スローキャリア
スローキャリアとは?
仕事はほどほどに、のんびり会社生活をするという意味ではなく、自分なりの働き方などプロセスやポリシーを重視しながらキャリアを形成していく考え方のこと。会社での出世や報酬の目標に向かって計画的にキャリアアップしていく考え方とは異なります。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授の高橋俊介氏による造語で、その著書『スローキャリア』(PHP研究所)の出版によって広く知られるようになりました。
上昇志向は強くないけれど
プロフェッショナルな能力を発揮する
会社組織で出世して、より大きな仕事や収入を手に入れたい――そんな上昇志向の動機を持ち、計画的にキャリアアップしていこうとする人がいます。かつての高度経済成長の時代には、そういったタイプの社員たちが奮闘して、日本の会社を引っ張っていきました。不況、構造改革、業界再編など経済情勢が変化した今の時代でも、会社には上昇志向型の社員が多いかもしれません。また経営者層も、上昇志向型の社員を求め、「上昇志向のない者はダメ人間だ」といった意識を持つ傾向があるかもしれません。
しかし『スローキャリア』の中で高橋教授は、
「すべての働く者が上昇志向を持っているわけではない」
と指摘します。上昇志向は強くないけれども、仕事にはできるだけ前向きに行きたい。出世することとは別の部分に生きがいを見出して、充実したキャリアを送りたい――そんなふうに考えて働いている人が少なくないし、その中にはプロフェッショナルな能力を発揮して会社に貢献できる優秀層も少なくないと言います。
それなのに多くの企業では、いまだに社員の序列を重視したり、上昇志向型の社員を優秀と見なしたりする人事制度を採っています。「スローキャリア」の思考を持つ人を企業がきちんと受け入れていないという現実があるのです。
「人々の上昇志向を活用してモチベーションを引き出すというマネジメントが、これまで当然のように行なわれてきた。だが出世すれば誰もが幸せになれるわけではないし、皆が上昇志向を持っているわけではないのは明らかなのだから、全員に上をめざさせたり、他人より早く出世することだけに価値を見出すのはもうやめようというのが、私の主張するところである」(『スローキャリア』27ページ)
今のビジネスは上昇志向型の社員だけではうまくいかない。スローキャリアの思考を持って自律行動をとる優秀な社員をうまく活用しないと競争力が発揮できない。そのことに気づいた企業では、スローキャリア重視の人材マネジメントを始めています(同書の中では、たとえば「FA制度」を始めた日興コーディアル証券、「キャリアビュー制度」のリクルート、「コミュニティ社員制度」のイオングループが紹介されています)。
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