるようだ。
メイドに扮しているのは、募集要領などによれば、高校生から20代半ばの女性。採用条件は明るく社交的で、接客の好きな人と、特別な条件はない。ただし、服のサイズが10号以下などと指定するところもあり、客の好みに合わせて、妹のような愛らしい女性が好ましいことは言うまでもない。時給は地域や店の内容にもよるが、800円前後から1200円くらい。まず平均的な賃金だが、新規開店で1200円以上、接客能力によりアップと謳っているところもあり、経営者は客が「萌える」メイド集めに懸命のようだ。
メイド喫茶の発端はオタク族を狙った商売で、客は自分がアニメの主人公になった気分でコスプレを楽しむと同時に、若い女性に対する支配的な感情をほんの一時だが満足させられる。アニメやゲームの世界のメイドたちを、現実世界に出現させる幻想を楽しむ場所とでも言ったらいいか。
かつては中産階級がステータスシンボルとして雇っていた
メイド、召使い、女中など、家事使用人の歴史は長い。もともとは支配階級が奴隷や農奴を使っていたが、やがて職業としての家事使用人が登場、中産階級がステータスシンボルとして雇うことで、急速に広がっていった。
日本でも、戦後しばらくまでは会社の社長や部長クラス、幹部公務員の家庭では、女中さんやお手伝いさんを雇うのは珍しいことではなかった。地方住まいの親戚の娘が行儀見習いと称して、住み込みで働くこともあったが、女性がさまざまな職業分野に進出したこと、高度成長で1億総中流階級になり、人件費も高騰したことなどから、お手伝いや家政婦を、とくに住み込みで雇う家庭は数えるほどになってしまった。
メイドや家政婦は、かつては雇用主の支配欲の充足や社会的地位の誇示のための使用人だったが、現代では家事請負のプロフェッショナルに変身しているようだ。
「家政婦は見た!」のメイドは直接契約で時給2000円程度?
最近の家政婦、ハウスキーパーなどの勤務形態を大きく分けると、家政婦紹介所を介して求人先の家庭と直接雇用契約を交わすケースと、家事代行サービス会社などに雇われて、家庭に派遣されるケースになる。仕事は炊事・洗濯や掃除・買い物などの家事一般と、病人や病弱な人の付添や身のまわりの世話、そして病院などでの看護補助業務。基本的には特別な資格や経験を問われることはなく、かなりの年齢まで勤められる。
市原悦子主演のテレビドラマ「家政婦は見た!」の家政婦は直接契約のケースで、旧来の家政婦の一般的な勤務形態である。このケースの場合、家政婦紹介所に登録し、仕事が決まると、紹介所に手数料650~670円を払って、求人先の家庭に働きに出向く。
勤務時間は午前9時~午後5時が基本で、時給は1700~2000円程度、5時間、6時間と労働時間が長くなるにつれ、時給は少しずつ低くなる。住み込みの場合は1日1万5000円程度。早朝、夜間は1割程度割増になる。交通費が別途支給され、日給ないし1週間、10日単位で雇用主の家庭から支払われる。雇用主は家政婦への賃金のほか、紹介所に賃金の10数%の紹介手数料と求人受付料670円程度を支払う。
働き先の家庭事情をぺらぺら洩らすことは厳禁!
特別の技能を要しないとはいえ、他人の台所にまで立ち入る仕事だけに、人間関係には気を遣わざるを得ない。市原悦子扮する家政婦は、紹介所の仲間に働き先の家庭事情をぺらぺら話しているが、現実にはプライバシーを洩らすことは厳禁されている。ある紹介所のQ&Aでは「某番組のようなことはありません」と断っている。
最近では求人の多くが1回3~5時間のパート勤務で、住み込みは少ないという。病人の介護などを除き、家事は任せたいが家政婦との関係はビジネスライクにすませたいというのが、求人側の希望。そんな意向に添って最近、急増しているのが家事代行サービスだ。
サービス会社が家政婦、ハウスキーパーを雇い、会社と家庭の間で契約を結んで派遣する。家事手伝いを必要とする家庭の希望に応じて、時間単位で水まわりだけ、換気扇の掃除など、あるいは買い物、子供の送り迎えなどと細かい注文に応じる。自社のハウスキーパーに掃除、応接などの研修を行い、プロフェッショナルな技術を売り物にしたり、指導員が家庭を訪れてハウスキーパーの仕事ぶりをチェックする会社もある。紹介所派遣の家政婦と違い、会社相手に必要な家事のみ依頼できる気楽さも受けて、子育て中や働いている主婦からの需要が増えているという。
電化製品の進歩・普及で、昔と比べれば家庭内労働もずいぶん楽になった。そのぶん、女性たちは仕事や遊びに忙しくなり、家事に手が回らなくなっているのも事実。また、片付けが苦手で、部屋中ゴミ捨て場のようにしている人が増えているともいう。
わずかなコーヒー代でメイド相手にご主人様気分に浸るのもいいが、たまには奮発してハウスキーパーを頼んでみてはどうか。妹のような愛らしいメイドは期待できないが、市原悦子のような家政婦、ハウスキーパーが、てきぱきとゴミの山を片付け、見事に整頓された清潔な部屋に戻してくれるだろう。そうなれば可愛い女の子を招き入れても恥ずかしくないというものだ。
(数字や記録などは2005年8月現在のものです)
あまり実情が知られていない仕事をピックアップし、やりがいや収入、その仕事に就く方法などを、エピソードとともに紹介します。