サーバント・リーダーシップ
サーバント・リーダーシップとは?
「サーバント・リーダーシップ」とは、自らが「奉仕して導く」タイプのリーダーシップです。サーバントとは英語で「奉仕者」を意味しています。このタイプのリーダーは「強い力で組織を自ら引っ張る」のではなく、組織の構成員に「奉仕して導く」ことを目標にしています。ただし、単なる「優しい上司」ではありません。
1. サーバント・リーダーシップとは?
サーバント・リーダーシップと従来型リーダーシップの違い
サーバント・リーダーシップには、サーバント(奉仕者)という名前が示すように、あくまで「奉仕したい」という思いが根底にあります。
サーバント・リーダーシップで重要視するのは、奉仕するとともに組織の体制や福利厚生など、さまざまな方面からアプローチをして組織内の共同体意識を高め、従業員の考えについてしっかり理解することです。
リーダーが「サーバント・リーダーシップ」を実践できていれば、従業員自らも「この組織をもっと良くするにはどうすればいいのか」と考え、「組織をより良いものにするために奉仕したい」と思うようになるとされています。「あのリーダーに任せておけば安心だ」と思わせるのではなく、「リーダーのようにチームに貢献したい」と思わせることこそが、サーバント・リーダーシップの特長なのです。
サーバント・リーダーシップの歴史と注目されてきた背景
「サーバント・リーダーシップ」という言葉は、1969年にロバート・K・グリーンリーフ博士によって作られました。1969年から時間が経過した現代において、再び注目を集めているのはなぜでしょうか。
ロバート・K・グリーンリーフ博士の著書『サーバント・リーダーシップ』の前書きで、経営コンサルタントのスティーブン・R・コヴィーが次のように述べています。
引用:「サーバント・リーダーシップ」,ロバート・K・グリーンリーフ著,英治出版(2018年)p.16-17
つまりサーバント・リーダーシップとは、従業員の能力を高め、変化の早い時代の中で生き残るために求められてきたリーダー像なのです。日本でも、激しい国際競争に巻き込まれる中で注目を集めるようになりました。
2. サーバント・リーダーシップを実践する際の注意点
サーバント・リーダーシップは、従来のリーダーシップと異なるため、しっかり理解した上で実践しなければ、誤ったリーダーシップにつながりかねません。ここでは実践する際の注意点を見ていきます。
サーバント・リーダーシップと優しい上司は違う!
サーバント・リーダーシップは、単なる優しい上司とは異なり、その人がいなくなれば現場が動かなくなるくらい普段から周囲に奉仕し、中心的存在として役に立つことをいいます。これを理解する上で重要なのが、グリーンリーフ博士が影響を受けた、小説家ヘルマン・ヘッセの『東方巡礼』です。
『東方巡礼』の中で、物語の中心人物レーオは、召使いとして旅に同行し、一心不乱に一行に尽くします。旅は順調に続くのですが、ある日、突然レーオがいなくなってしまうと、何もかもうまくいかなくなり、旅が頓挫してしまいます。この物語が、サーバント・リーダーシップ論を形成したきっかけであるとグリーンリーフ博士は述べています。レーオが「優しい人」だけであったのなら、旅が頓挫することはなかったでしょう。
参照:「サーバント・リーダーシップ」,ロバート・K・グリーンリーフ著,英治出版(2018年)p.44-46
サーバントリーダーに必要な能力
サーバント・リーダーシップが他のリーダーシップと決定的に違うのは、「良心」が基本的な行動原理に位置付けられていることです。他者を尊敬し、自分のエゴを犠牲にして、より高い大儀を実現します。
例えば、他のリーダーシップの場合、「くじけない心」や「人々をまとめて引っ張る力」などが求められます。船のキャプテンのように行く先をしっかりと定めて、人々を導くというイメージをもつ方も多いでしょう。
しかし、サーバント・リーダーシップにおける「良心」は、人々を自ら引っ張るよりも、人々に自分の時間や知識、力を与えて奉仕する心であり、それによって人々と信頼を築き、感化させ、成長させようという性質のものです。この「良心」には、善悪の区別をつける意味もあります。自分たちの製品やサービスが誰かを不幸にしていないか、社内で誰かが犠牲になっていないかなどを自らに問いかけ、やましいことはしない、というポリシーを持っているということです。
また、サーバント・リーダーになることは、自ら積極的に周りの人々を助け、他者に奉仕することを意味しています。良心に基づき、社会的に悪影響を及ぼす行為は行いません。このようなリーダーには、優秀な人々が好んで集まり、組織自体も発展しやすくなります。
3. サーバント・リーダーシップのメリット
企業も含め、多くの組織では、経営陣のやる気と社員のやる気の間にある溝や、教育の成果が上がらない研修などの課題を抱えています。いくら命令しても、思ったように動いてくれない従業員や、いつまでも自立して仕事ができない従業員など、上司が手を焼くケースも少なくありません。
サーバント・リーダーシップを提唱したグリーンリーフ博士は、「人々は、自分で認めた人に対してしか従いたいと思わない」と述べています。つまり、高圧的にいつも命令している人に対してはあまり従おうとは思わないが、自分を助けてくれる人の依頼は聞くようになる、ということです。
サーバント・リーダーシップのメリットは、「従業員が自律的に動く組織を作ることができる」「社会の早い変化に対応することができる」というものです。近年では、ティール組織やホラクラシー組織など、中央集権的な構造から変化にも柔軟な組織を作ろうとする動きが注目されています。サーバント・リーダーシップは、中央集権型の強いリーダーシップではなく、従業員に権限を与え、自らは奉仕する側に立つことで、柔軟で従業員がいきいきとした組織を作ることができるリーダーシップ論なのです。
<参考資料>
「サーバント・リーダーシップ」,ロバート・K・グリーンリーフ著,英治出版(2018年)
「サーバントであれ ― 奉仕して導く、リーダーの生き方」,ロバート・K・グリーンリーフ著, 英治出版(2016年)
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