2016年新入社員の傾向「ワークライフバランスを重視し、自己実現のために、会社という場を活用」『自己実現の意識』の点数がやや上昇~2016年 新入社員『企業人としての意識』調査報告:ジェック
本調査は、株式会社ジェックが担当した新入社員研修において、新入社員自身が自分の企業人としての意識傾向を確認し成長の方向を知るために、研修開始冒頭に実施しているものです。設問では、「企業人としてもつべき考え方」を問い、回答は「そう思う」「わからない」「そう思わない」の三択式です。
本報告では、研修現場での傾向と併せて、2016年の特徴、および2002年以降の回答傾向についてご報告します。
【2016年の結果】
●傾向1 「自己実現の意識」の変化
2016年の結果は、2015年と比較し「自己実現の意識」の平均点がやや上昇しました(14.9点→15.1点)。この「自己実現の意識」のスコアは、上昇と下降を繰り返しながら15年間では下降しており、特に2011年以降は下降し続けていましたが、2016年はやや上昇しました。
設問ごとに見てみると、設問「仕事は会社のためにしてやっているのではなく自分のためにやっているのだ」に対して「そう思う」と答えた割合は、2015年から0.4ポイント上昇し、設問「我々従業員は、会社の利益を生み出す手段であって、職場で個性を発揮することは難しい」に対して「そう思わない」と答えた割合は、3.5ポイント上昇しました。自分を活かそうという意識は2015年と比較して高くなっていると考えられます。
入社動機では、「能力や個性が活かせる」と答えた割合は、2015年と比較し4.5ポイント上昇し、「技術が覚えられる」も3.4ポイント上昇しました。それに対し、「会社に将来性がある」と答えた割合は7.5ポイント低下し、この5年間で下降し続けています。これらのことから、会社に依存するのではなく、自分を活かしたい、そのために会社を活用したいという考え方がやや強まっていると推察されます。
また、ワークライフバランスを考えて仕事をしたいという意識の高まりも、複数の回答傾向から読み取ることができます。設問「仕事も大切だがむしろ家庭を大事にしたほうが、人間らしい生き方ができる」に対して「家庭」重視の回答割合は、2015年と比較し1.3ポイント上昇し、5年前の2012年と比較し6.3ポイント上昇しています。設問「給料や週休2日制が大切だとは言われるが、働き甲斐を求めることの方が人間らしい生き方が出来る」に対して「働き甲斐」重視の回答割合は、2015年と比較し2.5ポイント低下し、2012年と比較し8.6ポイント低下しています。
このように、ワークライフバランスを重視し、自己実現のために、会社という場を活用しようという意味での「自己実現の意識」が高まったと推察できます。なお、「自己実現の意識」のスコア変動について今後も注視する必要があります。
●傾向2 コース所感より 持続性の弱さが散見
新入社員研修を担当したインストラクターの所感にあるように、例年通り、まじめで素直、学習意欲が高く、器用であるとの報告がありました。研修では、企業人として持つべき考え方や様々な行動の練習を学びますが、身だしなみや挨拶、報告・連絡・相談や納期遵守など、学んだり指摘されたことに素直に応える傾向が近年続いています。
規律を守る意識が高いことについては、設問への回答傾向でも見られます。設問「職場のモラル(道徳)は、職場のモラール(やる気)以上に重要なことだ」に対して「そう思う」と答えた割合は、58.9%と過去15年間で最も高くなっています。設問「良い成績さえ上げていれば、会社の規則やルールは多少違反しても許される」に対して「そう思わない」と答えた割合は、94.0%と過去15年間で最も高くなっています。
また、様子を見る、周りに合わせて行動する、という傾向も続いています。研修では、声の大きなメンバーに引っ張られ、たとえ違う意見を持っていても言わない様子も見られました。
さらに、継続している傾向として、自らコミュニケーションをとろうとしないことがあげられます。公開コース(オープンセミナー)では、他社の新入社員と一緒に学ぶのですが、グループ討議以外では自社の人としか話さない、昼食休憩でも自社の人と集まるという傾向が見られました。意識調査の設問「多くの先輩と幅広く付き合うより、特定の先輩と親密になる方が得である」に対して、「そう思う」と答えた割合は8.0%であり、過去15年で最も高くなっています。リアルな場面での付き合いは、狭い範囲でしか交わろうとしない傾向が継続しているようです。
そして、本年新たに指摘された傾向は、モチベーションが続かない、やり続けられないというものです。
・グループワークの納期を一度守ることができても、二度目は守ることができない。
・行動の練習はするが、体調を崩したことを理由にテストを受けようとしない。
・二、三回挙手して当ててもらえないと諦める。
「合格点主義」で全力を出さない傾向は以前から見られましたが、テストに合格しなくても許されるならそれでよいという動きに変わってきたのかもしれません。依存や逃避の傾向がやや強まっていると言えます。
また、ジェックの研修では、自ら成長していく力をつけていくために、「メタ認知」と言って自己を振り返るプロセスを設けています。近年は、自己の振り返りや自己に関心が高い傾向があります。
これらの傾向を踏まえると、自分への関心は高いものの、自分の将来も考えたうえでの判断やセルフマネジメント力が弱くなっていると言えます。
●まとめ(マネジメントのポイント)
社員(新入社員)には、現場に適応し、生き生きと仕事をしてやりがいを感じてほしいものです。そのためにも、受け入れ側の体制や育成プロセスを整えておくことは必須の課題です。
規律を守り、素直で、学ぼうとする姿勢がある好ましい面を持っており、自己を振り返ることへの関心も強い新入社員は、将来(未来)を考え、今、自分がなすべきことに取り組んでいくことで、成長していくことが期待されます。しかしながら、ワークライフバランスをとることを、仕事をそこそこにやることと取り違えてしまい、許されるならやらなくても良いという姿勢で仕事をし続けたならば、依存や逃避の傾向がさらに強まってしまい、周りの期待に応えることができなくなってしまいますし、自分が将来こうなりたいという自己実現も遠ざかってしまいます。
企業では、学生時代と異なり、唯一の正解というものがなく、「やり切る、やり続ける」ことが求められます。自分にとっての意味・価値がわかると前向きに取り組む素直さがありますので、仕事の社会的意義や目の前の仕事が、その社員にとってどのような意味を持つのか、繰り返し伝え教えていくことが重要です。この時に、上司や周りは、注意深く見守り、まめに話を聞き、不調や焦りの様子などを見逃さないようにすることが近年では特に求められています。新入社員は、仕事をするうえでのメンタル面はまだ未熟です。見守っていることを示すことで、安心感や周りへの信頼感が増していきます。
同時に、職場という様々な価値観がある環境で、「自分の価値観は、多くの価値観の中の一つでしかない」ことや、「周りとうまくやっていくには、同調するのでも、主張するのでもなく、議論を尽くして統合していくことが必要である」という考え方が身につくよう、特定の管理者や育成担当者が育成するのではなく、組織全体で育成に関わる仕組みをもつことも必要でしょう。
さらに、これまでの世代と(ここ数年の)新入社員では、コミュニケーションに関する質と量の感覚が全く違う、ということを認識して対応する必要があります。
今は、情報・知識がネットから簡単に入手できる時代であり、新入社員は「ネットと現実」の間に壁がなくなりつつある世代でもあります。そのため、「正しい、正しくない」「使える、使えない」などの判断を、(先ほどのコミュニケーションに関する回答傾向にもあったように)狭い範囲で得た情報で簡単に判断してしまうことが懸念されます。あまり議論をする習慣がなく、議論や対立を避けて周りに合わせる行動をとりがちであるため、意見が違うと感じると、あっという間に心を閉ざしてしまうことも容易に考えられます。
弊社のリーダー・マネジャー対象のコースで、新入社員育成について「美点凝視の精神」で成長を支援しようということをお伝えしています。入社から数カ月も経つと、リーダーが新入社員に対して、成長度合いが期待通りでないなどと見てしまうことがあります。すると、新入社員はリーダーの心理を敏感に感じ取り、モチベーションが低下し、信頼関係が崩れる元となります。コミュニケーションの感覚が異なるという認識を前提に、「人は(勝手に)育つのではなく、(周囲が)育てるものである」という意識で、新入社員の良い面に着目して、強みを引き出していくことが、リーダーに求められます。
この結果報告をご覧いただくのは、4月入社の新入社員も入社してから4カ月が経っている頃です。新入社員も職場に慣れ、同時に「現場は、研修や導入教育で教わった通り、型通りに動いているわけではない」という現実に突き当たります。さらに、新入社員に対する周りの期待も徐々に変わってきますが、この期待の変化が新入社員にはわからず、ネジレが解消できないと、不満を内に抱えモチベーションを低下させてしまいかねません。
上司は、「学習・修正を行って」早期に職場に慣れたように見える新入社員に安心しがちですが、新入社員への期待の変化、果たしてほしい行動を折に触れ伝えわからせていくことが、継続的成長に欠かせない働きかけです。
優秀な新入社員に対しては、更に高い期待があるということを理解させることも、モチベーションの継続と成長を促進する上で大切です。
■社員意識調査の概要■
【調査名称】2016年 新入社員 企業人としての意識調査
【調査対象】ジェック主催「新入社員基本能力体得コース」およびジェックが担当した各社新入社員研修の受講者
【設問概要】本調査は、ジェックが考える“企業人としてもつべき考え方・意識”の傾向を調査するものです
設問数50問、結果を5つの意識に分類し各25点満点
回答は、マークシート形式
【調査時期】2016年3月~5月に実施、データ数1,500名
◆本調査の詳細は、こちらをご覧ください。
(株式会社ジェック http://www.jecc-net.co.jp / 7月28日発表・同社プレスリリースより転載)