ピグマリオン効果
ピグマリオン効果とは?
「ピグマリオン効果」とは、「人は他者に期待されるほど意欲が引き出されて、成績が向上する」という状況を示す教育心理学の法則のひとつ。キプロス島の王ピグマリオンが自分で彫った象牙の女性像を愛し続けた結果、彫像が本物の人間の女性になったというギリシア神話にちなんでピグマリオン効果と名づけられました。「教師期待効果」あるいは「ローゼンタール効果」ともいわれます。
人は期待されたとおりの成果を出す
過大な期待は禁物、達成可能な範囲で
ピグマリオンの物語は、イギリスの劇作家バーナード・ショーの戯曲「ピグマリオン」として再現され、有名な映画「マイ・フェア・レディ」の下敷きにもなりました。教育によって下町の花売り娘からレディへと成長していく主人公イライザの台詞に、「レディと花売り娘の違いはどう振る舞うかではなく、どう扱われるかにあるのです」という言葉があり、ここにピグマリオン効果の本質がよく表れています。
ピグマリオン効果は、アメリカの教育心理学者ロバート・ローゼンタールが1963~64年にかけて行った実験によって実証されました。
博士はある小学校で、特別な「学習能力予測テスト」と称してテストを実施しました。実際はごく一般的な知能テストなのに、担任の教師には「このテストの結果で今後成績が伸びる子供と、そうでない子供がわかる」と説明、テストを受けた生徒たちの中から結果とはまったく関係なく、ランダムに数名の子供を選んで、担任に「この生徒たちは成績が伸びる」と伝えたのです。担任は博士の仮説を信じ、その子供たちの成績が伸びることを期待しつつ指導を続けました。すると、本当にその子供たちの成績が向上したのです。
この実験から、期待と成果の相関関係について、「人は期待されたとおりの成果を出す傾向がある」という結論が導かれました。なぜ選ばれた子供たちの成績が伸びたのか――ローゼンタール博士はその要因として「担任が子供たちに対し、期待していると意思表示したこと」「子供たちも自分が期待されていると感じとったこと」を挙げています。
この実験結果を受けて、元ハーバード・ビジネススクール教授のJ・スターリング・リビングストンが提唱したのが「ピグマリオン・マネジメント」です。周囲の期待や働きかけが人間の行動に及ぼす影響力に着目し、企業の人材マネジメントにも活用できると考えました。ピグマリオン効果による動機づけについて、リビングストンが主張する基本的な考え方は次の通りです。
(1) マネジャーが部下に何を期待し、部下をどう扱うかによって、部下が挙げる業績と将来の昇進はほとんど決まってしまう
(2) 優れたマネジャーは、「業績を挙げ、目標を達成できる」という期待感を部下に抱かせる能力を持つ
(3) 無能なマネジャーは部下に(2)のような期待感を与えることができず、部下の生産性も上昇しない
(4) 部下は自分に期待されていることしか行おうとしない傾向が強い
実際、人材育成の現場でこうした効果を実感する例は少なくありません。上司から期待されている部下はそうでない部下に比べてよりよい結果を出し、成長も早いことは経験的に知られています。期待している部下に対しては、上司もコミュニケーションを密にとり、その際に直接ノウハウを授けたり、的確なアドバイスを与えたりするため、部下はこれに応えようとモチベーションが高まるのです。ただし、期待のかけ過ぎは逆効果。部下の状況や能力を見極め、達成可能な期待を設定して部下と共有することが大切です。
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