同一労働同一賃金に対応した、退職金の支給について
正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差解消の取り組みを通じて、多様な働き方を自由に選択できるようにするという考え方を、同一労働同一賃金といいます。同一労働同一賃金では、基本給や手当だけでなく、福利厚生などの広い範囲についても労働条件に含まれます。なかでも退職金は、同一労働同一賃金ガイドラインに直接の記載がないため、ガイドラインの趣旨を踏まえた対応が必要です。
1. 同一労働同一賃金ガイドラインにおける非正規労働者の退職金
同一労働同一賃金を考えていく上で、企業が参考にすべき指針に「同一労働同一賃金ガイドライン」があります。同一労働同一賃金ガイドラインは、正式名称を「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」といい、同一労働同一賃金の実現に向け、さまざまな課題を具体的に解決できるように策定されました。同一労働同一賃金の基本的な考え方だけでなく、基本給、賞与、手当、福利厚生など項目ごとに問題とならない例、問題となる例が挙げられています。
同一労働同一賃金ガイドラインには退職金の支給についての記載はありませんが、ガイドラインの趣旨から、退職金も賞与などと同様の取り扱いになると考えられます。
同一労働同一賃金ガイドラインによると、非正規労働者であっても、会社への貢献に応じた賞与を支給しなければなりません。雇用形態によって差異が生じるのは不合理な待遇にあたる、という考え方です。これを踏まえると、退職金についても、正社員と同水準の支払いが必要と考えられます。
2. 判例に見る同一労働同一賃金と退職金
同一労働同一賃金と退職金の支給については、いくつかの判例があります。それによると、退職金も同一労働同一賃金の制度の中にあるとされ、制度に違反する場合は、企業に支払いが命じられています。
パートタイム・有期雇用労働法第8・9条が争点
同一労働同一賃金と退職金支給に関する裁判の多くは、パートタイム・有期雇用労働法第8・9条に反しているかどうかが争点となっています。
具体的には、期間の定めがある労働者と期間の定めがない労働者の労働条件を比較して、期間の定めがあることを理由に労働条件を変えることを禁止しています。この背景には、有期契約労働者は正社員と比べると雇止めの不安があることから、不合理な労働条件となっても断りにくいケースが多いということがあります。
従って、退職金の裁判においても、退職金が支給されないことが不合理に当たるかどうかが審議されます。
「メトロコマース事件」の判例から見る退職金の取り扱いと支給額
退職金の支給をめぐる裁判で注目を集めたのが、「メトロコマース事件」です。この事件の判決では、正社員と非正規労働者における退職金の格差を違法とし、元契約社員に退職金を支払うよう企業側に命じています。
メトロコマース事件は、正社員に支給されている退職金について、駅売店に勤務する勤続約10年の契約社員に支給されなかったことが違法にあたるのではないかが争点となりました。
※この裁判ではパートタイム・有期雇用労働法第8・9条ではなく、当時の労働契約法第20条が争点になっています。令和2年4月1日より内容が統合されました。
高等裁判所での判断は「支給が必要」
2019年2月に高等裁判所から出た判決によると「一般論として、正社員に対しては退職金制度を設けるが、短期雇用を前提とした有期契約労働者に対しては退職金制度を設けないという制度設計そのものは、不合理であるとはいえない」としています。
しかし、この企業では有期労働契約が原則として更新され、定年が65歳と定められていること、また、実際に契約社員が10年間の長期にわたり勤務しているという事実から、裁判所は「全く退職金の支給がないのは、労働契約法第20条における不合理に該当する」と判断しました。
少なくとも、長年の勤務に対する功労報償の性格を有する部分にかかわる退職金(正社員と同一の基準に基づいて算定した額の少なくとも4分の1)の支給は必要であるとしています。
最高裁の判断は「不支給は不合理ではない」
その後メトロコマース(被告)の上告により最高裁判所で争われ、2020年10月13日に出た判決では、「退職金の不支給が不合理と認められる事例は今後ありえるものの、今回の事件においては不合理ではない」とされました。
今回の判決では、主に下記の点に焦点が当たったといえます。
- 今回の退職金制度が、職務遂行能力や責任の程度に対する功労報償の性格を持ち、長期雇用を前提とした無期雇用労働者に対する福利厚生を手厚くする意図を持つこと
- 正社員と契約社員Bの職務内容、配置転換の有無に違いがあること
- 契約社員Bを段階的に正社員に登用する制度があること
なお、「有期契約労働者と比較の対象とされた無期契約労働者との職務の内容等が実質的に異ならないような場合には、両者の間に退職金の支給に係る労働条件の相違を設けることが不合理と認められるものに当たると判断されることはあり得るもの」と主文で言及されており、今回の判例を絶対視することはできず、引き続き判例の蓄積が期待されます。
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