産業界で必要なスキル・能力は「ビジョン・政策立案力」「部下(後輩)の管理・育成能力」「リーダーシップ」~『管理職4,000人の意識調査』より:科学技術・学術政策研究所
科学技術・学術政策研究所(NISTEP)では、産業界における人材育成等についての意識や実態について把握し、今後の科学技術政策の推進に資する基礎的なデータを得ることを目的に、日本国内の企業に勤務する管理職4,000人を対象とした「スキルや能力の獲得」に関する意識調査を行いました。
1.調査の目的
産業界が求める人材と高等教育のあり方については、これまで様々な観点から議論が行われてきた。産業界で求められるとされるスキル・能力としては、「課題設定・解決力」や「コミュニケーション能力」等が挙げられるが、実際に企業に就職した後に一般社員から管理職へとキャリアを構築する中で、どのようなスキル・能力がどのような職位の時に必要であったのか、またそれらのスキル・能力はどのような機関(時期)において獲得したものかについての調査は、知る限りでは見当たらない。また、個人の専門性や学歴によって、それらのスキル・能力の必要性や獲得機関(時期)に何らかの違いがあるのかは非常に興味深い。
本調査は、日本国内の企業に勤務する管理職を対象とした「スキルや能力の獲得」に関する意識調査の結果から、産業界における人材育成等についての意識や実態について把握し、今後の科学技術政策の推進に資する基礎的なデータを得ることを目的とするものである。
2.調査対象と調査方法、調査項目等
2018年3月16日~2018年3月20日、インターネット調査会社(株式会社クロス・マーケティング(保有パネル数:約420万人(調査実施時点において)))の保有する登録モニターの内、日本国内の企業に常勤の管理職(正社員のうち、課長級及び部長級以上で部下を3人以上有する者)として勤務する40歳代と50歳代の男女(性別はインターネット会社に登録のものとする)を対象とし、インターネットを利用したアンケート調査を実施した。調査内容は、就職に関する意識や一般社員/主任・係長級/課長級/部長級のそれぞれの時期に業務に役に立ったと思うスキルや能力とそれらの獲得機関(時期)等についての諸項目である。
3.結果
日本国内の企業に常勤の管理職(正社員のうち、課長級及び部長級以上で部下を3人以上有する者)として勤務する40歳代と50歳代の男女4,000人(男性3,847人、女性153人)より回答を得て集計・解析したところ、以下のことが明らかとなった。
●理系の回答者は、理系以外の回答者と比べて、就職時の決定要因として「専門性の活用」と「幼少期からの夢や憧れの実現」を考慮要因として重視する傾向が認められた。
●業務に役立つスキル・能力は、職位によって変化する。職位の上昇に伴って必要性が減っているように認められるスキル・能力(「課題を知る力」「課題を解決する力」「コミュニケーション能力」「業務の遂行能力・倫理観」等)は、「不要になった」のではなく、新たに必要となるスキル・能力が既存のレベルに追加された結果、相対的に必要性が減少して見えると理解して良いものと思われる。このような職位の上昇に伴って必要性が減っているように認められるスキル・能力は、企業人のベースとして備わっていて欲しいスキル・能力と考えられる。その一方で、一般社員時代から主任・係長級時代、課長級時代、部長級以上と職位が上がるに伴って、「リーダーシップ」「部下(後輩)の管理・育成能力」「ビジョン・政策立案力」「俯瞰力」「社会的視野」は新たに必要性(比重)が増してくるスキル・能力である。(概要図表1)。
●最終学歴が大学院卒(修士課程、博士課程)であると回答した498人については、「一般社員時代」に業務に役立ったスキルとして、「研究力」「強みとなる専門知識」「職場における最新技術等への適応力」「数理・データサイエンスに関する知識」を挙げる回答者の割合が全回答者群(全体)と比べて多い傾向が認められた(概要図表2)。
●「業務に役立ったスキル・能力」を回答者が獲得したと考える機関(時期)について、全ての回答者4,000人に関して分析した結果、多くの回答者が業務に役立ったスキル・能力の獲得機関(時期)を「就職した後に職場で」と回答してはいるものの、「コミュニケーション能力」「論理的思考力」「研究力」「数理・データサイエンスに関する知識」等の涵養において、高等教育機関が果たす役割は大きいことがうかがえる(概要図表3、4)。
●産業界の管理職が獲得したい(増強したい)と感じるスキル・能力として選択した上位3項目は、「ビジョン・政策立案力」「部下(後輩)の管理・育成能力」「リーダーシップ」であった。
◆ 詳しくはこちらをご覧ください。
(文部科学省 科学技術・学術政策研究所 http://www.nistep.go.jp// 5月31日発表・報道発表より転載)