厚生労働省「『中小企業における最低賃金の引上げの円滑な実施のための調査』の報告書がまとまりました。」
2010年12月24日
~最低賃金引上げの影響が大きい16地域・13業種の課題等を調査し、支援策を検討~
厚生労働省では、このほど、「中小企業における最低賃金の引上げの円滑な実施のための調査」を実施し(事業委託先:みずほ総合研究所株式会社)、本日、報告書を取りまとめましたので、以下のとおり公表します。
本事業は、今後の最低賃金引上げに向けた中小企業支援策の検討に役立てるため、最低賃金の引上げによって影響を受けると考えられる地域や業種について、労働者の賃金実態の調査と、最低賃金引上げのための課題や国に期待する支援策の抽出を行ったものであり、あわせて引き上げに伴う支援策の検討も行っています。
最低賃金の引上げについては、雇用戦略対話第4回会合(平成22年6月3日)にて、「できる限り早期に全国最低800円を確保し、景気状況に配慮しつつ、全国平均1,000円を目指す」ことが、2020年までの目標として政労使間で合意されました。その一方で、引上げは特に中小企業の経営や雇用に影響を及ぼすとの指摘もあることから、本調査を実施し、実情の把握を図ったものです。調査時期は本年6月から10月、計15,401事業所からアンケート調査の回答を得て、うち89事業所にヒアリング調査を行いました。
報告書のポイントは以下のとおりです。詳しい内容は別添資料を参照ください。
1.調査の概要
時給換算800円未満の労働者が多いなど、最低賃金を800円に引き上げた場合に影響が大きいと考えられる地域(※1)と業種(※2)を調査対象とし、原則として労働者総数100人未満の事業場を対象にアンケート調査とヒアリング調査を行った。調査を通じて、最低賃金を引き上げた場合に生じると考えられる課題や、国に期待する支援策などを把握するとともに、これらを踏まえ、具体的な支援策を検討した。
※1北海道、青森県、岩手県、秋田県、山形県、山口県、愛媛県、高知県、福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県、大分県、宮崎県、鹿児島県及び沖縄県の16道県。
※2飲食料品小売業、食料品製造業、一般飲食店、その他の事業サービス業(ビルメン等)、その他の小売業、衣服・その他の繊維製品製造業、各種商品小売業(百貨店、総合スーパー等)、社会保険・社会福祉・介護事業、飲食料品卸売業、宿泊業、洗濯・理容・美容・浴場業、道路旅客運送業及び電子部品・デバイス製造業の13業種。
2.主な調査結果
16道県・13業種の原則として労働者総数100人未満の事業場に対するアンケート調査・ヒアリング調査の結果から、下記のことが明らかになった。
<時給換算800円未満の労働者の状況>(別添1 4P)
・アンケート調査対象の事業場の50.1%で、時給換算800円未満の労働者が就業している。
・調査対象の事業場では、「家計を主として支えている」労働者は17.4%と、2割弱。
・調査対象の事業場における時給換算800円未満の労働者には、女性の比率が高い。
<最低賃金を時給換算800円引き上げた場合に生じると考えられる課題>(別添18P)
・アンケート調査では、最も重要な課題として「売上増加・利益率の向上、コストの削減が必要となる」を挙げた事業場が48.9%と最多。次に多い「事業の先行きに不安が生じる」(22.9%)との2つの課題で約7割を占める。一方、「雇用維持・新規採用が厳しくなる」、「事業の効率化等に向け更なる投資が必要となる」という認識は、それぞれ10.1%、3.8%にとどまった。
・なお、課題は「特にない」との回答は、時給換算800円未満の労働者がいない事業場でも16.1%(全事業場では9.4%)にとどまり、約8割の事業場が何らかの課題があると認識。
・ヒアリング調査では、「人件費増加分の価格転嫁」、「売上増加」、「コスト削減」のいずれの課題についても、ハードルが高く解決困難であるとの回答が寄せられた。
<国に期待する支援策>(別添113P)
・アンケート調査では、期待する支援策として「社会保険料負担等の軽減」(52.3%)を挙げる回答が最多。以下、「設備投資への支援」(35.1%)、「人材育成、教育への支援」(31.3%)、「販路の確保・拡大」(30.3%)などが挙げられた。
・なお、「社会保険料負担等の軽減」と回答した事業場は、時給換算800円未満の労働者がいない事業場でも47.0%(すべての事業場では52.3%)と半数に近く、時給800円未満の労働者の有無にかかわらず期待する事業場は多い。
・ヒアリング調査では、売上増加・利益率の向上に必要な価格転嫁の支援策として、「不公正取引の監視・是正」、「最低賃金引上げの周知徹底」、「行政関与価格の改定(労務単価、介護報酬等)」などを期待する回答が多かった。
3.具体的な支援策(別添118P)
上記のアンケート調査・ヒアリング調査の結果と、調査対象の16道県・13業種別に設置した地域調査委員会・業種調査委員会での議論の結果を踏まえ、中央検討委員会において検討を行った結果、下記のような支援策が考えられる。
・最低賃金引上げに対応するには、労働生産性の向上が必要。アンケート調査やヒアリング調査の結果から、事業場の期待が大きい中小企業の生産性向上の取り組みに対する支援が重要。
・最低賃金の引上げによって、短期的には収益悪化や雇用減少、廃業の増加などの影響が生じるおそれがある。このため、経済的インセンティブの付与や価格転嫁の支援など、当面の雇用維持のための施策によって中小企業の経営への影響を緩和し、賃金引上げに取り組む意欲の向上を図る。
・中長期的な中小企業の経営改善策としては、経営体質を強化し生産性向上を図ることで、賃金引上げ余力を生み出す、経営指導や設備投資支援などの施策を行うことが必要。
◆詳しくはこちら
厚生労働省 http://www.mhlw.go.jp/