ポジティブ心理学
ポジティブ心理学とは?
「ポジティブ心理学」とは、1998年、当時の米国心理学会会長だったペンシルベニア大学心理学部教授のマーティン・E・P・セリグマン博士によって創設された新しい学問で、個人の人生や個人の属する組織、社会のあり方が、本来あるべき正しい方向に向かう状態に注目し、そうした“ポジティブ”な状態を構成する諸要素について科学的に検証・実証を試みる心理学の一領域であると定義されます。
欧米を中心に企業現場への導入急増
ポジティブ感情が豊かだと年収UP!?
従来の心理学は、どちらかというと人間の心の病理、障害、弱さといったネガティブで暗い部分を研究対象としていました。一方、セリグマン博士によると、ポジティブ心理学が取り組むべき課題は「既存の競争主義や成果主義を否定することなく、個人と制度両面への有機的アプローチを図りながら“ウェル・ビーイング”(Well-Being:いわゆる幸福や生きがいの意味)を育んでいく」ことにあるといいます。平たくいうと、たとえば個人レベルではいかに人生をいきいきとより良く生きるか、組織や職場レベルではいかに個人とチームの生産性を高め、同時に仕事への満足感や働きがいを究めるか、といった内容が主眼となります。
はたして「自分の人生は良い人生だ」と実感できるときの心理状態とは、どういうものなのでしょうか。ポジティブ心理学の権威のひとりである米ノースカロライナ大学のバーバラ・L・フレデリクソン博士は「ポジティブ感情」という感情の役割に注目しました。楽しさに伴う高揚感や喜び、満足感や充実感から来る心の静けさ、興味や関心、好奇心もポジティブな感情に含まれます。愛情や感謝も同様です。フレデリクソン博士の研究は、多種多様なポジティブ感情には個人の注意力や認識力、行動力の幅を拡げ、寿命に代表される身体的資源や年収などの社会的資源を増大させる効果があることを見出しました。これを「拡張-形成理論」と呼びます。
「拡張-形成理論」の正しさを証明する調査データもあります。ある大学の卒業生を対象に、大学入学時の性格のポジティブ度(ポジティブ感情を示す度合いを測定したもの)と、卒業して19年後の収入との関係を調べたところ、最もポジティブ度の高かった卒業生たちとそうでなかった卒業生たちとの間には、平均年収にして1万5000ドルの差がついたことが明らかになりました。ポジティブ度の高かった卒業生のほうが高収入だったのはいうまでもありません。
米国では、マイクロソフト社やグーグル社などの大手企業をはじめ、コンサルティングファームやベンチャー企業、法律事務所などでも、人材開発にポジティブ心理学の導入が進められています。また米国トヨタの社内教育機関であるトヨタ・ユニバーシティでは、ポジティブ心理学を応用した社員教育カリキュラムが好評を博しています。
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